会社を辞めるまでのこと
退職直前の一か月は、毎日けっこうあせりながら仕事をしていた。引き継ぎというほどの引き継ぎはなかったのだけど、学参を担当していてちょうど売場が入試対策から新学期に入れ替わる時期だったので、古い商品と新しい商品の入替えを、入荷のスケジュールを推測しつつ作業しなければならなかった。店をはなれる時点で台車も倉庫も空っぽになっているのが理想なのだが、かといって新しい商品がはいる前に一気に返品してしまって棚をガタガタにしてしまうわけにはいかないし。まあ店を移るときはいつも似たようなものなのだけど、なにしろ今回は会社からいなくなってしまうわけで、退職後に次の担当者の人から問い合わせの電話が来たりするような事態だけはぜったい避けなければならないのである。
というわけで願書や赤本や各種直前問題集など返品し、棚の構成を変えるために棚板を外したり足したりしつつ、散発的に入ってくるセット商品を並べたりストックにしまったり入りきらなかったものをもう一度倉庫に持っていったり、その合間にレジに入ったり客注の面倒をみたり休憩したりまあやることが多すぎる。早番だろうが遅番だろうがほとんど毎日開店から出勤していた(もちろん時間外はつきません)。おまけに毎月書かされている「今月の売上予測と来月の対策」の提出を今月も当然のように求められて唖然とする。来月のことなんか知らんがな。適当に数字入れといたけど、他店に移動予定の社員にはガン無視してる人もいた。
ちょっとした棚移動の場合、棚の前にしゃがみこんで一段分の商品をまとめてがばっと抜き出し、台車なりヨコの平台に逃しておいて新しい商品をならべる、次の段の商品を抜き出してまた入れる……という作業をくりかえす。棚担当者になって以来何十回とやってきた作業だけど、「もうこういうふうに本をあつかうこともないんだなあ」なんて感慨がふっとよぎったりもした。けど特にさびしいとかそういうアレではない。
というわけで、最後の出勤の日に「新学期ガイドセット20個口」とかが入ってきていたら余裕でアウトだったわけですが幸いそういうこともなく、あがった時に倉庫に残っていたのは辞書フェア用の段ボール4箱だけだった(辞書フェアは半月ほどあとのスタートなのです)。とりあえず跡を濁さず立つことができてほっとしました。どっとはらい。