吉報配達ブログ

言葉で世界をつくる、変えていく

Top Page › 日本文学・エッセイ › 『ふるさと銀河線 軌道春秋』あなたの今日に優しい風が吹きますように
2021-04-15 (Thu) 05:11

『ふるさと銀河線 軌道春秋』あなたの今日に優しい風が吹きますように

ありがとうございます。吉報配達ブログへようこそ。
吉報を届けることができますように。


以前紹介した本からの縁で読んだ短編集、
『ふるさと銀河線 軌道春秋(高田郁:著)』です。




ムシヤシナイ」が収録されているので読んでみました。
読んで良かったなあと思える読書時間を過ごせました。

登場人物たちはホントに等身大。
ドラマチックな出来事が起こるわけではないけれど、
単純に幸せとか順風満帆などではないんですね。
どちらかというと、大変なことを受け止めなきゃいけない人ばかり。
それでも、ただ痛々しいお話にはなっていませんでしたね。
そこがよかったです。

今回の記事で紹介したいのは、
9篇収録されているうちの「車窓家族」です。
ここで描かれているものをなんと表現すればいいのか、
私にはぴったりの言葉が見つけられないんですけれど。



大阪と神戸を結ぶ沿線の電車に乗る人が、
いつも信号待ちで止まった時に見る文化住宅の一室。
そのカーテンのない一室には、
老夫婦が生活している姿が見えるのです。

ロクでもない1日を過ごした女性会社員は、
その老夫婦を見て、
「お休みなさい、また明日」と心の中で語りかけます。

還暦を過ぎても遅くまで働く初老の女性は、
その老夫婦の姿を確認してホッとし、
「どうぞ明日もお元気で、そして幸せでいらしてくださいね」
と心の中で語りかけます。

その老夫婦の部屋の明かりがついてない日が2日続いたとき。

信号停止している間、乗り合わせた乗客が、
「あれ?電気ついてへん…なんかあったんかな」と、
心配している人が、自分だけではなかったことに気づきます。

「あの人ら、おでん好きやんな」なんて、
観察していたことを披露しあったり、
連帯感みたいなものが生まれます。

彼らが心配して老夫婦の部屋をじっと見ていたら、
電気がつきました。
どうやら電気が切れていただけで、
やっと電気屋さんに直してもらったようでした。

「ああ、よかった〜」
そして電車は動き出し、各自、家路へ向かっていく。


たったこれだけの物語なんですけどね。
なんとも言えない温もりがあるように感じました。

自分のことでいっぱいいっぱいな時でも、
他人の幸せを思える。

これって、優しさとか思いやりという言葉では
ちょっとズレているように思うんです。
でもこれにぴったりの言葉がわからない。

わからないけど、言葉にできなくても、
多くの人の中にある、「なんかいいもの」です。
きっとほとんどの人が持っているものです。

こう思えない日だってある。
けれど、思える日だってある。
そんな日を、ちょっと意識してみる。
そして増やしてみるようにする。
それだけで、自分で自分を温めることができるんじゃないか。
そんなふうに思います。




アルコール依存症の痛々しい描写もあったりして、
けっして優しいだけの物語ではないんですけど。
著者のあとがきにあった言葉、

「あなたの明日に、優しい風が吹きますように」


祈りが込められている短編集だと感じます。
しんみりしすぎない哀切と柔らかさが絶妙でした。



※しばらくお休みします。
記事のストックがなくなってしまったので、しばらくお休みします。
また帰ってきますね。
どうぞそれまで、みなさまに優しい風が吹いていますように♪

最終更新日 : 2021-04-15