やっぱり残るは食欲

ランチラウンド

執筆者:阿川佐和子 2025年1月8日
タグ: 日本
ゴルフ場には、魅力的なメニューがたくさんある(写真はイメージです)

 昼ご飯は基本的に食べない主義だと以前に書いた記憶があるけれど、ゴルフ場へ行くとその掟はいともたやすく破られる。

 たいていのゴルフ場では午前のハーフラウンドを終えたあと、クラブハウスで食事をするために一時間近くの休息を取り、また午後のラウンドに出て行くというのが通例となっている。たまに昼の休憩時間を取らずに十八ホール一気にラウンドすることがないわけではない。朝のスタートを七時台にした場合、ハーフを終えた時点でまだ午前十時頃。ここで昼ご飯を食べるのはなんとも早過ぎる。ならば休憩を端折ってそのまま後半の九ホールを回り、すべてのラウンドを終えたのち、「クラブハウス、あるいは帰り道のどこかで昼ご飯を食べましょうか?」と同伴者の同意を得た場合、そういう流れになることもあるということだ。

 とはいえ、いずれにしろ昼ご飯は食べることになる。

 前半ハーフを終え、洗面所で手を洗い、クラブハウスのレストランへ入る。テーブルに着き、メニューを広げる。

「飲み物はどうします?」

 そう問われた途端にカサカサと喉がビールの到来を心待ちにする。

「僕たちはみんな、ビールにしましたが」

 そうだよなあ。やっぱりビールでしょう。でも、後半のラウンドでフラフラしちゃうかもしれない。スコアの不調を挽回するためにも、ここは我慢のしどころか。よし、お茶にしよう。いや、ノンアルだったら酔わないかなあ。でも飲みたいなあ……。

「どうします?」

「ビール!」

「ノンアルコール?」

「いえ、普通のビールを小ジョッキで!」

 結局、そういうことになる。

カテゴリ: カルチャー
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
阿川佐和子(あがわさわこ) 1953年東京生まれ。報道番組のキャスターを務めた後に渡米。帰国後、エッセイスト、小説家として活躍。『ああ言えばこう食う』(集英社、檀ふみとの共著)で講談社エッセイ賞、『ウメ子』(小学館)で坪田譲治文学賞、『婚約のあとで』(新潮社)で島清恋愛文学賞を受賞。他に『うからはらから』、『レシピの役には立ちません』(ともに新潮社)、『正義のセ』(KADOKAWA)、『聞く力』(文藝春秋)など。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top