船曳建夫『右であれ左であれ、わが祖国日本』を読んで日本の将来を考えるなど
新書だし、語り口もやわらかいのでふんふんとうなずきながら読み終わり、さて著者はどういう主張をしていたのかなと思い返そうとするとうまく説明できない。私の読解力が低いのか(たぶんそうだろう)実は著者がだいじなところを端折ってしまったのか(もしかするとそうかも)わからないけど、しょうがないのでメモをとりながら再読する。
目次
序 なぜ、いま「国家論」なのか
第1章 右であれ左であれ、あなたの日本
第2章 国際日本・大日本・小日本――室町から戦前までの日本の国家モデル
第3章 中国・ロシア・西洋という脅威――三つの主勢力による東アジアの地政学的環境
第4章 戦後日本の夢と現実――敗戦から第1次イラク戦争まで
第5章 右も左も傷ついた「戦後・後」の日本――冷戦終結・バブル崩壊・第1次イラク戦争
第6章 戦争をしない方法、勝つ方法――集団的自衛権、憲法第9条の問題
第7章 「中庸国家」という日本の針路――世界とどう向き合うか
あとがき
著者によると、
- ・中世以降の日本には「国際日本」「大日本」「小日本」という3つの国家モデルがあった。
- ・「国際日本」は信長の目指した日本。「天皇の否定も含みつつ、世界的な水準に準拠した、国際的な場に日本が出て行く初期的な志向」
- ・「大日本」は秀吉のモデル。「欧米と距離を取り、そして実際に欧米列強がアジアから遠いことを利用して日本を拡張し、アジアの盟主・リーダーとなる志向性」
- ・「小日本」は家康。「それは外国との交流をコントロールしたシステム…(中略)…そのエネルギーは、「対外進出」にではなく、田畑の開梱や生活上の工夫といった「内部開発」に向けられたのです」「その後半には人口は微増を保ち安定した日本が成立し、維持されました」(第2章)
- ・日本は中国・ロシア・西洋という3つの勢力に囲まれているという地政学的環境にある
- ・3つの国家モデルはそれにどう対応するか(あるいはしないか)という違いによる
- ・明治維新以降日本は「大日本」モデルを採用したが失敗した(第3章)
- ・戦後は「国際日本」でやっていこうとしたがいろんな事情でそうもいかなかった(第4章)
ということらしいんですが。
保守方面の方々がよく「憲法第9条と自衛隊の矛盾を解消しなければならない」と言うけれど、戦後の日本の政治のホントのねじれはそれよりも「独立国のような顔をしていて実は重要な決定はアメリカのお許しを得なければならない」ということなんじゃないかなーとよく思う。去年中国が防空識別圏を設定したというニュースが流れたとき、日本政府は当然反発したもののアメリカの出方を伺っていたような雰囲気があって、ずいぶん頼りない印象をもったものだった(私は日々のニュースを精査してるわけではないので、こういうのは全部ただの印象にすぎないんですけど)。また以前「年次改革要望書」ていうのが話題になったりもした。
年末に安倍首相が靖国神社に参拝して各国からいろいろ言われている件、自民党の人はどういう決着にもっていくつもりなのか知る由もないけれど、もし「アメリカさんがどうおっしゃろうが私たちはこれで行きます」という主張を貫くつもりならば、それはそれでアリなんじゃないかと実は思っている。ただもしそうなれば当然向こうは「そっちがそうならこっちにも考えがあるぞ」的な態度に出るわけで、その先どうする、どうなるという見通しなりプランがあるんだろうか(あんまりあるようには思えない)。
船曳先生の言うとおり、戦後日本はアメリカの養子の立場でいることでめんどくさい国際関係から免除されていたわけで、もしその立場を捨てて親離れするつもりならアメリカ以外の国々と個別の関係をむすんでいかなくてはならない。だとしたらわざわざ靖国なんていう厄介な件をいま荒立てる必要があったのか。集団的自衛権を認める方に持っていきたいのなら(中・韓はともかく)まずASEAN諸国に懇切丁寧に「いやぜったい心配いらないから」ということを説得して回らなきゃいけないので、そのときに靖国問題なんてジャマにしかならないはずなのだ。もし安倍さんの参拝の理由が、ほんとに国内の支持者の人気取りだけなのだったとしたら、頭わるいにもホドがあると思うんだけど。
ついでに、保守方面のみなさんがよく仰る今ひとつ「自虐史観」云々についてですが、自分はアレは「次やるときに失敗しないために」有用なんじゃないかと思っている(誤解を招きやすい言いかただな)。ドイツ人が日本人にむかって「今度はイタリア抜きでやろうな」って言うというジョークがあるけれど、ドイツと組むかどうかはともかく、歴史的なめぐり合わせやら日本の置かれたのっぴきならない事情があったにせよ当時の日本が結果的に失敗してしまったのは紛れもない事実なわけで、あの時日本にどういう選択肢があったのか、万が一ああいう状況に再びおちいったときにどうすればより良い結末を迎えることができるのか、きちんと考えておくのは絶対に必要なことである。そう思うと、ただ「あのときはしょうがなかったんだ」「他の国もわるいんだ」「日本人は立派だったんだ」ばっかり言ってる(ようにしか見えない)保守派の皆さんの好きな「国民の歴史」とやらはただの女々しい泣き言(この表現はフェミニズム的にヒジョーに問題ですが)でしかないんじゃないでしょうか。
というわけで今は『昭和史 1926-1945』と『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』を読んでいるのですが、読めば読むほどどーすんねんコレという感じですわなあ昭和初期。
- 作者: 船曳建夫
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2007/01/16
- メディア: 新書
- 購入: 1人 クリック: 3回
- この商品を含むブログ (10件) を見る