みなさん、こんにちは。月に1度の読書コラムです。
早いものでもう10月ですね。食欲の秋です。さあ、おいしいモノをどんどん食べようと考える前に、ちょっと待ってください。せっかくですから、今私たちがどのようなものを食べているのか、きちんと知ることから始めてみませんか。
今回は、「食」をテーマに、本を紹介していきます。
最初の1冊はこれです。『フードトラップ』。
添加物の毒性や種類などを暴露するタイプの本は昔から山ほどありますが、この本は米国のジャーナリストが書いた、かなり中立的な内容の良書です。大手食品メーカーにも膨大な取材を重ねたうえで書かれているフェアで優れたレポートです。
この本は、大手食品メーカーが、消費者がおいしいと感じる「至福ポイント」を探るためにどれだけの労力と資金を投じ、糖・脂肪・塩をコントロールして食品を日々作っているか、インタビューとともに微に入り細に入り描いています。
例えばシリアル誕生秘話や米国大手食品メーカーの熾烈な戦いぶりなどが描かれ、現在私たちが口にしているものが誕生した歴史とその「発想」が、克明に分かります。「便利さ」の追求の果て、数学と実験心理学に長けた研究者が繰り出す、統計解析を駆使した「食品工学」の結果編み出された加工食品の数々に、私たちはいとも簡単に「はまって」いるのだということが実感できます。ぜひ通読してほしい一冊です。
「おいしい、きれい、ただしい」のルーツ
さてこの本を読み終えたら、私たちが日々味わっている人工的な味覚の成り立ちと正体を知ってしまうわけですから、少しうんざりしてしまうかもしれません。便利さや効率とは対極にある概念に触れて少し癒されましょう。地産地消という、自然な食に回帰しゆったり生活する、まるでかたつむりのような価値観を主張する『スローフードの奇跡』です。
「スローフード」は、人々に対して食の「消費者」ではなく「共生産者」であろう、と提唱する1990年代の終わりに一世を風靡した考え方です。この本が書かれたのは、スローフード運動の始まったころのことです。著者はカルロ・ペトリーニというスローフード運動の草分け的な存在であるおじいさんですが、「おいしい、きれい、ただしい」というモットーのもとに、スローフード運動を展開するに至った背景、考え方について詳しく書いています。
ただし、こちらは翻訳本ですので、私たちには、『スローフードな人生!』の方がなじむかもしれません。
この本は、日本人のノンフィクションライターである島村菜津さんがイタリアに飛び、いわゆる「スローフード」の起源とあり方を体験し、思想や原理はさておき、その良さや楽しさについて、のびのびと読者に伝えようとしてくれます。スローフードに共感する人々は、ファストフードが必ずしも悪いと言っているわけではありません。本書で引用されている、スローフード協会会員で、社会学者のマッシモ・モンタナーリ氏の発言を紹介しましょう。
「ファーストフードが、かならず不愉快で、質が悪いとも限らない」「それは単に注意をはらうか否かの問題である。素材の選択と、その結果としての味に気をつけ、食べ方に気をつけ、食べているものが伝える感覚的メッセージに心を配り、(中略)食べ物を分かち合う人々の選択に気を配る」「選ぶことなく、評価もせず、理解しようともしない。食べ物に対して、まったく注意をはらうことなく、それを考えもなく口に運ぶ。思うに、それこそが真のファーストフードである」(94ページ、原文ママ)
ここから農業問題を考える、という手もありますが、今回は難しいことはさておき、楽しくご飯を食べることを考えましょう。
やはり日本では「洋食」が素敵
さて、スローフードの思想や異国の味わいを楽しんだら、今度は、毎日三度のご飯を食べる日常を、本書を読みながら楽しんでみましょう。池波正太郎氏の『むかしの味』と檀一雄氏の『美味放浪記』です。
小説新潮での連載をまとめた『むかしの味』には、たいめいけんや煉瓦亭の、ポークソテーやカツレツなどが写真入りで登場します。まさに日本の「洋食」の世界です。私も年を取ったのかもしれませんが、この本を読むと、日本の普通のご飯って本当においしいなぁとしみじみ思います。昔の食事の描写を端正な文章で味わっていると、よだれが出てきそうです。
また、『美味放浪記』も楽しい本です。著者が国内外に「美味」を求め、文化や文学芸術などにも思いをはせながら食べて歩き回った記録です。
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