2025年、ロシア・ウクライナ戦争の停戦をめぐる注目点 その1:戦線の現状と両国の継戦能力
来月24日、ロシアによるウクライナ本格侵攻から3年になるが、戦火が収まる様子はみられない。今月20日には第2次トランプ政権が発足する。持論である即時停戦に持ち込もうとするドナルド・トランプ次期大統領の意向を踏まえ、ウクライナ、ロシア両国ともに、少しでも停戦に有利な条件を獲得しようと、ここ数カ月にわたり激しい戦闘を繰り返している。本当に即時停戦となるのか、それともさらに泥沼状態にもつれ込んでいくのか、まずは戦線の現状を振り返った上で、この戦争の帰趨を決定するトランプ次期大統領、ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領、及びウラジーミル・プーチン大統領の思惑から、その見通しを探ってみたい。
露軍のドネツク州全面占領には2年以上かかる
昨年、ロシア軍が重視した作戦は、ウクライナ東部ドネツク州全域の占領であった。特に昨年後半は、交通の要衝でもあり、ウクライナ軍のドネツク州における防御の重要拠点であるポクロフスクの占領が攻撃の目標となっていた。しかし、8月6日にウクライナ軍がロシア領クルスク州に攻め込んで以降、戦局の焦点として、ドネツク州に加えクルスク州の奪回も重要視されてきた。
まずドネツク州に関して、ロシア軍は昨年初頭からの攻勢作戦強化により、ドネツク州中部の要衝アウディーイウカを占領した後、更に進軍してポクロフスク方面に攻撃を続けた。昨年秋以降、要塞化されているとされるウクライナ軍の防御陣地に対し、ロシア軍は日々1500名を超える死傷者を出しながらも歩兵主体による人海突撃戦術を繰り返しているが、ポクロフスクはいまだウクライナが死守している。ロシア軍は、第2次トランプ政権がスタートする今月下旬までにドネツク州全体の占領を企図していたが、目標を達成することは難しい状況にある。
米戦争研究所(ISW)の分析(2024.12.23)によれば、最近では、ポクロフスクへの重点的な攻撃要領を再考し、ポクロフスク包囲作戦から、ドネツク州とその西側ドニプロペトロウシク州の行政境界にまで真西に攻撃していく作戦に切り替えた可能性があるとしている。同じくISWの分析(2024.12.31)によれば、ロシア軍のこれまでの進軍速度を前提とした場合、ドネツク州の残りの地域約8559平方キロメートルを占領するためには、2年以上かかるとしている。
一方で、ウクライナ軍も依然としてロシア軍が重視する地域での進軍を止め切れておらず、徐々に後退している状況にあるため、2025年にウクライナが前線を安定させるためには、西側の継続的支援が欠かせないとしている。
クルスク州の作戦においても、ロシア軍が攻撃側に立ち、領土を逐次取り返しているようである。昨年8月、ウクライナ軍が奇襲攻撃により占領した地域は、1376平方キロメートル(東京23区の2倍強)であったが、その後、ロシア軍がクルスク地域に約5万9000人の兵士を投入して反撃を仕掛けたため、11月下旬時点において、ウクライナが占領した地域の領土の40%以上を失い、約800平方キロメートルに縮小されたと、ウクライナ軍の高官筋が語っている(ロイター通信 2024.11.24)1。
また、クルスクの戦場では、北朝鮮軍の参戦が問題視されたが、ゼレンスキー大統領は12月23日、11月以降参戦したとされる北朝鮮の兵士総数約1万2000人のうち、約4分の1にあたる3000人以上がクルスク州で死傷したと述べている(ISW 2024.12.23)。また、クルスク地域において、北朝鮮軍部隊とロシア軍部隊との相互連携は最小限で、作戦協力はなかったとしている。北朝鮮軍派兵当初は、戦況に及ぼす影響が懸念されたが、現状においてはそれほど大きくはなさそうである。
一方で、ウクライナにとってクルスクは、狭い地域とは言えロシア領内における唯一の占領地であり、停戦交渉の要でもある。これ以上取り返されないよう、戦闘力を強化していることは想像に難くない。
2024年のロシア軍の死傷者は40万人超
では、今後予想される停戦交渉の間、両軍はまだ戦い続けられるのか。
「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。