こんにちは、ライターの荒田です。私はすぐ落ち込んでネガティブ思考になってしまうんですけど、そんな時よく見るのがこの人のダンス動画です。

それが振付師のえりなっちさん。以前からえりなっちさんがSNSに投稿しているダンスや振り付け作品を見ると、なぜかめっっちゃ元気が出るんです。なぜなんだ。

今も昔もですが、ダンスを踊る人はたくさんいます。最近では、SNSでダンス動画を見る機会もより増えている気がします。そのダンスの分だけ、振付をする人も必ずいる。改めて考えてみると、振付師ってどういう仕事なんでしょうか。

みんなを楽しませ、ハッピーな気持ちにさせることを本懐としているえりなっちさんの、振付師というお仕事と、実は緊張しいで、いつも本番前は震えているという人柄についても聞きました。

 

アイドルからキャラクターまで。振付師ってどんな仕事?

荒田「AKB48が今年リリースした『恋 詰んじゃった』の振付、すごくかっこよかったです。ダンスの振付って、一体どうやってつくっているんですか?」

えりなっち「アイドルグループで18人もの大人数の振付をしたのは私も初めてだったんですけど、ストリートダンスの振付なら途中で舞台からハケてもいいので、構成はつくりやすいんです。でも、アイドルはハケの文化がなくて。『恋 詰んじゃった』は3分くらいの楽曲ですけど、舞台上で全員で踊り切る振付をつくるのは難しかったですね」

荒田「そうか。全員がステージ上にいないといけないんですね!」

えりなっち「あと、アイドルには『歌割り』があって、歌唱の部分が見せ場なんですけど、メンバーそれぞれにうまくフォーカスが当たっていく構成を全員ハケないでつくる。ここではこの子がセンターに来るように、と将棋のように逆算しました。18人がぐちゃぐちゃにならないように、ひとりに注目しても、チーム全体で見てもきれいになるかどうかを重視しました」

荒田「振付は、紙に書いたりして考えるんですか?」

えりなっち「ざっくりした構成は紙に書いて考えることもありますけど、ダミーダンサーの子たちに来てもらって、その場でつくっています。『恋 詰んじゃった』の時は『あ〜〜! できない!!!』って叫ぶくらい苦戦しましたけど、自分を追い込むためにも、6時間で絶対につくりきるって決めていて」

荒田「6時間でできるんですか!」

えりなっち「いつも、短期集中、6時間でつくりますね。できない時もありますけど!でも、当たり前ですけど、みんな集中力が無くなってグロッキーになってくる。もう、振付づくりは闘いですね

「恋 詰んじゃった」のダンスプラクティス動画。AKB48メンバーへの振入れも実際にえりなっちさんが行っており、動画の冒頭では「がんばるぞい!」と元気な声を出している

荒田「あの振付にはそんな裏話があったんですね。ダンサーに振入れするのと、アイドルに振入れするのでは、違いがあるんでしょうか?」

えりなっち「けっこう違いますね。ダンスを生業にしたいと思っている自分の生徒たちには『(指をさして)お〜ぃ!』って厳しく注意しちゃうんですけど、アイドルは、意外とダンスに対して苦手意識が強い子も多いんですよね。みんなカツカツのスケジュールでやっていて、2日後には本番だったりするので、そりゃ緊張するよねって思います」

荒田「2日後に本番。すごい世界ですね」

えりなっち「だから、とにかく現場を楽しく盛り上げようと思ってます。その場が楽しいと、振付も好きになってもらえることが多いと思うので。涙目の子がいたりすると、『どうした?』って自分から声をかけるようにしています

荒田「人のことを気にかけることは、元々好きだったんですか?」

えりなっち「どうなんだろう。ダンスレッスンに通ってくれている小学生の生徒が『誰々ちゃんに〇〇って言われた!』って言ってくると、揉め事は自分たちで解決してくださる?! って思うこともあるんですけど(笑)。ダンス以外の部分でも、メンタルケアしてあげたい、楽しませたいって気持ちはありますね」

荒田「優しい……。えりなっちさんがこれまで振付してきた中で、特に好きなものはありますか?」

えりなっち「わ〜〜、めっちゃありますね。どれも好きですけど、サンリオピューロランドの振付をやらせてもらった時はすっごく嬉しかったですね」

 
 
 
 
 
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お客さんもオールスタンディングで一緒に踊る参加型ショー「超FRESH SAKURA PARTY!」の振付を担当した

えりなっち「お客さんに振付をレクチャーしてみんなで踊る企画なんですけど、私が振付の時に言ってた『ギャルぴ! ギャルぴ!(ギャルピース)』っていう掛け声をそのままアナウンスしてくれたのが嬉しかったですね」

荒田「それはアツいですね……!」

えりなっち「それと、サンリオピューロランドのダンサーさんたちが『踊りたい!』という気持ちで舞台に立っているのがひしひしと伝わって。この人たちは本当にダンスを愛しているんだと、刺激をもらいましたね。まさか小さい頃から通っていたピューロランドの振付をさせてもらえるなんて夢のようで、胸アツでした」

ギャルピースのやり方を教えてもらいました。少し顔を隠しながらピースをするのがポイント

 

大学受験終わりの高3で、ダンスをスタート

荒田「元々、えりなっちさんがダンスをはじめたきっかけは何だったんですか?」

えりなっち「福島県出身で、高3までバスケ部だったんですけど、秋に引退して、受験もAO入試でパッと終わらせちゃったので、することがなくなって。その時に、地元のダンスイベントを見に行ったんですけど、それがとにかくかっこよくて、『私もダンスがしたい』って」

荒田「それまでは、ダンスは全然やってなかったんですか?」

えりなっち「元々Perfumeが好きで見てたくらいでしたね。ダンスって小学生の頃から習っている人も多い中で、私は高校3年生の冬からはじめたんです。でも、3ヶ月後に謎に発表会に出たんですよ。今思えば、はちゃめちゃで、意味不明なダンスだったと思います。だって最前列のキッズたちが私を見て手を叩いて笑ってましたから」

荒田「それは……。笑われた時って、どういう気持ちだったんですか」

えりなっち「『え、なんか超笑ってんじゃん!』って思ってたくらいですかね。もちろん少しは悔しかったですけど、やっぱり自分は特に踊れてないんだろうなと。だけど、それが頑張るきっかけになりました」

荒田「もうやりたくないと挫けるんじゃなくて、頑張ろうって思ったんですね。そこから、振付師になりたいと思った経緯は?」

えりなっち「大学の時にダンスサークルに入ったんですけど、1年生の時から作品をつくる課題があったんです。みんな最初は意味わかんないから、とりあえず人の真似ばっかりして組み合わせてただけだったんですけど、それがすごい楽しかったんですね。ゼロイチでなにかを生み出すってすごいことなんだと思って」

荒田「振付をつくる楽しさを発見したんですね」

大学のダンスサークル時代のえりなっちさん

えりなっち「そうですね。振付師になるなら、ダンスのジャンルや歴史、カルチャーを知って吸収しないとだめだと思いました。それまでは自分が何のジャンルのダンスをやっているかもわからないレベルだったので、とにかく色々なレッスンを受けましたね。その上で、ひとつのジャンルを突き詰めるというよりはいろんなダンスを組み合わせて、自分だけの最強のオリジナルをつくりたいと思うようになりました」

荒田「そうしてえりなっちさんのダンスが出来上がっていったんですね。ちなみに、ダンス以外のジャンルからも影響を受けていますか?」

えりなっち「ダンスと関係ないものも大好きですね。日本のカワイイカルチャーや、お笑いも好きなので1人で劇場に行ったりもしています。生活の中でインプットしているたくさんのものを、たまたま自分はダンスという形で表現している感じですね」

ネイルアートや、グラフィックデザインにも取り組むえりなっちさん。振付以外でも、ものづくりをすることが大好きだという

 

ダンスはスカしていると思われる? 自分の踊り方で踊ればいいんだよ

荒田「振付のお仕事の他に、ダンスレッスンも長く続けてらっしゃいますよね。最近のダンスの流れやブームについて感じることはありますか?」

えりなっち「ここ1〜2年でダンスシーンもだいぶ変わってきて、レッスンの動画を可愛く撮って、TikTokなどSNSにアップする需要が増えて来ました。私が若い頃は変な画角でも、踊ってる自分が写っていればとりあえずOKだったんですけど、最近は撮り方にもこだわりたいという生徒が増えてます。可愛い服がドレスコードになってるレッスンをしている先生もいます」

荒田「えりなっちさんのレッスンでは、“猫ミーム”をテーマにしたダンスだったり、ナオト・インティライミさんに扮して踊ったりと、とにかく人を笑わせるような作品をつくっていますけど、狙ってそういう路線にしているんですか?」

 
 
 
 
 
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えりなっち「そうですね。『猫ミームを作品にしたらやばいでしょ!』って思いついちゃうんです(笑)。あと、毎年ハロウィンには仮装して踊っているんですけど、それが人気コンテンツになりつつあるので、毎年夏くらいから『ハロウィン何をしよう?』って考えはじめています」

荒田「それはすごい。レッスンをやっていて苦労したことはありますか?」

えりなっち「思春期の子の中には、恋愛や色々な事情でダンスをやめていく子がいて。もちろん、その子が選んだ道ならどれも尊いんですよ。心の中では『オッケー。色々な人生、その子の人生』って言い聞かせるんですけど、やっぱりダンスを頑張って欲しかったなって思うこともあるので、それは難しいですね」

荒田「思春期の子を教えるならではの悩みですね……」

えりなっち「自分のダンススタイルも『ぷりちゅ♡』みたいな可愛い感じじゃないですから。変な猫の着ぐるみを着させられたりとか、メイク薄くしたりとか。コンセプトがイカれているものが多いから『そりゃ好きな人には見られたくないよね。ごめんね』とは思うんですけど」

 
 
 
 
 
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荒田「思春期といえば、2012年から学校でダンスが必修化になりましたよね。レッスンの生徒さんに学校でのことを聞いたりしますか?」

えりなっち「中学校からは給食の話しか聞かないですね(笑)。でも、最近高校生の生徒が『イキってると思われるから、ダンスの授業はあえて下手に踊る』って言っていたので、『そんなんすんなよ〜!』って返しました」

荒田「『上手くて嫌な感じだな』って思われちゃったりするんですかね」

えりなっち「すっごくダンスが上手な中学生の生徒がいて、ちょけて街中で突然踊り出したりするんですよ。私たちは『ちょっとやめな〜』って爆笑して。それが定番ネタみたいになっているんですね。でも、学校でも同じように踊っていたら、仲良い友達に突然シカトされはじめたらしくて。『なんでシカトするの?』って訊いたら、『だって踊るから』って」

荒田「上手い下手は関係なく、みんな踊っちゃえばいいのにね」

えりなっち「そうそう。みんな受け入れてくれればいいのに。だから、ダンスってまだそこまで浸透してないのかなって思っちゃいますよね。それに自分が仕事で関わってきたのはダンサーでもアイドルでも、自分を表現するために踊らなきゃいけない人たちだったんです。なので、踊りたくないのにダンスの授業を強制的に受けるのってなかなか難しい話だなと思います」

荒田「なるほど。そしたらダンスが苦手だったり、嫌いだなって思っている人に対して、えりなっちさんが声をかけてあげられることはありますか?」

えりなっち「音に乗って身体を動かすだけで、好きな音楽の感じ方が変わってくるよとか、この動きはめっちゃ痩せるよって伝えますかね。人前で上手に踊るだけがダンスじゃなくて。音を感じて、その人のやり方で音を体現すれば、それはもうダンスなんです」

荒田「個人的にはライブに行って身体をゆらゆらするのもダンスなのかなって思っています」

えりなっち「もちろん! それも立派なダンスです。みんな思い思いに踊ってほしいですね」

 

代表作を生み出して、ド派手に死にたい

荒田「度々SNSで発言していますが、えりなっちさんはすごく緊張しいだそうですね」

えりなっち「そうなんですよ。振付で関わった、でんぱ組.incも出演するイベントに出させてもらった時、練習はバッチリだったんですけど、本番前にめっちゃドキドキしてきちゃって。やばい、振付なんだっけ? どうするんだっけ? って頭が真っ白になって。でも、舞台に出たらもう大丈夫。舞台に上がるまでがすごく緊張するんです」

「カオスフェス2024」に出演し、でんぱ組.incとのコラボパフォーマンスを披露した

荒田「ステージに出ちゃったらもう大丈夫?」

えりなっち「なんでなんですかね。お客さんの顔を見ると大丈夫になります」

荒田「緊張した時は『お客さんをじゃがいもと思え』ってよく聞きますけど。そうじゃなくて、お客さんを見るんですね」

えりなっちお客さんが私のほうを見てくれること、歓声を上げてくれることが、自信に変わっていくから。逆にこっちから顔を見てやったりしますね。盛り上げろ! って(笑)」

荒田「ダンスの途中で、すっごい失敗しちゃったなみたいな時ってあるんですか?」

えりなっち「あります! 深夜のダンスイベントにひとりで出た時、袖で本当に頭が真っ白になっちゃって。やばい、と思って、隣にいた友達のジントニックを『ちょうだい!』って一気飲みして出ました。でも、舞台に出たのにまったく振付が思い出せなかった。当分引きずりましたね」

荒田「そうなんですね。私はえりなっちさんのダンス作品から毎回、例え辛いことがあっても、ネタにして笑い飛ばす気概みたいなものを感じていて」

えりなっち「実は昔、ライターの仕事をやっていた時期があったんですけど、めっちゃルックスいじりをされていたんです。『卒業アルバムの顔がやばいから、それを加工して可愛くする』って記事を書いたら、私の写真がブスのフリー素材みたいになってて。その時は病みましたね」

荒田「う〜。それはつらいですね」

えりなっち「でも、それで数字になっているなら、むしろ出していこうって思って。『そうですブスです、ピース!』って自分のキャラにしたら、舞台の出演が決まったことがあったんです。だから、これでよしとしよう、って」

荒田「ネガティブな言葉を逆手にとって、キャラクターにするんですね」

えりなっち「あと、私はダイエットして12kg痩せたんですけど、痩せたら痩せたで『お前はそっちじゃねえよ』って言われたりするんですよね。でも、自分が好きでやったことだから気にしない。自分が変わりたかったら変わればいいし、逆に個性を武器にしてもいい。なりたい自分でいられたらいいと思います」

荒田「同じ世代に、悩み事を共有できる振付師の方はいるんですか?」

えりなっち「多いですね。バブリーダンスで有名なアバンギャルディのakaneちゃんや、パワーパフボーイズも同じ世代ですね。今まで、振付師って全員孤独に生きてたんですけど、インターネットに出るようになってから、横のつながりができるようになりました」

えりなっちakaneちゃんは、人の動かし方が神レベルすぎて、何回見てもどうやって振付しているかわからないんですよ。自分ももっと頑張らなきゃと思います」

荒田「あの、最後に今日どうしても伝えたかったんですけど、私はえりなっちさんのダンスを見ているとすごい元気をもらえて。でも、頑張りすぎでは? 突き詰めすぎでは? って思う時があるんですよね」

えりなっち「えー! そうですか? むしろ、自分ではもっともっとやりたい、もっともっと頑張らなきゃ、って思っていますね。akaneちゃんのバブリーダンスみたいな代表作が、自分にはないのがコンプレックスなんです。ここでぬるま湯に浸かっている場合じゃないって思ってますね」

荒田「いやいや、はたから見ると、ぬるま湯に浸かっているようには見えなくて。活躍していて、たくさんの人に愛されていると思います」

えりなっち「うわ〜〜、うれしいです。最近、私はポジティブな意味で、はやく死にたいと思ってるんです。ウオォォォってがむしゃらに走り続けて、バーン! ってド派手に死にたい。だから老後のことはまったく考えてないですね(笑)」

荒田「はやく死んじゃうのは寂しいけど、いつもえりなっちさんのダンスに救われているのでこれからもずっと見ていきたいですし、今日は本当に話せてよかったです」

えりなっち「つい最近も、フォロワーの子から彼氏と終わりそうな時にずっと私の動画流してるって教えてくれて。そんな風に自分のダンスで救われる人がいるならこれからも踊り続けたいですね。『みんな、落ち込んだ時は私がいるよ!』って(笑)」

 

おわりに

泣いている子がいるといてもたってもいられない。落ち込みも自分なりに昇華して力に変える。大の緊張しいだけど、ステージに立てば絶対大丈夫で、びっくりするくらいわたしたちを楽しませてくれる、えりなっちさん。

「まだ自分に代表作はない」と言うけれど、わたしは、「えりなっち」という人そのものがえりなっちさんの代表作ですよ!! みたいな気持ちをけっこう前から心の中であたためていて、当日伝えようと思ったけれどできなかったので、ここに書きます。

何かを生み出したい、人に伝えたいと思っている人に「頑張りすぎなくてもいい」って言ってしまったことは、帰りの電車でちょっと反省しました。みんな本気でやっているんですよね。

長生きして欲しいけど、えりなっちさんが思うような創作を、バーン! と、ダーン! と、これからもやり続けてください。わたしはそれを見続けます。

と、やや重めの締めの文になってしまいましたが、このインタビューが、ダンサーを目指す方や、日常のなかで踊りたい方、ダンスが苦手な方、様々な創作活動をしている方々に届くことを願っています。何かをつくる人たちを、わたしは心から尊敬しています。

 

編集:吉野舞
撮影:番正しおり