「中国関係者が和歌山の水源七つ購入」デマ拡散、アベマ番組から広がったか…県・国は情報を否定

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 「和歌山県の九つの水源のうち、七つが中国関係者に買われた」とする誤情報がSNSで拡散している。読売新聞の取材に対し、県や国はこうした情報を否定した。インターネットテレビ「ABEMA(アベマ)」の番組から広がったとみられ、番組責任者は「やや話を盛っているというか、ナレーション部分に強い決めつけ表現があると思う」としている。(上万俊弥、鈴木彪将)

■154万回表示

 「ABEMA」の討論番組「For JAPAN シーズン3」(6月20日配信)では、「親中で知られる二階俊博氏のおひざ元、和歌山県。若手県議が調査した結果、和歌山県にある九つの水源のうち、七つが中国人、並びに中国資本の会社に購入されていることが判明した」とのナレーションが流れた。

ABEMAの番組「For JAPAN」で県議が行った水源についての調査を紹介するシーン
ABEMAの番組「For JAPAN」で県議が行った水源についての調査を紹介するシーン

 ユーチューブにもアップされ、X(旧ツイッター)では、この場面の動画とともに「このままでは日本が終わる」とする投稿が1万回以上リポストされ、154万回表示。現在も、この情報が事実であるとする投稿が相次いでいる。県には、電話やメールでこの情報を不安視する問い合わせが20件近く届いている。

■山全体?わき水?

 情報の真偽について読売新聞記者が検証した。

 そもそも水源とは何なのか。水資源に詳しい石川県立大の山下良平准教授(地域計画学)は、学術的には山林に降った雨水が地下にたまったものやそのエリアを指すと説明。ここから川や地下水が形成されるとし、「山林の地下に広がる水源には明確な境目がなく、一般論として個数を数えられるものではない」と指摘する。

 水源という言葉の意味を広く捉えて「水道設備」、「わき水」、「川の源流」などと考えても、「水源が九つ」や「七つが中国人、並びに中国資本の会社に購入されている」という事実は確認できなかった。

 水道事業を管理する県生活衛生課の担当者も「このデマは把握しているが、『九つの水源』が何を指しているのか不明だ。川を買うことはできず、浄水場や井戸などの水道設備が買われた事実もない」とする。

 国の研究機関、森林整備センターの和歌山水源林整備事務所の担当者は「水源という言葉は広い意味で山全体を指す。仮に山の一部が買われても、水源が占有されることにはなり得ない。水源が、わき水のことを指したとしても数え切れないほどある」とする。

 和歌山市では、紀の川から水道水を取水している。紀の川の源流は奈良県川上村にあるが、一帯の天然林は村が所有している。

 林野庁は2006年以降の外国人や外国資本による森林取得事例を公表しており、24年までに和歌山県内で取得されたのは田辺市(2ヘクタール)と白浜町(0・3ヘクタール)の2件。このうち、中国資本による取得は田辺市の1件だった。

番組側「趣旨は大枠では適切」

 読売新聞は、ABEMAを運営する「サイバーエージェント」に、調査の詳細や情報の真偽を尋ねる質問状を送り、約1か月後の11月27日に番組の総合プロデューサーから回答を得た。

 回答では、総合プロデューサーが「取材源の秘匿から名前は控える」とした上で、この「県議」に再確認したところ、「『水源は九つ。水源は地下で繋がっており、周辺の土地を購入している以上は日本の貴重な水源が買われているという危機に変わりはない』と説明された」とした。

 これを踏まえ、総合プロデューサーは情報の 信憑しんぴょう 性について、「情報を提供してくださった方の意見が100%間違いとも言い切れない。国の水源の定義が決まってない以上、九つという主張もあるにはある」と主張した。

 県議の「周辺の土地を購入している」との主張について、詳細や真偽についてはコメントせず、根拠も示さなかった。

 総合プロデューサーは「番組の趣旨は、『外国人が平気で土地を買えるってどうなの』という疑問に実際の経営者が意見するというもの。大枠では適切だった」とし、削除や訂正はしないとの見解を示した。一方で「あのナレーションはダメだったと感じている。反対意見を持つ議員たちにももっと取材してから書くべきだった」としている。

和歌山県
和歌山県

 記者は、番組が情報源だとする「県議」に事実関係を確認しようと、番組の配信当時に和歌山県議だった42人全員に取材したが、調査を行ったり、番組の取材を受けたりしたと答えた人はいなかった。

各地で森林買収懸念背景

 こうした情報拡散の背景には、各地で外国資本による森林買収が行われ、水源地の保全に懸念の声が上がっていることにある。

 北海道倶知安町では、複数の外国資本が宿泊施設を建設し、森林の伐採が進む。宮崎県都城市では、水源地域保全条例の対象区域にある森林約700ヘクタールが、中国とつながりのあるとみられる企業に買収された。林野庁の調査では、2006年から24年まで、外国法人などによる森林取得は累計1万396ヘクタール。取水や地下水の採取を目的とした開発の事例は報告されていないという。

 立命館大の谷原つかさ准教授(社会情報学)は「外国人に関する問題は、ネット上で注目を集めやすい風潮にある。情報を受け取る際は、どこが事実関係で、どこからが発信者の意見なのかを見極めてほしい」と話した。

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