ウェブ1丁目図書館

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自分の能力を社会に還元すると不安にならない

中学生や高校生は、受験に対する不安を抱えているかもしれません。また、大学生は就職活動に不安を抱えているかもしれません。

新入社員の中にも職場になじめるか不安に思っている人がいるでしょうし、社会人歴が長い人だと子育てに不安を感じているかもしれません。定年退職が近づいてきた人は老後の暮らし、高齢者は健康に対して不安を感じているかもしれません。

どんな立場や年齢の人でも、一つや二つは心配事があるものです。しかし、現代社会では、一つや二つの心配事ではなく、何が何だかよくわからない不安に恐れている人が多いような気がします。

現実的な不安と神経症的な不安

不安には、現実的な不安と神経症的な不安の2種類があります。

早稲田大学名誉教授の加藤諦三さんの著書『不安をしずめる心理学』では、現実的な不安は、「いまの給料で、多額のローンを組んでしまって大丈夫だろうか」といった類の不安だと説明されています。現実的な不安は、具体的に何が問題なのかがわかっている状況なので対処はしやすそうです。

一方の神経症的な不安とは、「自分が自分でない、というところから生まれてくる不安」だそうです。具体的な問題がなくても、常に不安におびえているような状態。この神経症的不安は、悩んでもどうしようもないことと本人がわかっていても、どうすることもできない不安です。

加藤さんは、いま日本が陥っているもっとも恐ろしい症状は、自分たちに都合の良いように現実を解釈するナルシシズム、つまり、現実否認だと述べています。神経症的不安も、現実否認から始まります。

人の目を恐れる

神経症的不安に苦しむのは、人の目を過度に恐れることにあるようです。

何かに挑戦して失敗するよりも、失敗した自分が他人からどう見られるかを考えて不安を抱きます。何かに失敗して友達からからかわれた経験は誰にでもあると思いますが、それに対して過度に恐れを抱いている状態が神経症的不安です。

現代人が、不安に苦しむようになったのは、競争社会と消費社会に移行したことにあるとのこと。

かつての共同体では、人間がそこにいること自体に価値がありましたが、競争社会では、集団の中で求められている役割を果たさなければ、必要とされなくなりました。ここに不安を感じる原因があります。そして、現代のような大量消費社会では、商品を買えばいいことがあると宣伝して売上を伸ばしていますが、これが安易な解決法を消費者に提供し、根本的な解決を妨げることになっています。

消費社会とは、みんなが一生懸命に神経症に向かって走っている社会だと、加藤さんは指摘します。消費を増やそうとすると競争は激しくなり、人々をさらなる消費に掻き立てます。このような社会では、自分が不安に思っていることを解消してくれるアイテムがあるはずだと考えるようになるのは当然でしょう。

絶対に失敗しないノウハウも販売されているのを目にしますが、こういったものに手を出すようになると、ますます失敗を恐れるようになるのではないでしょうか。

自分の能力を社会に還元する

いまの自分の生き方がどこかおかしいというメッセージが不安です。だから、不安を解消したければ、いまの自分の生き方を変えなければなりません。

不安の積極的解決の一つは、「信じる価値への献身」とのこと。自分が信じている価値があれば、不安と向き合えます。そして、その不安を乗り越えていけます。

自分の価値を信じるとは、自分の能力を社会のために使って生きることと言えます。不安に感じるのは、他人の目を過度に意識してしまうからです。自分の価値を信じられれば、他人の目は気にならなくなります。そのような状態になって能力を発揮できれば、社会のために自分が役に立っているという達成感を得られるはずです。

人に見せるため。人の期待に応えるため。

そいうことばかりを考えていると、相手に気に入られようと自己主張を避けるようになります。それこそが不安をもたらしているのです。

自分自身が信じることを黙々とやり続けていれば不安を積極的に解決できます。反対に地位や物に執着していると、なかなか不安から脱出できません。

本書では、「自己実現している人は矛盾に耐えられる」という心理学者のマズローの言葉が紹介されています。

マズローは、人の欲求は5段階で構成されていると述べたことで有名です。生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、尊厳の欲求(承認欲求)、自己実現欲求の5段階です。人間が生きていくために最低限必要な食欲などの生理的欲求が満たされると、安全に暮らしたいという安全欲求が芽生えます。安全欲求が満たされれば社会の一員になりたい、簡単にいうと友人が欲しいという欲求が芽生えます。社会的欲求の次は、尊敬されたいという尊厳の欲求へと向かい、それが満たされれば自分がやりたいことをやるという自己実現欲求が湧き上がって来ます。

自己実現欲求の段階に到達すれば、神経症的不安から解放されるでしょう。自分がやりたいことをやっていて、いつも不安だと思っている人はいるでしょうか。いるかもしれませんが、それは、きっと現実的な不安のはずです。


本書を読むと、神経症的不安は、何もしないことから起こっているのではないかと思います。神経症的不安を解消するには、自分の能力を社会に還元するために行動するしかないでしょう。