ひとりの音楽人で居続けるために、絶対に必要なもの──草野華余子「産地直送」特別対談〜堀江晶太編〜
作家活動10周年を記念して、セルフ・カバー・アルバム『産地直送vol.1』をリリースしたSSW、草野華余子。OTOTOYでは、その魅力をさらに知ってもらうべく、これまでuijin、ARCANA PROJECTとの対談インタヴューを行ってきた。そしてその第3弾として、様々な楽曲を手がけ、PENGUIN RESEARCHのベーシストとしても活動する堀江晶太を招いて対談を実施。これまで何度もタッグを組み、あらゆる楽曲を世に送り出してきた草野と堀江。ふたりは楽曲を制作する上でなにを大切にしているのか、それぞれが持っている最強の武器とはどういうものなのか、語ってもらいました。
作家活動10周年を記念したセルフカバーアルバム
草野華余子「産地直送」特別対談〜uijin編〜はこちら
草野華余子「産地直送」特別対談〜ARCANA PROJECT編〜はこちら
INTERVIEW : 草野華余子、 堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)
インタヴューをしながら、草野華余子と堀江晶太のふたりは、ある種の“能力者”なのだなと思った。何かを見た瞬間にメロディーが浮かぶ草野と、楽器を触るだけで体の一部にできる堀江。景色や風景、匂い、そして湿度のイメージを共有して楽曲を作るという話は、まさに能力者同士のぶつかり合いのような感じだ。それぞれ音楽方面の能力がすごいのは間違いないが、なにより突出しているのは音楽に対する愛なのだと思う。その愛があるからこそ、ふたりが作る音楽は多くの人の心を震わせることができるのだ。
インタヴュー&文 : 西田健
写真 :星野耕作
「どれぐらいウェットにする?」「湿度は68%ぐらいです」っていう会話ひとつで音階が変わる
――おふたりは出会って10年以上になるんですよね。
草野華余子(以下、草野):そうですね。一番最初の出会いは、LiSAちゃんに提供させて頂いた“DOCTOR”という楽曲のときですね。『LANDSPACE』(2013年10月リリース)ってアルバムだったんですけど、それが私の作家としてのデビュー曲だったんですよ。当時は人に曲書くとかって思ってない時期だったし、そのときアレンジをしてくれたのが堀江君だったんですよ。
堀江晶太(以下、堀江):レコーディングの日にはじめて会いました。当時は僕も新人アレンジャーだったので、緊張していたんですけど、僕以上に緊張した挙句、遅刻してきて(笑)。
草野:新宿三丁目と新宿が違う駅って知らずに、スタジオの場所がわかんなくて。泣きながら行ってプロデューサーにめっちゃ怒られて(笑)。
堀江:おかげで僕はなんか緊張ほぐれましたよ。楽曲はかっこいいと思っていたんですけど「この人、この業界で無事にやっていけるかな」って思った覚えはありますよ。それがまさか、こう10年も一緒にやっていくとは(笑)。
――草野さんは堀江さんに対してどういう印象だったんですか?
草野:その時からそうだったんですけど、堀江君のアレンジって理由がないところがないんですよね。一番最初に会った時に「なんでこういうアレンジになったんですか?」っていう質問したら全部すごい丁寧に答えてくれたんですよ。「ここがいい曲だと思ったからこうしました」の部分が明確にある人なんだって思いました。自分の曲を初めてアレンジしてもらうから、実は怯えてたんですけど、 すごくかっこいい形でやってもらえて。 当時はリテイクにもまだ慣れていない頃だったので、どういう風にクライアントさんやアーティストさんと向き合いながら曲を書けばいいのか、一番悩んでた時期を堀江君が見守ってくれていました。今はもう本当に、音楽のことも、人生のことも、一番話しやすい相手かもしれない。
堀江:確かにお互い、情報共有しあって、いまどういう仕事しているのか、みたいなことは話していますね。
草野:近年“紅蓮華”がきっかけで、ありがたいことにいろんな界隈のアーティストさんに誘っていただく機会が増えたんですが、堀江君は、アニソン界隈に限らず、いろんな場所でいろんな曲を一緒に作って欲しいなって思う人ですね。
――おふたりともアーティスト活動をされていますし、楽曲提供やアレンジャーとしても活躍されていますが、それぞれでの特性みたいなものは感じますか?
草野:同じ楽曲提供するにしても、どの部分を引き出そうとして、どの部分を切り取ってるかは違うんですよ。でもお互いアーティストの精神性の部分については、必ず会話をして咀嚼するタイプなので、そこにはシンパシーが持てるかなと思います。
堀江:重きを置いてる、売りにしてるポイントが違うなとは思います。華余子さんの場合はメロディー職人なんですよ。僕はもっと楽器演奏とかを含めたトータルワークで曲を作りたい人間なので、そこにおいては発想としてのポイントが違うところがありますね。曲の中でここだけは譲れないポイントが、お互い一緒のようで、全然違ったりしますし。
――おふたりの楽曲制作はどのような流れで行うんですか?
草野:近年はたくさんの仕事を抱えていて、時間の制限や体力的な部分で自分だけがしんどい思いをしてしまう状況に、自分を追いやりがちで。そんなときに堀江君が「もっと自分の仕事を手放していいし、信用してくれていいよ」って言ってくれたことがあって。そこからは本当に自分が最も大事にしたい、メロディーとコードの部分を送ってアレンジを任せるようになりましたね。
堀江:そうですね。それからは情報量を少なくして任せてくれるようになりました。
草野:もちろんその代わり、楽曲を作る時のやり取りはしっかりしています。メロディーなのか楽器なのか、どこに重きを置くかは大事なので。景色の話とかもするよね。
堀江:そうですね。景色、風景、匂いのイメージは大事にしますね。それは作ってる人にしかない部分があるので、それがある方が制作に反映しやすいんですよ。音だけじゃわからん部分のヒントはもらいますね。あとは湿気も大事ですね。
草野:「どれぐらいウェットにする?」「湿度は68%ぐらいです」っていう会話ひとつで音階が、例えばセブンスとかイレブンスが増えたり、ディレイの長さが伸びたりしますし。そういう風な手触りの話をすることが重要だと思っています。