水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

情報隠ぺいの恩恵 福島第一原発の場合

昨日で震災から半年、今日は福島第一原発1号機建屋が吹っ飛んでから半年です。
この半年間は、原発事故についての情報が隠ぺいされ、小出しにされ、あるいは政府も情報を把握できていないことが判明する半年でした。そして私は、今から思えば、そうした情報公開の遅れに感謝する気持ちです。
3月11日 東日本大震災発生
3月23日 SDEEDIによる放射性物質拡散予測を初めて公開
4月12日 国際原子力事象評価尺度を旧ソ連チェルノブイリ原発事故と同じレベル7に引き上げ
5月12日 大量の燃料が溶融する「メルトダウン」が起きていたことを東電が認める
4月5月になって五月雨式に深刻な情報が公表された時、世間はうんざりし、2chあたりでは【知ってた速報】という言葉が多用されました。「あぁまたか」「そんな事だろうと思っていた」「今さら言わなくても知ってたよ」といった皮肉で醒めた反応です。
でも、こうした情報が遅滞なく速やかに公開されていたらどうなっていたでしょう。熱湯に触れて飛び出すカエルと、ゆっくり茹でられるカエルのどちらが幸せでしょうか。

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これも6月になって公表されたことですが、実は地震翌日の3月12日の午前8時半過ぎ〜午後1時半ごろにはテルル132という物質が原発周辺で検出されていました。原子炉の核燃料が1千度以上で損傷していることを示す証拠です。まだ地震の揺れの恐怖が生々しく残るさなか、津波の悲惨な映像を一晩中見続けた翌日にいきなり、「今まさにメルトダウンが進行している恐れが大」と知らされたら、【知ってた速報】では済まないでしょう。そして、メルトダウンと聞かされた直後に原子炉建屋が吹き飛ぶ映像を目の当たりにすれば、私たちはパニックに陥ったのではないでしょうか。
いくら「核爆発ではないはず」と言われても、それを冷静に受け止められるとは思えません。福島県全域で県外への逃避が始まっただろうと思います。隣接する宮城や茨城にもパニックは波及したかも知れません。該当地域の道路はマヒするでしょう。それは、津波で壊滅的被害を受けた地域に水や食料を送り込めなくなること、自衛隊が陸路で被災地に入れなくなることを意味します。被害は拡大したでしょう。
それは同時に、福島第一原発にも水や食料を送り込めない、事態制圧に必要な資材機材・技術者を送り込めない、自衛隊が行けないことになります。建屋の水素爆発だけでは済まず、もっと悲惨な事態に立ち至ったかもしれません。

その結果パニックが東京に及べば、問題の質が変わって来ます。関東を脱出しようとする車で道路がマヒ、東名高速は事故多発で通行不能とか、東京駅に人が殺到して新幹線が大混乱とかになるかもしれません。車の事故や駅の将棋倒しで何十人かが死んでも、その事自体の損失は些細ですが、東京の経済の混乱、ロジスティックの停止は日本経済全体の危機です。東北のサプライチェーン喪失とは規模も重大性も違います。

現実の歴史では、地震直後に急激な円高が起きました。被災した日本企業が復旧費用を確保するため海外資産を売却して円に戻す動きがあるのではないか、と言う予測に投機筋が殺到した?、とも言われますがはっきりしません。政府は投機を批判しましたが、円買いは「震災後に日本は復興する」という予測であり、むしろ感謝すべきだったかもしれません。
上に書いたような「遅滞なき情報公開の結果の最悪パターン」が起きていれば、海外投機筋は「ニッポン the END」「あいつらこれで破産だろ」と予測したかもしれず、そうなれば円売りが起き、そのうち誰かが「日本国債の空売りすれば儲かるんじゃね?」と考えたかもしれません。その動きがある一定の規模を超えれば、「予測は実現する」が発動して日本国債の暴落、という事態も…。海外メディアが「ギリシャ危機は実はさざ波に過ぎなかった。JAPAN、TSUNAMIに襲われて沈没。」と書いたかも…。

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まぁ後半は完全に妄想ですが、3月12日にメルトダウンと知らされていて今より良い状況になったとは思えない気がします。少なくとも被災地の救援には深刻な遅れや支障が生じただろうと。

例えば、民主主義というのは国民に負担のかかる政治制度です。独裁なら政治問題は全て独裁者氏が決めてくれますが、民主主義だから国民が考えないといけない。TPPに参加するのか、年金制度をどうするのか、これからの電力供給はどうするのか。国民が考えて意見を表明して、それが議会プロセスに取り込まれて政治が決まる。国民に権利があるのは、国民に責務がのしかかることです。
同様に情報公開も、公開された情報にどう対応するかは国民の責任になります。合理的に判断して冷静に行動できるのかは国民にかかっています。知らなければノホホンとしていられたのに。
原発事故に関しては、速やかに知らなくて良かった、情報が遅延して【知ってた速報】で済んで良かった気がします。

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だからと言って、「国民が知らない方が良い情報は公開せず隠ぺいしても良い」などという権限を政治家や官僚に許せば、連中がそれを悪用して自分たちに不都合な情報を全て「これも国民が知らない方が良い事」認定するのは必至。だから私たちはずっと情報公開を言い続けなければなりません。この矛盾。

結局、私たち国民が情報に耐えられる賢さを身につけなければいけない訳ですが、些細な失言を取り上げては大臣を晒しものにして首を切って悦に入る状況では、道は遠いな〜と、中秋の名月を見ながら考えています。