2024年の動物「ラクダ類」が支えたアンデス文明…元素の精密分析で探究する

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編集委員 増満浩志

 「今年の動物」というと、龍を思い浮かべる人が多いかもしれない。でも、空想の産物ではなく、実在する「今年の動物」がいる。

 国連は2017年12月の総会で、24年を「国際ラクダ年」(International Year of Camelids)と定めた。砂漠や高地といった極限環境で人々の生活を支えてきたラクダ類の重要性について、世界全体で理解を深めていこうという年なのだ。

瀧上さんの研究室には、リャマやアルパカ、テンジクネズミなど南米の動物の人形が並ぶ(茨城県つくば市の国立科学博物館で)
瀧上さんの研究室には、リャマやアルパカ、テンジクネズミなど南米の動物の人形が並ぶ(茨城県つくば市の国立科学博物館で)

 スペインに征服される前の南米に栄えたアンデス文明では、高地に適応したラクダ類が家畜化され、重要な役割を担った。国立科学博物館人類研究部の (たき)(がみ)(まい) 研究員(38)(生物考古学)は、ペルーの古代遺跡から出土するラクダ類の骨や歯を精密に分析することで、ラクダを利用する生活がどのように発展してきたかの手がかりを探っている。

ペルー北部の遺跡で出土するリャマ

ペルーのリャマ(2003年2月、中村光一撮影)
ペルーのリャマ(2003年2月、中村光一撮影)

 ラクダ類(ラクダ科)は約4500万年前に北米で出現し、そこから各地に広がったといわれる。アフリカやアジアなどの乾燥地にいるヒトコブラクダとフタコブラクダのほか、南米に4種類が現存する。

 南米の4種は、寒冷で空気が薄い高地に適応した動物だ。野生種のグアナコとビクーニャから、それぞれリャマ(ラマ)とアルパカが数千年前に家畜化されたと考えられている。リャマは主に荷物を運び、ビクーニャやアルパカの毛は高品質の織物に利用される。

 瀧上さんが研究するペルー北部のパコパンパ遺跡は、関雄二・国立民族学博物館名誉教授ら日本の調査団が長年発掘に取り組んできた。グアナコやビクーニャの生息域外なので、遺跡で出土するラクダ科の骨は狩猟の獲物ではなく、飼育して利用したリャマとみられ、文明の発展をたどるうえで貴重な試料となる。

育った場所がストロンチウムでわかる

パコパンパ遺跡の遠景。自然の尾根を整地して3段の基壇を造り、神殿が築かれていた(2015年8月、瀧上研究員撮影)
パコパンパ遺跡の遠景。自然の尾根を整地して3段の基壇を造り、神殿が築かれていた(2015年8月、瀧上研究員撮影)

 瀧上さんが手がけるのは、同位体(同じ名前の元素だが、わずかに重さの違うもの)の分析だ。一定の割合で壊れ続ける放射性同位体でなく、年月を経ても減らない安定同位体を調べる。

 主に2種類の分析手法を駆使する。一つはストロンチウムの分析。自然界では大半が「88」という種類だが、これよりわずかに軽い「86」と「87」も数%ずつ存在し、その含有量は地質によって異なる。えさの植物に含まれる水分などを通じて体に取り込まれるので、歯の中の86と87の比率を調べると、どこで育ったのかを推定できる。

 パコパンパ遺跡では、紀元前700~前400年の「2期」と呼ばれる時代にリャマが急増する。これは地元で飼育されたものなのか、あちこちから集められたものなのか――。出土したリャマの歯からストロンチウムを抽出し、同位体比を分析した結果、遺跡周辺で飼育されていた可能性が見えてきた。

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