赤ちゃんが感じる「痛み」、客観的に測って軽減したい

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編集委員 増満浩志

岩田欧介准教授(名古屋市立大学病院で)
岩田欧介准教授(名古屋市立大学病院で)

 病気やその治療などで、体のどこかが痛くなったり、苦しさや気持ち悪さを感じたりすることがある。我慢できる時もあれば、限度を超えている時もある。状況に応じた痛み止めなどの処置を受けるには、自覚症状を医師にきちんと伝えることが大事だろう。

 でも、病気などで苦痛を感じるのは、大人だけではない。自分の状態を言葉で表現できない赤ちゃんの患者にも、苦痛の程度に応じた的確な処置を施せるようにしたい――。名古屋市立大学の岩田欧介准教授(56)(新生児・小児医学)は、そう考えて「痛みを客観的に測る」研究に取り組んでいる。

泣く激しさが痛みの強さを反映するとは限らない

 名古屋市立大学病院の新生児集中治療室(NICU)は12床。入院しているのは、超早産児をはじめ、体調を常に観察していなければならない新生児ばかりだ。入院直後の重症児は、1時間ごとに採血が必要なことも珍しくないという。

 採血をはじめとする検査や治療の際、強い痛みが長く続きそうな場合は鎮静剤などを使うが、副作用が少なくないので最小限の使用に抑えたい。そのためには、痛みの程度を測ることが重要だ。痛みの感じ方は、与える刺激の強さだけでなく、血糖値や覚醒レベルなど患者の状態や体質によっても変わる。

 痛みの程度は現在、赤ちゃんの顔の表情や心拍数の変化などから測る方法が標準的だという。ただ、「顔の表情などは、観察する側の主観で評価する。おなかがすいて泣いている子と痛みで泣いている子を区別することすらできない。それに、赤ちゃんは一度泣き始めると、痛み自体はなくなってからも泣き続けることが多い」と、岩田さん。

 「激しく泣いていても実は空腹など他の要因が大きい場合や、逆に大して泣いていなくてもダメージの大きい子がいるかもしれない」と心配する。

 そして、「痛みを定量的に測れないと、苦痛の許容か過剰な鎮静かという両極端につながりかねないし、痛みを軽減する対策の効果もちゃんと測れない」と語る。

 2021年に開始した研究プロジェクトでは、NICUの新生児100人を対象に、心電計、脳波計、脚にはめた腕時計型の体動計、唾液の分析、保育器の底面に敷いた圧電センサーマットなど様々な手法を使って、体の状態を測定している。そして、採血時の痛みに反応する指標を探している。これまでの研究で、心電図に含まれる様々な信号のうち、ある成分が痛みの強さを測るのに有望だと分かってきた。

左脚にはめた腕時計型の体動計など、様々な機器を使って赤ちゃんの状態を測定している(名古屋市立大学病院で)=岩田准教授提供  ※画像は一部修整しています
左脚にはめた腕時計型の体動計など、様々な機器を使って赤ちゃんの状態を測定している(名古屋市立大学病院で)=岩田准教授提供  ※画像は一部修整しています

 今後、この成分を基にした指標について、痛みの強さに対応して数値が上がることや、それを活用して痛み軽減のケアを導入すると生活の質が上がることを証明し、痛みの客観的な指標として確立していきたいと考えている。

育児の負担減らすロボットも目指す

NICUの入り口に立つ岩田准教授
NICUの入り口に立つ岩田准教授

 岩田さんらのチームは、注射時の痛みよりもっと持続的なストレスについても、測定する技術の研究に取りかかっている。痛みの測定と同様にセンサーマットなどの機器を使い、NICUの新生児約100人を対象としてデータを収集。ストレスを反映した指標を探す。

 こちらの研究は、家庭での通常の育児にも役立つことを目指している。赤ちゃんの不機嫌を感知して、たとえば人工知能を搭載したロボットが母親の声であやしたり、おむつの替え時を親に知らせたりする技術が考えられる。

 「今の日本では、赤ちゃんを育てる膨大な作業が母親に集中し、追い詰めている」との懸念が根底にある。国立成育医療研究センター(東京都)の研究チームが2018年に発表した調査によると、産後1年以内に自殺した母親が、2015~16年の2年間で92人に上った。「育児で疲弊し、うつになったり子どもを育てられなくなったりする母親は、さらに多い数に上るでしょう。育児が少しでも楽になる技術を作りたい」と、岩田さんは語る。

 学内の芸術工学部などと協力して、段階的に開発を進めていく計画だ。

母親が絵本読む声、NICUで録音聞かせる試み

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