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エネルギーの安定供給と環境保全を両立していくうえで、地熱発電は大きな可能性を秘める。しかし、発電用の熱水を掘り当てるのは難しく、開発の大きなハードルとなる。京都大学工学研究科の小池克明教授(地球資源工学)は、物理探査や化学分析、衛星観測、コンピューター解析など、様々な手法を統合することで、熱水を掘り当てる成功率の向上を目指している。
熱水は地中の「亀裂」にある
小池さんに案内されて実験室に入ると、所狭しと並ぶ機器の多様さに驚いた。一部だけ挙げると、岩石にどのような鉱物が含まれているかをエックス線で調べる装置。鉱物を構成する元素が分かる電子顕微鏡。岩石が熱水と反応した痕跡を調べ、反応温度を推定する機器。岩石の内部にガスを通す亀裂がどれくらいあるかを測る装置……。
別の部屋には、コンピューターが並ぶ。衛星データの解析などを行うものだ。小池さんは画面を示しながら「まず、衛星やドローンで上空から撮影した地形を分析し、地中に大きな亀裂が走っている可能性のある場所を探します」と説明する。
地熱発電では、高温の蒸気や熱水を生産井から噴出させ、タービンを回す。その熱水や蒸気が地中でたまっている場所は、「地熱貯留層」と呼ばれ、地下1~3キロ・メートルにあることが多い。「層」とは言っても、地下の岩盤に広い空間はない。「熱水がたまっているのは岩盤の中の亀裂です。厚さは数ミリとか数センチ。様々な長さの亀裂が複雑につながり、大局的にみれば面的な広がりになっていると考えられます」(小池さん)という。
多様な技術を駆使してデータ収集
発電用の生産井を造るには、熱水がたまった大きな亀裂を掘り当てねばならない。上空からの観測(リモートセンシング)で有望な場所を捉えると、今度はその現場へ赴き、地中の電気の流れやすさを電磁波で調べる。水は岩石より電気を通しやすいので、熱水が大量にある場所を絞り込むのに役立つ。
有望な地点では、ラドンなどのガス成分の測定も行う。地下深くから蒸気が上がってくる場所では、上昇するガスによって放射性物質ラドンも運ばれてくる。ラドンが持続的に検出されれば、地熱貯留層につながる亀裂の存在を推定できることが、これまでの研究で分かった。現場で採取した岩石を実験室で分析し、熱水による変質などが見つかると、それも有用な情報になる。
こうして集めた各種のデータを基に、地下の構造をコンピューターで解析し、温度の分布や水の流れを推定。熱水をため込んだ亀裂の場所を絞っていく。
インドネシアで共同研究…有望地絞り込む
小池さんは、地熱資源量が世界第2位と言われるインドネシアで、現地のバンドン工科大学などと約10年前から共同で研究。様々な技術を統合して生産井の候補地を絞る手法を、発展させてきた。そして、地熱発電所が稼働しているジャワ島西部の2地域で、新たな掘削の有望地点を絞り込んだ。「次の生産井を掘る際に有効活用してくれると思う。提供した技術を使いこなす若手人材が育ったのも、大きな成果です」と語る。
深さ1~3キロの生産井を造るボーリングは、1本当たり数億円かかると言われる。亀裂を掘り当てる確率は従来、「正確には分からないが、よく3~5割程度と聞く」(小池さん)という。様々な技術を統合した手法によって、その成功率を高め、地熱開発のコストを大幅に低減する効果が期待されている。
もちろん、国内での応用にも取り組む。日本の地熱資源は電力に換算して約2300万キロ・ワットに上り、米国とインドネシアに次ぐ世界3位だが、実際の発電量は約50万キロ・ワットで、世界10位にとどまっている。活用の拡大に向け、小池さんは北海道なども対象に研究開発を進めている。