迫力の逸品『噴火した! 火山の現場で考えたこと』
高温粉体流である火砕流の規模は、構成物質の量で表現すると、10-6乗立方kmから10の3乗立方kmの範囲であるから、九桁の範囲にわたる。
10億倍の規模の差がある現象を1つの概念で表現できるということはある意味でユニークな地学現象ではないかと考えている。
【セントヘレンズ火山】
ある日、火砕流堆積物の表面で、突然水蒸気爆発が起きて、噴煙柱が2000mも立ち昇った。たまたまそばを飛行していたヘリパイロットが言うには、ベトナム従軍の時よりも怖い体験だったという。
厚い火砕流堆積物に覆われてしまったトゥートル川の水が火砕流堆積物により過熟されて、水蒸気爆発を起こしたのだった。それ以後、元の河道の上を決して飛ぶなという厳命が出された。
火山学者・荒牧重雄「噴火した」読了。大島三原山噴火島民避難の現場、その展開に緊張したが、普賢岳火砕流、そのあとのクラフト夫妻と火山学者三名についての処、その展開に恐怖し正座して読んだ。セントヘレンズの山体崩壊、その爆風で巨木は、根こそぎ、ではなく、幹の根元より上が千切れるとは。 pic.twitter.com/oNcQIX04E8
— ますむらひろし (@masumurahiroshi) 2024年4月5日
【雲仙普賢岳】
火砕流が襲ってから数分から10分経過した後でも、「家が爆発するように発火した」とか「家が次から次にマッチを擦るように、ボッと火がつくのが見えた」との証言から、最外側の家屋のフラッシュオーバー現象であることがよく理解される。
多くの消防士が持っているような状態と同じ程度にまで、噴火活動を特定の個人が体験するには、少なくとも一個人が1万年くらいは生きのびる必要があるのかもしれない。
日本の防災組織の中枢となる、内閣官房や内閣府の優秀な官僚たちが集まる防災の会議に、火山専門家として出席するたびに、この人たちが、官僚として火山噴火災害を個人的に体験し、その体験を生かして、災害対策に活躍できる時間の長さは、せいぜい30〜40年間であり、その後はまったくの新人に入れ替わり、一からやり直しになるのかと思うと、心配というか、それを通り越して、ある種の不思議な感覚を覚えることがある。
荒牧重雄『噴火した! 火山の現場で考えたこと』(東京大学出版会)入荷しました。
— 精文館書店 本店3F (@seibunkan_3F) 2021年10月19日
★「噴火した!」と聞けば,すぐさま現場へ駆けつける。「火砕流」という言葉の生みの親であり,数々の噴火に立ち会ってきた著者が,自身の体験をとおして火山研究と火山防災について語る。 pic.twitter.com/RNCfM5R4UJ
荒牧重雄『噴火した!火山の現場で考えたこと』東京大学出版会
— 鈴木柚里絵 Ninja Suzuki Yurie🥷 (@yuriehiyoko) 2022年3月31日
60年以上の火山研究の記録。
著者はあの、中学でも習う『火砕流』という日本語の発案者。
翻訳の過程での難産さも記述されている。発案者自身も最初は自身の論文で使うことをためらったらしく、英語「pyroclastic flow」を使用したと。 pic.twitter.com/InFzvqhhN3
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『噴火した! 火山の現場で考えたこと』
荒牧重雄
東京大学出版会
著者は著名な火山学者さん、いや、著名な、どころか「火砕流」の名付け親という屹立したポジションの大先生。
『 荒牧重雄 - Wikipedia 』 日本の地球科学者
本書は、出版の際に火山学徒の間で「荒牧先生の本が出る!」とどよめきが応酬されていたほどの逸品。
長年の経験と思い出語りを、今後の展望含め語ってくださる火山学者人生クロニクル本だ。
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目次より:
ひとつの都市が消えた 火砕流序説、プレー火山の噴火
火山研究のきっかけ 伊豆大島1950〜51年噴火
史料と足で読み解いた博士論文 浅間火山天明三年噴火
実験岩石学や巨大カルデラとの出会い フルブライト留学生としてアメリカヘ
フランス気質、イギリス気質 火山をめぐるヨーロッパの国民性
ハワイの楯状火山はなぜ上に凸か キラウエア火山1963年噴火
月面は玄武岩か、岩塩?か アポロ11号の月面着陸
溶岩と氷河の国アイスランド 極地での野外調査
フランス人の大論争に巻き込まれる スフリエール火山1976年噴火
「火砕流」と言えない? 有珠火山1977年噴火
山体崩壊と爆風の威カ セントヘレンズ火山1980年噴火
迅速な避難と溶岩冷却作戦 三宅島1983年噴火
全島避難の島で 伊豆大島1986年噴火
火砕流の恐怖、目撃者の証言 雲仙普賢岳1991年噴火
大都市のそばの火山 イタリアの火山と防災
ハザードマップと対策本部 有珠火山2000年噴火
火山噴火災害対策について考える
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世界各地で噴き上がる地の熾りにアンテナを張る。
噴火直後の高温粉体の奇妙な挙動。
観測者をいとも簡単に薙ぎ払う物理現象の規模。
雲仙普賢岳の生死を分けた条件と体験の書き留め。
観測当事者ならではの絶妙な大島噴火裏話も語ってくださっている。
長大な時空スパンで蠢動する大地を見守り解き明かしていくには、ヒトの寿命はあまりにも短すぎる。
致命的な異世界体験は、ヒトの理解力など意に介さない次元でここ(此岸)にある。
個人的には有珠山で活躍した岡田先生の、火山学者人生クロニクル本もオススメなので、併読してみてね。
岡田弘『有珠山 火の山とともに』
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『ミニ特集:地震・火山災害研究の本 その2』
『ミニ特集:地震・火山災害研究の本 その1』
『ミニ特集:火山災害研究の本 その2』
『ミニ特集:火山災害研究の本 その1』