夜啼きの森・・・岩井志麻子
3つの短編が含まれる。
ぼくはこの中の「闇に駆ける猟銃」、「肉鍋を食う女」が怖かった。年末から30篇近くの清張物を読んでいるが、この本ほど読んでいて寒気がしたものがなかった。いずれも、ノベルというよりもドキュメンタリーに近いからだと思う。清張の他の作品とは明らかに毛色が違うのである。
「闇に駆ける猟銃」は岡山県・津山市の33人殺害事件を題材としている。文学界では古くは横溝正史、最近では同県人の岩井志麻子が作品化している。いずれも読んだが、事件はあくまでモチーフであり、事件の本質は語られていない。
なぜ、どのように大量殺人事件がおこったか?については作家の創作であることがみえみえなので、事件と読者の距離感は遠いのである。
ところが、清張はこの事件を、検事調書、目撃者の証言などを生のまま引用し、自分の想像をできるだけおさえる形で、事件の全容を組み立てているのである。
このような事件は、犯人の「狂気」でかたづけてしまいがちだ。でも、「闇に駆ける猟銃」を読んでいて、犯人の心理に特別に違和感をいだかなかった。つまり、どんな人間でも環境やちょっとしたきっかけによって、こういう事件をおこす可能性があるのかもしれない、というところが、とっても怖いのである。