「脱法ハーブ」と呼びならわされていたブツに、新しい名前がついた。
「危険ドラッグ」というのがそれだ。
詳細は以下の通り。
《幻覚作用をもたらすことのある脱法ハーブを含む「脱法ドラッグ」について、警察庁と厚生労働省は7月22日、呼称を「危険ドラッグ」に改めると発表した。今後、啓発活動や統計などで新名称を使用し、普及を図るという。(※ソースはこちら)》
「きけんどらっぐ?」
「なんだそれ。危険なドラッグって改めて言うことか?」
「同語反復っぽいな」
「麺類ラーメンみたいな?」
「走行自動車とか?」
「むしろ足用ソックス的な過剰説明の響きを感じる」
「ハシゴ外され感ハンパねえな」
「どちらかといえばヒザカックン感だろ」
「犯人は拘束手錠で逮捕拘束されるのかな」
「で、警察用パトカーで乗車運搬されて裁判所コートで刑罰罰則審判を言い渡されるわけだ」
「警察庁ポリスの感覚センスって最高マキシムに絶頂トップだな」
「脱法ハーブ」という俗称に問題があったことは、以前から指摘されていた。
「『脱法』という言い方が、『事実上は合法』ということを言外に匂わせてるあたりが実になんとも致命的だよな」
「字面的に『解脱』っぽいし」
「なんか、悟りが開けそうなありがたさが漂っちゃってるよな」
「密教的ミスティフィケーションだな」
「『ハーブ』も良くない」
「良くないっていうより、カラダに良さそう」
「だな。オーガニックな感じするし」
「おしゃれでさえある」
「ロハスだよロハス。『脱法』っていう言葉つきがヒッピーカルチャー由来のドロップアウト志向をくすぐるし、『ハーブ』にしたって現実逃避気味の腐れインテリがド田舎に引っ込む弁解として持ち出すエコライフ演出にはドンピシャの小道具じゃないか」
「してみると、『脱法ハーブ』は、定年でそば打ち始める感じの反骨団塊オヤジから、就活逃避組の自傷傾向ニートまで、あらゆる半端者の心根をゆさぶる素晴らしいネーミングってなことになるな」
実際、「脱法ハーブ」は、捜査側にとっても、頭の痛い名称だったと思う。
なにより、「脱法」が、自分たちの側の弱点(つまり法整備の抜け穴)を宣伝する形になってしまっている。
「ん? 脱法ってことは、当面、違法じゃないってことかな?」
と、聞く者に類推の余地を与える。
ヤブヘビだ。
これは大変にマズい。
「つまり検査済み薬物の違法指定と新作薬物の登場がいたちごっこで……」
などと説明しようものなら
「じゃあ、違法薬物に認定される前にいまのうちに……」
といった寝た子を起こす反応を呼び起こしかねない。
非常によろしくない。
ちなみに、新名称は、7月5日以来、警察庁と厚労省が公募していたもので、18日までに電子メールなどで約2万件のアイディアが寄せられていたという。先にリンクを張った記事では、公募案の中から、「危険ドラッグ」が選ばれた経緯を以下のように説明している。
《--略-- 「准麻薬」「廃人ドラッグ」「危険薬物」が多かったが、同庁などは、「『麻薬』や『薬物』といった文言は、麻薬取締法や薬事法の中で使われており、そぐわない」と、候補から外した。その上で、「危険」という言葉が入った呼称案が多かったこともあり、上位5位に入っていた「危険ドラッグ」を選んだ。同庁は「法律の規制の有無を問わず、使用することが危ないものと明確に示す」と説明している。--略--》
警察庁ならびに厚労省としては、とにかく評判の良くない現状の名称を改めて、捜査にたずさわる側の人間が、堂々と連呼できる名前を手に入れたかったのだと思う。
で、公募をしたわけだ。
自分たちで考案したり、その道の専門家に任せることをせず、あえて一般の知恵に耳を傾けることにしたのは、おそらく、一般公募という形式を通じて、「脱法ドラッグ」の現状と問題点を、広く周知させる狙いがあったからだ。
その意味で、公募は成功している。
2万件以上の新名称案が寄せられたこともさることながら、それ以上に、ツイッターやネット掲示板で、新名称ネタの大喜利が大いに盛り上がった。このことは、脱法ドラッグ問題の周知に寄与したはずだ。
ネット上のネーミング大喜利の中には、当然、不謹慎なやりとりが少なからず含まれていた。が、盛り上がるというのは、そもそもそういうことだ。多少の不謹慎や不品行を含んでいたのだとしても、結果として、集まった人々がこの問題に関心を抱き、知識を交換し、認識を改めるための機会を提供していたことは事実なわけで、その意味で、公募プランは、ほぼ企画者が狙ったとおりの形で、実を結んだのである。
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