水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

自動運転の風が吹けばサカタのタネが儲かる話

自動運転が実用化されると、車は所有されず共有物になると言われています。では、共有物になると何が起きるのか? あれこれ妄想してみました。

起点としての共有化

運転が無人化されるとタクシーが安くなります。autoblogの記事には、

ドライバーの人件費が不要になることで、(中略)オンデマンド配車サービス「Uber(ウーバー)」の一番安いUber Xでは現在1マイル(約1.6km)あたり3.00 ~ 3.50ドルのところ、自動運転タクシーなら0.44ドルで利用できるようになる

http://jp.autoblog.com/2015/05/28/self-driving-cars-future-car-sales/

と書いています。料金が7分の1から8分の1に下がるとの予想です。いや、7分の1は話盛り過ぎじゃないかと思いますが、実際どの程度下がるでしょう?
一般社団法人東京ハイヤー・タクシー協会が出している「東京のタクシー(2015)」から原価構成を見ます(リンク先はpdf注意)。
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総人件費72.3%は事務部門等込みの数値らしく、ネットで調べると運転手の賃金は6割程度のようです。無人化すると、とりあえず価格は今の4割程度には下がります。あと、運転手の労働時間の制約がなくなり寝ることも休憩もなくずっと営業していられるので、車両の稼働効率が上がり固定費負担は薄くなります。事故が大幅に減り車両修繕費と保険料が下がります。更に、後述しますが燃料油脂費もかなり下がると思います。ざっくり考えれば、価格は現状比で3分の1か、4分の1あたりではないでしょうか。初乗り2km730円が180円~250円程度になる計算です。それでも十分に凄い価格破壊。
他方、個人で車を買って維持する費用は下がらない(あるいは自動運転装置分だけコストが上がる)なら、人はもう個人で車を所有するのをやめて必要な時だけオートタクシー(自動運転のタクシー)を呼べばいいとなり、車は共有物になります。その結果ロイターの記事によれば、

米国の自動車販売は向こう25年間で40%減少すると予想した。
それによると、米ゼネラル・モーターズ(GM)とフォード・モーターは、米国およびカナダの組み立て工場を合計で現在の30カ所から17カ所に減らす必要に迫られる。約2万5000人の労働者が失業する。

http://jp.reuters.com/article/angle-auto-driving-idJPKCN0XO0C8

とあります。アメリカは自動車産業が打撃を受けるだけかもしれませんが、日本の都市部では鉄道が受けるダメージも大きいでしょう。

鉄道会社株は売り、サカタのタネは買い?

初乗りが200円前後で乗れるなら人は自家用車から共有車へ移るだけでなく、現在は鉄道を利用している人もオートタクシーに乗り換えるでしょう。特に高齢者はドアツードアの利便性はありがたい。小さな子供を連れている人も、電車に乗って「ベビーカーが邪魔」と言われなくて済みます。
対する鉄道は自動運転にしても料金が下げられません。タクシーは客1人2人で運転手の人件費を背負っていますが、山手線は一編成で運転手+車掌計2名に対し約1700人(乗車率100%)、ラッシュ時は倍の3400人乗っているので、客一人にとって節約できるのは乗員人件費の1000分の1に過ぎず、ほぼゼロです(実際、無人運転の各地の新交通システムは安くないですし)。
東急や阪急など都市部鉄道は客をオートタクシーに奪われて大ピンチ。ただでさえ人口が減っていくのに泣きっ面に蜂です。もしかするとバス、特に市バスと呼ばれる形態もオートタクシーに負けるかも。他方、長距離バス・夜行バスは少し価格が下がり、運転手の過労や居眠りによる事故がなくなりプラスに作用するかも。

車の保有台数は減少しますが、道路上の走行台数はむしろ増加しそうです。個人保有の車は、朝の出勤時に1時間と夜帰りに1時間道路を走るだけで、残り22時間は駐車場で眠っていましたが、オートタクシーはお客をとっかえひっかえしながら一日中、運転手の労基法制約がなくなり文字通り24時間稼働しているので、ずっと道路上に居続けることになります。毎日新聞の記事では

デトロイト近郊には約12万台の車があり、1日の平均稼働時間は67分、稼働率は4.7%に過ぎない。完全自動運転による車の共有が進めば稼働率は70%まで高まると試算。スマートフォンなどで完全自動運転車を呼び出してから、迎えに来る時間が「1分未満」という厳しい想定でも1万8000台あれば需要を満たせる

http://mainichi.jp/articles/20160217/dde/001/020/068000c

とあります。この試算では、ある一瞬の道路上の車は現状12万台の4.7%で平均5600台。自動化されれば1.8万台の70%で平均1万2600台で倍増しています。うーん、これも倍増は話盛り過ぎの気がしますが、日本では鉄道・バスからの需要シフトもあるので、増えるのは確かでしょう。道路の混雑や損耗は今より激しくなるので、道路工事(建設&補修)需要は増えます。道路工事会社の株は買いです。

他方、駐車場の利用は激減します。用事が済むまで車を駐車場に止めておくことは無くなり次の客を迎えに勝手に走っていくから、パーク24は売りかもしれません。
駐車場不要化はパーク24だけでなく各所に波及します。郊外のショッピングセンターは広大な駐車場があります。これは「ストック」です。今ショッピングセンター内に滞在しているお客様の人数分の車を止めておく面積。でも、これからはストックは不要。必要なのは「フロー」の車寄せ。今乗り降りする人数分の乗降スペースです。必要な面積は大幅に減少します。
マンションや一戸建てでも駐車場はいらない。都市部では、不要になった駐車スペースは緑化されて公園のように利用されそうな気がします。都市に巻き起こる緑化ブーム。どこの株を買えばいいでしょう。住友林業とか?違うかな? 一戸建ての家庭は駐車場のコンクリを剥がして花でも植えるかもしれません。ガーデニング大流行。ここは、サカタのタネの株を買っておくべきでしょう。

これから開発される大規模な施設では駐車場はいらない代わりに、いかに大人数が安全快適に乗降できるか、車寄せの設計が重要になる。都市デザインの在り方が大きく変わりそうです。

復活するもの

往復をオートタクシーに乗るなら、郊外のショッピングセンターは遠くて料金が上がって不便。走行距離が短くてすむ、商圏の小さな都市型の店舗が再活性化するかもしれません。
電気自動車は不利。あれは稼働率が小さいことをアテにしています。「夜間に充電しておけば朝には走れます」は共有型では使えない技です。テスラは時代遅れ? ガソリン車が復権。ガソリンスタンドや石油業が業績伸ばすかもしれません。
ネット通販に押されっぱなしだったリアル店舗にも一筋の光が射すかも。嵩張る物、重い物も店舗で買ってオートタクシーに乗せて帰ればスグに使えます。休日に宅配便が来るのをじっと待つ無駄な時間がなくなります。

現在の自動車は軽でも4人乗り、普通車なら5人乗りあたりが標準です。普段は通勤に1人で乗っているが、たまに家族4人で乗ることもあるから4-5人乗りを買わざるを得ない訳ですが、所有しないならこれは変わるでしょう。いったい、車には何人の人が乗っているのでしょうか?
「環境を考えるページ ECO5」というサイトに、東京都立川市等で測定した「乗用車乗車人数の時間別割合」というデータがあります。グラフを引用します。
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曜日・時間帯により差がありますが、1人乗りが4-9割、1人&2人乗りで86-99%に達します。なんという無駄と浪費。現在の車はオーバーキャパシティです。
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こちらは日産の資料(pdf注意)。98年と古く、かつ軽自動車の統計ですが、やはり2人以下で9割弱です。ということはオートタクシーの定員は、1人乗り:2人乗り:その他 = 4:4:2 くらいで需要にこたえられます。今のように「大きな」車は必要ないのです。車両の大半は2人乗り以下の超小型車になり、全体として車はぐっと小型軽量化されます。(これが、オートタクシーの燃料油脂費が下がると言った理由です。)
現在、こうした超小型車が普及しない原因の一つは「事故ると負ける」点にあります。相手の普通車の方が重くて丈夫なので、死ぬのは超小型車側の乗員になってしまいます。たとえ事故原因が相手でも。しかし、運転が自動化された世界では、事故件数自体が激減します。前出の毎日新聞の記事では「米運輸省は自動運転で人的ミスに伴う死亡事故を94%減らせるとみる 」とあります。また、周囲も同じ超小型車なら不利でもありません。自動運転の世界では車は超小型化されそうです。
これも復活するものと言えるかもしれません。日本ではモータリゼーションの初期に「スバル360」などがヒットしましたが、そういうサイズが復活しそうです。

道路工事会社株は買いではない?

あれ? ということは走行台数が増えても小型軽量化で相殺されて道路の混雑や損耗はあまり生じないかもしれません。ガソリン消費もあまり増えないかも。道路工事会社や石油会社の業績アップは期待薄かもしれません。
その他にも、自動車教習所は廃業。事故の大幅減少で損害保険会社と修理工場は売上ダウン。救急車や救急病院は少し楽になるかも。交通違反もなくなり、警察はネズミ取りのような馬鹿げた仕事はやめて本来の犯罪捜査に集中できますが、数百億円の罰金収入を失います。刑務所は新規入所者が約6%、1300人ほど減ります(法務省資料pdf注意)。

まぁ株の売り買いは冗談ですが、車の自動運転化は影響が広範で、社会のあちこちに「風が吹けば桶屋が儲かる」的な予想外の波及がありそうです。
www.nikkei.com
実用化されるのは、いつ頃なんでしょう。