ウェブ1丁目図書館

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太平洋戦争の失敗から学べることは多い

企業不祥事が報道されると、次々に組織の腐敗が明るみになっていきます。

組織が腐敗するから不祥事が起こるのか、不祥事が起こるから組織が隠ぺい体質になり腐敗するのか、どちらが先かはわかりませんが、不祥事と組織の腐敗は深い関係があると言えそうです。

不祥事は企業だけで起こるものではなく、政府などあらゆる組織で起こります。組織の不祥事は、なぜ起こるのでしょうか。

不祥事を起こす組織の共通点

日本の歴史の中では様々な不祥事が発生してきたはずですが、おそらく最大の不祥事を起こしたのは太平洋戦争を決断した当時の日本政府でしょう。

真珠湾攻撃に遅れてアメリカに宣戦布告したことから始まり、戦況が不利になっても国民には勝っていると誤報を伝え続けた当時の政府は、不祥事を起こす組織を研究するにはもってこいの材料です。

ジャーナリストの松本利秋さんの著書『なぜ日本は同じ過ちを繰り返すのか』は、副題が「太平洋戦争に学ぶ失敗の本質」とあるように太平洋戦争当時の政府や日本軍の失敗が多数紹介されています。太平洋戦争の開戦から終戦までの一連の流れを知ることもでき、第二次世界大戦当時の日本の歴史を学ぶのにも適しています。

現代でも起こる企業の不始末について、松本さんは、「その根底にはほぼ一貫して企業トップの無責任、決断の先送り、戦略のなさ、情報を活用する力の不足、状況への即応力不足、硬直した組織観などの要因がある」と述べています。

つまり、組織の不祥事は、まず組織の腐敗から始まると考えられそうです。

時代の変化を認められなかった日本軍

第一次世界大戦で、日本は、青島(チンタオ)攻略戦で近代戦争を実践していました。

その戦いでは、1週間ほどの間に使用した砲弾の鉄量が1,601トンもあり、日露戦争での旅順攻囲戦の半年間で使用した砲弾の鉄量4,000トンと比較すると、途方もない消費量でした。青島攻略戦は、日本軍に新しい戦闘の時代に入ったことを教えていたのですが、日本の当時の鉄鋼の生産能力が欧米と比較して低かったことから、不足する物量を補うため、肉弾、すわなち兵士の精神力で戦うという結論になりました。

この精神主義一辺倒で乗り切ろうとしたことが、日本軍を想定外に対応できない硬直した組織にしてしまいます。変わりゆく時代についていくための発想が、組織に求められるのですが、日本軍にはその発想がなかったようです。

真珠湾攻撃から学んだアメリカ

太平洋戦争は、日本軍の真珠湾攻撃から始まりました。

日本は、初戦でアメリカに大きな打撃を与え厭戦気分を高めようとしていました。しかし、宣戦布告前の攻撃だったことから、卑怯な日本を許すなとのアメリカ国民の声が大きくなり、逆に奮起させることになります。

その後の珊瑚海海戦では、史上初の空母同士の戦闘となり、戦闘機が戦いの主役となりました。

海戦後、アメリカ海軍は、艦隊同士が直接目で見ることなく戦闘が行われる、全く未知の分野に入ったことを認め、被害状況をつぶさに観察しました。そして、兵士と上層部が情報を共有し作戦立案に役立てるとともに、戦闘機を製造するグラマン社の社長も、真珠湾に赴き、パイロットに戦いの状況を聴いて、新型戦闘機の性能向上に役立てていました。

こうやって、敗戦から学んだアメリカ海軍は、戦力面で圧倒的に不利であったミッドウェー海戦に勝利します。

一方の日本海軍は、発想の柔軟性が失われていき、その後の戦闘でも精彩を欠いていきました。

隠ぺい体質が作戦に悪影響を与える

戦況が不利になって来ると、国民に対して嘘の情報を発信するようになったことはよく知られています。それだけでなく、日本軍の隠ぺい体質が、作戦に大きな影響を与えることになりました。

日本海軍は、台湾沖航空戦でアメリカ海軍に大きな打撃を与えたと嘘の報告を行いました。上層部はそれを信用し、レイテ島でアメリカの敗残部隊をせん滅して、和平に持っていこうとしていましたが、海軍の虚報を信じてレイテ島に1個師団しか配備していなかった日本陸軍は、アメリカ陸軍の上陸を許すことになります。

その後の日本は、アメリカ軍に沖縄上陸を許し、戦艦大和も撃沈され、もはや戦争を継続できる状況ではなくなりました。

政府主導は民間のイノベーションを壊す

第二次世界大戦で、日本は統制経済を導入しました。

統制経済は、生産量のすべてを戦争遂行に傾注しなければ勝てないとの考えから、官僚が主導して日本経済の成長と景気回復を実現するといったものです。しかし、これが、民間企業のイノベーションを壊してしまいました。

1916年から1936年までのGNP(国民総生産)は、平均8.9%の成長をしていましたが、1938年に国家総動員法が制定されると日本経済は低迷に転じます。

また民間の自由な競争も廃止し、1社が1機種の開発に専念した方が効率的だとして1社独占とされました。現代の感覚では信じられないことが政府主導で行われていたんですね。技術力でアメリカに差がついても不思議ではありません。

現代の感覚では信じられないと述べましたが、今も、政府は第二次世界大戦と同じ過ちを繰り返そうとしています。それは、インボイス制度と電子帳簿保存法です。インボイス制度の内容がわからない方は検索してください。

インボイス制度では、デジタル・インボイスについての規格を政府が定めています。今は、最新の技術だったとしても、後々、新たな技術が誕生した時に現在の技術は時代遅れになります。電子帳簿についても、政府が規則を定めることで民間に無駄な労力が発生しています。デジタル化による業務の効率化は、民間に任せるべきです。それは、統制経済の失敗を見ればわかるはずです。

太平洋戦争の敗戦の最大の原因は、政府が民間を縛り過ぎたことかもしれませんね。


本書では、日本と欧米との戦争観の違いについても触れられています。

欧米は、敵(民族)が消滅するまで徹底的に戦います。一方、日本は、そこまでの戦争を経験してはいません。これは、宗教観の違いとも言えそうです。

第一次世界大戦後のベルサイユ条約で、ドイツは、1,320億金マルクと輸出額の26%という法外な賠償金の支払いを要求されました。特にフランスのドイツに対する態度が強硬なもので、これが第二次世界大戦につながっていきます。

ナチスは、賠償金を減らし、ベルサイユ条約を破棄すると言い、ドイツ国民から多大な支持を受けました。破綻した生活を回復してくれたのだから、当時のドイツ国民がナチスを支持するのは当然と言えます。

フランスがもっと寛容であれば、第二次世界大戦は変わっていたのかもしれません。