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DHBR2017年11月号『「出る杭」を伸ばす組織』―社員の能力・価値観を出発点とする戦略立案アプローチの必要性
「非正規雇用労働者のキャリアアップを考える~人事戦略としての正社員転換と人材育成」に参加してきた

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2017年11月14日

DHBR2017年11月号『「出る杭」を伸ばす組織』―社員の能力・価値観を出発点とする戦略立案アプローチの必要性


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 11 月号 [雑誌] (「出る杭」を伸ばす組織)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 11 月号 [雑誌] (「出る杭」を伸ばす組織)

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 事業戦略から人事戦略へと落とし込む一般的なアプローチは次の通りである。

 ①自社の外部環境を分析し、自社にとって魅力的な事業機会を抽出する。
 ②その事業における市場・顧客と競合他社を分析し、自社のポジショニングを決定する。
 ③中長期的な戦略目標(売上高、利益額、利益率、市場シェアなど)を設定する。
 ④③を達成するためのCSF(Critical Success Factor:重要成功要因)を特定する。
 ⑤CSFを織り込んだビジネスモデル、ビジネスプロセスを設計する。
 ⑥⑤のビジネスプロセスを実現するために必要な社員の数と能力を明らかにする。
 ⑦⑥の人材要件と現状の社員の実力とのギャップを分析し、ギャップを埋めるための施策(教育、配置転換、採用など)を立案する。

 ①~⑤については、以前の記事「【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見」をご参照いただきたい。⑥⑦がいわゆる人事戦略に相当するものである。①~⑦は、企業の外部環境を検討の出発点としているから、「外部環境アプローチ」と呼ぶことができる。ただし、このアプローチの問題点は、企業側の都合に社員を合わせているという点にある。企業と社員の方向性がぴったり重なっていれば問題ないのだが、多くの場合はそうではない。そして、両者のベクトルが異なる時、悲劇が起こる。本号では、特に、優秀で将来を有望視されたリーダーが凡庸な社員に成り下がってしまうケースが報告されている。
 企業が優秀な人材の獲得合戦を繰り広げている時代に、人によっては、有能さを認められることが呪縛になると認識するのは難しい。ところが、それは現実なのだ。リーダー志願者は、他者の期待に応えようと一生懸命に仕事に励む。すると、彼らをもともと際立たせていた資質―他者より優れ、仕事に熱心に取り組んでいると感じさせた能力―は埋もれる傾向にある。みんなと同じように振る舞うようになり、エネルギーと野心が削がれていく。職場で単に仕事をするふりを始めたり、(中略)逃げ出すきっかけを探し始めたりするかもしれない。
(ジェニファー・ペトリグリエリ、ジャンピエロ・ペトリグリエリ「『理想化』と『同一化』の葛藤を乗り越えられるか 逸材を襲う組織人の呪縛」)
 本号の特集テーマは「『出る杭』を伸ばす組織」である。言い換えれば、どうすれば社員の尖った能力を企業の戦略に活かすことができるか、ということである。冒頭の「外部環境アプローチ」に対して、社員を出発点とする戦略立案は「内部環境アプローチ」と呼ぶことができるだろう。

 私はしばしば本ブログで、下の階層の者が上の階層の者に対して、「もっとこうすればあなた(=上司)は高い成果を上げられるのではないか、企業全体がよくなるのではないか、顧客のためになるのではないか」と提案する「下剋上」(山本七平からの借用)の重要性を説いてきた。内部環境アプローチとは、言い換えれば、この下剋上が活性化された状態である。ただ、以前の記事「『一橋ビジネスレビュー』2017年AUT.65巻2号『健康・医療戦略のパラダイムシフト』―抜本的改革ではなく「できるところから」着手するBCGの病院改革に共感した、他」でも告白したように、私は外部環境アプローチに関してはいくつかのフレームワークを持っているものの、内部環境アプローチについてはこれといった方法論をまだ持ち合わせていない。人材育成が専門だと公言している者としては、誠に恥ずかしい限りである。

 そこで、大まかだが、内部環境アプローチの手順について考えてみた。

 ①社員の職歴、人生を振り返って、大切にしている価値観や習得した能力を棚卸しする。
 ②社員の価値観や能力を下地として、社員がやりたいと思っていることを構想する。
 ③社員のやりたいことを集約して、企業としての方向性を打ち出す。
 ④社員の価値観を総合して、社員が従うべき共有価値観を構築する。
 ⑤それぞれの社員の価値観や能力をどのように組み合わせれば③の方向性を実現できるのかを検討し、ビジネスプロセスを設計する。

 ①②はキャリアデザインのことである。①②は本来、社員の能力を知り尽くしているはずの人事部が行うのがふさわしい。だが、人事部は従来型の外部環境アプローチに慣れ親しんでいるため、いきなり①②を行うのは難しいかもしれない。また、社員としても、仕事の話が中心だった人事部との面談で、パーソナルな面を打ち明けるのはためらわれるかもしれない。そこで、キャリアコンサルタントという第三者の力を借りることとなる。2016年4月に「改正職業能力開発促進法」が施行され、企業は社員に対し、「キャリアコンサルティングの機会の確保その他の援助を行うこと」(第10条の3第1項)が義務化された。キャリアコンサルティングとは、「労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うこと」(第2条第5項)と定義されている。

 平たく言えば、企業が社員のキャリア形成を支援することが法的に要請されており、キャリアコンサルタントに大きな期待が寄せられているということである。一般的に、キャリアコンサルティングと言うと、社員が上司や人事部には直接言いづらい仕事上、あるいは私生活上の悩みを相談したり、職場で起きている問題点を指摘したりする場だと考えられている。もちろんこれはこれで重要な側面であり、キャリアコンサルタントは被面談者の話を受けて、個人情報保護の観点から個人が特定できないように情報を編集し、組織全体の課題と対応策をまとめて人事部や経営陣に報告する組織開発的な役割が求められている。加えて私は、戦略立案の内部環境アプローチという観点からは、自社の社員のキャリア性向を踏まえて、企業としてどういう方向に向かうとよいのかを積極的に提案する戦略コンサルタントのような役割が上乗せされると考える。

 キャリアコンサルティングを通じて社員個々の能力や価値観を活かすと言っても、個人がてんでバラバラに動くようでは組織としての体をなさない。そこで、④にある共有価値観を定める必要がある。これはその企業で働く社員として、最低限守らなければならないルール集のようなものである。どのくらいの数のルールを設ければよいのかは難しい問題であるが、社員に大幅な権限移譲をしているリッツカールトン(例えば、社員は上司の決裁を仰がずに、2,000ドルまでを顧客のために自由に使うことができる)では、300もの決まりが定められているそうだ(フランチェスカ・ジーノ「同調圧力が生産性を低下させる 『建設的な不調和』で企業も社員も活性化する」)。意外とルールの数は多いのだという印象を受けた。

 共有価値観に関しては、海外の軍隊の考え方が参考になる。軍隊は、戦闘現場で状況に応じて柔軟な対応が求められる。そこで、「絶対にやってはいけないこと」だけを定めて、それ以外のことは現場の自由にやらせるという考え方を取っている。これを「ネガティブリスト方式」と呼ぶ。逆に、日本の自衛隊の場合は、法律で「やってよいこと」を列挙しており、「ポジティブリスト方式」と呼ばれる(この方式は制約が多く、現場では葛藤が生じていると聞く)。共有価値観、すなわち、「我が社の社員は○○しなければならない」というルールは、裏返しに読めば、「我が社の社員は○○してはならない」というルールになる。そして、そのルールに抵触しない限りは自由に振る舞うことを社員に許可することが重要である。日本の場合、共有価値観に従っていさえすればよいと考えて、ルールの枠内に収まろうとする傾向がある。この傾向を打破しなければならない。

 ⑤は、「仕事に人を割り当てる」のではなく、「人に仕事を割り当てる」、「人に合わせて仕事をデザインする」という意味であり、従来の発想からの転換が要求される。ピーター・ドラッカーは常々、「仕事に人を割り当てる」ことの重要性を強調していたが、実は大昔にIBMが深刻な業績不振に陥った際、時の社長であったトーマス・ワトソン・Jrが、社内で手持無沙汰にしている社員のために仕事を創り出した(つまり、社員を解雇しなかった)という逸話を好んで使っていた。「人に仕事を割り当てる」ことは、やり方次第で十分に可能なのである。

 ①~⑤は大まかな段階を示したにすぎない。私の喫緊の課題は、①~⑤に資するフレームワークやツールを作成することである。さらに言えば、上記の「内部環境アプローチ」は、自分で書いておきながらこんなことを言うのもおかしな話だが、1つ重大な欠陥を抱えている。それは、既存の社員の能力や価値観にしか注目していないということである。非社員、つまり労働市場にいる潜在的な労働力(女性やシニアなど)、さらには、まだ労働市場に出てきていない潜在的な労働力(障害者など)に着目して戦略を練るにはどうすればよいか、という難題が待ち受けている。彼ら・彼女らの能力や価値観を事前に把握し、戦略に反映させることは可能なのだろうか?

 だが、これができなければ、本当の意味での「ダイバーシティ・マネジメント」は実現しないと思う。本号では、「ニューロ・ダイバースな人材」(自閉症、統合運動障害、失読症、ADHD、社会不安障害など)を活用した経営についての論文があった(ロバート・D・オースティン、ゲイリー・P・ピサノ「自閉症、ADHD・・・人材を活かす7つの施策 ニューロダイバーシティ:『脳の多様性』が競争力を生む」)。SAPやヒューレット・パッカード・エンタープライズなどは、ニューロ・ダイバースな人材の採用に積極的であるそうだ。よく知られているように、例えば自閉症の人は、コミュニケーションに多少難があるものの、アーティスティックな仕事で高いパフォーマンスを上げることができる。彼ら・彼女らの能力を活用できれば、企業の戦略に豊かな幅が生まれるに違いない。

 最後になるが、「外部環境アプローチ」と「内部環境アプローチ」は、戦略立案プロセスの両極である。実務面で本当に有益な戦略論を構築するならば、両者のアプローチを統合しなければならない。つまり、「中庸」を取らなければならない。これが私にとって最大の難問である。

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2016年02月13日

「非正規雇用労働者のキャリアアップを考える~人事戦略としての正社員転換と人材育成」に参加してきた


ウェイター

 みずほ情報総合研究所が主催する「非正規雇用労働者のキャリアアップを考える~人事戦略としての正社員転換と人材育成」(平成27年度厚生労働省委託事業シンポジウム)に参加してきた。以下、シンポジウム内容のメモ書き。

 (1)厚生労働省は2013年から「キャリアアップ助成金」という制度を実施している。今年で4年目になるが、2月10日からは助成額が拡充されるという。

 こういう助成金があると、お金ほしさに申請をしたがる企業をたまに見かけるが、正規雇用転換をしたり賃金テーブルを改定したりすれば、将来の人件費負担が大きくなり、その額は必ず助成額を上回る。助成金は、経費増を最初だけ軽減してくれるにすぎない。だから、正規雇用転換や賃金テーブル改定を何のために行うのか、事前によく検討する必要がある。すなわち、企業として今後どのような事業を行うのか?その事業を推進するにはどのような能力を持った社員を何名必要とするのか?彼らの能力・業務に見合う給与はいくらなのか?彼らにその給与を支払っても事業として十分な収益を上げられるか?といったことをはっきりさせなければならない。

コース条件助成額(カッコ内は中小企業以外の額)
1.正規雇用等転換コース 有期契約労働者等を
 ・正規雇用等に転換
 または
 ・直接雇用した場合。

 ①有期⇒正規:1人あたり60万円(45万円)
 ②有期⇒無期:1人あたり30万円(22.5万円)
 ③無期⇒正規:1人あたり30万円(22.5万円)
 ※派遣労働者を正規雇用で直接雇用する場合、1人あたり30万円加算。
 ※母子家庭の母等または父子家庭の父の場合、若年雇用促進法に基づく認定事業主が35歳未満の者を転換等した場合、いずれも1人あたり①10万円加算、②③5万円加算。

2.多様な正社員コース 有期契約労働者等を
 ・多様な正社員に転換または直接雇用等した場合。
 正規雇用労働者を
 ・短時間正社員に転換または短時間正社員を新たに雇い入れた場合。

 ①有期⇒多様な正社員(勤務地・職務限定、短時間正社員):1人あたり40万円(30万円)
 ②無期⇒多様な正社員:1人あたり10万円(7.5万円)
 ③多様な正社員⇒正規:1人あたり20万円(15万円)
 ④正規⇒短時間正社員、短時間正社員の新規雇入れ:1人あたり20万円(15万円)
 ※派遣労働者を多様な正社員で直接雇用する場合、1人あたり15万円加算。
 ※母子家庭の母等または父子家庭の父の場合、若年雇用促進法に基づく認定事業主が35歳未満の者を転換等した場合、いずれも1人あたり①~③5万円加算、④10万円加算。
 ※①②は、勤務地・職務限定正社員制度を新たに規定した場合、1事業所あたり10万円(7.5万円)加算。

3.人材育成コース 有期契約労働者等に
 ・一般職業訓練(Off-JT)
 ・有期実習型訓練 (「ジョブ・カード」を活用したOff-JT+OJT)
 ・中長期的キャリア形成訓練 (専門的・実践的な教育訓練、Off-JT)
 ・育児休業中訓練(Off-JT)
 を行った場合。

 ①Off-JT《1人あたり》
 賃金助成:1時間あたり800円(500円)
 経費助成:一般職業訓練、有期実習型訓練、育児休業中訓練の場合、最大30万円(20万円)(※育児休業中訓練は訓練経費助成のみ)
 中長期的キャリア形成訓練、有期実習型訓練後に正規雇用等に転換された場合、最大50万円(30万円)(※実費を限度)
 ②OJT《1人あたり》
 実施助成:1時間あたり800円(700円)

4.処遇改善コース 全てまたは一部の有期契約労働者等の基本給の賃金テーブルを改定し、2%以上増額させた場合。 ①全ての賃金テーブル改定:1人あたり3万円(2万円)
 ②雇用形態別、職種別等の賃金テーブル改定:1人あたり1.5万円(1万円)
 ※「職務評価」の手法の活用により実施した場合、1事業所あたり20万円(15万円)加算。

5.健康管理コース
 有期契約労働者等を対象とする「法定外の健康診断制度」を新たに規定し、4人以上実施した場合。

 1事業あたり40万円(30万円)
6.短時間労働者の週所定労働時間延長コース
 有期契約労働者等の週所定労働時間を25時間未満から30時間以上に延長した場合。

 1人あたり10万円(7.5万円)

 (2)シンポジウムでは、株式会社吉野家の藤城幹郎氏(SSC本部、人事部長)より、吉野家における取り組み事例の紹介があった。吉野家には創業当初から、アルバイトを正社員に登用する文化があるそうだ。ちなみに、現在の河村泰貴社長、安部修二前社長はともにアルバイト出身である。毎年、全店舗の店長をランキング化すると、上位10位はだいたいアルバイト店長が占めていた。アルバイト店長の方が正社員の店長より評価が高いのであれば、いっそアルバイト店長を正社員にすべきだということになり、2007年からアルバイトの正社員登用を制度化した。

 中には正社員になると責任が増すのではないかと思い、正社員となることを拒否するアルバイト店長もいた。だが、人事部は1人1人と面談して、今の仕事ぶりで十分であることを伝え、その上年収は1.5倍になると説得した。結果的に、家庭の事情で数名が辞退したのみであり、アルバイト店長の166名が正社員となった。現在は、一般のアルバイト(吉野家では「キャスト社員」と呼ぶ)も正社員になる道が開かれている。正社員の80%はアルバイト出身である。

 吉野家の正社員には、グローバル社員(転勤がある一般的な正社員)、エリア社員(地域限定社員)の2タイプがある。吉野家はエリア社員を重視している。エリア社員が店長を務める店舗には、店長の家族や親戚、友人が来店するため顧客が増加しやすい。また、「彼らから見られている」という意識が、店舗のQCS(品質、サービス、清潔さ)の向上につながる。このように、吉野家は地域密着型の経営を掲げつつあるが、反面、新たな課題も生じている。例えば、ある地域の店長が別の地域に異動となった場合、処遇をどうするのか?といった具合だ。

 吉野家がアルバイトの正社員登用を制度化するにあたり、まずは入念な職務分析を行ってアルバイトをいくつかのランクに分け(配布資料によると9ランクと思われる)、ランク別に求められるスキルを明文化した。店長はランク表を参考に、それぞれのアルバイトの教育計画を策定する。アルバイトはランクが上がると時給も上がる。また、店長にはアルバイトのランクアップ人数の目標が与えられており、アルバイトの成果が店長の評価と連動するようになっている。

 (3)2014年時点で、雇用者の数(役員を除く)は5,240万人、うち非正規社員は1,962万人(37.4%)である。非正規社員は給与も低い上、正社員になる道が非常に狭く、不安定な生活を強いられていると言われる。厚生労働省「望ましい働き方ビジョン」の中では、正規社員/非正規社員という区分が、企業内の「身分」のように存在していると表現されている。

 個人的には、非正規社員はある程度必要だと考える。学生が職業経験を積む機会として、また、結婚や出産を機に一度退職した女性が職場に復帰するためのステップとして非正規社員を選択することには意味がある。また、全ての人が必ずしも正社員として働くことを望んでいるわけでもない。非正規社員が悪だとして、全ての企業に正社員雇用を義務づけようものなら、企業は雇用に及び腰になり、おそらくヨーロッパのように若年者の失業率が跳ね上がるに違いない。

 問題は、非正規社員から正社員になる道が狭く、年齢が上がるにつれてその道が厳しくなっていることである。その背景には、日本的な年功序列の慣行がある。つまり、社員は年齢とともに徐々に能力を身につけていく企業固有のレールに乗っている。そのレールに、非正規社員が途中から入ったとしても、同年代の正社員との能力差が大きく、同程度の給与を支払うことができない。だから、非正規社員は敬遠されるし、同じ理由でブランクのある人も嫌がられる。

 だが私は、年功序列が最も納得感・公平感のある人事制度だとも考えている(以前の記事「坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社2』―給与・採用に関する2つの提言案(後半)」、「『戦略人事(DHBR2015年12月号)』―アメリカ流人材マネジメントを日本流に修正する試案」を参照)。だから、年功序列を前提として非正規社員の正社員登用を考えてみたい。そのためには、発想を転換する必要がある。つまり、能力は数年程度の差で大きく差がつくものではなく、本人が人一倍努力すれば数年分の遅れは取り戻せる、と考えることである。

 最近の企業はしばしば、「3年で一人前」を超えて、「3年でプロフェッショナル」になることを社員に要求する。しかし、3年でプロとなるのはどう考えても無理だ。仮に3年でプロになれるとすれば、それは非常に簡単な仕事であり、早晩新興国企業に取って代わられるだろう(以前の記事「新入社員が「即戦力」とか「3年でプロ」とか「自己実現」とか言ってはいけない」を参照)。先進国である日本企業は、やはり何年もかけてじっくりと能力を熟成させるような仕事をするべきだ。

 1年で向上する能力はわずかにすぎない。だからこそ、仮に非正規社員が中途で正社員として入社しても、挽回するチャンスがあると信じる。ただし、「入社後3年間で一定のレベルに達しなかったら雇用契約を解消する」などの条件をつけて、本人が周囲よりもハードな努力をするよう動機づける必要はある。このことは、既存の正社員との不公平感を緩和することにもつながる(この話に関連させて、年功序列の下での給与は、成果に対する報酬ではなく、年齢に応じた生活費としての性質を強めるべきだと私は考えるのだが、これに関してはまた別の機会に譲る)。

 (4)最後にもう1つ。最近は「同一労働同一賃金の原則」という言葉がよく使われるようになった(欧米では「同一”価値”労働同一賃金の原則」と表現するのが正確である)。ちょっと前までは、安倍総理は「『同一労働同一賃金の原則』は大切な原則であるが、日本の労働環境を踏まえると難しい」と答弁していた。ところが、今年の施政方針演説では、同一労働同一賃金の原則に踏み込んだ発言もあり、時代の変化をうかがわせたとパネリストは指摘していた。

 最近の例で言うと、昨年5月、日本郵便の契約社員が正社員と同じ仕事を担当しながら、年末年始勤務手当、住居手当などの手当てが支払われなかったのは、労働契約法第20条に反するとして提訴した事案がある。同条は、有期契約労働者(契約社員)と無期契約労働者(正社員)との間で不合理な労働条件を定めることを禁じている。

 ただ私は、この原則は画一的には適用できないと思う。仕事が限定的な非正規社員に対し、正社員は将来的にもっと難しい仕事へとシフトしたり、入社当初に予定されていなかった業務(必ずしも本人が希望しない業務)を担当したり、転勤・出向・海外駐在など労働条件が大幅に変更になったりするのが普通である。そのようなことがあっても、正社員は非正規社員よりも長く働いてくれることが期待できる。こうした企業側の期待に呼応する形で、正社員に対しては高い賃金を支払っていると解釈できる(もちろん、最近は非正規社員に対して、正社員と同様に何でもかんでもやらせるくせに、非正規社員のままにしている企業があるわけだが)。

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