[表現字句修正:9月16日8.53AM]
地域の自治体や森林組合、製材組合などの方々と、木材の乾燥と木造建築の関係について、話をする機会があった。共同で乾燥工場をつくるため、補助金、交付金をもらおう、とするいわば下相談の行動の一環であったらしい。
参加者の一人の住宅メーカーの方は、このごろは注文側の方が詳しく、木材の乾燥の程度などを訊いてくるほどだという。また、製材業の方からは、KD材(人工乾燥材)でないと売れない傾向が表れていて、ND材(天然乾燥材)は、乾燥の程度が劣ると考えられる気配がある、との話を聞いた。つまり、木材の乾燥=人工乾燥、という構図がいつのまにか出来上がってしまっているように思えた。
最近多くなっている130度近くの高温で強制乾燥する方法は、どう見ても、木材の質を落している、つまり、たしかに水分はとぶが、同時に油っけも抜けてしまい、木材として決して良いとは思えない、との見解もあった。たしかに材木屋さんの店頭などで見るベイマツKD材の中には、艶が抜け、ぼそぼそしたベイマツらしからぬ材がある。
私は、材の乾燥を気にするようになったのには、木造建物の工法の変化が影響しているという話をした。
最近の工法では、枠組工法はもとより軸組工法でも大壁造りが増え、自ずと下地の木材の暴れが仕上げ面(大壁)の干割れ、剥離などとして表われ、結果としてクレームとなる。
特に、軸組工法の場合、簡易な仕口を金物で補強するのがあたりまえだから、材が乾燥していないと軸組自体に狂いや暴れが出てしまう。
ところが、往時の工人たちは、こういうことを避けるために、乾燥材にこだわるだけではなく、材相互の接合:仕口・継手に工夫をして狂い・暴れの防止に努めてきた。しかし今は、乾燥材を使えば、面倒な仕口に頼る必要はない(簡単な仕口・継手にして金物で補強する)、と考えている気配が感じられる、と。そして、このような工法の変化には、建築基準法の木造についての規定が大きく影響している、とも付け加えた。
愛媛県宇和島地方局産業経済部林業課のHPにあるたとえ話で、皆さんにちょっとした質問をしてみた。
「ここに重さ100グラムのミカンがある。ミカンは、そのうちの80グラムが水分である。では、木材同様の計り方だと、このミカンの含水率はいくらか?」
出席者は20名足らずだったのだが、全員が80%という答だった。
実は、木材の含水率計算法では、このミカンの含水率は400%なのだ。木材の含水率は、水分を取去った部分に対して(この場合だと20g)水分はどれだけの比率で含まれているか、という計算法だからだ(この場合、水分は20gの4倍あるから400%)。
私も初心者の頃は、80%と答えたはずである。
さらに私は、適切と思われる含水率まで一旦乾燥した材の含水率は、決して一定を保つわけではない、つまり、15%まで乾燥させても、たとえば夏は18%、冬は13%のように変動する。だから、多少の狂い、暴れは必ず表われる。多くの住宅メーカー、とりわけ林業系のメーカーが、木造軸組工法で集成材の部材を使うのは、狂い、暴れがより少ないからなのだ。ただし、集成材の寿命には私は疑問を抱いている、と話を続けた。
しかし、大方の方は、一度乾燥した材の含水率は、常に一定である、とお考えのようであった。
これが、日ごろ乾燥材を話題にしているこの地域の林業、製材関係者、行政の林業担当者・・・たちの、木材の乾燥や乾燥材についての認識の現状なのである。
だとすると、一般の方々の認識は、おそらく、この人たち以上に、乾燥した材は一定不変で少しの狂いも暴れも生じない、と考えているのではなかろうか。「品確法」なども、その点についての説明はなく、乾燥・・の「性能」だけを示しているから、一般の方々に誤解を生むように思えてならない。
先にミカンの例を引用した「愛媛県」HP内の「愛媛県 八幡浜地方局 産業経済部 林業課」の「天然乾燥指針」は、その分りやすさから(各種の自前の実験を基に分りやすく解説している)、単に林業・製材関係者のみならず、一般の方々も参考にしてよい、すぐれた内容である。
おざなりに乾燥、乾燥と騒ぐのではなく、こういう熱心な取組みをする地域もあるのだ、と感心する。