こんにちは、ジモコロ編集長のギャラクシーです。上の写真は7年前、亡くなった父が使っていた車いすに乗る僕です。

 

父は亡くなる数年前から歩行が困難になり、医者から車いすを勧められました。しかし父は「乗りたくない」と断り続けていたんですね。その理由は―

・車いすって買うの? 借りるの? 価格は?

・トイレや電車、坂道などはどうしたらいいの?

つまりよくわからんから使いたくない! というものでした。

 

とはいえ車いす無しだと家に閉じこもりがち。暗くなっていく表情を見て、僕と母は父を説得し……数年越しで車いすを導入したのです。

 

届いた当日、僕が車いすを押して近所を一周したんですが、父は「久しぶりの外は気持ちがエエなぁ!」と喜んでいました。

 

が、それから4ヶ月後に父は入院し、そのまま亡くなってしまったんですね。使用期間たったの4ヶ月。

 

最初に医者から車いすを勧められた数年前、「よくわからんものじゃなくて、車いすはこういうものだよ、便利だよ」と説得できていれば……もっと色々な場所に連れていってあげられたのになぁ、と。

 

というわけで今回は車いすについてしっかり学ぶため、福祉用具のレンタル・販売を行う株式会社ヤマシタ(江東営業所)にやってきました!

 

株式会社ヤマシタ

介護保険制度成立前の1986年より福祉用具レンタル・販売事業を行う老舗企業。営業所は関東から関西までの地域に約70店。取り扱う車いすは40種類以上。

公式HP

 

お話をうかがったのは営業の佐藤さん

前半は車いすの種類について、後半は車いすに関する初歩的な質問(手続きや費用など)について教えてもらいましたよ!

 

車いすってどんな種類がある?

「今日はよろしくお願いします! さっそくですが、まずは車いすを見せてください!」

「はい! こちらに用意しています!」

 

「3つも!?」

「弊社では車いすを大きく3タイプ……『スタンダードタイプ』『モジュールタイプ』『電動タイプ』に分類しています。それぞれ特徴やメリット・デメリットを説明しますね」

「一番左の電動タイプは見た目で違いがわかるけど、右と真ん中は何が違うのかわからん……」

 

それぞれどんな特徴があるの?

 

スタンダードタイプ

 

エコールチェアベーシック

最も一般的な車いす。必要最低限の機能だけある標準型

「最初に紹介するのはスタンダードタイプ。こちらはタイヤの小さい介助型ですので介助者(付き添い)が必須になります。」

「父の車いすには後輪に手すり(?)がついてたんですが、これはタイヤがむき出しですね」

「手すり……というのはおそらく“ハンドリム”(後輪の外側についているリング=手でこぐ時に使う)のことですね。こちらの車いすにはハンドリムがついていないので、自走できません

 

「スタンダードタイプは自走できないってことですか?」

「いえ、スタンダードタイプでも自走できるものはあるんですが、この車いすは自走できない種類ですね。約11kgとかなり軽いので、女性でも持ち運べますよ」

「ママチャリの重量が18kgくらいなので、かなり軽いですね! 機能を絞る(パーツを少なくする)ことで軽く、安くできるってことかな。ただ、目の前で見るとやっぱりデカいな……狭い家だと厳しいのでは?」

 

「いえ、手押しハンドル部分は折りたためますし」

 

「座面も上に引っ張ると折りたためます。全部たたむと……」

 

「こうなります!」

ちっさ! これなら家に置けるし、新幹線とかの長距離移動でも邪魔にならないですね」

「はい。車の後部座席に置くのも楽なのではないでしょうか」

「あの~、文句みたいになっちゃってあれですけど、なんか色が地味じゃないですか? ピンクのヒョウ柄とかないのかな」

「基本は高齢の方が利用されるので、落ち着いたカラーになりがちですね。ただカラフルな車いすもありますし、車輪の所に貼るフィルムのようなものを使って自分好みにすることも可能です」

「へ~色で選んだりカスタマイズすることも可能なのか……若い人だって車いすに乗ることはあるわけだから、そのほうが嬉しいですよね! さて、じゃあ実際に座らせてもらおうかな!」

 

「やわらかっ!! お尻部分の座り心地はむしろ普通のイスよりもいい」

「実はオプションの車いす用クッションが敷いてあります。これがあるだけでかなり座り心地が変わってくるので、ぜひセットで使って頂きたいですね。肘とか腰あたりのフィット感はどうですか?」

「んー、肘の高さは全然合ってないかも……」

「このタイプは肘の高さが調整できないので、ギャラクシーさんが実際に利用される際は、違うサイズを選んだほうがいいですね」

「材質はアルミかな? 錆には強いはずですが、雨の日でも乗れますか?」

「う~ん……無理ではないんですが、利用者様には雨の日はなるべく外出を控えるように伝えてます。水に濡れた点字ブロックやマンホールは、タイヤが滑りやすいので危険なんです」

「あぁ~、雨の日って自転車とかバイクでもマンホールの上で滑るからなぁ。梅雨の時期が課題になりそうですね」

 

モジュールタイプ

 

エコールチェア フィット

カスタマイズ性に優れた車いす。各部分で微調整が可能。

「続いてはモジュールタイプの車いすです」

「モジュール……とは?」

「『部品』や『交換可能な』という意味ですね。利用する方に合わせてサイズの調整や着脱が可能、というニュアンスが分かりやすいかと」

「なるほど……。スタンダードよりカスタマイズ性が高いのがモジュールタイプなんですね」

「そうです。座面や肘置きの高さ調整、フットレスト(足を置く板)を下げるなど、細かく調整できます

 

「ボタン一つで肘置きの高さを変えて……」

 

「フットレストの位置を下げて……これで座り直してみてください。どうですか?」

「うっわ! ほんの一瞬で数倍楽になりました。マジですげぇ! 長期間利用するなら自分のサイズに合ったものの方が絶対に良いですね!!」

 

「ベッドやイスに移動(移乗)するときも、肘置きやフットレストを取り外したら格段に移動が楽になります。さらに……」

 

「こういった移乗用具を活用すれば、よりスムーズに体を移動させることができます」

「へぇ~、移乗するためのアイテムがあるんだ。え~っと、車いすと普通のイスの間に移乗用具を橋のように架けて……」

 

スルスルスル……

 

「めっちゃ楽だ! これなら車いすからベッドへ、ベッドから車いすへ、スッと移動できますね」

「あと、さきほど話に出ましたが、こちらはハンドリムがついてますので自走できます」

「自走してみたい!!!」

 

「うお~~! 軽々と進む! 軽々すぎてむしろ怖いくらい! 意外と惰性が強くて、慣れないうちは振り回されますね」

「この車いす自体は14kgですが、さらにご自身の体重もプラスされますからね」

「でも慣れると左右のリングをうまく操作することでその場で回転したり、自在に動かせますね。平地ではあんまり筋力が必要ないくらい軽い! でもこれ、坂道を上るときはどうするんですか?」

「基本的に坂道はなるべく避けていただくか、介助者の方にサポートしてもらうのがいいですね。腕の筋肉をすごく使うし、力尽きたら身動きできなくなっちゃいますから」

「坂道の場合、下りはどうするんですか? 介助者が持つハンドル部分にブレーキがついてるようですが、これ座ってる人は使えませんよね」

 

「利用者から手が届く部分に別のブレーキもついてますが、これはサイドブレーキ的な感じですね。あとはハンドリムを手で止めることでブレーキにはなるので緩いスロープなどはそれで十分かと。でもできるだけ誰かにサポートして頂きたい……」

「誰かにサポートといっても、下り坂では車いす+利用者の重さがかかるわけで……かなり難しいのでは?」

「コツがあるんです。坂道を下るときはあえて進行方向に対して後ろ向きにします。つまり押すのではなく引っ張る方向ですね。これならスピードに乗ってしまったときに、介助者が体で止めることができるので」

 

「へ~! テクニックがあるんですね! では“段差”はどうでしょう? 実際に乗ってみて思ったんですが、わずか数センチの段差すら難しい気がします」

「介助者がいる場合は、足元にパイプがあるので、このどちらかを足でグイっと踏んで頂ければ……」

 

グイッ

 

「こんな感じで前が浮くので、ちょっとした段差なら楽々乗り越えられます。これは力で浮かせているわけではないので、女性でも簡単にできますよ!」

「大抵の『こんな時はどうしたらいいの?』という心配にはすでに対処法が用意されている……」

 

電動タイプ

 

WHILL Model CK2

電動車いす。重量があるため安定感がある。

「続いては電動タイプですね」

「見た目がかっこいい! これは、介助者が押すための握り手がないんですね。つまり完全な自走用?」

「はい。手元にレバーがついているので、利用者が自分で操作します。手元のレバーを左右に倒すとそれぞれ右回転・左回転。前後に倒すと前進・後退という、シンプルな操作です」

「戦闘機はレバーを右に倒すと左にいくので、その逆ってことですね」

「車いすを戦闘機で例える人、初めてです」

「レバーのすぐ上に表示されてる『95』っていう数字はなんですか?」

「これはバッテリーの残量です」

 

ちなみに数字(95)の下の小さなボタンを押すとクラクションが鳴る

 

「バッテリー残量100%だと、最長どれくらいの距離を移動できるんですか?」

「およそ18kmいけます」

「18km!! 多分、東京駅からディズニーランドまで行ける」

※Google Mapで調べたところ、東京駅からディズニーランドまでは徒歩14kmでした

 

後部にはバッテリーが格納されている

 

「電動自転車みたいにバッテリーも取り外せると。これは家庭用コンセントで充電できるんですよね?」

「もちろん! だいたい5時間くらいで満充電になります」

「座席の下にはカゴもついてるので、買い物の時も便利そう……って、え!? ちょっと待って! よく見たらタイヤがすごいんだけど」

 

「ハチミツすくうやつがいっぱいついてる!」