2026-04-18

【AISS】『秘宝の巻物と欲の化物』

祖父の遺品から出てきた巻物は、どう見ても胡散臭かった。

「“此の山、月満つる夜に口を開き、宝を呑み吐く”……?」

若侍・藤堂新之助は、巻物を逆さにしてもう一度読んだが、やはり胡散臭い。だが祖父生前、やたらと含みのある笑みで「いずれ分かる」と言い残していた。

分かる前に、借金が分かってしまいそうだった。

「……行くか」

金欠は人を冒険へと駆り立てる。

山は思ったより普通だった。普通すぎて逆に不安になるくらいだ。

「ここに宝……ねえ」

新之助がぼやいた瞬間、後ろから声がした。

「あるよ」

振り返ると、木の上に少女が座っていた。黒装束、やたら軽そうな身のこなし、そして妙に人懐っこい笑顔

「忍び……か?」 「そう。で、あんたはカモ?」

いきなり失礼だった。

「宝を狙ってるなら同業だな」 「同業って言うほど上品仕事でもないけどね」

少女ひらり飛び降りた。

「私はお紺。山の“番人”みたいなもの」 「番人が宝を狙うのか?」 「番人だからこそ、場所を知ってるの」

なるほど、倫理観は軽かった。

夜になると、山は確かに“口を開いた”。

岩壁が音もなく裂け、暗い洞穴が現れる。

「うわ、ほんとに開いた……」 「でしょ。満月限定サービス

軽口を叩きながら、お紺は先に進む。新之助も慌てて後を追った。

洞窟の奥には、小さな祠があった。

「ここが“吐く場所”」 「つまり宝が……」

新之助が一歩踏み出した瞬間、祠がぐにゃりと歪んだ。

いや、歪んだのは空間の方だ。

黒い塊が、ぬるりと這い出てくる。

「出た。化物」 「軽っ!」

お紺はため息をついた。

「こいつ、宝の番人。欲深い奴を見ると出てくるの」 「それ先に言え!」

化物はぬらぬらと近づきながら、奇妙な声を発した。

「ホシイカ……ホシイナラ……ヨコセ……」

「何をだ!?」 「知らないけど、だいたい欲しがる側が払うんだよね」

理不尽だった。

新之助は刀を抜いたが、刃は化物をすり抜ける。

「効かん!」 「物理無効系ね。面倒」

お紺は腕を組んで考えた。

「欲深い奴に反応するなら……」

ちらりと新之助を見る。

「何だその目は」 「試してみる?」

お紺は急に新之助の腕を引き、ぐっと顔を近づけた。

「え?」 「ちょっと“欲”をずらす」

そのまま、唇が触れた。

一瞬、頭が真っ白になる。

「な、ななな……!?

化物がぴたりと止まった。

「……ホシイ……? ……ナニヲ……?」

明らかに混乱している。

お紺はにやりと笑った。

「ほらね。欲が変わるとターゲットも迷う」

「いやそれはそうだが方向性おかしい!」

顔が熱い。戦いどころではない。

化物はやがて、しゅるりと縮んで消えた。

祠の中には、小さな箱が残る。

「勝ち」 「……勝ったのかこれ」

箱の中には、金貨がぎっしり詰まっていた。

「おお……!」

新之助が目を輝かせると、お紺が肩を叩いた。

「半分ね」 「当然だな」

少しの沈黙

「さっきのは……その、作戦からな」 「うん、作戦

また少し沈黙

「もう一回試す?」 「何をだ!」

笑いながら、お紺は先に洞窟を出ていった。

山の外、月明かりの下。

新之助は巻物を見直した。

最後の一文に、今さら気づく。

――“宝は欲を試す。されど、欲はまた別の宝を招く”

「……祖父め」

新之助は苦笑した。

少なくとも今夜、得たもの金貨だけではなかったらしい。

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