浜岡原発を止めたら株主代表訴訟?
菅首相が中部電力に対し、「想定される東海地震に十分対応できるよう防潮堤の設置など中長期の対策」を実施するまで浜岡原子力発電所の全ての原子炉の運転停止を中部電力に対して要請した件が話題になっています。その中で、不思議な議論がネット上に広がっているようです。それは、「中部電力がこの要請を受けて浜岡原発を停止したら、中部電力の取締役は株主代表訴訟に耐えられない」という議論です。
「想定される東海地震に十分対応できるよう防潮堤の設置など中長期の対策」が果たされるまでの間原子炉を運転停止させ、その間不足する電力を火力発電で補おうとすると、発電コストが上昇し、その分中部電力の利益が減るということのようです。
しかし、中長期的な安全対策を果たすために生産設備の一部の運用を停止するということは企業活動の中ではしばしば行うことであって、その間売り上げが減ったり、大体設備での運用によってコストが上昇したりして、利益が減少したからといって、直ちに取締役に経営責任が発生するわけではありません。
もちろん、一般の生産設備の場合、想定される災害等に備えた中長期の対策を行うことによって第三者に損害を加えた場合は企業が賠償責任を負う危険があるので、それを回避するために上記対策を講ずる(その間、運転を停止する)ことには経営上の合理性があるのに対し、原子力発電所の場合、想定される災害等に備えた中長期的な対策を講じようが講じまいが無過失責任を負う(原子力損害賠償法第3条)上に、大震災によって巨大な事故を発生させた場合には、政治家等に働きかけることにより、国に賠償の肩代わりをしてもらえるはずだということを考えたときに、原子力発電所について「想定される災害等に備えた中長期の対策」を講ずることは、将来の損害賠償の負担を軽減させることにもならないのだという判断をされているのかもしれません。
しかし、大震災に起因するとはいえ原子炉が事故を起こせば長期にわたる操業の停止の他、復旧等のために多大な人や金をつぎ込まなければいけないわけで、「想定される災害等に備えた中長期の対策」を行えばその発生確率を減少させることができるのですから、「想定される災害等に備えた中長期の対策」は会社の経営に資するという側面を有しているともいえます。そのことを考えたときに、「想定される災害等に備えた中長期の対策」を直ちに行い、これが完了するまでの間、原子炉を一時停止し、よりコストの高い火力発電に切り替えることが、電力会社の経営者に与えられた裁量の範囲を逸脱した、違法な判断であるとは直ちにいえないように思います。
もちろん、「株主代表訴訟に耐えられない」という方々は、(法的強制力のない)菅首相の要請に従って上記決定を行うことは許せないということが前提となっているわけですが、上記決定を行うに至る契機が、首相による法的強制力なき要請にあったということが、上記決定を違法とする方向に影響を与えるというのは、理解しがたいところです。
この程度のことで株主代表訴訟で敗訴してしまうということになると、法的に強制しなければ、電力会社は自主的に原子力発電から撤退していくことも許されないし、下手をすると、原子力発電の比率を可能な限り高めようとすることが事実上義務づけられることになってしまいそうです(これを躊躇することはコスト高を放置し、会社の利益幅を縮小するのだという理屈付けも可能だからです。)。
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