トランス女性による、「性別移行の前に知っておきたかった10のこと」

トランスジェンダーでアクティヴィストのアニカ・ペネロペさんという方が、「性別移行(トランジション)の前に知っておきたかった10のこと」という興味深い記事を書いています。

詳細は以下。

ペネロペさんが性別移行にとりかかったのは2年前。トランスジェンダーとしてカミングアウトしたのは、その2ヵ月前です。彼女はカミングアウトからホルモン治療を始めるまでのあいだに本や動画で知識を集めたり、ホルモン剤について調べたりしたとのこと。にもかかわらず、性別移行についても、女性として扱われることについても、「まったく準備できていなかった」ことがたくさんあったんだそうです。その経験から彼女がまとめたのが、「性別移行の前に知っておきたかった10のこと」というリスト。面白かったので、ざっと要約して紹介してみます。

1. ビューティー文化に立ち向かう心の準備をしよう。

女性には、ファッション誌や美容産業などが金もうけのために発する、自尊心をずたずたにするメッセージが押し寄せてくるとペネロペさんは説きます。よって女性には、自信を奪うこの「ビューティー文化」に立ち向かう心の準備が必要だというわけ。

次のくだりなど、のんきに「女になってちやほやされたい」とか言ってる日本のシスジェンダー男性に100回読ませてやりたいです。


自分も含めて多くのトランス女性は、シスジェンダーの経験を理想化してしまいがちです。性別移行を始めて1、2ヵ月たったころ、わたしの彼女に、鏡をのぞいてかわいい女の子が自分を見つめ返すのを見るのが待ちきれないと話したら、「あのね、そんなことは絶対起こらないって思い知るから」と言われました。「自分の反射像を見て、不満だと思うようになるよ――他のすべての女性と同じようにね」。これは本当でした。つまり、わたしの友人のうちでもっともゴージャスな美女でさえ、自分の外見で変えたい点を1ダースも挙げられるのです。
Many trans girls, including me, have a habit of romanticizing the cisgender experience. A month or two into my transition, I told my girlfriend that I couldn't wait until I could look in the mirror and see a pretty girl staring back at me. "You realize that's never going to happen, right?" was her response. "You're going to look at your reflection and feel unsatisfied -- just like every other woman." And it's true: Even the most gorgeous of my friends can list a dozen things she'd change about her appearance.
そうそう、シスジェンダー女性なら誰でも知っているとおり、女はビューティー文化から「おまえは美しくない→もっと美しくなれば幸せになれる→そのためにはこれを買え!」と連呼され続けているわけですからね。サプリメントや化粧品やダイエット器具のコマーシャルなんて、みんなこのパターンなんですから。「自分が魅力的でないと感じたら、自分を責めないで。自分をこんな風に思わせてしまう資本主義とビューティー文化を責めなさい」とペネロペさんはアドバイスしています。

2. 男性特権にさよならを告げよう。

男性特権とは、たとえば以下のようなことです。

  • いちいち男性から外見について取り沙汰されずに外を歩いたり、バーに行ったりできること。
  • まるで日課のようにセクハラに遭ったりせずに済むこと。
  • 職場で真剣に相手してもらえること。(女性は男性の2倍自己主張しないと発言に注意を払ってもらえないし、そうしたところで今度は『嫌な女』のレッテルを貼られてしまう)

3. 人からはびっくりさせられるだろう。

「トランスとしてカミングアウトするというのは、本当の友達は誰なのか知るのにとてもいい方法です。そして本当の友達とは、あなたが『きっとこの人はそう』と思っていた人たちだとは限りません」とペネロペさんは説きます。このあたりは、同性愛者でもほぼ同じですね。

4. (微小な)攻撃にそなえよう。

(微小な)攻撃というのは、いちいち日常的に「おまえは人と違うのだ」とチクチク思い知らされること。たとえば以下のようなこと。

  • フェイスブックのウォールに、友達が善意のつもりで「最後に会ったときからあなたの肉体がどう変わったか」を書き込んでいく。
  • 彼女と手をつないでいる写真をupしていても、姉妹なのかと訊かれる。

5. セラピーに行こう。

トランジション中には信じられないほど感情的になることもあれば、勝ち誇った気持ちでいっぱいになることもあり、挫折もあるので、セラピストとメンタルヘルスについて話すべき。

6.他の興味あることを追求しよう。

性別移行はあまりに大きなできごとなので、トランス関係でない本を読むとか、外国語を勉強するとか、散歩するとか、とにかく「トランスであることについて考え続けること」以外のことをする時間を作らないと、気が狂いそうになるのだそうです。

7. 深呼吸して、忍耐強くあれ。

ホルモン剤はよく効くけど、魔法のように一夜にして効果をあらわすものではないから。

8. お金を貯めよう。

性別移行には大金がかかるし、トランスを加入させてくれる保険会社は少ないし、法律上の名前やジェンダーを変えるには(カリフォルニア州では)500ドルも取られるし、ワードローブを全部買い換えるのにもお金が必要です。「今すぐ貯金を始めなさい。将来、過去の自分に感謝することになるから」

9. 性別移行すればすべての問題が解決できると思わないこと。

性別移行するとたしかにたくさんのことが改善されるものの、「性別移行は万能薬ではないので、すべての問題を解決してくれるわけではありません。カミングアウト前に不安に陥りやすかった人は、たぶんカミングアウト後も不安に対処しなければならないでしょう」とのこと。

10. 自分の心に従おう。

トランス女性がラグビー好きでドレス嫌いでもいいし、トランス男性がきらきらしたものや化粧が好きでもいい。性別二元論がしっくりこないなら、どちらか一方のカテゴリーを選ばなくたっていい。「たいていの人には自発的に、そして徹底的に自分を作りかえるチャンスはないけど、トランスにはある。このチャンスを利用して、もっとも本当の自分に忠実なあなたになりましょう」だそうです。