「遅すぎた社長交代」の次は「早すぎる社長交代」ーー。突然の発表は、誰の目にも予想外だった。
ミクシィは、2014年2月13日、同社の2013年第3四半期の決算を発表するとともに、社長の朝倉祐介氏が2014年6月に任期1年で社長を退任すると発表した。後任は SNS「mixi」の事業本部長であり、モンスターストライクを率いる森田仁基氏。前任の笠原健治氏(現・取締役会長)が2004年から9年間務めた社長を退任すると発表したのは昨年5月。6月から社長のバトンを引き継いでから、8カ月での交代発表となった。
「成長フェーズへ移行」
今回の社長交代は、笠原氏が売り上げ下降を食い止められず“遅すぎる退任”と評されたのとは対照的だ。当時、ミクシィは、上場後時価総額を8分の1にまで落とし、売り上げは下降線をたどる一方。創業社長自ら築き上げたmixiによってイノベーションのジレンマに陥り、ゲーム領域ではディー・エヌ・エー、グリー、SNS領域ではFacebook、と次々と新サービスに追い越されていった。
社長交代を決めた時点で、すでに赤字転落は目前だった。実際、朝倉氏就任後は第1四半期、第2四半期ともに赤字から抜け出せず、あまりに遅すぎる社長交代が尾を引いた格好だった。
一方、今回は就任1年での社長交代。一体、何が起こったのだろうか。今回の交代について、朝倉氏は「ミクシィは、事業再生フェーズを完了し、成長フェーズへ移行する。ノーアウト満塁状態だった登板だったが、自分の仕事は全うできた。再成長に向けて、サービス寄りの人間をトップに置く」と説明する。
確かに、朝倉氏就任後のミクシィは何かに取り付かれたように事業改革を進めているように見えた。結婚事業会社Diverseや「街コン」を主催するコンファイザなど、3件の事業を立て続けに買収。社内から新規事業を吸い上げるためのイノベーションセンターを設立し、そこから生まれた、フォトブック作成サービス「ノハナ」は、9月に分社化され、現在会員数を60万人にまでのばしている。
「モンスト」で一息
さらに新規にネイティブゲーム事業を立ち上げたことにより、ミクシィの再成長の起爆剤となったモンスターストライクが生まれた。モンスターストライクは、現在300万ユーザーを獲得。2300万ダウンロードに達した「パズル&ドラゴンズ (パズドラ)」(ガンホー・オンライン・エンターテイメント)の成長率と重ね合わせ、市場では「次のパズドラ」として期待を背負う。
こうしたドラスティックな改革は、mixiの立役者である笠原氏にはできなかったことかもしれない。朝倉氏が社長に就任したのは昨年6月だが、ミクシィの社長室室長に選任されたのは2012年4月。その頃から、笠原氏の右腕として事業改革に徐々に取り組んできた朝倉氏にとっては、約2年の「事業再生フェーズ」が終ったと言えるのだろう。
だがそれだけでは、あまりにも早い社長交代の説明がつかない。ミクシィは、長らく続いていた冬の時代を抜けて「再生フェーズから再成長フェーズへ移行した」ことを強調するが、足下はまだおぼつかない。モンスターストライクの好調を見込み、16億円の赤字を見込んでいた今期の営業損益を、2億円の黒字に上方修正したが、前年同期比ではまだマイナスだ。2012年度通期決算の営業利益25億7400万円には遠く及ばない。
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