森林の保水力について~水を守る 森林遍 第8話~
- 2024/02/25
- 18:13
4つの森に囲まれた野原に4人の農夫らがやってきて、森に尋ねます。
《「ここへ畑起してもいいかあ。」
「いいぞお。」森が一斉にこたえました。
みんなは又叫びました。
「ここに家建ててもいいかあ。」
「ようし。」森は一ぺんにこたえました。
みんなはまた声をそろえてたずねました。
「ここで火たいてもいいかあ。」
「いいぞお。」森は一ぺんにこたえました。
みんなはまた叫びました。
「すこし木(きい)貰ってもいいかあ。」
「ようし。」森は一斉にこたえました。》
~宮沢賢治の童話『狼森と笊森、盗森』(おいのもりとざるもり、ぬすともり)~
森林と微生物が育てる肥沃な土壌
(イラスト図はPacecontinua.comより借用)
森林の保水力について語る前に、まず土とはどのようにして生成するのか簡単に紹介します。
土(土壌)はもともと岩石です。岩石が風化したものと生物の遺体やその分解物(腐食)が混じりあって土が生まれます。
上の図を見ると樹木の根が伸びて岩石を砕き、土壌を形成するようにみえますが、土をつくる主役は樹木だけではありません。主役はミミズなどの土中生物や微生物です。
スプーン一杯(5グラム)の土壌には50億個の細菌(バクテリア)がいます。その5グラムの土壌には菌類(カビ)も同居、つなげると10キロにもなる菌糸を張り巡らしているそうです(注1)。
この微生物たちが落ち葉や動物の死骸を分解、せっせと土を造ります。ですから、生物のいない月には土がありません。アームストロング船長の足跡を残したのは砂と砂利でした。
森林に降った雨はどのように川に流れ出るのか
森林に降った雨のほぼ20%は樹冠(枝葉)に付着し、そこから蒸発します。そして付着の限度を超えた雨が地上に落ちます。地上に落ちた雨は落ち葉をくぐり、その下の土壌生物が分解したO層(腐植層)に浸透。さらにその下の腐植と土の混じったA層(暗褐色)、腐植の乏しいB層(茶色)、おもに岩石のC層へと鉛直に浸透していきます。
O層とA層はスポンジ状の団粒構造をしていて、水が浸み込む孔隙に富んでいます。言い方を変えれば高い浸透能(水が地下へ浸み込む速度)を持っています。
このため雨水は地表を流れることなく土壌に浸透して、地下水層に達します。また腐植の乏しいB層は粘土が多いため孔隙が狭く、浸透に時間がかかります。つまりB層ではじわじわと地下水層に向かうため、雨で一挙に川の水量が増えることを制御もしているのです。
こうして森林土壌に浸透した雨水の一部は樹木の根から吸い上げられて大気に蒸散し、残りは地下水層を流れ下って地表に湧き出しますが、降雨の35%ほどが湧き水(注2)になるとされています。そして湧き水は川になります。
森林の保水力とは、森林土壌が持つ雨水の浸透能であると言えるでしょう。
雨水をはじく荒廃した森林床
(図はサントリー&神奈川県における森林水文学研究NOTE から借用)
森林(特に針葉樹の人工林)は間伐をしないと樹木が密集、林床にまで光が届かなくなります。光量を得られないと下草などが育たないため、林床が裸地化、遠目には緑の森も内部は砂漠化します。
更に、雨粒が地肌を直接に叩くことにより土壌クラストと呼ばれる被膜を形成(注3)します。この皮膜(土壌クラスト)は水をはじくため、森林土壌は劇的に浸透能を失い、雨水が地表を流れ下ります。
森林の荒廃は河川の氾濫を誘発します。
前回紹介した<森林環境税>は、どんどん木を伐る森林の皆伐(禿山化)を推奨する<森林経営管理法>というトンデモ法案の補完税制です。
https://tokyo924mizu.blog.fc2.com/blog-entry-167.html
更に皆伐に補助金をつけるという一連の森林行政は日本の山河を壊滅させかねません。
皆伐は森林の保水力を奪うだけでなく土砂崩れなど森林崩壊、そして生態系の破壊を誘発します。
「すこし木(きい)貰ってもいいかあ。」
「ようし。」森は一斉にこたえました。
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注1)10キロにもなる菌糸を張り巡らしている:藤井一至著「土 地球最後の謎-100億人を養う土壌を求めて」光文社新書2018年刊。第1章29ページ。
注2)降った雨の35%ほどが湧き水:石城謙吉著「森林と人間-ある都市近郊林の物語」岩波新書2008年刊、117ページ。
注3)土壌クラストと呼ばれる被膜を形成:蔵地光一郎・保屋野初子編「緑のダム‐森林 河川 水環境 防災」築地書館2004年刊。第一章 森林の荒廃は洪水や河川環境にどう影響しているか 恩田裕一著 23ページ。
2024・2・20記 文責 山本喜浩