ウェブ1丁目図書館

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多くの富を得た者ほど社会から多くの助けを受けている

2024年に日本銀行券のデザインが一新されました。その1万円札に描かれているのは、日本資本主義の父と称される渋沢栄一です。

渋沢栄一は、明治以降に数々の会社を設立し、今もなおその多くが存続し、誰もが知っている大企業となっています。まさに1万円札に描かれるにふさわしい人物と言えます。

渋沢栄一が講演で語った内容は、『論語と算盤』という書籍になっており、現代のビジネスパーソンが読んでも古臭さを感じない内容になっています。むしろ、経済が国際化した現代にこそ、読んでおきたいですね。

貧富の格差は人間社会の逃れられない宿命

『論語と算盤』は、中国古典の研究に携わっている守屋淳さんが現代語に訳した『現代語訳 論語と算盤』が読みやすいです。

渋沢栄一は、商売の世界でも道徳が大切だと述べています。しかし、道徳とは真逆とも言えるようなことも述べています。

人々が日夜努力するのはなぜか。それは、地位や名誉を手に入れたいから。そして、その結果として貧富の格差が生まれるのは自然の成り行きであり、人間社会の逃れられない宿命と諦めるしかないのだと。

まさに資本主義の権化ともとれるような発言じゃないですか。どんどん競争して、勝者と敗者に二分されるからこそ、すばらしい商品やサービスが世に生み出され、国家が豊かになる。それの何が悪いのかと言っているようですね。

道徳なき仕事は衰えていく

でも、貧富の格差が生まれることを放置して良いとは言っていません。

強い思いやりを持って世の中の利益を考えることは良いことだけど、自分の利益が欲しいという気持ちで働くことは世間一般の当たり前の姿です。だからと言って、社会のためになる道徳を持たずにいると、世の中の仕事は少しずつ衰えてしまいます。

貧富の格差の拡大は、社会全体を衰退させかねません。自分がより多く儲けたいと思うのであれば、世の中の利益を考える必要があります。「常に貧しい人と金持ちの関係を円満にし、両者の調和を図ろうとすることは、もののわかった人間に課せられた絶えざる義務」だと、渋沢栄一は語っています。

社会の中に断絶や分断が起こると、金回りが悪くなります。資本が循環するからこそ、社会は良くなっていくのであり、便利な商品やサービスも、人々に行き渡るようになるのです。その結果、商売人の利益が増えるのですから、より多く稼ごうと思うなら、目先の利益ばかりを追い求めることは、逆効果になるでしょう。

稼ぐものほど社会の恩恵を受けている

人は成功すると思い上がってしまいます。自分の努力によって成し遂げた結果なのだと。

しかし、本当に自分の力だけで成功したかを常に自問しなければなりません。渋沢栄一は、国家社会の助けがあってこそ、利益を上げられ、安全に生きていけるのだと述べています。もしも、国家社会がなかったら満足に生きていくことはできません。だから、多くの富を得た者ほど、社会から助けられているのです。『21世紀の資本』の著者であるトマ・ピケティも同じことを述べています。

大富豪は、自分が得た利益と比較するとわずかな犠牲しか払っておらず、社会の仕組みにただ乗りしているのと変わらない状況にあります。そうであるなら、多くを稼いだ者ほど、より多くの富を世の中に還元することが、社会と対等な取引をすることになるのです。このように考えれば、所得税の累進課税は実に理にかなった仕組みだと言えます。

所得税率を上げると富裕層が海外に逃げてしまうとの批判がありますが、それで構わないでしょう。日本以外のどこかの国で、自分が得た富を還元すれば、世界全体が豊かになっていくのですから。

成功にも失敗にもとらわれない

誰だって成功者になりたいし、失敗者にはなりたくありません。

お金持ちになって何不自由ない生活をしたいというのは誰もが持つ願望です。しかし、成功や失敗にとらわれている限り、不自由な気持ちから抜け出せないでしょう。幸せな生涯を送った人は、全員成功者だったのか。そんなはずがありません。成功や失敗などは、人生において些末な問題にすぎません。

成功や失敗といった価値観から抜け出して、超然と自立し、正しい行為の道筋に反って行動し続けるなら、成功や失敗などとはレベルの違う、価値ある生涯を送ることができる。成功など、人として為すべきことを果たした結果生まれるカスにすぎない以上、気にする必要などまったくないのである。(220ページ)