日日平安part2

日常を思うままに語り、見たままに写真を撮ったりしています。

奴隷契約からもスターの輝き

 

<人が地面に立つとき、足の裏が収まるだけの面積があれば足りる>。でも、立っている場所以外の大地を掘り取れば、足もとが崩れる。“無用の用”と評したのは、古代中国の思想家・荘子である。役に立たないと思われているものが、実際は大きな役割を果たしている。

西鉄(現・西武)の大投手、稲尾和久さんは打席でも頼りになった。巨人との1958年秋の日本シリーズで、登板した第5戦にサヨナラ本塁打を放った。3連敗の西鉄が4連勝で制した球史に残る名勝負だ。

この一打は“球界の神話”とも賞賛。本業の投手としても、7試合中6試合に登板。うち4試合完投で、西鉄の4勝すべてを挙げる。

年42勝など偉業を重ねた稲尾さんも、「投げ過ぎと故障は投手の永遠の課題」と悟る。実働14年の最終年はわずか1勝であった。もし、「熱狂」を病気にたとえれば、「後悔」は薬に見立てられるらしい。(A・ビアス『悪魔の辞典』より)。

 

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足もとの地面が崩れ苦い薬が入り用にならないか。最速165キロの速球を放つ右腕と快音を響かせるバット。エンゼルスの大谷翔平選手(24)を、常識や定石では測れまいが、二刀流であるがゆえのケガが心配であった。

昨オフに日本ハムからポスティングシステムを利用し、米大リーグ挑戦を表明。米国内では、大型契約ができる年齢まで待たずに挑戦する23歳(当時)の決断に対する驚きの声が上がった。

一昨年、MLBのオーナー側と選手会側が取り交わした新労使協定に起因する。MLBドラフト対象外の25歳未満の海外選手の契約金と年俸を、厳しく制限するというものだ。それは、“奴隷契約”、“史上最大のバーゲンセール”などと揶揄された。

今季はメジャーで大活躍しても、昨年の推定年俸2億7000万円を大きく下回る。54万5000ドル(約5800万円)という最低保障額でしかない。ベーブ・ルース以来のスーパースター誕生でも気の毒なほど安いのである。

 

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25歳のとき、ダルビッシュ投手はレンジャーズと6年総額6000万ドル(当時のレートで約46億円)。田中将大投手も25歳でヤンキースと7年総額1億5500万ドル(同約161億円)の巨額契約を結んだ。大谷選手との金額差は一目瞭然。

それでも、メジャーデビューに夢を託した大谷選手はア・リーグの最優秀新人(新人王)に選出された。日本選手では野茂英雄投手(ドジャース・1995年)、佐々木主浩投手
(マリナーズ・2000年)、イチロー外野手(マリナーズ・2001年)以来となる17年ぶり4人目の快挙である。

同一シーズンでの<10試合登板、20本塁打、10盗塁>はメジャー史上初だという。右腕の故障で、年間を通して投手としての活躍は無理であったが、打者・大谷としての実績が地元の西海岸だけでなく米国全土のメディアにも認められた。

投手の足もとが崩れるかと思いきや、その打撃センスが十分すぎるほどにカバーをして、大きな役割を果たしたからだ。

 

 

今週のお題「紅葉」