東京水道長期構想への意見
- 2020/04/25
- 19:55
東京都水道局が東京水道の目指すべき将来の姿と、今後20年間の事業運営全般の基本方針となる「持続可能な東京水道の実現に向けて 東京水道長期戦略構想2020(素案)」を取りまとめ、この素案について都民の意見を公募しました。
東京の水連絡会事務局はこの素案に対する意見書を2020年3月14日に提出しています。
以下はその意見です。
東京水道長期構想(以下、長期構想と略す)は、その目的と対応をおおむね以下の
様に捉える。
長期構想策定の目的
・ 都の人口推計では、令和7(2025)年をピークに都の人口も減少に転じ、令和42(2060)年に
はピーク時から約16%減少する⇒収入減、経費不足
・ 今後一斉に更新時期を迎える大規模浄水場の整備や管路の維持管理、お客さまサービスの更な
る向上、それに水道事業を支える人材の輩出⇒事業の根幹に関わる課題解決のための対策
・ 単に5年ごとの視点ではなく、さらに先を見据えた長期の経営方針⇒目指すべき目標⇒事業を戦
略的に進める。
・「東京水道経営プラン2016」、「東京都水道事業運営戦略検討会議」、「『未来の東京ビジョ
ン」、内容を踏まえ、今後の状況変化を予測、分析しつつ、おおむね令和22(2040)見
据えた将来構想
東京水道を取り巻く状況の変化と、基本的考え方
(1) 人口減少と給水収益の減少
・ 令和7(2025)年にピークを迎えて1,417万人となりますが、令和22(2040)年に1360万人、
令和42(2060)年にはピークから
約16%減少し、1,192万人となる見込み。
(2) 水道需要の減少
・ 施設整備の将来計画を定める基礎となる水道需要は、人口減少に伴い減少する見込み
・ ⇒都が今後策定する長期戦略を踏まえて、水道需要を検討していく。
(3) 浄水場更新時期の集中
・ 浄水場は、今後、多くの施設が一斉に更新時期を迎える。
・ ⇒浄水場更新に合わせて施設規模をダウンサイジング
・ ⇒コンクリート構造物の耐久性分析及び予防保全型管理を踏まえて浄水場の更新期間を約90年に見直
・ ⇒更新期間を踏まえ、浄水場の更新及び代替浄水施設整備の計画を見直し、更新を平準化
・ 経営基盤の強化
・ サービスの向上と業務の効率化
・ 労働力人口の減少⇒政策連携団体を含む効率的な運営体制構築
・ 料金水準をできる限り維持し、長期的に持続可能な財政運営
東京水道長期構想に覚える違和感
1) 将来の年間一日最大給水量の最大値を探る
先ずは、長期構想の当該部分についての記述を要約します。
【水源確保の考え方】
・ 都の保有する安定水源量は、全ての水源開発が完了すると、日量約600万㎥。
・ 近年の降雨状況⇒ダム等から安定的に供給できる水量は、当初計画よりも低下(国)。気候変動
の進行⇒これまで以上に厳しい渇水で、更に供給できる水量は低下。
・ 水源は、水道需要を考慮しつつ、気候変動や災害等のリスクを踏まえ確保。投資により確保して
きた貴重な水源として最大限活用。
⇒今後、長期的な将来の需要は、様々な要因により大きく変動する可能性がある
⇒確保済み水源を貴重な水源として最大限活用
【施設整備の考え方】
・ 水道需要:一日最大配水量 約600万m³/日、一日平均配水量 約470万m³/日
・ 平常時の施設能力=約680万m³/日:計画一日最大配水量600万m³/日に、補修等による能力低下
量を加えた規模の施設能力
・ リスク発生時の施設能力:最大浄水場が停止した場合にも、計画一日平均配水量レベルを確保す
る規模の施設能力=686万m³/日
・ 浄水場更新に合わせて施設規模をダウンサイジング
l
問題点を記します。
1. 東京都水道局事業概要H28年度版では、東京都水道事業体の給水量換算の保有水源について、
安定水源536万m³/日、課題を抱 える水源82万m³/日、不安定水源12万m³/日、合計630万m
³/日としている。実際は、630万m³/日は日常的に使用可能な状態に ある。
2. 統合市町部で日常的に使用している地下水源等を保有水源として計上していない水源が40万m³/日
程度存在している。
① 東京都水道局の水道台帳では、地下水源が35万m³/日存在している。
実績は、2004年度約28万m³/日を最大値として徐々に減少し、2017年度は15.2万m³/日であ
った。
② 東京都水道局の水道台帳では、多摩川水系の八王子市内(高月)0.398m3/秒(日量3.4万m3〉と青
梅市・あきる野市内0.198m3/秒(日量1.7万m3〉、合計5.1万m³/日の水源が存在し、使用されている。
3. よって、東京都水道事業体の実質的保有水源量は上記1と2の合計で、670万m³/日程度であ
る。
4. 需要として一日最大600万m³/日としているが、次ページに引用するす東京水道施設整備マスタ
ープラン 改訂版(2015(H27) 年2月)15ページの「負荷率は使用水量の推計に用いた実績
期間における最小値(S50年以降は79.6%であるが、)として(470/600=)78.3%を採用」に
根拠をおいていると思われる。
5. 東京水道長期構想で水道需要を考察する場合の問題点
先ずは、下のグラフ「負荷率等の経年変化」が示す情報に注目されたい。
① 計画一日平均配水量の見直し
・ 約470万m³/日としているのは、H30年度実績431万m³/日の10%程度の上乗せであり、H30年度
の一日最大配水量470万m³/日に等しい。
・ 今後、人口減少と節水技術の向上が益々進行するのは明らかであるから、上のグラフ「負荷率等
の経年変化」からは、計画一日平均配水量は過去10年の最大値439m³/日(2009年度 平成21年
度 有収水量420m³/日 有収率95.6%))程度で良いのではないか。
② 設定すべき有収率、負荷率も再考が必要である。
・ 1975年度以前の負荷率78.3%が出現していた当時は、有収率が75%程度以下で、漏水率が20%程
度あったと想われる時代の記録である。東京都水道局はその後漏水防止に力を入れ、2000年度以
降の有収率は90%を超え、2007年度以降は95%を超えているのである。計画有収率は漏水防止
対策維持・推進の目標値であるから、少なくとも95%は維持されたい。
③ 負荷率の変動
・ 負荷率の変動は有収率の変動とかなり一致している。有収率が低い期間は漏水が多い期間である
から、配水量の幅が大きくなる。
すなわち、有収率が低い期間は負荷率が小さくなることはうなずける。わざわざ漏水が2割もあった時代の負荷率
78.3%を採用することに特段の理由はない。東京都水道局自身の漏水対策努力の成果、漏水が大
幅に改善されている状況に相応しい計画負荷率を設定するのが良い。
④ 下記グラフ「給水人口と給水量の経年変化」から知られる情報を箇条書きにします。
・ 給水人口は1985年度(昭和60年度)頃から増加傾向にあり、2018年度(平成30年度)までに約
200万人増加している。
・ 一日最大配水量は1983年度(昭和58年度)頃の645万m³/日をピークに減少が続き、2018年度(平成30年度)は470万m³/日で、175万m³/日(27%)も減少し、約73%になっている。
・ 一日平均排水量(浄水場から送り出した毎日の水道水量の1年間平均値)は1980年度(昭和55年度)頃の514万m³/日をピークに減少が続き、2018年度(平成30年度)は431万m³/日で、83万m³/日(16%)減少し、約84%になっている。減少割合は
一日最大配水量の減少割合より11ポイント低い=穏やかである。一日平均排水量が少なくなるほ
ど、毎日の振れ幅率が小さくなっていることが分かる。
・ 一日平均使用水量(有収水量=水道メーターによる測定量)は1992年度(平成4年度)頃の439万
m³/日をピークに減少が続き、2018年度(平成30年度)は414万m³/日で、25万m³/日(6%)減
少し、約94%になっている。 減少割合は一日平均配水量の減少割合より10ポイント低い=穏や
かである。一日平均排水量と一日平均使用水量の差のほとんどは漏水量である。
・ ちなみに、一日最大配水量の最大値645万m³/日を記録した1983年度の一日平均配水量は前記の通り
514万m³/日であるが、一日平均使用水量は391万m³/日でしかなかった。よって1983年度の有
収率は76.1%である。有収率76.1%は、およそ漏水率の20%程度に相当するから、1983年度は
浄水場から毎日送り出された水道水量(=一日平均排水量)の約2割が漏水していたことになる
・ 2018年度の一日平均使用水量は414万m³/日、一日平均配水量は431万m³/日。その差は17万
m³/日しかなく、有収率は96.1%なので漏水率は3%程度である。
⑤ 一日平均使用水量(有収水量=水道メーターによる測定量)の変動要因を検討する。
・ 一日平均使用水量合計値が最大値を示したのは1992年度(平成4年度)の439万m³/日、
一方、2018年度(平成30年度)は414万m³/日。25万㎥/日低下している。
・ 工場用水が最大値を示したのは1976年度(昭和51年度)の193万m³/日程度と思われ(筆者が
それ以前の数値記録を所有していない)、2015年度(平成27年度)は4.0万m³/日。その差は190
万m³/日程度
・ 都市活動用水が最大値を示したのは1976年度(平成3年度)の138万m³/日、2015年度(平成27
年度)は110万m³/日。その差は28万m³/日
・ 生活用水が最大値を示したのは2007年度(平成19年度)の305万m³/日、2015年度(平成27年
度)は295万m³/日。その差は10万m³/日
・ すなわち、給水人口が増加傾向にあるにもかかわらず2015年度には、
①工場用水は従前の最大値1976年度の193万m³/日から約190万m³/日減少して4万m³/日にま
で落ち込んでいること、
②都市活動用水は同じく1976年度の138万m³/日から28万m³/日減少して110万m³/日、
③生活用水は2007年度の305万m³/日から10万m³/日減少して295万m³/日になっている。
以上の問題点を整理して、まとめます。
① 日常的に使用している地下水源等の水道台帳水量41万m³/日を保有水源として扱うことで、保
有水源量は600万m³/日ではなく、670万m³/日と評価するのが正しい。
② 計画負荷率として実態と全くそぐわない78.3%を採用する理由はない。有収率が95%を超える
ようになった2007年度(平成19年度)以降の最低負荷率である2011年度の89.5%を、今後の
計画負荷率とするのが良い。
③ 給水人口は、この長期構想では、その14ページで「令和7(2025)年にピークを迎え、令和
42(2060)年の人口はピークから約16%減少する見込み給水人口は2026年度にピークに達す
る」としている。すなわち、あと5年でピークに達し、その後は減少することになる。
④ グラフ「給水人口と給水量の経年変化」を見ると、工場用水と都市活動用水は今後上昇す
る余地を見ることができない。給水人口があと5年でピークに達することを前提にすると、伸び
る可能性があるのは家庭用水だけである。家庭用水原単位の縮小率
が給水人口の伸び率よりも小さくなる恐れがあり、その場合は家庭用水原単位と給水人口を掛け
合わせた家庭用水の消費量=有収水量がほんの少しずつ上昇するからである。よって計画一日平
均有収水量は、若干の余裕を見て、過去10年の最大値、2010年度(平成22年度)の423万m³/日
を採用する。
⑤ 計画有収率は2007年度(平成19年度)から達成されている95%とする。
⑥ よって、計画一日配水量の最大値は2025年度の445万m³/日になる。現在の実績値430万m³/
日より15万m³/日の余裕を見込む。
⑦ 計画負荷率は89.5%としたので、計画一日最大配水量の最大値は2025年度の497万㎥/日、丸め
て500万m³/日になる。2018年度の実績470万m³/日より30万m³/日の余裕を見込むことにな
る。2026年度以降は給人口の減少が始まり、且つ原単位が上昇することは考えられないから、
一日平均有収水量、一日平均配水量、一日最大配水量は、減少し始める。
⑧ 保有水源量は670万m³/日、施設能力は680万m³/日。給水人口ピーク時とされる2025年度に
おける一日最大排水値は500万㎥であるから、保有水源量は170万m³/日、施設能力は180万m
³/日の余裕を持つことになる。
(写真は東村山浄水場)
大規模浄水場の更新~ 長期構想の当該部分~
【浄水場の更新】
・ 予防保全型管理により、施設を長寿命化、更新の平準化を図る。水道需要等を考慮して施設規模
のダウンサイジング。
【浄水場の更新期間】
・ 学識経験者による指導・助言を基にコンクリート構造物の耐久性を分析した結果、コンクリート
構造物の供用年数を100年以上とすることは妥当との評価を得ています。
・ 予防保全型管理による施設の長寿命化や更新の平準化、更新期間を約60年から約90年に変更。
・ 更新の際、水道需要等を考慮して施設規模のダウンサイジング。
【更新期間約60年】+次期更新30年 【更新期間約90年】
90年間の事業費:約2兆3,400億円 ⇒ 約1兆7,800億円
【浄水場更新及び代替浄水施設整備の計画見直し】
・ 浄水場更新の着手時期は、東村山浄水場は2030年代、金町浄水場は2050年代、小作浄水場は
2060年代以降
・ 上流部浄水場(仮称)は、東村山浄水場の代替浄水施設の一部として、浄水施設を整備〔着手時
期:2020年代〕
・ 境浄水場は、東村山浄水場の代替浄水施設を上流部浄水場(仮称)と分割することにより、整備
規模を縮小して浄水施設を整備〔着手時期:2020年代〕
・ 三郷浄水場は、代替浄水施設の着手時期を変更〔着手時期:2040年代〕
代替え浄水場を必要としている浄水場
・ 金町浄水場(日量150万立方メートル)⇒三郷浄水場(日量110万立方メートル)に50万m³/日
・ 東村山浄水場(日量126.5万立方メートル)⇒境浄水場内と上流浄水場(未)に合計50万m³/日
・ 小作浄水場更新の代替浄水施設を多摩川上流の地域に整備
問題点を記します。
代替浄水施設整備と多摩川上流浄水場は必要か?
① 2025年度の給水人口ピーク時=年間一日最大給水量記録年度 における年間一日最大給水量は
約500万m³/日、保有水源量は670万m³/日、施設能力は680万m³/日である。よって、保有水
源量は170万m³/日、施設能力は180万m³/日の余裕を持つことになる。
② 2026年度以降は給水人口が減少傾向に入るので保有水源、施設能力とも余裕が増加傾向にな
る。
③ 上記の条件下であるならば、施設能力が最大50万m³/日としている代替浄水施設整備なしで、
大型浄水場の施設更新による不足分を賄うことができる。
④ よって、水道台帳上の地下水源と多摩地区水源合計50万m³/日を含めた保有水源670万m³/
日、施設能力680万m³/日の保全をしっかり図ることが優先事項である。
⑤ 東村山浄水場と小作浄水場の更新では、多摩地区の井戸水源の整備を図ることで、更新による
不足分を賄うことが可能である。
よって、多摩川上流浄水場も不要である。
⑥ 金町浄水場の場合は、その給水区域と重なる給水区域を持つ朝霞浄水場、三郷浄水場、東村山
浄水場等からの応援で賄うことができる。
(東京都水道局HPより:給水車画像)
その他の課題への提言
1) 大規模災害対策
地下水源の保全と活用
・ 地下水は、①水質が良好、➁最も身近で手軽、③冬暖かく夏冷たい、という特性があり、再考の
水道水源である。
・ 多摩地区で使用してきた地下水源すべてを正規水源として位置付け、認可水源として届け出ると
共に、東京都の水道水源としてカウントすること。
・ 現在停止している井戸については、早急に改修して稼働できるようにすること。
・ 水質汚染で停止している井戸については発生源を東京都と共に把握し、その排除に努めること。
極力小規模で運用できるようにすること
・ イザッ、というときの浄水場運用は、停電になっていて電子計算機による運用は不可能と思われ
る。さらに、情報の交換も不可能に近い。その場に来ることができる職員も極めて少数であろ
う。
・ そのような場合を想定したした条件下では、すべてが手動になり、目と耳と体感と少ない情報で
運転業務に入ることになる。そのような状況下で的確な判断を下しながら運転に入るには、その
浄水場のすべて、配水網のすべてを熟知しているか、いつ何時でも確認できる力を備えていなけ
ればならない。
・ 現場を熟知し、技術を習得した職員が常に職場に配置されていなければならない。
・ 一人一人が担える範囲は限られているので、極力小規模の水道システムであることが望ましい。
2) 経営のあり方 公営企業の維持
・ 人員の確保。 水道事業は利益の対象とされてはならない。外部委託を極力排除し、公営を維持
して人員を補充し、非常時にも十分対応できる人材を確保しておく必要がある。
それが強い水道を目指す基本である。
・ 「給水人口減少対策=少子・高齢化対策 ⇒ 水道料金収入減少対策 ⇒ 過大な設備投資を避
ける」ことが財政安定化の本筋である。
・ 水道事業はユーザーあっての事業である。それには、ユーザーの意見をしっかりと反映できるシ
ステムが保障されていなければならない。
・ 現行のシステムはユーザーの意見をしっかりと反映できるシステムが確立されていない。都議会
の公営事業委員会は決してユーザーの意見をしっかりと反映させる機能を果たしていない。無駄
な八ッ場ダム事業にストップをかけることができなかった実態がそれを証明している。
・ 民営化ではなく公営を維持し、更に、ユーザーの意見をしっかりと反映できるシステムの構築が
急がれる。
~意見は以上です~
東京都水道局の長期構想(素案)は下記URLを参照してください。www.waterworks.metro.tokyo.jp/topic/20200131-01.html
2020・4・24記