「耐震診断・耐震補強」の怪-1・・・・霊感商法?

2009-10-20 18:30:34 | 地震への対し方:対震

[註記追加 21日 9.45][文言追加 21日9.54]

これから数回書くことは、ある方々の《顰蹙(ひんしゅく)を買う》内容になるはずです。それを百も承知の上で書きます。


ここしばらくよく耳にし目にする言葉に「耐震診断・耐震補強」があります。
「病院・医療機関」の「耐震化率」は未だにこんなに低い・・・、〇〇県の「耐震化」は極めて遅れている・・・などと、一般の人びとを不安に落としいれてもおかしくない「報告」を、今でも見かけます。

また、日本の各地で、「耐震診断・耐震補強」が着々と実施に移され、その「実務」は、各地の建築士の仕事の重要な一部ともなっているようです。
そして、実際の「耐震補強」をした「実例」も、多く目にするようになっています。

これらの一連の「耐震診断・耐震補強」の「状況・事実」を見ていての私の感想は、一言で言えば、「これは一種の『霊感商法』だ」というものです。

なぜでしょうか。

「霊感商法」とは、簡単に言えば、「人の不安をあおり、そこにつけこんで、『霊験あらたかな(と称する)商品』を売りつける商法」です。
「耐震診断・耐震補強」もまた、「耐震診断」で、このままではいつなんどき地震で被災するか分らないという恐怖に人びとを落としいれ、「霊験あらたかな耐震補強」を奨める点、そっくりではないですか。

そもそも、町なかで見かける「耐震補強」なるものが、本当に「霊験あらたか」なのか、はなはだ疑わしい、と私は考えています。だから、「霊感商法」ではないか?と言うのです。
それについては次回以降に触れます。


いったい、「耐震診断」とは、どのようなことを言っているのでしょうか。

ある「建築工事第三者検査機関」が「定義」している内容を要約すると、次のようになります。これは、「耐震診断・補強を推奨する法令」の模範的解釈と言ってよいでしょう。

  耐震診断とは、既存建物(1981年以前に設計され竣工した建物)が
  地震の脅威に対して安全に使えるかどうかを見極めるため、
  古い構造基準で設計された十分な耐震性能を保有していない既存建物に対し
  現行の耐震基準によりその耐震性を再評価すること。

同様に、世に広く出回っている「わが家の耐震診断」も、「建屋の建設時期が1981年以前か以後か」から始まります。
つまり、建物の「耐震診断」の「診察」は、《精密》であれ《簡易》であれ、1981年の法改正の前の生まれか、それとも以後か、という「問診」で始まるのです。

これはとんでもない仮定であり、論理です。
もっと言えば、きわめて non-scientific な、仮定とは到底言い得ない設定・前提、論理ではないでしょうか。

   註 非科学的と書かずに non-scientific と書くのには理由があります。
      scientific とは、ものごとを筋道:理を立てて考えること。
      日本語で「科学的」というと、得てして、数値で示すことと「誤解」されます。
      そして、いま行われている「耐震診断・耐震補強」も、各種の「数値」で語られます。
      「建築にかかわる人は、ほんとに《理科系》なのか-1」参照。
     
どうしても「建設時期」で区分けをしたいのならば、私ならば、次の年を区分点:画期にするでしょう。
すなわち、1873年、1891年、1923年、1950年、そして1981年です。

 1873年(明治 6年):建築の「近代化教育」の開始年。
              大工・棟梁をはじめ職人たちが無視され始める「記念すべき年」。
 1891年(明治24年):新興建築家、建築学者を驚愕させた「濃尾地震」の発生年。
              日本が地震国であることを新興建築家、建築学者に気付かせた地震。
              日本が地震国であることを、彼らは、それまで知らなかった!
 1923年(大正12年):新興建築家、建築学者をあらためて震撼とさせた関東大地震発生年。
 1950年(昭和25年):「建築基準法」の制定。
 1981年(昭和56年):新潟地震(1964)、十勝沖地震(1968)、宮城沖地震(1978)を踏まえ
              「建築基準法」の構造規定の大改変年。

極論すれば、各地の大工・棟梁をはじめとする建物づくりの専門家の技量・技能を十分に発揮させないようになってから(これを「指導」と言います)、日本の建物づくりはおかしくなったのです。
それは、年を追うごとに「激しさ」を増し、その「画期」が上記の年です。
新興建築家、建築学者の「指導」のなかった時代につくられた建物には、地震で被災しない例は多数あるのです。阪神の震災でも!!

   註 これについてはすでに何度も書いてきましたが、このシリーズでも触れる予定です。
      一言で言えば、地震は太古以来、日本で起きています。
      そして、それを無視した職人たちはいなかった、ということです。


上掲の図のカラー版は、「内閣府」が公開している「地震のゆれやすさ全国マップ」からの転載、モノクロの図は、2006年版「理科年表」からの転載です。

内閣府の「地震のゆれやすさ全国マップ」には、上掲の図の他に、「地形別の揺れやすさ」を表示した「微地形区分図」があり、日本全国図だけではなく、各都道府県別に見ることができます(インターネットで閲覧可能)。

ところが、折角「地盤と地震の揺れの関係」について触れているにもかかわらず、その最後のあたりに、このような特徴のある日本列島に「一律に、震源上端深さ=4kmで、M6.9の地震が起きた場合の想定震度分布」という図があります。
この図は誤解を生む恐れがあるので、転載しません。
その図では、ほとんどすべての場所が「震度6弱」以上の揺れを受けることになっています。
いったい、こんな「想定」は、あり得るのでしょうか。
震源上端深さ=4km、M6.9の地震が、日本のありとあらゆるところで起きるとは、あまりにも度外れた想定ではありませんか?

モノクロの図は、2006年までの125年間に発生した主な被災地震の震央の分布図です。
この図で分るように、地震は、日本各地で均一に発生するのではありません。頻繁に起きる場所と、そうでない場所があるのです。
こんなことは、この図を見なくても、私たちは知っています。


では、なぜ、各地一律に「M6.9の地震」、しかも「震源上端深さ=4km」という地震を想定した図を載せているのでしょうか。

察するに、日本中のどこでも、「震度6弱以上の地震に耐える」という「耐震診断・耐震補強」の基準・前提を「設定」するためだった、としか思えません。

そうしておけば「安全側」だ、と言うのかもしれません。
しかしそれでは、常日頃科学的と言いながら、突然 about な論理展開になっている、と言われてもしょうがないでしょう。 scientific とは到底言えません。

scientific に耐震診断をやるならば、それぞれの建物の建つ場所の「地質図」「地形図」「土地条件図」そして「地質調査」などを通じて「地盤」をよく知り、その建物の「構築法の考え方」と「工事法」が、その地に適したものであるかどうかを検討すべきなのです。
そして、その「判断」は決して、法令の規定に合っているかどうかを判定基準にしてはならないはずです。法令基準は、絶対的かつ科学的「正」なのですか?
もしそうなら、それはあまりにも non-scientific な思考法ではありませんか。法令とは、そういう性格を持ってよいのでしょうか?

   註 そんな手間、閑かけてはいられない、と言うのかもしれません。
      しかし、それは、「いい加減な基準で指導してきた」当然の帰結にすぎません。
      基準策定に係わった人たちは、率先して手弁当で関わるぐらいの覚悟が必要の筈。
                                    [註記追加 21日 9.45]

こう言うと、安全側で考えているのだからよいではないか、という反論があるのは承知です。
しかしその反論は、同時に、一見科学的装いをとっている「耐震理論」は、その程度の「科学性」の代物なのだ、と言っていることにほかならないのです。

もう一度、根本から考え直してみませんか。

残念ながら、現在進行中の「耐震診断・耐震補強」は scientific ではなく、一律の基準によっています。その結果、おそらくかなりのムダを生んでいるのではないか、と思います。
「耐震補強」工事で、地域が潤っているではないか、などと言わないでくださいね。

   註 〇土地条件図:国土地理院 発行
       全国の主な平野とその周辺について、土地の微細な高低と
       表層地質により区分した地形分類や低地について1mごとの地盤高線、
       防災施設などの分布を示した地図。縮尺は2万5千分1。
       災害を起こしやすい地形的条件なども表示、
       自然災害の危険度の判定するのにも役立つ地図。

      〇地形図:国土地理院 発行
       普通の地図。

      〇地質図:産業技術総合研究所・地質調査総合センター 発行
       表土の下にどのような種類の石や地層が分布しているかを示した地図。
       植生、建造物、表土などは無視し、基盤となる石や地層のみを描いた分布図。
       国土地理院の地形図を基にし、等高線による地形、道路や建造物、地名も表示。

      「土地条件図」「地質図」は、いずれも購入できますが、全地域があるわけではありません。
      インターネットでも閲覧できます。
     

しかし、もっと根本的な問題があります。

これも何度も書いていますが、1981年の改変前の規定にしたがってつくった「良心的」な設計者、施工者、そして施主に対して、法令策定者から、あれは誤っていた、という「謝罪」が、あったでしょうか?
その「補強」に要する費用について、法令策定者たちは、相当な負担をしたでしょうか。

そして、規定の「耐震補強」すると、本当に耐震なのでしょうか、保証しますか?万一の場合、補償しますか?

もちろん補償には税金を使ってはなりません。納税者は、そのようないい加減な規定をつくってくれ、と頼んだ覚えはないからです。
一般の人びとに「自己責任」を説いて、自らは責任をとらない、というのは片手落ち。
法令にも「リコール制度」が要るのではないでしょうか。

一般の人びとは、各種の規定はまことに「大きなお世話」、「自己責任を取るから『指導』は要らない」と言いたい筈です。
そしてそれは、「近代化」以前のやり方。「近代化」以前は、すでに書いてきましたが、「技術」も「技能」も大いに発展したのです。
「近代化」は、「技術」「技能」を、少なくとも建築の分野では、沈滞・停滞化させてしまっているのです。[文言追加 21日9.54]

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2 コメント

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土地条件図 (下河敏彦)
2009-11-10 12:40:15
先ほどコメントさせて頂いた下河です。
実は私、土地条件図やそれに類する図面を、空中写真判読よ地表・地質踏査を基にその原稿図を作成することが本職(学生時代の卒論も)なのです。ですから、

scientific に耐震診断をやるならば、それぞれの建物の建つ場所の「地質図」「地形図」「土地条件図」そして「地質調査」などを通じて「地盤」をよく知り、その建物の「構築法の考え方」と「工事法」が、その地に適したものであるかどうかを検討すべきなのです。

という下山先生のコメントは、諸手を挙げて同感なのです。

ひとつ教えてください。

どうしても「建設時期」で区分けをしたいのならば、私ならば、次の年を区分点:画期にするでしょう。

に続く記事で、1995年阪神・淡路大震災がありません。この震災は、住宅の建築・防災に関わる構造等、法律改正に対して、あまり影響はなかったのでしょうか。
返信する
1981年以前の画期です (筆者)
2009-11-10 17:53:47
ご指摘の通り、阪神淡路の震災の結果、2000年の改変があります。
しかし、学界が、1981年だけを「画期」にするのは片手落ちなのです。
私が挙げた「画期」は、簡単に言うと、日本の建物づくり、あるいは「技術」が、新興の「学者たち」の手によって衰退して行く「画期」なのです。
もしそれがなければ、つまり、かつての工人たちが建物づくりの主役であり続けたならば、倒壊する建物を「綿密な構造計算で設計する」ような馬鹿げた《技術》が生まれることはなかったはずだ、と私は考えています。
返信する

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