日本の建物づくりを支えてきた技術-29・・・・継手・仕口(13):中世の様態・5

2009-03-17 12:41:37 | 日本の建物づくりを支えてきた技術

今回は中世の継手・仕口概観の最後。ス)「慈照寺東求堂(じしょうじ とうぐどう9」、セ)「大仙院本堂(だいせんいん ほんどう)」そしてソ)「新長谷寺客殿(しん ちょうこくじ きゃくでん)」について。
このうち、「新長谷寺客殿」については資料が手許にありません。

今回は、すでに載せた継手・仕口図のほかに、「東求堂」と「大仙院」については、梁行・桁行断面図を載せました。その図の色を付けてある箇所は、小屋裏:天井裏になる部分です。

このス)セ)ソ)の3例は、いずれも「桔木(はねぎ)」によって軒をつくるときの、その下の化粧天井:「化粧垂木」を受ける「桁」(これも「化粧」です)の柱への取付け法と、その継手・仕口の図です。
この手法・方法は、「書院造」に共通の仕様で、「慈照寺東求堂」の例が最初の事例のようです(もちろん現存建物の中で)。

「化粧桁」は、柱の半分ほどの幅で、その幅分柱を欠きとり、そこに嵌め込んでいます。
仕上りは、柱と桁は同面になり、柱が桁を受けていて、柱はそこでとまっているように見えますが、実際は、柱は天井裏へ伸びて「野屋根」の小屋組を支えています。ス)には断面詳細図を載せましたが、ちょっと分りにくいところがあります。

ス)「東求堂」およびソ)「新長谷寺」の柱への桁の取付け仕口は、同じやりかたで、柱の方に広幅の「蟻型」をつくりだし、桁および肘木側に同型の蟻型を彫り、柱の欠き取りを桁および肘木の高さ1個分大きめにつくり、その部分だけ図のように「蟻型」を設けず、そこへ材を押し付け落す、という方法です。「落し蟻」あるいは「蟻落し」と言います。柱の天井裏になったところには、最初に材を押し付ける箇所が彫られたまま残っています。

セ)「大仙院」では、柱全体を「蟻型」につくりだし、そこへ「半蟻」を彫り鎌をつくりだした桁材を落して継ぐ手法をとっています。やはりス)ソ)同様に、「蟻型」のない箇所をつくってあるものと思います。

ス)セ)の化粧の「桁」は、柱~柱が1本で、柱上の「舟肘木」上で継いでいます。「舟肘木」も化粧です。

ソ)の継手には「シャチ栓」が使われています。「シャチ栓」は、後から打込むことによって、2材を引き寄せ密着させる優れものです。室町時代の後期にすでに使われているのです。これについては、いずれ詳しく見ることにします。

この頃までには、工人たちの間では、木材という材料の特徴、その扱い方について、知り尽くされていたのかもしれません。


ス)セ)のように、「舟肘木」に「太枘(ダボ)」や「栓」が用意されているのは、単に「桁」と「肘木」が見かけの上で綺麗に密着することだけを考えているのではなく、この「桁」に強度上の役割を持たせているからだと思います。
すなわち、軸組は下から「足固め」、「内法」、「天井」の三段の貫だけで架構をつくっていますが、「桔木」の部分が、小屋組部分と軸組を結びつける役割をはたしているのです。

これは「大仙院」の断面図でよく分ると思います。
「大仙院」では、小屋組の梁のうち、「桔木」のある箇所の梁は、梁行、桁行とも、中央部:室中の箇所の梁よりも低い位置に架けられています。そうすると、その箇所では、「桔木」と繋ぎの梁が三角形を形成することになります。
そして、「断面が三角形をした立体」が、軸組の低い部分と高い部分の段差の部分で、中央の高い軸組部分の四周をひとまわりする恰好になるのです。
その結果、軸組と小屋組とは一体の立体になることになります。

おそらく、長年の経験で、「桔木」を四周に設けると、単に軒を楽に深く出せるだけではなく、軸組と小屋組を一体化できることを発見していたのではないでしょうか。
そしてそのとき、「化粧垂木」もまた有効であることも気がつき、だからこそ、それを受ける、そして柱列を固めることになる化粧の「桁」にも細心の注意を注いだのだと考えられます。
実際、「書院造」の化粧垂木は、平安時代の細身の「見かけ」のものとは違い、それだけでも荷を背負えるような、しっかりした断面をしています。

いずれもきわめて手の込んだ仕事で、セ)の「内法貫」の継手、僅か1寸(約3cm)厚の貫の継手にこのような細工をするとはまことに恐れ入ります(柱が仕上り4.3寸ですから、貫厚は柱径の約1/4にあたります)。


以上、分る範囲で説明してみました。知れば知るほど、まだ先があるなあ、と思わずにはいられません。

なお、3月いっぱいに締めなければならないことがあるので、しばらくここで休憩いたします。
その間には、次回以降のための新しい資料も手に入るかと思います。

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