水を守る番外編 MMTへの疑問・質問
- 2022/12/05
- 22:48
もっとも多かったのは「自国通貨を発行する政府は、財政赤字で破綻することはないって言いますが、だったら財政赤字を永遠に続けられるってことですか?」という質問でした。
財政赤字は永遠に続けられるのか?
現在、日本の国債発行残高は1040兆円を超えています。債務は国内総生産(GDP)比260%超で世界最高水準にあります。因みに米国は同比132%、優等生のドイツは70%です。この借金は返済しなくて大丈夫なのでしょうか?
大丈夫か否かの前に、借金を返すとはどういうことか考えてみましょう。
政府の債務とは国債を発行して、そのお金で国民に年金を払ったり、公共の施設を建設したりした総額です。日本の1040兆円の債務とは国民にとっての資産なわけです。
資産ですから、1040兆円の債務を返済してゼロにするということは、わたしたちの資産を政府に返納することになります。預貯金をはたき不動産を売却するなど大変なことになります。要するにわたしたちが貧乏をすることにほかなりません。返済する必要などないのです。
さて、それではこの政府の借金は永遠に続けられるのでしょうか?
結論から言えば、続けられます。
ただし、という但し書きが必要です。戦争当時国にならないことです。戦争は国の需要供給バランスを著しく損ねて、国民経済を破綻させる(注1)恐れがあります。
そんな“但し”がなければ、国家に寿命はありません。国家が30年後に終わるのであれば30年後までに借金は返済しなければなりません。しかし国家は永続が前提です。赤字国債の償還期限が来たら借換債(注2)を発行して借金を継続できます。実際に、そうして日本は借金を積み重ねてきました。国が通貨を発行している限り財政赤字は続けられます。
(井上智洋。経済学者、駒澤大学准教授。ベーシックインカム論者としても名高い。写真は駒澤大HP)
この問題を経済学者の井上智洋氏は著書「MMT現代貨幣理論とは何か」(注3)の最終章に「永遠の借金は可能だろうか?」と章立てをして、丁寧に説明しています。とことん納得したい方は参照してください。
税金が財源でないなら、予算編成で財源を議論する意味は?
次に多かった疑問・質問は税金に関してでした。
「税金は財源ではないって言いますが、だったら、予算編成で財源を議論するのって無意味ってことですか?」という疑問です。
たしかに、MMTでは税金は財源ではない、税金は通貨の流通を促すためのものであると説明しています。だったら、そもそも税金を徴収する必要がないのでは、という疑問もわいてきます。
この疑問に対してMMTは、国民は納税義務があるからこそ通貨を求めるのであり、もしも日本円に納税義務がなかったら円は徐々に衰退、やがてドルにとって代わられてしまう。税金は通貨を支える基盤として絶対に必要であるとしています。
しかしながら、政府支出の財源ではない。ここのところややこしいですね。
(ステファニー・ケルトン。ニュヨーク州立大教授、1969年生まれ。MMT経済学の第一人者。写真はwikipedia)
ステファニー・ケルトン教授は著書「財政赤字の神話」で、これを次のように説明しています。
『まず議会が提案する新たな支出は、インフレリスクを抑えるために税金によって相殺する必要があるのか、ということからスタートする』・・『支出のうち税金によって相殺すべき割合は3分の1、2分の1、あるいは4分の3なのか。相殺する必要がまったくない可能性もある』・・『新たな支出は税金によって相殺する必要があるという前提から出発するのではなく、逆方向から正解をさぐることだ。それが国民を不要な増税やインフレから守ることにつながる』
このために、インフレリスクを分析する独立した専門機関が必要であるとしています。そのうえで、財源として税金を考えるのではなくて、インフレリスクを抑えるために税金が必要かどうか判断しましょうというのです。
みなさん、インフレリスクを抑えるために納税する気になりますか? この説明ではもやもやが残るのではないでしょうか。
経済学者の柴山桂太氏(注4)はMMT理論の妥当性を認めつつも、次のように問題を提起しています。
『近代以降、「国民の税金で政府は運営されている」という物語、つまり租税国家論によって、人々の納税意識は支えられています。これに対して、政府支出は税金ではないというMMTの説明では、人々は高い納税意識を持ち続けられないのではないか』・・『租税国家論に代わる新たな物語の不在が、MMTが政策論として定着する上での最大の障害になるのではないか』というのです。
要するに柴山氏は、MMTが広く認められるために“国家の支出は税金で成り立っている”という従来の神話を打ち破り、“税は財源ではない”という事実を魅力的な物語として創出する必要があるというのです。
(島倉 原。1974年愛知県生まれ、経済評論家。L・ランダル・レイ著「MMT現代貨幣理論入門」の監訳者。)
経済評論家でMMTを日本に紹介者した一人でもある島倉 原氏は著書「MMTとは何かー日本を救う反緊縮理論」(注5)の最終章でこの柴山氏の問題提起を取り上げて、新たな物語への道筋を以下のように示しています。簡略に紹介します。
そもそも通貨とは民間レベルでは達成困難な公益を実現するために国が発行するもの。国民は納税によってこの通貨の流通を支え、政府に公益の実現を迫る。このようなMMTのビジョンを、ひとりでも多くの国民が共有することで、「公益民主主義」という新たな物語の形成につながるのではないかと、いうのです。
つまり、「税が公益民主主義を支える」という物語です。はたして、この物語は新たな“神話”となれるのでしょうか。
ここで質問に戻ります。
「税金は財源ではない。だったら、予算編成で財源を議論するのって無意味ってこと?」という疑問でしたが、予算編成で議論は必要です。
その予算は国民の幸せ“公益”に役立つかどうかをまず議論して、その支出はインフレを呼ばないかをチェック。インフレの懸念がある場合には徴税の議論が必要になるということです。
日本の防衛費GDP2%案など、本当に公益でしょうか?
れいわ新選組はMMTですか? という質問も頂いています。
れいわ新選組は、消費税の廃止を訴える際に法人税の増税を財源にするなどで明らかなように、MMTではありません。山本代表も否定しています。
また、国債に関するご質問も多かったのですが、国債は利子付きの通貨です。政府が発行する国債は通貨と同じですから、パソコンのキイを叩くだけで制約なく発行できます。国債は通貨であり国債の発行は金利の調整に働きます。
このあたり、もやもやする方は井上智洋氏の「MMT・現代貨幣理論とは何か」をご一読ください。明快に応えてくれます。
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注1) 国民経済を破綻させる: 敗戦後の1945~49年にかけて生産力が低下、著しい物資の供給不足は卸売物価指数を70倍に高騰させる激しいインフレを引き起こし、日本経済は破綻状態に陥った。
注2) 借換債: 国債の償還資金を調達するために発行される債権。国会の議決を必要としない。
注3) 井上智洋氏は著書「MMT 現代貨幣理論とは何か」: (講談社選書メチエ)2019年刊。
注4) 柴山桂太氏: 1974年東京生まれ、経済学者。京大大学院准教授。著者に「静かなる大恐慌」(集英社新書)2015年刊など多数。
注5) 島倉 原氏は著書「MMTとは何かー日本を救う反緊縮理論」: (角川新書)2019年刊。数多くのMMT本のなかで最もMMTに忠実な解説書。
また早稲田大学での講義録を纏めた「MMT講義ノート・貨幣の起源、主権国家の原点とは」(三陽社)2022年刊はアップデイトなMMT論となっている。
2022・12・5記 文責 山本喜浩