2025-08-27

Tの話(ダブルミーニング

急に思い出したことを書く。

高校の時、ひとり面白い友達がいて。仮にTとしておくけど。

Tは、家族とか親戚とかの身に起こった面白いエピソード毎日のように語って、みんなを楽しませていた。

おじさんが家の隣の空き地を掘ったら、ニワトリの骨が10羽ぶん出てきたとか。

山の中で迷った爺さんが、蛍光テープを全身に巻き付けた金髪外人に追いかけられたとか。

Tの語る話はどれも不思議な味があって、常に刺激に飢えている田舎のガキには非常にウケが良かった。

おれも、世の中には信じられないような出来事があるんだなあと感心して、Nの語る話に素直に聞き入っていた一人だ。

話は変わるがおれは当時、文芸部所属していた。

特に読書家だったわけでも、小説を書きたかったわけでもない。

うちの高校部活が全員参加だったので、運動部中学までで懲りたしなるべく活動のゆるい文化部を探した結果の、消去法での選択だった。

そんな動機で入った部だったので、活動態度は当然ながら不真面目そのもの

学期ごとに発行する部誌に原稿を出すこともずっと避けてきた。

しかし3年生の2学期、卒業までに一度は寄稿しておけと顧問にきつく指示されて、ついに逃げ切れなくなってしまった。

小説らしい小説を読んだ経験すら少ないおれは、悩んだ。

いったい何を書けばいいというのか。

迷いに迷った末におれは、以前Tが語っていた話の一つを借りることにした。

大晦日の夜に隣人の一家が突然、花火を何本も打ち上げ始めたという、なんとも奇妙な話だ。

あくまで実話をプロットレベルで参考にしただけだし、具体的な人名などの個人情報ももちろん配慮して全くの別物に置き換えるので問題ないだろう。そう考えた。

話の筋は決まっても、ふだん書き慣れない文章を一生けんめいひねり出したせいで脳が破裂しそうだったが、それでもなんとか締め切りまでには原稿を提出することができた。

無事に完成した部誌を取り上げた合評会でも、増田にこんな突飛な小説が書けるとは思わなかったといった好評?を複数人からいただいた。

お褒めの言葉に、まあざっとこんなもんすわと謙虚な態度を示して、それで全ては終わった、やりきったと俺は思っていた。

だがある日、血相を変えたNが部室に乗り込んでくる。

その手には、おれの小説が載った部誌を握りしめて。

そして、Tはこう絶叫したのだった。

「オレの“アイディア”をパクるな!」

嘘というのは、思わぬところからバレるものだな…

当時はそうしみじみ思ったものだが、卒業後にクラスの連中に聞いたところによると、Tの話がぜんぶホラだというのは、みんな最初から分かって楽しんでいたらしい。

おれ以外は、全員。

なんてこった。

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