キャラクターは「カッパ」…体内でがんをたたく放射性治療薬、初の国産品を実現へ

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編集委員 増満浩志

 がんの放射線治療は、海外に比べて日本では普及が遅れていると言われて久しい。放射性物質を病巣へ送り込んでがん細胞をたたく「核医学治療」(内用療法)に至っては、放射性医薬品の開発が国内で長年ほとんど行われなかったため、国産品は一つもない。

リンクメッドの吉井幸恵社長(東京・日本橋の同社オフィスで)
リンクメッドの吉井幸恵社長(東京・日本橋の同社オフィスで)

 ベンチャー企業「リンクメッド」(千葉市)を率いる吉井 (ゆき)() 社長(45)は今、「銅64」という放射性物質で、この状況を打破しようとしている。国産の放射性治療薬として初となる治験が進んでおり、2027年の実用化を目指す。

「銅64」が出す「オージェ電子」とベータ線でがん細胞を殺傷

 「放射線」には、いくつかの種類がある。たとえば「エックス線」は光(電磁波)の一種で、透過力が強い。がん治療で体外から照射すると、活性酸素が発生して、がん細胞のDNAに損傷を与える。周辺の正常組織も損傷は受ける。

 これに対し、核医学治療に使う「ヨウ素131」「ラジウム223」といった核種(原子核の種類)からは、「ベータ線」(高速の電子)や「アルファ線」(ヘリウム原子核)といった粒子線が放出される。電磁波に比べて透過力が弱く、短い距離を進む間にエネルギーを失う。こうした核種をがん組織に取り込ませれば、そのエネルギーで患部を集中的にたたける。

 核医学治療で注目されているもう一つの粒子線が、「オージェ電子」だ。ベータ線より低速の電子で、体内では細胞1個分も進まない。同じ距離を進む間に周囲へ与えるエネルギー量を比べると、オージェ電子はアルファ線より小さいが、ベータ線より桁違いに大きい。

 銅64は、ベータ線とオージェ電子を出す。飛程(進む距離)が違う2種類の放射線を混合照射する形となり、「体外から重粒子線を照射する治療などと同等のがん細胞殺傷効果が期待できる」(吉井さん)という。

薬の動きが「見える」治療~悪性脳腫瘍の治験進む

 吉井さんは量子科学技術研究開発機構(QST)で長年、銅64の放射性医薬品を開発する研究に取り組んできた。がんの種類ごとに、銅64が患部に届きやすい形の医薬品を作る必要がある。開発が最も進んでいるのは「64Cu-ATSM」(Cuは銅の元素記号)という化合物で、現在は有効な治療法のない悪性脳腫瘍の再発例への効果が期待される。

 悪性脳腫瘍の再発例は、抗がん剤が患部になかなか届かないうえ、「低酸素化」と呼ばれる状態で活性酸素が発生しにくく、体外から放射線を照射する治療も効きにくい。しかし、64Cu-ATSMは脳腫瘍の患部へ届き、低酸素化した組織に銅64を集積させる性質がある。

 飛程の短いオージェ電子が力を発揮するには、銅64ががん細胞の核内まで入り、標的であるDNAの近くに達する必要もある。吉井さんは「銅はがん細胞の増殖に必要な元素で、細胞核へ活発に取り込まれる」と説明する。銅64も、放射線を出さない普通の銅原子と化学的な性質は同じなので、核内へ入る。そこで放射されたオージェ電子は、DNAの鎖を2本とも切るという。

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