SL内房100周年記念号(前編)列車の概要
公開日:2012年02月13日19:38
今年、内房線蘇我~木更津間と久留里線木更津~久留里間は開業100周年を迎えます。これを記念して、2月10日(金)から3日間、京葉線の千葉みなと駅と内房線木更津駅の間で蒸気機関車C61形20号機がけん引する「SL内房100周年記念号」が運行されました。今回、この列車について試運転を含む計3日間に渡り取材を行いましたので、2記事に分けてその様子をお伝えいたします。
■開業100周年を迎えた内房線と久留里線
内房線は蘇我駅を起点として房総半島の西側を南下し、半島先端にある安房鴨川駅を結ぶ全長119.4kmの路線です。内房線の歴史は1912(明治45)年3月28日に蘇我~姉ヶ崎間の「木更津線」が開業したことに始まります。元号が大正に変わった同年8月21日には木更津駅まで延長され、その後もおおむね年に3駅程度のペースで延長を続けた結果、8年後には安房北条駅(現・館山駅)まで到達し、路線名が「北条線」に改められました。さらにその6年後の1925(大正14)年には安房鴨川駅までの延長が完了し、現在の内房線の形が完成しました。1929(昭和4)年には房総半島の東側を回る「房総線」(現・外房線)が安房鴨川駅まで開通し、既に開通済みの北条線を編入し、房総半島を一周する路線全体が「房総線」を名乗るようになりましたが、その4年後に安房鴨川を境に西側を「房総西線」、東側を「房総東線」という形に分離されました。首都圏に近いながら、この両線の電化は比較的遅い1972(昭和47)年に完成し、路線名を「内房線」「外房線」に改め、同年開業した総武快速線東京地下駅と特急列車で直結され現在に至ります。
また、内房線から分岐する久留里線は木更津駅と半島内部の上総亀山駅を結ぶ全長32.2kmの非電化の路線です。久留里線は千葉県内の道路事情改善の一環として建設された県営鉄道の1つで、1912(大正元)年12月28日に木更津~久留里間が開業しました。建設工事は大日本帝国陸軍鉄道連隊の演習の一環で行われており、軌間は762mm(軽便鉄道)でした。(余談ですが千葉県内にはこのような軍事演習目的で敷設された鉄道が数多くあり、新京成電鉄のように終戦後に跡地を一般の鉄道や道路に転用した箇所も多く存在します。詳細は下記の関連記事をご覧ください。)1922(大正11年)には改正鉄道敷設法で「久留里・大多喜を経由して大原に至る鉄道」が予定線として追加され、翌1923(大正12)年には国に無償譲渡され、鉄道省久留里線となりました。1930(昭和5)年には軌間を1067mmに改軌し、1936(昭和11)年には上総亀山駅まで延伸され現在の形が完成しましたが、戦局の悪化に伴いこの延伸区間は不要不急路線として1944(昭和19)年から終戦後の1947(昭和22)年まで休止されました。
なお、上総亀山~大原間はその一部が「木原線」として開業しましたが、利用者数が極めて少なく、国鉄末期の赤字ローカル線の廃止・整理対象とされ、第三セクターの「いすみ鉄道」に転換されました。第三セクターへの転換後も利用者数の減少は続いており、数年前には具体的な存廃が検討されるなど危機に立たされています。
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■蒸気機関車C61形20号機と旧型客車
左:2007・2008年の運行で使用されたD51形498号機。2007年2月1日撮影
右:2009年の運行で使用されたC57形180号機。2009年2月15日撮影
※クリックで拡大
千葉県内では2007年・2008年・2009年にも蒸気機関車(SL)が運行されています。2007(平成19)年の運行は観光キャンペーン「ちばデスティネーションキャンペーン」の一環として行われたもので、運行区間は内房線千葉~木更津間(SLちばDC号)と木更津~館山間(SL南房総号)で、使用された蒸気機関車はJR東日本管内でイベントに幅広く用いられているD51形498号機でした。千葉県内における蒸気機関車の運行は1989(平成元)年の京葉線「SLコニカ号」以来18年ぶりの快挙です。2008年は前年と同じD51 498を使用し、列車名も「SL南房総号」で変化はありませんでしたが、運行区間がより南側の館山(内房線)~勝浦(外房線)間に移動し、千葉県の特産品である満開の菜の花の中をSLが疾走する光景が展開されました。2009年の運行は千葉みなと(京葉線)~木更津間と再び県央に戻りましたが、使用される機関車はD51 498ではなく新潟県・福島県にまたがる信越本線・磐越西線の「SLばんえつ物語号」のC57形180号機に変わりました。これは前年末にD51 498が運行中のミスによりボイラーを空焚きしてしまい、1年近い修復期間を要するとされたためです。
今回のSL運行に使用されたC61形20号機。
この事故前からJR東日本管内でのSL運行のニーズは高く、D51 498・C57 180の2両だけではその需要に応えられないという場面もまま見られました。そのため、JR東日本では需要の高まりに対応することに加え、万一の際の予備機関車を確保するという方針の下、新たな蒸気機関車の動態復元を目指すこととなり、全国に保存されている蒸気機関車の実態調査が行われました。その結果、群馬県伊勢崎市の華蔵寺公園遊園地に保存されていたC61形20号機の状態が比較的良好であることがわかり、動態復元の対象として選ばれました。
C61形は終戦後の旅客輸送の急増に対応するべく、余剰となっていたD51形のボイラーや各種部品を活用し、C57形の足回りをベースに1947(昭和22)年から1949(昭和24)年にかけて33両が製造されました。今回復元されたC61形20号機は1949年に改造され、東北地方を中心に活躍した後1973(昭和48)年に廃車され、その後は伊勢崎市の華蔵寺公園遊園地で保存されていました。屋根の無い屋外での保存でしたが、塗装などの手入れは行き届いており、部品の盗難なども比較的少ないなど良好な状態を保っていました。復元に向けた修復作業は2010(平成22)年1月より開始され、ボイラーは大阪府にあるサッパボイラで、そのほかの部品は埼玉県にある大宮総合車両センターでそれぞれ徹底した修復が行われました。翌2011(平成23)年2月には修復作業が完了し、大宮総合車両センター内で試運転、3月には38年ぶりとなる正式な車籍復帰を果たし、以後は所属区所である高崎車両センターを拠点に上越線で試運転を行いました。
また、C61形の復活に合わせてJR東日本では所有している旧型客車7両の整備も並行して行いました。主な改造内容は現在の保安基準(鉄道の技術上の基準を定める省令)に適合させるための乗降扉への電磁鍵取り付けや、垂れ流し式だったため使用できなかったトイレへの汚物処理装置追加となっています。旧型客車の概要は以下の通りです。
JR東日本が所有する旧型客車一覧(今回のSL運行では全車使用)
こうして2011年6月4日、C61 20は472席が満席となった旧型客車6両を引き連れ、上越線を「SL C61 復活号」として走行し、華々しい復活を遂げました。その姿は東日本大震災により疲弊した日本に大いなる活力を与えたことでしょう。
なお、この復活までの模様は映画監督の山田洋次氏監修の下克明に記録され、2011年7月16日にNHKスペシャルで放送されました。
今回の内房線ではこのとき使用された6両に加えもう1両旧型客車が追加され、JR東日本が所有する全ての旧型客車を連結するという、上越線を上回る規模での運行が実施されました。次回は2月4日(土)・10日(金)・11日(土・祝)の3日間に渡り追跡した「DL内房100周年記念号」「SL内房100周年記念号」の運行の模様をお伝えいたします。
▼参考
蒸気機関車C6120復元への道 - JR東日本高崎支社
NHKスペシャル|復活 ~山田洋次・SLを撮る~
この春SL内房100周年記念号が房総を走ります! - JR東日本千葉支社(PDF)
国鉄・JR博物館: リニア・鉄道館保存車全ガイド(白川淳・著) - マガジンハウス
▼関連記事
●2007年の運行
木更津駅のD51(2007年2月1日作成)
【速報】SLちばデスティネーションキャンペーン号運転!撮影レポート〈2007年2月1日作成〉
SL/DL南房総号撮影レポート(1)SL南房総号(2007年2月12日作成)
SL/DL南房総号撮影レポート(2)館山駅(2007年2月13日作成)
SL/DL南房総号撮影レポート(3)DL南房総号(2007年2月14日作成)
SL/DL南房総号撮影レポート(4)木更津駅(2007年2月15日作成)
SL/DL南房総号撮影レポート(5)撮影マナー考(2007年2月16日)
●2008年の運行
DL南房総号@館山~九重 - SL/DL南房総号2008〈1〉 (2008年1月28日作成)
勝浦駅折返しの様子 - SL/DL南房総号2008〈2〉 (2008年1月30日作成)
SL南房総号@安房鴨川~太海 - SL/DL南房総号2008〈3〉 (2008年1月31日作成)
館山駅側線で整備中のD51-498 - SL/DL南房総号2008〈4・終〉 (2008年2月1日作成)
●2009年の運行
我が町にSLがやってきた!~SL・DL春さきどり号撮影レポート~(1/2)(2009年2月19日作成)
我が町にSLがやってきた!~SL・DL春さきどり号撮影レポート~(2/2)(2009年11月11日作成)
(後編に続く)
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2007/02/16 23:42
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