日本の建築技術の展開-1・・・・建物の原型は住居

2007-03-15 20:04:16 | 日本の建築技術の展開
 2月の初め、1950年制定の建築基準法で規定された木造建築:いわゆる「在来工法」:は、長年にわたり蓄積されてきたわが国の木造建築技術とは「似て非なるもの」であることを書いた。

 ところが、、建築の関係者でも(建築士、確認検査機関・役所の職員、そしてときには大工さんでも・・)、この事実について知る人が少なくなってきたのが現状である。つまり、かつてはあたりまえであった日本の建築技術について、知る人が少なくなったのである。

 このような状況になった理由を挙げると、
 一つは、1950年以降の生まれの方々が大きな比率を占めるようになったこと(生まれてから日常身のまわりで目にする建物の大半が、基準法仕様の建物になっていた)、
 一つは、《新しいもの》《外国のもの》には関心を持つが、自国の、しかも「古いもの」には関心を持つ人が少なくなったからであり、
 そして最も大きな理由は、長い歴史を持つ日本の建築技術を、単なる歴史上の話として、「歴史」の中に閉じ込めてしまった「木造建築の《専門家》たちの言動」、それに従った「建築行政」と「建築教育」にあるだろう。

  註 「現在」が、「過去」とは無関係に存在すると見なすのは、
    日本だけではないだろうか。

 そこで、ここしばらく、どのように日本の建築技術が展開してきたか、私流の「日本建築史」を書いてみようと思う。


 最初に、建物をつくるとはどういうことであったか、から話を進めよう。それ抜きに建築を語っても無意味だからである。

 上掲の図は、上段は「原初的な状況下での住居」、下段は神社の一例。
 昔から、「『住まい』がすべての建物の原型である」と言われてきている。これは、間違いのない事実である。なぜなら、人が最初につくる建物は、その材料が何であれ、「住まい」であることは確かだからだ。
 そして、住まい以外の建物をつくるときは、「住まい」に倣うのである。
 それは神の家:神社を建てるときに如実に表われている。その一例を示したのが下段の図である。これら神社の空間は、上段の原初的な住居と変らないのである。

  註 神社には、諏訪大社のように、「神の家」:本殿がない例もある。
    本殿の代りに、諏訪大社の場合は「木」が神の拠り代となっている。
    山が神体の場合もある。

 上段の図は、川島宙次著「滅びゆく民家:間取り・構造・内部編」から、原初的な状況下の「住まい」を抜粋編集したもの。
 A、B、Cの区分けと説明は筆者の加筆。

  註 同書は3巻からなり、川島氏が実地調査をもとに編んだ貴重な書だが、
    残念ながら絶版である。
    出版社は「主婦と生活社」であるが、この出版社もすでにない。

 図中の解説でも触れているが、そして昨年12月12日・13日でも書いたが、「原初的な住居」、つまり「住まいの原型」は、「出入口が一箇所の囲われた一室空間」である(図は日本の木造の例だが、他地域、他の工法でも同じことが言える)。
 その一室空間:ワンルームの中をどのように使っているかを、川島氏は実地に赴き調べ、図に書き込んでいる。
 A、B、Cの性格付けは、それを基に筆者が区分けしてみたもの。
 
 現在、住宅の設計は、これも以前に触れたが、必要な部屋を数え上げ、それをどのように並べるかを考え、全体をまとめる手法をとるのが一般的である。
 しかし、上掲の例で明らかなように、原初的な住居では、まったく逆であることが分かる。つまり、初めには部屋というものがない。必要に応じて決められた大きさの一室空間が先ずつくられる。その空間内を、場所場所の性格に応じて使い分ける。そして、一室空間の使い分けが固定化してくるにつれ、部屋が生まれる。それも、最初から明確な区画があるのではない。
 この空間の使い分けの拠りどころになっているのは、明らかに、感覚的に捉えられた出入口との位置関係である。感覚的に、出入口から最も遠いところは最も安心できる場所、寝る場所とされ、また神を祀るところになる(上掲の図の場合は、いずれも、「物理的距離」=「感覚的距離」である⇒下註参照)。
 これは考えるまでもなくあたりまえ、出入口の近くを寝る場所に選ぶ人はいないはずだ。

  註 出入口近くの上に2階のような場所をつくったとすると、
    物理的には出入口に近くても、
    感覚的には遠い場所:Cゾーンとすることができる。

 この「空間の使い分けの原理:A、B、Cのゾーン分け」を考えることは、人の感性:感覚による判断だから、現在でも変らずに通用するはずだ。そして、このことを意識したならば、明らかに住居の設計手法も変ってくる。

 しかし、最近の住宅では、この原理を無視し、玄関近くに寝室を設けることを厭わなくなっているらしく、そういう例をよく見かける。また、便所や浴室なども、明らかに先の区分けのCのゾーンに属すべき場所だが、玄関そばに置く例も枚挙にいとまがない。

 そして、この原理は、住居以外の設計においても通用する。この原理を意識していたならば、昨年11月23日に紹介した「患者を不安に陥れる病院」などは絶対に生まれないはずだ。つまり、受付や薬局はA、またはBに、診察室はCゾーンに属す。A~Cを、出入口との関係で人の感性を判断基準にして考えれば、自ずと答は見えてくる。そして、うまくゆけば、案内板:サインの数も激減するだろう。  

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