スカイマークが4月、東京地方裁判所に提出した再建計画の草案。債権の弁済などは●印で仮置きしてある。5月29日が最終案の期限だ。(写真:清水崇史)

 民事再生手続き中の国内格安航空会社、スカイマークの経営再建計画づくりが大詰めを迎えている。計画案を東京地方裁判所に提出する期限は5月29日。独立系投資ファンド、インテグラル(東京・千代田)と航空大手ANAホールディングス(HD)などから出資を受け、5年以内の株式再上場を目指す。スカイマークの支援を見送った日本航空(JAL)は、このまま静観を続けるのか――。利用者と企業再生の視点から、スカイ・日航連携には2つの意義がある。

 最も大きな意義は日航とスカイマークが組めば、ANAHDに対応する一大勢力となり、運賃とサービスの競争に拍車がかかることだろう。

 例えば東京(羽田)・福岡線を見ると、日航は現在1日当たり17便、ANAHDは主力の全日本空輸(ANA)と系列のスターフライヤーを含め25便、スカイマークは11便をそれぞれ運航している。スカイマークの経営再建に向け、ANAHDの片野坂真哉社長は「共同運航は有力な選択肢だ」という。2社が組めば1日計36便になり、17便のまま残される日航を2倍以上引き離す。運賃を巡り圧倒的な支配力を持つ可能性が高い。

5年以内に再上場、日航はTOBを

 ではスカイマークが日航とだけ組んだ場合はどうか。両社合計で28便と、25便のANAグループとほぼ拮抗する。札幌、鹿児島線などでも同じような競争環境が整う。羽田発着の路線全体では日航・スカイマーク連合のシェアが47.5%と、ANAグループの52.5%と肩を並べる。シェアが二分されれば、それだけ運賃やサービスの競争に弾みが付きやすい。

 利用者の選択肢が増えれば、より「空の旅」は身近になる。航空二強の覇権争いやスカイマーク1社の経営再建を超えた、利用者本位の市場ができることに他ならない。

 もし日航が本当に利用者の利便性を最優先に考えるならば、スカイマークが株式を再上場する時点で名乗りを上げるべきだろう。具体的には、インテグラルの手放す株式を買い取ることが考えられる。折しも、国交省はANAHDによるスカイマーク支援を最長でも5年程度に区切る姿勢を見せている。公平・公正な競争環境を確保する狙いからだ。スカイマークの再上場後、日航がTOB(株式公開買い付け)を実施し、ANAHDなどから取得する選択肢もある。

 実現の可能性はゼロに近いとはいえ、日航、ANAHD双方がスカイマークの株主になった場合はどうか。ここではスカイマークが航空二強の顔色をうかがわず、むしろ独自に低価格や新規路線を打ち出せるかがカギになる。

スカイマークは5年以内の株式再上場を目指す。航空2社との“距離感”が焦点だ。(写真:Aviation Wire)

 日航とスカイマークの連携は、経済全体にとってもメリットがある。ファンドが主導する企業再生が今後、幅広く普及するきっかけになるからだ。「どっぷりと中長期で従業員の皆さんと一緒にやらせていただきたい」。インテグラルの佐山展生代表がこう強調するように、ファンドの狙いは短期的な利ざや稼ぎではない。企業の淘汰が市場経済の基本機能である以上、ファンドが企業再生やM&A(合併・買収)を通じて果たす社会的な役割はより高まっている。

経営再建とファンドの出口戦略を下支え

 日航が安定株主の一社となれば、スカイマークの経営再建とインテグラルの出口戦略を下支えすることができる。

 それは2008年秋のリーマンショック以降、官民ファンドの産業再生機構が一早く実証してきたことでもある。

 同機構にとって初期の大型案件だった三井鉱山やカネボウでは、機構自らが出資して経営再建を主導した。しかし金融情勢の改善で民間のリスクマネーの動きが活発化した後半期には、ダイエー、ミサワホーム、大京に対して、機構は民間から出資者が出てこなかった場合のバックストップ(安全装置)や補完的な出資者にとどまった。

 債務者への弁済額を調整した後は直ちに民間から出資スポンサーを募る方法をとった。また大型案件では、ライバル企業に対しても機構の保有株を買い取れるように、公正な入札機会を提供した。

 スカイマークの場合、市場のメカニズムが極端に歪んでいるわけではない。ピーク時でも売上高800億円規模と、大手の10分の1にも満たない新興航空会社が、国際線に打って出ようと欧州エアバスの総2階建て超大型機「A380」を6機発注(総額2000億円相当)したことが裏目に出ただけだ。

 その証拠にピーク時の売上高営業利益率は20%近くと、上場企業屈指の水準を誇る。今回インテグラルが用意した資金90億円のうち、実際に投下したのは半分の45億円で済んでいることも再建の確率が高いことを裏付ける。

この記事は会員登録(無料)で続きをご覧いただけます
残り1038文字 / 全文文字

【初割・2カ月無料】お申し込みで…

  • 専門記者によるオリジナルコンテンツが読み放題
  • 著名経営者や有識者による動画、ウェビナーが見放題
  • 日経ビジネス最新号12年分のバックナンバーが読み放題