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比較的シンプルな人事制度(年功制賃金制度)を考えてみた
平井謙一『これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視』―「7割は課長になれない」ことを示す残酷な1枚の絵
グロービス・マネジメント・インスティテュート『ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術』―若者が猫も杓子もコンサルタントを目指していた時代のキャリア開発論

プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2018年06月15日

比較的シンプルな人事制度(年功制賃金制度)を考えてみた


給与明細と電卓

 成果主義が浸透するにしたがって、給与も従来の職能給中心から業績給中心へとシフトしているようである。だが、「個人の業績」を特定するのは容易ではない。短期的には業績につながらないが、中長期的には業績アップが見込まれるというポテンシャルをどう評価するのか?個人の業績にはつながっていないが、同僚や他部門に対して大きな貢献をした社員をどのように評価するのか?マネジャーの業績とはそのマネジャーが率いる部門の業績だが、どこまでがマネジャーの貢献分で、どこからが部下の頑張りによるかをどうやって線引きするのか?イノベーションを推進するために失敗に寛容な組織文化を醸成するとすれば、イノベーションに失敗した人にも業績給を支給するべきだが、その場合の業績とは何か?など、様々な問題がある。

 私は何度かこれらの問題に取り組んだものの、満足な答えが得られたことがない。業績を厳密に定義しようとすればするほど、賃金制度は複雑になり、社員の理解が得られなくなる。そこで、仮にも人事コンサルタントである自分がこんなことを言うと波紋を呼びそうだが、業績給による賃金制度を作ることは諦めることにした。ブログ別館の記事「経団連事業サービス人事賃金センター『本気の「脱年功」人事賃金制度―職務給・役割給・職能給の再構築』―人事制度は論理的に設計すればするほど社員の納得感が下がる」でも書いたように、人事制度で重要なのは「論理性」ではなく「解りやすさ」であると思う。

 《参考記事(いずれも旧ブログ)》
 『人事と出世の方程式』―功ある者には禄を、徳ある者には地位を
 『バリュー・プロフィット・チェーン』―「顧客生涯価値」と「社員生涯価値」のまとめ(1)(2)
 「人材の柔軟な配置変更」の実現に向けてクリアすべき課題―『イノベーションの新時代』
 マネジャー(管理職)の評価方法に関する素案
 「イノベーションに失敗した人」の評価方法に関する素案

 最も解りやすい賃金制度は、やはり日本企業の伝統である「年功制」である。年齢という誰にとっても明白な基準で給与が決定されるからだ。さらに、その給与は社員の生活を十分に保障するものでなければならない。以前の記事「【戦略的思考】企業の目的、戦略立案プロセス、遵守すべきルールについての一考察」でも書いたように、企業は自社に対して、経営資源の1つである人材を供給する家庭に「下問」し、家庭の目標である「生計の維持」を達成できるよう支援することを経営上のルールとする必要がある。そして、一般的に、生計費(生活費)は社員の加齢とともに増加するから、年功制に基づく賃金制度では、給与は年齢とともに上昇し続ける。

 近年、高齢社員の人件費を抑えるために、賃金カーブが途中から右下がりになる給与体系を導入している企業が増えている。しかし、長くその企業に勤めると途中から給与が下がることが解っている企業で、ずっと働こうと思う社員が果たしてどれくらいいるのか疑問である。さらに、給与が下がった高齢社員のモチベーションも心配である。彼らのモチベーションが下がれば、周囲の社員の士気にも影響する。モチベーションは伝染するものであるからだ。私は、自ら社内にがん細胞を植えつけて、それを増殖させるような施策を取る企業の心理が理解できない。

 出光興産の創業者である出光佐三は、「年功制」、「生活給」の支持者であった。
 出光には労働切り売りの思想はないんです。しかし従業員の生活は保障し、安定させなければならない。どうやっているかというと、結婚すればまず家を与え、妻手当を支給するし、子供ができれば子供手当を与える。だから、同じ大学を出た者でも、結婚すれば実質的に給料が6割ぐらいふえることになっております。これはどういうことかと言えば、独身時代でもそんなにゆとりのある生活はさせておらない、そこで結婚すれば女房の食い扶持もいるし、社交的交際もふえるので、いままでの給料であればみじめな生活をしなければならない。これは親として見るに耐えないということなんですよ。
 お前は年をとったから駄目だ、若い者のほうがよいというような、肉体的働きばかり見ていてはいけない。そういう目に見える労働だけではなくて、それ以外に人間の尊厳と苦難の経験から出た判断力というものがある。これは年とった人にあるんです。そういう年とった人を敬うところから和の力も出てくるし、年とった人を大切にすればお互いが仲よくなる。年寄りを馬鹿にすることは対立闘争になりますよ。(中略)私は人間のあり方を尊重することから年功序列をとっているということです。
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出光佐三

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 ここからは、私が考える「非常にシンプルな賃金制度」の試案を示してみたいと思う。なお、本来であれば、賃金制度はその企業の戦略とリンクさせるべきものであるところを、今回は賃金制度のみを切り出して取り上げているので、若干数字遊びのようになっている点はご容赦いただきたい。こういう柔らかいアイデアを公開すると、「お前は本当に人事分野のコンサルタントなのか?」と言われそうだが、敢えてそのリスクを承知の上で書くこととする。

①基本給テーブル

 大学卒業後に入社し、65歳で定年を迎えるケースとした。基本給は年功制かつ生活給の性質を持つものであるから、その決め方は極めて単純である。つまり、「年齢×10,000円」とすればよい(上図のオレンジ網掛けの部分)。究極までシンプルにすれば、賃金制度はこれが全てである。だが、さすがにこれでOKとする企業はほとんどないから、社員の能力によって若干の差をつけることとする。出光佐三も前掲の著書の中で、多少は能率給を考慮すると述べている。

 社員の能力評価も、賃金制度と同様に簡素化する。以前の記事「グロービス・マネジメント・インスティテュート『ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術』―若者が猫も杓子もコンサルタントを目指していた時代のキャリア開発論」で示した、①構想力、②問題解決力、③組織を動かす力、④コミュニケーション力という、どの企業でも共通して求められる4つの能力に、「業界特有の知識」を加えた5つの能力・知識について、定期的に5段階で総合評価を行う。その結果、例えば30歳の場合、評価が「3」の時の給与=30歳×10,000円=300,000円を基準とし、評価が1上がるごとに2,500円給与が上がり、評価が1下がるごとに2,500円給与が下がるようにしてある。評価結果による給与の増減幅は他の年齢でも同じである。

企業に共通して求められる4つの能力

 多くの日本企業には依然として職能資格制度が残っているので、能力・知識の評価結果を職能資格制度と連動させる。下表では職能をLevel1からLevel9まで設けている。Level1・2が一般社員に、Level3・4が係長に、Level5・6が課長に、Level7・8が部長に、Level9が取締役に対応する。ある職能から上位の職能に昇進するためには、その職能に昇格して以降、直近5年間の能力・知識評価結果の合計が15点以上である必要がある。よって、上位の職能には最速3年で昇格できる(「最短昇格年齢」の列を参照)。一方、毎年の評価が「3」の場合、昇格に5年かかる計算になる(「標準昇格年齢」の列を参照)。各職能の職能給も、下表のように設定する。

②職能と昇格・職能給・役職手当・降格・再昇格条件

 実は、毎年の能力・知識の評価結果や職能給では、ほとんど給与に差が出ない。これでは最近の社員はモチベーションが上がらないという企業のために、「役職手当で差をつける」という方法をとった。上表の役職手当は、「早い年齢で昇進した方が金額が大きくなる」かつ「毎年、年齢に応じて少しずつ手当が増える」ように設計されている。例えば、係長の役職手当は、「10,000円×√(39歳(※Level4に昇格する標準年齢+1歳)-係長になった時の年齢①)+(年齢-係長になった時の年齢②)×2,500円」で計算される(「係長になった時の年齢①」は、後に述べる降格によって39歳以上で係長になった場合には38歳と見なす。「係長になった時の年齢②」は、文字通り係長になった時の実年齢である)。この計算式だけやや複雑なのだが、ポイントは「早い年齢で昇進した方が金額が大きくなる」かつ「毎年、年齢に応じて少しずつ手当が増える」ことである。これを実現できる方法で、もっと簡単なやり方があれば是非ご教示いただきたい。

 各職能を最速の3年で昇格していく人と、標準の5年で昇格していく人を比較したのが下の表とグラフである。課長を例にとると、最速のケースでは35歳で課長になる。この場合の役職手当は、「30,000円×√(49歳-35歳)+(39歳-39歳)×2,500円=112,249円」である。これに基本給355,000円(最速昇格の場合、評価は「5」なので、基準となる「3」の時の基本給350,000円より5,000円高い)と、職能Level5の職能給20,000円が加わり、合計は487,249円となる。一方、標準のケースでは43歳で課長になる。この場合の役職手当は、「30,000円×√(49歳-43歳)+(43歳-43歳)×2,500円=73,484円」である。これに基本給430,000円(標準昇格の場合、評価は「3」である)と、職能Level5の職能給20,000円が加わり、合計は523,484円となる。

③最速昇格・昇進と標準昇格・昇進

⑥賃金カーブ

 係長には最速で29歳、標準で33歳、課長には最速で35歳、標準で43歳、部長には最速で41歳、標準で53歳の時に昇進する。これを踏まえて、最速で昇進する場合と標準で昇進する場合の賃金カーブをグラフ化したものが上図である。最速で昇進する場合には、標準で昇進する場合とほぼ同額の給与を若いうちに獲得することが可能である。

 リクルート・マネジメント・ソリューションズの「RMS Research'09昇進・昇格実態調査」によると、降格運用を行っているという企業は、ほぼ3社に1社(部長30.4%、課長33.5%)となっている。これは2009年の調査結果とやや古いため、現在ではその割合がもっと上がっていると思われる。そこで、私の試案でも降格人事を考慮することにした。係長以上では、「昇進して以降、直近2年の評価ポイント合計が3以下」の場合、下の役職に降格する。ただし、敗者復活の道も用意されており、「降格して以降、直近2年の評価ポイント合計が8以上」であれば、元の役職に復帰できる。これを具体的に示したのが下の表とグラフである。

④降格を経験するケース

⑦賃金カーブ(降格がある場合)

 上段の表は、標準のペースで昇格・昇進し、53歳で部長になった人が、53歳、54歳と2年連続で評価「1」を取ってしまい、55歳で課長に降格したケースである。ただし、55歳、56歳と2年連続で評価「5」を獲得したことで、57歳で部長に再昇進する。57歳以降は再び標準的な評価「3」に戻る。53歳、54歳と2年連続で評価「1」を取ったことで、54歳、55歳の基本給は、標準的な評価「3」の場合よりも5,000円低くなる。一方、55歳、56歳と2年連続で評価「5」を取ったことで、56歳、57歳の基本給は、標準的な評価「3」の場合よりも5,000円高くなる。57歳以降は再び標準的な評価「3」に戻ることで、58歳以降の基本給は標準的な金額となる。

 課長に降格した55歳の役職手当は、本来は「30,000円×√(49歳(※Level6に昇格する標準年齢+1歳)-課長になった時の年齢①)+(年齢-課長になった時の年齢②)×2,500円」だが、「課長になった時の年齢①」については、降格によって49歳以上で課長になった場合には48歳と見なすので、「30,000×√(49-48)+(55歳-55歳)×2,500円=30,000円」となる。ここで、職能と役職は分離している点に注意を要する。53歳で部長になった時の職能はLevel7だが、55歳で課長に降格しても職能はLevel7のままである。よって、Level7にいた53歳から57歳までの5年間の評価の合計は、1+1+5+5+3=15となり、58歳でLevel8に昇格することができる。

 下段の表では、標準のペースで昇格・昇進し、33歳で係長になった人が、33歳、34歳と2年連続で評価「1」を取ってしまい、35歳で一般社員に降格している。ただし、35歳、36歳と2年連続で評価「5」を獲得したことで、37歳で係長に再昇進する。その後、標準のペースで昇格・昇進し、43歳で課長になるが、43歳、44歳と2年連続で評価「1」を取ってしまい、45歳で係長に降格している。ただし、45歳、46歳と2年連続で評価「5」を獲得したことで、47歳で課長に再昇進する。その後、標準のペースで昇格・昇進し、53歳で部長になるが、53歳、54歳と2年連続で評価「1」を取ってしまい、55歳で課長に降格している。ただし、55歳、56歳と2年連続で評価「5」を獲得したことで、57歳で部長に再昇進する。幾度もの降格にもめげない社員を想定している。

 標準のペースで昇格・昇進した人(青色)、上段の表の人(赤色)、下段の表の人(緑色)の賃金カーブをグラフ化したのが上図である。降格により一時的に給与は下がるとはいえ、本人が頑張れば、降格回数に関わらず挽回が可能であることを示している(部長になってから降格した社員は、標準のペースで昇格・昇進した社員よりも給与が低いが、もし挽回可能な賃金制度にするならば、今回の試案では対象外とした役員報酬で調整すればよいと考える)。

 これもまた古い調査データになるが、厚生労働省「平成21年賃金事情等総合調査(退職金、年金及び定年制事情調査)」によると、慣行による運用を含め47.7%の企業が役職定年制を導入している。そこで、試案では、60歳で役職定年になるケースも想定してみた。言うまでもなく、役職定年によって役職手当がなくなる分だけ給与が下がる。しかし、社員の生活費を十分にカバーできるように基本給を設定することで、社員に生活の安心感を与えることができる。

⑤役職定年があるケース

⑧賃金カーブ(役職定年がある場合)

 最後に1つだけ厳しいことを書いておく。私は年功制の支持者であるが、終身雇用は支持していない。もちろん、終身雇用が実現できればそれに越したことはないものの、以前の記事「平井謙一『これからの人事評価と基準―「7割は課長になれない」ことを示す残酷な1枚の絵」で書いたように、終身雇用を実現しようとすると、企業は大変なスピードで業績を拡大しなければならない。高度成長期でもほとんど実現不可能な成長率を、現代の成熟社会においても期待するのは無謀である。冒頭で、家庭の生計維持の支援をマネジメント上のルールとすべきだと書いたが、終身雇用の保障までルールとするのは企業にとってあまりに酷である。

 私は、現行の解雇基準を緩和して、一定の社員を放出することを容認するべきだと考える。具体的には、職能の各レベルの標準昇格年齢に至ってもなお昇格の要件を満たさない社員を放出する。また、39歳になっても係長のポストがない社員、49歳になっても課長のポストがない社員、59歳になっても部長のポストがない社員も放出する。彼らには、その企業で十分に活躍する場がなかったということである。ただし、企業は単に彼らの首を切るだけでは不十分である。企業は、彼らに十分な機会を与えることができなかった代わりに、彼らが他の企業へ転職したり、起業したりするのをサポートする。例えば、転職活動の間の生活費を一定期間保障する、起業のための資金の一部を提供する、などの方法が考えられる。こうすることで、家庭の生計維持の支援というマネジメント上のルールを可能な限りギリギリまで遵守するよう努める。

 (※1)賞与の決め方については別の機会にトライしたいと思う。
 (※2)今回の記事で使用した表やグラフが含まれるExcelファイルをDropboxにアップしました。ご自由にお使いください。>>>20180615_chingin-nenkousei.xlsx

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2018年04月13日

平井謙一『これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視』―「7割は課長になれない」ことを示す残酷な1枚の絵


これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視
平井 謙一

生産性出版 1998-03

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 副題に「絶対評価・業績成果の重視」とある割には、本書の大半は「職能資格制度」の解説になっている。まず、職能等級基準書の例が示され、それをそれぞれの職種に展開した職能等級基準説明書の例が数多く掲載されている(営業、生産、サービス、企画、事務など)。

 人事考課は成績、情意、能力の3本柱で構成され、それぞれの評価基準が示されると同時に、等級が下位の場合は情意が、中位の場合は能力が重視され、上位になると成績の割合が高くなることが示されている。情意項目の例としては、規律性、積極性、協調性、責任性の4つが、能力項目の例としては、知識(・技能)力、判断力、企画力、折衝力、指導力の5つが一般的だとされているが、なぜこれらの項目で十分であると言えるのかは本書では触れられていなかった(必要な能力の導出をフレームワークを用いて試みた例として、以前の記事「グロービス・マネジメント・インスティテュート『ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術』―若者が猫も杓子もコンサルタントを目指していた時代のキャリア開発論」を参照)。

 業績成果を重視するためには目標管理(MBO)制度を導入しなければならないが、MBOが登場するのはようやくp201になってからである。しかも、本書では「従来の職能資格制度を修正して目標管理制度を導入する(同時に、職能給から年俸制へと移行する)」と書かれているのに、職能資格制度における人事考課と目標管理をどのように融合させるのかについては論じられておらず、両者が併存したままになっている。

 本書では、年功制について次のように述べられている箇所がある。
 年功序列制度は、チームワークの優劣が組織の業績を左右する企業であれば、現在でも有用である。(中略)ある企業では、現在でも、年功序列型の人事制度を固守し、成功している。この場合、賃金処遇ではほとんど差がつかないが、仕事の内容で光の当たる部分と、やや光の当たりにくい、地味な部分があるだけなのである。この職場の雰囲気は、足の引っ張り合いがなく、チームワークは良い。また、ノウハウを共有できる特徴がある。
 欧米企業も最近はチームワークの重要性を認識するようになっている。ということは、むやみやたらと業績主義や成果主義に走るのではなく、むしろ年功制の方が有効なのではないかとさえ思えてくる。ちなみに私は、業績給・成果給においては、どんな計算をしても企業の業績を個人の業績に還元することができず不平不満が残るため、不平等をもたらすかもしれないが最も簡便な人事制度として年功制を支持していることは本ブログでも何度か書いた。

 また、副題にある「絶対評価」をめぐっては、次のような記述がある。
 これからの人事評価の正しいあり方として、第1に、第1次評価、第2次評価は絶対評価を行なう。第2に、調整段階または最終段階で必要に応じ相対評価を行なう。調整段階、最終段階でも、賃金原資や定員枠に余裕のある限り、絶対評価を尊重する姿勢を堅持する。これを原則とするのが好ましい。
 ただ、残念ながら現在の多くの日本企業では、賃金原資はともかく、定員枠には余裕がない。よって、調整段階や最終段階では相対評価となるだろう。いや、以前の記事「元井弘『目標管理と人事考課―役割業績主義人事システムの運用』―言葉の定義にこだわる割には「役割業績給」とは何かが不明なまま」に従えば、相対評価ではなく「相対考課」が正しい。

○図1
企業の人員構成の変化

 現在の日本企業に定員枠がないことを、図1を使って説明したいと思う。図1はかなり荒っぽいモデルであることをあらかじめご了承いただきたい。図1は、社長が3人の部下を引き連れて創業するケースを想定している(便宜的に、社長を係長の枠に入れている)。上司:部下の割合は1:3とし、今後も原則としてはこの比率を保持する。この企業は労働集約型企業であるとして、社長の売上高は2,000万円、部下である一般社員の売上高は1人あたり1,000万円とする。すると、合計4人で売上高5,000万円となる。10年後には、3人の部下は昇進し、それぞれ3人ずつ新しい部下を持つ(便宜的に、社長を課長の枠に、社長の部下を係長の枠に入れている)。社長の売上高は3,000万円、社長の部下の売上高は1人あたり2,000万円、一般社員の売上高は1人あたり1,000万円とする。すると、合計13人で売上高1億5,000万円となる。

 さらに20年後には、社長の部下と一般社員がそれぞれ昇進し、新しい一般社員が27人入ってくる(便宜的に社長を部長の枠に、社長の部下を課長の枠に、社長の部下の部下を係長の枠に入れている)。社長の売上高は4,000万円、社長の部下の売上高は1人あたり3,000万円、社長の部下の部下の売上高は1人あたり2,000万円、一般社員の売上高は1人あたり1,000万円とする。すると、合計40人で売上高5億8,000万円となる。

 30年後には、社長の部下、社長の部下の部下、一般社員がそれぞれ昇進し、新しい一般社員が81人入ってくる。社長の部下は部長、社長の部下の部下は課長、一般社員は係長となる。社長の売上高は5,000万円、部長の売上高は1人あたり4,000万円、課長の売上高は1人あたり3,000万円、係長の売上高は1人あたり2,000万円、一般社員の売上高は1人あたり1,000万円とする。すると、合計121人で売上高17億9,000万円となる。

 ここまでは、入社した社員が皆昇進することができるので問題ない。問題はここからである。40年後に、9人の課長を部長に、27人の係長を部長に、81人の一般社員を係長に昇進させ、81×3=243人の一般社員を入社させたとしよう。1人あたり売上高は、社長が5,000万円、部長が4,000万円、課長が3,000万円、係長が2,000万円、一般社員が1,000万円であるから、合計360人で売上高52億7,000万円となる。30年後の売上高が17億9,000万円であることを踏まえると、10年で売上高を約3倍にしなければならない。売上高は、創業直後5,000万円⇒10年後:1億5,000万円⇒20年後:5億8,000万円⇒30年後:17億9,000万円と推移しており、だいたい10年間で3倍になっている。売上高を10年間で3倍にするためには、毎年約12%の成長が必要となる。創業後30年ほどは高成長が続くから、このぐらいの成長率でも問題ないだろう。しかしながら、創業後40年ともなれば、成長率が落ちてくるのが普通である。

 もはや全員を昇進させることはできない。だが、できるだけ多くの社員に昇進の機会を与えたい。そこで、今まで上司:部下=1:3となっていたのを、1:4にする。すると、40年後には部長4人、課長16人、係長64人、一般社員256人となる。合計341人で売上高は45億3,000万円である。これは、30年後の売上高17億9,000万円の約2.5倍である。50年後も同様である。16人の課長を部長に、64人の係長を部長に、256人の一般社員を係長に昇進させることはできない。代わりに、上司:部下=1:4となっていたのを、1:5にする。すると、50年後には部長5人、課長25人、係長125人、一般社員625人となる。合計781人で売上高は97億5,000万円である。

 以降同様に、60年後は上司:部下=1:6とし、部長6人、課長36人、係長216人、一般社員1,296人とする。合計1,555人で売上高は186億5,000万円である。70年後は上司:部下=1:7とし、部長7人、課長49人、係長343人、一般社員2,401人とする。合計2,801人で売上高は326億7,000万円である。80年後は上司:部下=1:8とし、部長8人、課長64人、係長512人、一般社員4,096人とする。合計4,681人で売上高は534億9,000万円である。90年後は上司:部下=1:9とし、部長9人、課長81人、係長729人、一般社員6,561人とする。合計7,381人で売上高は830億3,000万円である。100年後は上司:部下=1:10とし、部長10人、課長100人、係長1,000人、一般社員10,000人とする。合計11,111人で売上高は1,234億5,000万円である。

 この間、売上高の伸び率は、
 ・40年後:45億3,000万円⇒50年後:97億5,000万円(約2.2倍)
 ・50年後:97億5,000万円⇒60年後:186億5,000万円(約1.9倍)
 ・60年後:186億5,000万円⇒70年後:326億7,000万円(約1.8倍)
 ・70年後:326億7,000万円⇒80年後:534億9,000万円(約1.6倍)
 ・80年後:534億9,000万円⇒90年後:830億3,000万円(約1.6倍)
 ・90年後:830億3,000万円⇒100年後:1,234億5,000万円(約1.5倍)
と、徐々に伸び率が鈍化していく。それでも、仮に10年間で売上高を1.5倍にしようとすれば、毎年4%の成長が求められる。10年間で売上高2倍なら、毎年7~8%の成長が必要である。

 110年後以降であるが、一般的にスパン・オブ・コントロール(管理の範囲)は部下10人と言われているから、これ以上1人の上司に対する部下の数を増やすことは困難になると思われる。よって、組織は100年後と同じ人員構成を維持しようとすることになるだろう。

 注目してほしいのは、矢印で示した「昇進率」である。前述の通り、創業から30年後までは全員を昇進させることができた。ところが、40年後以降はポストが不足する。そして、図1をご覧の通り、上の階層に行くほど、そして創業からの年数が経過するほど、昇進率が下がる。

 日本企業の多くは戦後の高度経済成長期に設立されたと推測され、図1の40年後~50年後がちょうど20世紀末にあたる。この時期には、各企業は子会社を作って余剰人員を転籍させることができた。連結決算についてもそれほどうるさくなかったから、小さな子会社を乱立させていた時期である。ところが、2001年に連結決算が本格的に施行されると、その手が使えなくなる。図1の60年後~70年後がまさに2000年代~2010年代を表している。連結決算が適用されるので、下手に赤字子会社を作るわけにはいかない。子会社を作って新規事業に算入するならば、本業の規模に見合ったものにしなければならない。図1でお解りのように、この時期には日本企業はそれなりの規模になっていたため、新規事業の種探しも困難を極めるようになった。

 バブル期は図1で言うと40年後に該当する。この時期に入社した社員が10年後に係長に昇進する割合は49%にすぎない。10年後に係長に昇進しても、さらにその10年後に課長に昇進する割合は29%であるから、課長に昇進する割合は49%×29%=約14%である。『7割は課長にさえなれません』というのは決して誇張ではない(旧ブログの記事「日本型雇用制度は半世紀持ったんだから十分だろ-『7割は課長にさえなれません』(補足)」を参照)。

 私は前述の通り年功制を支持する一方で、終身雇用については支持していない。図1でも明らかな通り、全員にポストを用意することは不可能である。かといって、既存社員の雇用を守るために若者を排除するのは愚策である。若者が雇用不安に陥ると、社会全体が動揺することは、フランスやドイツを見れば明らかである。よって、企業は若者を積極的に採用する反面、一定の年齢に達した社員のうち、一定の割合を外部に転出させなければならない。転出した社員は自ら起業するか、転出した社員が興した企業に転職することになる。

 現在、バブル期に入社したミドル社員がポストをふさいでいることが多くの企業で問題になっているようだが、私は遅かれ早かれ、解雇の要件が緩和されると思う。代わりに、産業界は、円滑な起業・転職を推し進めるために、助成金を給付する基金を共同で構成したり、起業・転職希望者を対象とした能力開発を行う組織をサポートしたりする必要が出てくるだろう。

○図2<年齢5階級別人口(平成42年)>
年齢5階級別人口(平成42年)

 以前の記事「『未来をつくるU-40経営者(DHBR2016年11月号)』―U-40の起業家は歳が近くて悔しくなるので、Over50の起業について考えてみた」では図②のようなグラフを用いた(初出は旧ブログの記事「高齢社会のビジネス生態系に関する一考(1)―『「競争力再生」アメリカ経済の正念場(DHBR2012年6月号)』(2)(3)」)。平成42年とは12年後の2030年のことであるが、この頃には、20代を底辺とし、70代ぐらいを頂点とする従来型の組織と、40代後半~50代前半を底辺とし、80歳近くを頂点とする新しい組織が出現すると書いた。仮に21世紀に入ってから企業がミドル社員の転出・起業を既に促していたとすると、30年後の2030年には図2のような2つのタイプのピラミッド組織が併存しているに違いない。

○図3
人口ピラミッド

 さらに時間が進んで2040年になるとどうであろうか?40代後半~50代前半を底辺とし、80歳近くを頂点とする新しい組織も創業40年を迎え、全員が昇進できなくなる。ということは、この新しい組織においてもまた、一定の年齢に達した社員の一定割合が転出を促される。その転出は、40代後半で入社して10~15年後ぐらいから始まると仮定すると、今度は50代後半を底辺とし、80歳近くを頂点とする第3の組織も誕生すると予想れる(図3左側)。その結果、60~64歳の約7割、65~69歳の約4割、70~74歳の約2割、75~79歳の約1割が働き続けることになる。2065年になると、図3の右側のように変化する。60~64歳の約8割、65~69歳の約5割、70~74歳の約3割、75~79歳の約2割が働き続けると推測される。

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2018年04月04日

グロービス・マネジメント・インスティテュート『ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術』―若者が猫も杓子もコンサルタントを目指していた時代のキャリア開発論


ビジネスリーダーへの キャリアを考える技術・つくる技術ビジネスリーダーへの キャリアを考える技術・つくる技術
グロービス・マネジメント・インスティテュート

東洋経済新報社 2001-05-18

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 キャリア開発や組織文化の研究で知られるエドガー・シャインは、キャリア開発のステップを大きく3つに分けている。まずは自分の価値観を知ることである。シャインは個人の中核的な価値観のことを「キャリア・アンカー(※アンカー=碇)」と呼ぶ。次に、自分が所属する部門や企業、業界の変化をとらえ、外部環境からどのような役割を期待されているのか、あるいは今後期待されることになりそうかを認識する。そして最後に、自分の価値観を活かしながら周囲からの期待に応える自分とはどのような存在なのかを想像し、キャリアビジョンを描く、というものである。

 だが、日本のキャリア開発の本を読むと、往々にしてこの3つのステップがバラバラになっている。ブログ別館の記事「沼波正太郎『40歳からのキャリア戦略―図解 あなたの「不安」を展望に変える!』―「転職は危険」と言っておきながら転職を勧めている」で紹介した書籍もそうであった。本書も、まずは市場ニーズ(人材ニーズ)を分析し、次に現在のスキルや価値観を棚卸しするところまではよいのだが、キャリアビジョンを描く段階になると、それまで検討した内容が一切無視されて、「自分がやりたいこと」が優先されている。そして、自分が達成したい中長期的な目標(10~20年後)を明確に掲げ、そこから逆算してキャリア目標を段階的に設定している。

 この方法は、マーケティングの言葉を借りればプロダクトアウト的な発想であり、マーケットインの視点が欠けている。本書には次のような記述があり、営業がこれまでの「売り込み」から「CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)」重視へと変化しているとある。それなのに、キャリア開発の方は相変わらず自分優先の売り込み型でよいのだろうか?
 筆者自身が最近トライした例を挙げると、いわゆる営業で「売り込む」方法から「顧客が必要としている情報を顧客の目の前に置く」「サービス内容で満足してもらいリピートを狙う」という方法に変えたことがあった。(中略)この時の業績はと言えば、その1年間の売上は前年度に対して20%以上伸びている。
 それから、中長期的な目標からバックキャスティング的に短期の目標を導くというのも、一般的なキャリア開発の流れとは異なっている。これだけ環境変化が激しい時代であるから、中長期的な目標を明確に定めても、すぐに無意味になることが多い。それなのに、当初の明確な目標を持ち続けると、キャリアが硬直的になり、かえって健全なキャリア開発が阻害されるというのが現在の通説である。中長期のキャリアビジョンは大まかなレベルで持っていれば十分であり、後は環境変化に合わせて柔軟にビジョンの内容を変えていくのがよいとされている。

 本書が出版されたのは2001年である。2001年には私はまだ大学生であったが、当時はコンサルティングファームブームのようなものがあって、今で言う「意識高い系」の学生は皆コンサルティングファームへの就職を目指していた。学生を対象としたロジカルシンキングのセミナーも多かったし、そこで学んだ内容を活かして、論理的思考力を高めるための勉強会を開いたりもしていた。そういう時代背景もあってか、本書に登場する若手ビジネスパーソンはほぼ全員と言ってよいほど、コンサルティングファームへの転職を検討している。

 そして、コンサルティングファームで要求される能力を、①思考力、②コミュニケーション力、③企業という仕組みを理解していること、④フットワークの4つと定義し、転職希望者がこれらの能力をどの程度身につけているかを分析する事例が登場する(ただ、別の箇所では、①理解力・洞察力、②論理思考能力、③創造的思考力、④感受性、成熟さ、謙虚さ、⑤ロジカルコミュニケーション力という5つが挙げられており、内容に矛盾を感じた)。問題は、この4つの能力がコンサルティング業界の枠を超えて、あたかもどの業界にも通用するものであるかのように扱われていること、さらには経営者に求められる能力と共通のものであるかのように書かれていることである。言うまでもなく、業界によって求められる能力は違うし、仮に経営コンサルタントとして優れていたとしても企業経営が上手であるとは限らない(私は前職のベンチャー企業でそのことを嫌というほど体感した。詳しくは「【シリーズ】ベンチャー失敗の教訓」を参照)。

 ただ、本書が目指した能力の汎用化は1つのヒントになった。企業における仕事は、大きく分けるとタスク志向と人間関係志向の2種類になる。「タスク志向―人間関係志向」という軸を一方に取り、もう1つの軸として「マクロ視点―ミクロ視点」という軸を加えてマトリクスを作ると、①構想力、②問題解決力、③組織を動かす力、④コミュニケーション力という4つの力が導かれる。この4つに「業界特有の知識」を加えた5つの能力・知識は、どの業界でもほぼ共通であろう。

企業に共通して求められる4つの能力

等級別の能力レベル(例)

 そして、5つの能力・知識に関して、等級ごとに要求レベルを定義する。その等級と役職を結びつければ、職能資格制度ができ上がる。以前の記事「DHBR2018年2月号『課題設定の力』―「それは本当の課題なのか?」、「それは解決するに値する課題なのか?」、他」では、一般社員とマネジャーでは求められる能力の種類が違っており、一般社員として優れていてもマネジャーとして優れているかどうかは解らないから、マネジャーとしての潜在能力を一般社員のうちに測定してはどうかと複雑なことを考えていた。だが、上記のフレームワークを使えば、一般職もマネジャー職も同じ能力で評価され、両者の間の能力に一定の連続性が保たれる。また、一般の職能資格制度によく見られるような、企画力、実行力、折衝力、現状認識力、判断力などといった抽象的な能力に比べると、前述の5つの能力・知識は導出の根拠も明確である。

 人事考課においては、まず期初の目標設定の面談で、当期の業績目標と、5つの能力・知識と紐づいた行動目標を設定する。期末になると、業績目標と行動目標がどの程度達成できたかを上司が評価する。その際、5つの知識・能力に収まらないが特筆すべき能力や成果については、所見として記録に残しておく。1次評価、2次評価を経て、経営陣と人事部による最終評価では、それぞれの社員の業績と能力・知識の評価が確定し、等級も定まる。

 この等級は、後継者育成計画を作成する際の重要な基礎情報となる。例えば、ある部門の部長の後継者を育成しなければならないとしよう。その部門の部長は等級8以上だとする。すると、人事部は人事データベースから等級8以上の社員をすぐに引っ張り出すことができる。彼らが次期部長候補の人材プールを形成する。この点で、5つの能力・知識は「管理するための能力」と言える。その人材プールの中で、誰をその部門の部長にするかは、人事部と経営陣が議論して決める。5つの能力・知識レベルでは皆同じレベルであるから、最終的に適性を判断する材料となるのは、上司が評価のたびに蓄積してきた所見になろう。そういう意味では、初見に係れた能力は「議論のための能力」と呼ぶことができる。所見に書かれた情報と、その部長職をめぐる特有の事情を考慮して、最終的に誰を新しい部長にするかを決定する。

 ここで、キャリアコンサルティングについても触れなければならない。改正職業能力開発促進法により、企業は社員に対して、キャリアコンサルティングの場を与えることが義務づけられた。キャリアコンサルティングにおいては、まさに本書に書かれているような面談が展開されるわけだが、本書の内容に反して、そして、人事部が「管理するための能力」で社員を管理するのに反して、社員の能力を型にはめないことが大切だと思う。企業は画一的な管理を望むのに対し、社員個人は自分らしいキャリア、他人とは違う人生を望むものである。キャリアコンサルティングでは、社員の多様な能力を棚卸しすることがポイントとなる。現在はキャリアコンサルティングと人事評価は別の制度として運用されている企業がほとんどだが、もし将来的に両者を連携させるならば、キャリアコンサルティングで判明した多様な能力は人事評価シートの所見の欄にある「議論のための能力」の内容を膨らまし、後継者育成計画にも影響を与えるだろう。

 キャリアコンサルティングで社員から寄せられる要望は、大きく分けて3つだと思う。1つ目は、「自分のキャリアパスを知りたい」というものである。社員からこう聞かれたキャリアコンサルタントは、人事部と連携して後継者育成計画を参照し、当該社員をどのポストに向けてどんなプランで育成しようとしているのかを伝えるとよい。2つ目は、「自分はあの部門で(こういう役職に就いて)こういう仕事をしたい」と願い出るケースである。この場合は、キャリアコンサルタントから人事部に対して情報をフィードバックし、前述の人材プールに当該社員を加えることを検討する。その際は、「管理のための能力」と「議論のための能力」の両方を考慮する。

 3つ目は「自分の能力や知見を活かして全く新しい仕事をやりたい」というものである。こういう声が多くの社員から同時に聞かれる場合というのは、経営陣が認識していない市場ニーズや組織能力に社員の方が気づいているのかもしれない。したがって、社員の創発的な学習を通じた新しい戦略を構築するチャンスであると言える。キャリアコンサルティングを通じて情報が充実した人事データベースの「議論のための能力」をつぶさに分析すれば、思わぬ強みや機会の発見につながる可能性がある(以前の記事「DHBR2017年11月号『「出る杭」を伸ばす組織』―社員の能力・価値観を出発点とする戦略立案アプローチの必要性」、「DHBR2017年12月号『GE:変革を続ける経営』―戦略立案の内部環境アプローチ(試案)」を参照)。

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