2009-03-01から1ヶ月間の記事一覧

写真の多義性

読売新聞2009年3月29日付け読書蘭に、井上寿一が井上祐子「戦時グラフ誌の宣伝戦」(青弓社)の書評を書いている。 (本書の)最大の魅力は、関連書とは一線を画す新しい問題提起である。グラフ雑誌の持つ戦争プロパガンダのイデオロギー性の暴露や侵略の告…

山口晃のスケッチ論

山口晃の連載マンガ「すずしろ日記」が今年の4月号で丸5年めととなった。東京大学出版会のPR誌「UP」に毎号1ページで掲載されている。この雑誌はA6版と小さいのに、その1ページに24コマという細かさだ。さて、昨年の10月号(第43回)では軽妙なスケッチ…

読売農学賞を湯川淳一さんが受賞

第46回読売農学賞を九州大学名誉教授の湯川淳一さんが受賞された。受賞理由は「害虫および天敵タマバエ類の分類と生態に関する一連の研究」だ。 以前、湯川さんの作られた「日本原色虫えい図鑑」の編集のお手伝いをしたのでとても感慨深い。山梨県の昇仙峡へ…

大石芳野写真集「ソビエト遍歴」

最近朝日新聞夕刊で様々な有名人への短いが数回に及ぶインタビュー記事が掲載されている。半月ほど前が写真家の大石芳野だった。 娘に、この大石芳野って父さんの友達がとても仲良くしている人だよと言うと、ええっすごいじゃん、私大石さん好きだよ、「ソビ…

中上健次の墓

仕事で和歌山県新宮市に行った。仕事が終わって乗る予定の特急列車の発車時刻まで2時間あった。昨夜泊まったホテルでもらった新宮市の観光地図の一画に中上健次の墓と記された所があった。中上健次の墓があるならば行かないで済ますわけにはいかない。 墓地…

「地名の由来 東京23区辞典」というHPの驚き

すごいホームページがある。「地名の由来 東京23区辞典 東京知ったかぶり!」というタイトルだ。タイトルどおり23区の地名に関するほとんど信じられないくらいのものすごい充実ぶり。しかも現在進行形で更新もハンパじゃない。情報を提供するとただちに反映…

強烈に臭い発酵食品

雑誌「フェネック」4月号に発酵食品の研究者小泉武夫教授が「発酵食品講座」を書いている。そこで強烈な匂いの食品が3つ紹介されている。韓国の「ホンオ・フェ」とスウェーデンの「シュール・ストレンミング」、そしてイヌイットの「キビヤック」だ。 まず…

笹木繁男さんのアドバイス

現代美術のコレクターで戦後日本美術に関する資料の収集家でもある笹木繁男さんからアドバイスをいただいた。笹木さんの美術コレクション展は2003年から2004年に三鷹市立美術館をはじめ、福井県立美術館、周南市美術博物館などで開催された。わが山本弘の作…

毒虫に刺されたときの対策

もう十数年前になるが、朝日新聞の読者投稿欄に興味深い投稿を見つけた。将来役に立つだろうと思いコピーを取っておいた。ただ肝腎の何年だったかを記入していなかった。7月2日(月曜日)朝刊より。 投稿者は、静岡県 田神喜一郎(無職 72歳) 26日付本欄…

「エーゲ海に捧ぐ」を読み直す

昔池田満寿夫の芥川賞受賞作「エーゲ海に捧ぐ」を読んだとき、主人公を妻が非難する内容が自分のことによく似ていると感じた。もう30年以上も前だ。もう少し詳しく知りたいと思って読み直してみた。 主人公は1年半も前から日本にいる妻と離れてアメリカで暮…

「私、」を多用する男

「私、」を多用する男がいた。「私は」でなく「私、」だ。「私は」と言ったときその主張には明らかに責任が伴うだろう。そのように「私は」考えるのだ。 ところが「私、」と言ったとき、続く言葉と「私、」の関係はあいまいにされている。「私、」と言って1…

日本仏教の特異性を知った

日本人は今でも戦没者の遺骨収集を行っている。遺骨や墓にこだわるのは日本人に特有のようだ。そのことを私は今枝由郎「ブータン仏教から見た日本仏教」(NHKブックス)で知った。チベット〜ブータンは現在最も原始的な仏教が残っている地域だ。 葬式のあと…

片山杜秀の推薦する「宮本武蔵」

もう10数年にわたって毎週日曜日、朝日毎日読売の3紙を買い集めている。書評を読むために。新聞の書評はおびただしく出版される新刊書の何を読めばよいかを示してくれる海図なのだ。あてにならないことも多いけれど、それがなければ何を頼ったらいいのか? …

とっさに考えたのは誰か?

娘が新聞を読みながら「このハイ白色は〜」と言ったので、それは「カイ白色と読むんだ、ほら石灰のカイだろ」と教えた。「灰白色」のことだった。 カイ白色と読むんだと言ったとき、とっさに「石灰のカイ」という言葉が出て来た。頭脳の中の回路はどんな風に…

第28回 損保ジャパン美術財団 選抜奨励展を見る

損保ジャパン東郷青児美術館で「第28回 損保ジャパン美術財団 選抜奨励展」を見た。同美術財団では毎年全国の公募美術団体展に「損保ジャパン美術財団奨励賞」を授与しているという。本展覧会は、その受賞作家の作品に加えて、全国30名の推薦委員から推薦さ…

一体何歳が一番良いのか

20歳について、有名なポール・ニザンの言葉、「アデン・アラビア」から。 僕は二十歳(はたち)だった。それが人生でもっとも美しいときだなんて誰にも言わせない。 30歳については、インゲボルグ・バッハマンの「三十歳」(白水社)から。(しかしこの小説…

高田墨山の書

たまたま飯田市へ行く用事があり、飯田市美術博物館へ行ってみると「第9回 飯田下伊那の作家による 現代の創造展」が開かれていた。 「現代の創造展」は、飯田・下伊那における最大の総合展として、書道、彫刻、工芸、版画、日本画、洋画を展示し、この地方…

東京オペラシティアートギャラリーのコレクションが充実している

東京オペラシティアートギャラリーにはなかなか充実した常設コーナーがある。同アートギャラリーのホームページより。 東京オペラシティアートギャラリーが所蔵するコレクションは、東京オペラシティ共同事業者でもある寺田小太郎氏が東京オペラシティの文化…

桜切るバカ梅切らぬバカ

「桜切るバカ梅切らぬバカ」という諺がある。桜の剪定は難しい。桜の枝は切るべきではない。それに対して梅は剪定しないと実がならない。この諺はそのことを端的に言っている。 その正に梅切らぬバカの畑を見た。収穫を放棄して一切手入れをしない梅林だ。細…

ついに写楽の謎が解かれた

浮世絵師写楽はきわめて短期間だけ活躍しふっと消えてしまった。一体写楽とは誰だったのか? 意外にも写楽探しがブームになるのは戦後になってからだ。多くの玄人素人が入りみだれて写楽の正体を探し始めた。カッコ内は提唱者が写楽と目した人物だ。(中野三…

椋鳩十の生家跡を見た

弟に誘われて母方の祖父母の墓参に行った。祖母が亡くなって以来だからもう25年ぶりになる。墓参の後、墓から50メートルほどの所にある児童文学者椋鳩十の生家跡を見に行った。椋鳩十はわが長野県喬木村出身なのだ。椋は母の生家近くに住んでいて、母が子供…

『ティファニーで朝食を』の原作と映画

『ティファニーで朝食を』といえば、たいていの人がオードリー・ヘップバーンの映画を思い浮かべるだろう。小説『ティファニーで朝食を』の訳者村上春樹はそのあとがきでこう書いている。 映画は原作とはけっこう違った話にはなっているものの、なかなか小粋…

亀山尚子展が始まっている

京橋の藍画廊の入っていたビルが取り壊されることになり、昨年末で一時閉廊した。同じ頃銀座1丁目のギャラリー21+葉が自由が丘に移転し、藍画廊がそのギャラリー21+葉の跡へ移転した。藍画廊はこの3月2日から新しい場所で営業を始め、移転記念企画とし…

村上春樹のカポーティの評価

雑誌『考える人』(新潮社)の2007年春号の特集「短篇小説を読もう」に青山南の選んだアメリカの短篇選8点が紹介されている。その中にトルーマン・カポーティ「見知らぬ人へ、こんにちは」がある。短篇集『カメレオンのための音楽』(ハヤカワ文庫)に収録…

ギャラリイKで弓良麻由子展を見る

京橋のギャラリイKで恒例の企画展「知性の触角2009それぞれの他者」が開かれている。1月から始まった企画の最終6人目が弓良麻由子展だ。不思議な立体を展示している(3月14日まで)。弓良は1984年生まれ、日大芸術学部彫刻コースを卒業して、現在武蔵野美…

大和田詠美の陶の立体が面白い

京橋のギャラリー b. トウキョウで開かれている大和田詠美展が面白い(3月7日まで)。陶で立体を作っている。それがユーモラスでおかしいのだ。 タコと少年は北斎のタコと女の春画の浮世絵を連想させる。北斎とは男女の関係が逆だけれど。タコの口がヴァギ…

想像力の問題

高原好日―20世紀の思い出から (ちくま文庫)作者: 加藤周一出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2009/02メディア: 文庫 クリック: 1回この商品を含むブログ (7件) を見る 加藤周一「高原好日」(ちくま文庫)は信濃毎日新聞に連載された加藤の軽井沢〜信州に関…

野生の猫は鳴かないらしい

しばしば猫は人の顔を見てあいさつのように鳴く。しかしそれは野生ではあり得なくて、人に飼われたことのある猫に限るのだという。 満員電車のなかで本を読んでいる男性がいて、後ろから覗いて読んでいたら、そう書いてあったんだよと娘が言う。へー、知らな…