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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2012年05月08日

【ドラッカー書評(再)】『創造する経営者』―事業を製品別ではなく、顧客別に分析する方法を提案したい(2)


創造する経営者 (ドラッカー名著集 6)創造する経営者 (ドラッカー名著集 6)
ピーター・F・ドラッカー 上田 惇生

ダイヤモンド社 2007-05-18

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 前回の続き。『創造する経営者』のレビューは今回で最後。結局、この本だけで記事が8本に(汗)。

 以下に、ユニバーサル・プロダクツ社の事例をベースに、チャネル別分析のラフな例を作ってみた(また手書きでスミマセン)。この例では、チャネルを3タイプに分けており、チャネルごとに異なる顧客価値を定義している。チャネルと顧客価値の整理を終えたら、各チャネルの潜在的な市場規模を推計し、自社のシェアを計算する。潜在的な市場規模は、その顧客価値を求めている人たちがどの程度の規模で存在するか?そして、顧客価値を構成する製品・サービス群に対して、その人たちがどのくらいのお金を使うか?を推測することで導かれる。最後に、それぞれのチャネルについて、各製品・サービスの売上と利益を計算し(利益の計算にあたっては、ABC会計の考え方を用いる)、製品・サービス別の利益率を算出する、という流れになる。なお、製品A~Gは発売時期が新しい順に並んでいる。

顧客別(チャネル別)の業績分析

 この分析から解るのは、あるチャネルでは「明日の主力製品」でも、別のチャネルでは明日が来そうにない製品であったり、あるチャネルにおける「昨日の主力製品」が、別のチャネルでは「今日の主力製品」になっていたりする、ということである。上図の例で言えば、大規模チャネルにおける製品Bは、製品Aに比べてあまり販促費をかけていない新製品にもかかわらず、売上高も利益率も高いことから「明日の主力製品」の候補になりうるのだが、中規模チャネルでは製品Bが足を引っ張る存在になっているかもしれない。逆に、大規模チャネルではそれほど業績が芳しくない一昔前の製品群である製品CとDが、中規模チャネルでは「今日の主力製品」として利益の稼ぎ頭になっていることも考えられる。

 また、製品FとGは、大規模チャネルでも中規模チャネルでも売れ行きが思わしくなく、回転率の低さがコスト高を招いて赤字につながっている「昨日の主力製品」なのに、小規模チャネルにおいては「今日の主力製品」として、異常に高い利益率をたたき出していることもあり得る。残った製品Eは、どのチャネルでも利益が出ていないことから、製品Eこそ「昨日の主力製品」として再整理の筆頭候補にするべきかもしれない。

 以上の示唆とチャネル別の市場規模・自社のシェアを踏まえると、例えば、

 ・中規模チャネルは大規模チャネルに匹敵する市場規模があるから、もっと中規模チャネルに注力する。今の中規模チャネルに欠けている「明日の主力製品」を生み出すことで、中規模チャネルにおけるシェアを大規模チャネル並みに引き上げることを目指す。
 ・小規模チャネルは市場規模こそ小さいものの、特定の製品が受け入れられる傾向が強いため、製品の取捨選択を行い、ニッチ市場におけるリーダーの地位を狙う。そして、安定的に利益を稼ぎ出せる基盤とする。

などといった戦略的な方向性が見えてくる。こうした分析結果は、全社単位で製品・サービスの業績分析を行った場合には見えてこないものである(もっとも、この例はかなり都合のいいように私が作ったケースなので、ストーリーとしてはできすぎているわけだが・・・)。

 ここでもう1つ注目しなければならないのは、前回の記事で書いた通り、顧客は複数の異なる製品・サービスをセットにして”ソリューション”として購入する、という点である。したがって、顧客はどのような製品・サービスの組合せを購入しているのかも分析する必要がある。製品単独で見ると利益率は低いものの、別の高利益製品とセットで購入されることが多い製品は、利益の”呼び水”として重視すべきであろう(小売業におけるいわゆる「ロスリーダー」のことであるが、メーカーでも通用する考え方だと思う)。

 上図の例で言うと、大規模チャネルにおける製品Aは利益率が低いが、この製品があることによって利益率の高い製品Cが売れているのであれば、製品Aの利益を多少犠牲にしてでも、製品Aに注力すべき理由がある(家電メーカーがあれだけ液晶テレビで大赤字を出しているにもかかわらず、液晶テレビからなかなか手をを引けないのは、家電量販店に自社ブランドの液晶テレビがないと、消費者が来店して別の自社ブランド製品を買ってくれないと考えているのも一因かもしれない。果たして本当に、液晶テレビがないと消費者はそういう購買行動をしないのかどうかは別として・・・)。

 さらにもう1つ考えなければならないのは、チャネルが競合他社の製品を扱っている場合、自社の製品とセットで他社の製品も購入されている可能性である。チャネルから競合他社の製品を含む売上データを入手することは困難であるけれども、もしそれができるのであれば、分析してみる価値はあるだろう。利益率が高い自社製品とセットで他社製品がよく売れているならば、その製品の戦略的な重要度は考えものである。また、利益率が低い自社製品が他社製品と一緒に買われているならば、敵に塩を送っていることになるから、すぐに取扱量を減らすべきかもしれない。

 以上、全社単位で製品別に業績を分析する方法に代わって、「事業の目的は顧客の創造である」というドラッカーの格言に従い、その目的の達成度合いを測るために、顧客別に業績を分析する方法を簡単にまとめてみた。もっとも、この記事を書きながら本書をよく読んでみたら、ドラッカーは杓子定規に全ての「暫定的な診断」を製品単位で行うべきだと主張しているわけではないことが解った、というオチがあるのだが(苦笑)。
 大規模小売店舗の場合は、顧客の消費行動の分析から入るべきかもしれない。よく行われている商品別の分析では、あまり多くは明らかにされない。金融のスーパーマーケットである金融機関の場合も、金融サービス別の分析ではなく、顧客の分析から入るべきであろう。
 ドラッカーはこうした分析を例外的なケースとして扱っているようだけれども、現在ではむしろこうした分析の方が主流となるべきではないか?というのが私の考えである。

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2012年05月07日

【ドラッカー書評(再)】『創造する経営者』―事業を製品別ではなく、顧客別に分析する方法を提案したい(1)


創造する経営者 (ドラッカー名著集 6)創造する経営者 (ドラッカー名著集 6)
ピーター・F・ドラッカー 上田 惇生

ダイヤモンド社 2007-05-18

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 先日の記事「ドラッカーの「戦略」を紐解く(2)~「暫定的な診断」への個人的疑問―『創造する経営者』」で、業績の診断を製品別に行う方法にいくつかの疑問を提示したわけが、ドラッカーの「暫定的な診断」は、各製品が別の顧客をターゲットとしており、顧客は複数の異なる製品を購入することがめったにないことが前提である。なお、ドラッカーは例外として「大企業において事業単位がいくつかの完全なまとまりになっている場合は、それらの事業単位そのものから分析をスタートさせてよい」としているけれども(ただ、その理由は「事業全体の方が、個々の製品やサービスよりも現実に近い」から、と書かれているだけである)、事業単位の分析も同様に、各事業部のターゲット顧客層がバラバラであることが条件だ。しかし現在では、顧客は同一の企業から様々な製品・サービスを組合せて”ソリューション”として購入することが多いし、それらの製品群はたいてい複数の事業部にまたがっているものである。

 そもそも、「暫定的な診断」の目的については、次のように述べられている。
 事業の分析の基本は、現在の事業、すなわち過去の意思決定、行動、業績によってもたらされた今日の事業について調べることから始まる。(中略)具体的には、まず初めに、業績をもたらす領域を明確にし、理解しておかなければならない。業績をもたらす領域とは、個々の事業、すなわち扱う製品やサービスであり、顧客や最終需要者を含む市場であり、流通チャネルである。(※太字は筆者)
 ここで、ドラッカーの有名な定義である、「事業の目的は顧客の創造である」という言葉を思い出すと、「暫定的な診断」は、この目的が達成されているかどうかを確認するためのものでなければならないのではないだろうか?すなわち、

 ・わが社が事業を営んでいる市場は、どのような顧客層から構成されているか?(言い換えれば、市場はどのようにセグメンテーションできるか?)
 ・各セグメントのうち、”わが社の顧客”とすべきセグメントはどこか?
 ・それぞれのセグメントは、潜在的にどの程度の市場規模があるのか?
 ・それぞれのセグメントから、わが社はどのくらいの売上と利益を上げられているのか?(つまり、顧客を創造することができているか?)

を問う必要があるのではないか?と思うのである。ここから、事業の業績を製品別ではなく、顧客別に分析するという考え方が生まれる。この考え方に従って、本書でドラッカーが紹介しているユニバーサル・プロダクツ社(仮称)の分析事例を再検証してみたい。

 本書を読む限り、ユニバーサル・プロダクツ社は、一般消費者向けの主要な製品を10ほど持ち、全国の小売業者を通じて製品を販売しているメーカーであると推測される(もちろんこれは、ドラッカーが実在の企業を基にして、本書用に作成した架空のケースであるから、製品ラインナップなどはかなり簡素化されていると思われる)。BtoBビジネスであれば、顧客企業の情報を詳細に取得することが可能なので、顧客企業のセグメント別に売上と利益を算出することは比較的容易である。これに対し、BtoCビジネスの場合は通常、メーカーが最終消費者の情報を直接取得することができない。そこで、代替案として、販売チャネル(小売業者)のタイプ別に業績を分析するのが望ましいだろう。なぜなら、販売チャネルは、消費者の”購買代理人”としての機能を果たしているからだ。販売チャネル別の業績分析は、先ほどの引用文の最後にあった、「業績をもたらす領域とは・・・顧客や最終需要者を含む市場であり、流通チャネルである」という記述とも合致する。

 一般的に、販売チャネルのタイプ(規模、業態など)が異なれば、ターゲットとなる顧客層も、顧客に提供する価値も異なる(以前の記事「【第11回】販売チャネルを拡大する―ビジネスモデル変革のパターン」)。身近なを例を1つ挙げると、家電メーカー(特にパナソニック)は、大手の家電量販店と、昔ながらの地場企業という2タイプの販売チャネルを持っている。家電量販店は、比較的若くて価格に敏感な人々をターゲットとし、消費者は各社の最新のモデルやその一世代前のモデルなどをじっくりと見比べながら、自分のニーズに合った製品を、納得できる価格で購入しようとする。

 一方で、地場の販売店は、大手の家電量販店にはほとんど足を運ばないような、地域の高齢者層をターゲットとしている。高齢者層は最新モデルがどうだとか、新しい機能がどうだといったことはあまり気にしない。価格も安いに越したことはないけれども、それよりも家電が自分で難なく使えるようになるかどうかの方が重要である。そこでこうした地域の販売店は、家電の使い方を消費者にレクチャーするサービスに注力するようになる。このように、チャネルの種類が異なれば、ターゲット層と顧客価値も変わってくるのである。逆に、チャネルのタイプが違うのに、ターゲット層と顧客価値が重なっている場合は、チャネルの設計が間違っていると考えた方がよい。

 (続く)

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2012年05月02日

【ドラッカー書評(再)】記事一覧(随時追加予定)


 20代前半に背伸びして読んだドラッカーの数々の著書を、30代に入った今、改めて読み直してみようということで、2012年3月から始めた個人的な企画。基本的に、1ヶ月に1冊ずつ書評を書く予定。現在までにアップ済みの記事を一覧化しておく。

《2012年3月》
ドラッカー名著集1 経営者の条件ドラッカー名著集1 経営者の条件
P.F.ドラッカー

ダイヤモンド社 2006-11-10

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 『経営者の条件』―「マネジメント」を万人に開いた1冊
 『経営者の条件』―「強みに集中せよ」と言っても、エグゼクティブに求められる能力は広く深い(1)
 『経営者の条件』―「強みに集中せよ」と言っても、エグゼクティブに求められる能力は広く深い(2)
 『経営者の条件』―組織を、世界を変えていく能動的なエグゼクティブ像にはあまり触れられずとの印象

《2012年4月》
創造する経営者 (ドラッカー名著集 6)創造する経営者 (ドラッカー名著集 6)
ピーター・F・ドラッカー 上田 惇生

ダイヤモンド社 2007-05-18

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 『創造する経営者』―「戦略」以外にも「コア・コンピタンス」「ABC(活動基準原価)」などの先駆けとなった著作
 『創造する経営者』―ドラッカーの「戦略」を紐解く(1)~事業の「暫定的な診断」の概要
 『創造する経営者』―ドラッカーの「戦略」を紐解く(2)~「暫定的な診断」への個人的疑問
 『創造する経営者』―ドラッカーの「戦略」を紐解く(3)~一般的な戦略策定プロセスに沿って整理
 『創造する経営者』―ドラッカーの「戦略」を紐解く(4)~外部環境/内部環境アプローチの両方を包含する戦略論
 『創造する経営者』―ドラッカーの「戦略」を紐解く(5)~イノベーションの7つの機会の原点
 『創造する経営者』―事業を製品別ではなく、顧客別に分析する方法を提案したい(1)
 『創造する経営者』―事業を製品別ではなく、顧客別に分析する方法を提案したい(2)

《2013年1月》
ドラッカー名著集2 現代の経営[上]ドラッカー名著集2 現代の経営[上]
P.F.ドラッカー

ダイヤモンド社 2006-11-10

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 『現代の経営(上)』―戦略立案の客観的アプローチと主観的アプローチ(1)
 『現代の経営(上)』―戦略立案の客観的アプローチと主観的アプローチ(2)
 『現代の経営(上)』―実はフラット化していなかった日本企業

《2013年2月》
ドラッカー名著集3 現代の経営[下]ドラッカー名著集3 現代の経営[下]
P.F.ドラッカー

ダイヤモンド社 2006-11-10

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 『現代の経営(下)』―既存の人材マネジメントに対するドラッカーの不満が爆発している
 『現代の経営(下)』―「雇用の維持」は企業の社会的責任か?
 『現代の経営(下)』―フレデリック・テイラー「科学的管理法」に対するドラッカー評

《2013年4月》
「新訳」乱気流時代の経営 (ドラッカー選書)「新訳」乱気流時代の経営 (ドラッカー選書)
P・F. ドラッカー Peter F. Drucker 上田 惇生

ダイヤモンド社 1996-06

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 『乱気流時代の経営』―高齢社会に必要な新しい戦略的思考
 『乱気流時代の経営』―ドラッカーとポーターの「企業の社会的責任」をめぐる考え方の違い
 『乱気流時代の経営』―サステナビリティの観点から見た子育てと人事制度の関係
 『乱気流時代の経営』―(無謀な予測だが)2020年までに開花しそうな7つの技術(前半)
 『乱気流時代の経営』―(無謀な予測だが)2020年までに開花しそうな7つの技術(後半)
 『乱気流時代の経営』―経営思想は1世紀の間に近代政治思想の歴史を駆け抜けている




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