2019年12月6日金曜日

ジンバブエは財政赤字ではなく、生産力低下でハイパーインフレーションになった説がダメなところ

このエントリーをはてなブックマークに追加
Pocket

そろそろブームが去った感のあるMMT方面から、ジンバブエは財政赤字ではなく、不適切な土地改革による生産力低下でハイパー・インフレーションになった説が唱えられることがある*1。確証バイアスがあるのだと思うが、インフレが加速していった時期の認識が曖昧で、眺めている経済指標の種類が僅かなことから生じる誤謬である。時系列を確認すると生産力の低下の前にインフレ加速をしており、インフレーションによって投資が落ち込んで生産力が低下したと考える方が自然だ。

ジンバブエのインフレ加速は、悪名高い2000年2月に打ち出され8月から実効されたジンバブエの白人プランテーション農場主から土地を取り上げてプランテーション労働者に配る土地改革ファスト・トラックと同時に説明されることが多いのだが、ジンバブエのインフレ加速は1998年(公式発表で48%; 1997年は20%)頃からはじまり2008年(〃355,000%)に終わるわけで、土地改革の前からインフレ昂進している。この不適切な経済政策が生産力の低下を引き起こし、供給力低下からインフレに寄与した蓋然性は高いのだが、すべてをこれで説明できるわけではない。

MMTの教祖も信者も土地改革ファスト・トラックが生産にどれぐらい影響を与えているか評価することを怠っている。2000年の半分から2008年までの背景色をピンクにした、上のグラフを見て欲しい。主要輸出品のプランテーション作物タバコの輸出量を見ると、落ち込むのは2002年以降である。2005年以降は輸出量は減っていないが、2005年から2008年まではインフレ加速している。2000年以降の穀物生産量の推移を見ても*2、2002年と2003年は落ち込んでいるが、2004年以降は持ち直している。悪影響はあったと思うのだが、他の要因の影響を否定できるわけではない。

MMTの教祖と信者はインフレ加速期に経済成長率が落ちていることを指摘するわけだが、一定以上のインフレ加速は経済成長率を落としてしまう説もあり、それは傍証にならない。上のグラフで資本投資の推移を確認してみよう。1998年からインフレ昂進するのだが、1999年ぐらいから資本投資は低下している。2009年にジンバブエ・ドルが廃止されると、そして投資は急回復する。インフレ率が高いと資本蓄積が阻害されて経済成長率が低下すると言う、昔ながらのマッキノンの議論通り展開だ。

ジンバブエは財政黒字だった説も見かけたのだが、財政黒字だったのは2010年と2012年で通貨消滅した後だ。2006年以降、基礎的財政収支は大幅に改善し、2006年と2008年は黒字と言いたいのかも知れないが、MMTが憎む「主流派」は利払いを含めた財政赤字を問題にしていることが多いし、公的セクターを政府に含めるとやはり赤字と言う指摘もある*3。そもそも同じ程度の財政赤字を継続していてもインフレ加速していってしまうモデルから考えると、高インフレ期のちょっとやそっとの黒字ではインフレは止まらない*4

0 コメント:

コメントを投稿