社会学者の千田有紀氏が配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)にある、加害者が被害者への接近を禁じる「保護命令なんて、なかなかなかなか出ませんよね」と主張し、「保護命令の申立ての約8割、取下げを除けば9割以上が認容されている」から事実誤認だと批判され、「保護命令のハードルは高く、却下されたときのリスクを考えて、みんな申請を控えている」「保護命令自体が、加害者を刺激する割に使い出がない」と反論している。千田氏の主張は根拠やそれが当てはまる条件が明示されておらず*1、本当は保護適当なのにDV被害者にその申請を躊躇わせる可能性があるのだが、弱者女性の不利益になる可能性について考慮されているのであろうか。
申し立てが認められる割合は、不確実性が低いことしか意味しないことは確かだが、千田有紀氏の前後ツイートを見ても保護命令のハードルに該当するような事実の指摘が無い。秦真太郎弁護士の解説を読むと、身体に対する暴力行為や、それを示唆する脅迫行為を示す、医師の診断書、怪我を示す写真、録音などの客観的証拠が大抵必要になることが指摘されている。実際に身体の危険が迫っていると判断できる状態であれば、これらの証拠を揃えることは難しくは無いであろう。配偶者暴力相談支援センターなどへの電話相談などでアドバイスされてから、被害者が証拠を揃えるのは難しくないであろうし、そうであるからこそ高い許容率が実現されていることが想像される。
「保護命令自体が、加害者を刺激する割に使い出がない」と言うのも、何を根拠にしているのか分からない。DV加害者が逆上する可能性はあるが、既に別居している場合やDVシェルターに避難している場合は、一定の効果が見込めるであろう。だからこそ、年間数千件の保護命令の申請が行われているのでは無いであろうか。保護命令は、被害者(や同居の子、親族等)への接近や連絡禁止などが含まれ、命令に違反した場合は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられる。配偶者からの暴力事案等の検挙件数を見てみると、年間80件から120件の保護命令違反の検挙件数があるので、違反が野放しになっているわけでもない。
保護命令はDV解決の万能制度ではない。加害者の性質や加害者と被害者の関係、被害者の経済的状況やサポートしてくれる親類の有無などで保護命令を申請すべきかは変わってくる。しかし、一概に役に立たないように主張するのはいかがなものであろうか。身体的暴力を受けており、さらに離婚を考えている場合は選択肢として当然、考慮に入れるべきであろう。弁護士が監修している「配偶者からDVを受けている場合に身の安全を確保する方法」も、保護命令の利用についてしっかり言及してある。
*1保護命令が出ないケースについてのリプライを公式RTはしていた。
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