成田線「DLおいでよ佐原号」「SLおいでよ銚子号」運転


成田線を駆けるC61

<2月は体調不良諸々によりほとんど更新ができず申し訳ございません。来る3月16日の東横線・副都心線直通が迫っておりますので、本格的に更新を再開いたします。>

2月9日~11日の3日間、毎年恒例となった千葉県でのSL運行が実施されました。今回運行されたのは成田線末端部の佐原~銚子間です。今回も例年と同じく往路・復路の各列車や終着後の様子を取材してまいりましたのでその模様をお伝えいたします。

■東日本大震災の風評被害克服に向けて

 千葉県内の蒸気機関車(SL)列車の運行は2007(平成19)年の観光振興イベント「ちばデスティネーションキャンペーン」で初めて実施され、以後2008・2009・2012年と運転区間や列車の編成を変えつつ4回開催されるなど、春の風物詩となっています。今年は2月9日(土)・10日(日)・11日(月・建国記念の日)の3連休成田線佐原~銚子間「DLおいでよ佐原号」(銚子→佐原)、「SLおいでよ銚子号」(佐原→銚子)として運行されました。

佐原・小野川沿いの歴史的建造物群。 銚子・犬吠埼灯台。
左:佐原・小野川沿いの歴史的建造物群。2008年6月7日撮影
右:銚子・犬吠埼灯台。2007年8月11日撮影

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 今回SLの運行区間に成田線が選ばれたのは、東日本大震災の風評被害により観光客数の減少が深刻な銚子・佐原地区の観光を復興する目的がありました。
 2011(平成23)年3月11日に発生した東日本大震災では千葉県内でも最大で震度6弱の揺れを記録したほか、太平洋に面した九十九里地区では津波により甚大な被害が出ました。また、地震直後に発生した福島県の東京電力福島第一原子力発電所事故では、首都圏に至る広範囲に放射性物質が拡散する事態になりました。これらの風評被害の影響により2011年度の千葉県内の観光客数は前年比15%近い減少となり、銚子市では犬吠埼にあるホテルが倒産するなど観光面で深刻な打撃を受けています。東日本大震災では銚子・佐原地区でも津波や液状化現象により被害はあったものの、東北3県のような深刻な状況には至っていません。また、原発事故による放射能汚染は県北西部を中心に問題となっていますが、その範囲外である銚子・佐原地区については現在に至るまで異常な空間線量は記録されず、農作物・水産物についても適切な出荷規制などの措置が取られていることから、十分な安全性が確保されています。 
 震災から2年が経過し、被害を受けた地区の復旧工事もかなり進んでおり、観光客の受け入れにも問題無いレベルに回復しています。今回のSL運行は、復興途上にある銚子・佐原地区に観光客を呼び戻そうという狙いがありました。

■「DLおいでよ佐原号」「SLおいでよ銚子号」

 今回の「DLおいでよ佐原号」「SLおいでよ銚子号」で使用された車両は、昨年の内房線での運行と同じ蒸気機関車C61形20号機と旧型客車です。C61形20号機はJR東日本管内でのSL運行需要の高まりに応えるべく2011年に動態復元されたもので、旧型客車もC61形の復元に合わせて本線走行ができるよう再整備されたもので、今回は昨年の運転時より1両減車した6両が使用されました。

●DLおいでよ佐原号

<9420列車>
銚子10:37発→笹川11:18着・12:00発→佐原12:30着

往路の「DLおいでよ佐原号」。全区間ともフロント部分はほぼ逆光だった。
往路の「DLおいでよ佐原号」。全区間ともフロント部分はほぼ逆光だった。
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今回もこれまでと同様に「往路はディーゼル機関車けん引」「復路は蒸気機関車けん引」のスタイルで運行されました。往路をけん引したディーゼル機関車はDE10形1752号機で、銚子→佐原の向きで運転することから列車名は「おいでよ佐原号」とされました。復路をけん引する蒸気機関車は最後尾に連結済みとなっており、全区間動力は使わないぶら下がり運転とされました。
 2006年の初運行時には線路内に進入する撮影者による緊急停車が続出したことから、今回も沿線には随所に早朝から警備員・警察官が配備されたほか、特に人が多い箇所については線路脇にトラロープが張られ、立入禁止エリアが明確化されました。しかし、この往路の列車は午前中かつディーゼル機関車けん引ということもあり、見物客はさほど多くはありませんでした。

房総各線で使用されている209系2000・2100番台。 水郷駅付近にある遠方信号機(四隅が角ばった信号機)は「自動閉塞(特殊)」の証。
左:房総各線で使用されている209系2000・2100番台。
右:水郷駅付近にある遠方信号機(四隅が角ばった信号機)は「自動閉塞(特殊)」の証。

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 今回の列車の特徴としては往路の出発時刻が例年と比べ1時間程度遅くなっているということがあげられます。また、成田線香取~松岸間は最大で1時間半程度運行間隔が開いている時間帯があり、例年のような「往路のDL列車を撮影した後佐原駅まで追跡し、さらに別の場所に行ってSL列車を撮影する」といった行動は移動時間を考慮するとほとんど不可能となっていました。これらの特徴は成田線の信号設備との関連があるものと思われます。
 今回の運行区間である成田線佐原~銚子間のうち、水郷~松岸間約28kmは「自動閉塞(特殊)」という信号システムになっています。これは通常用いられる自動閉塞を基本とし、列車本数が極端に少ない路線向けにコスト削減のため大幅に設備を簡素化したものです。具体的には通常連動駅(停車場)間に設置する閉塞信号機を省略し、駅間全体を1個の閉塞としており、前の列車が次の駅に到着するまで続行運転をすることができません。また、今回の区間では各駅とも優等列車の追い抜きや折り返しを行わないことを前提に信号機やATS機器の数量が極限まで削減されており、途中駅で他の列車を先行させたり同じ駅に長時間停車させるといったダイヤ構成も不可能でした。
 今回は周囲が田畑で開けており人気のあった水郷~小見川間で両列車を迎えることにしましたが、このような事情もあり往路のDL列車通過から復路のSL列車通過までの約2時間同じ場所に留まらざるを得ませんでした。当日は気温が10度を下回っていたほか、風もかなり強く、待機している間の寒さは筆舌に尽くしがたい辛さがありました。(結果、数日後に体調を崩してしまうことになるのはお察しの通りです。)

●SLおいでよ銚子号





<9421列車>
佐原13:53発→笹川14:18着・15:00発→銚子15:47着

直前に飛来したモーターグライダー 激しく煙を吐きながら接近中
左:直前に飛来したモーターグライダー
右:激しく煙を吐きながら接近中

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 復路は蒸気機関車C61形20号機けん引で、佐原→銚子の向きで運行されることから列車名は「おいでよ銚子号」とされました。午後に入ったこともあり、通過直前には周囲全体で数百名に及ぶギャラリーが詰めかけ、通過する列車を迎えました。また、今回はJR東日本千葉支社より事前に「手を振ろうプロジェクト」と題し、SL列車から沿線で手を振ったり横断幕を掲げたりする様子を映像収録することが告知されており、ホームページでは列車の運行ダイヤと手の形をした塗り絵が描かれた専用チラシも配布されました。子連れのギャラリーの中にはこのチラシを使用する様子も見ることができました。
 また、近傍を流れる利根川の河川敷に飛行場(大利根飛行場)がある立地を生かし、何とモーターグライダーを駆使して空撮を敢行する方もおり、今回訪れた11日もその姿を確認することができました。空撮写真は以下のブログで公開されていますのでぜひご覧ください。

▼参考
今日も上空からSLを空撮してきました~: けいぶんの「そらみたことか!」

全速力で目の前を通過する「SLおいでよ銚子号」
全速力で目の前を通過する「SLおいでよ銚子号」
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力行状態を維持したまま過ぎ去る「SLおいでよ銚子号」 力行状態を維持したまま過ぎ去る「SLおいでよ銚子号」
力行状態を維持したまま過ぎ去る「SLおいでよ銚子号」
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「SLおいでよ銚子号」は前記した運行ダイヤの制約もあり、例年とは異なりほぼ全区間で最高速度65km/hに近い運転が行われていた模様で、今回撮影した水郷→小見川は若干上り勾配となっていることから盛大に煙を吐く様子を見ることができました。

DLおいでよ佐原号/SLおいでよ銚子号 - YouTube 強風につき音量注意!

●銚子駅到着後
銚子駅到着後留置線に引き上げるのを待っている「SLおいでよ銚子号」。携帯電話のカメラの普及率の高さをうかがわせる光景。
C61の運転席脇の所属表記は「銚」 客車中央側面のサボ
上:銚子駅到着後留置線に引き上げるのを待っている「SLおいでよ銚子号」。携帯電話のカメラの普及率の高さをうかがわせる光景。
下左:C61の運転席脇の所属表記は「銚」
下右:客車中央側面のサボ

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 SL列車の1時間後にある下り列車を利用すると、銚子駅に停車中のSL列車を辛うじて見ることができるのがわかっていたため、今回は銚子駅に移動しました。銚子駅ではSL列車が駅舎に面した1番線に停車しており、乗ってきた成田線の下り列車は隣の2番線に到着となったため、SL列車の編成全車を見られるというのは残念ながら叶いませんでしたが、一応側面の表記類などは見られる位置での停車となっていました。SL列車は成田線下り列車の到着からおよそ10分後に松岸駅側にある留置線に引き上げました。今回訪れたのは運行最終日だったため、編成全車とも所属区所である高崎への返却に向けた整備が行われた模様です。

■施設リニューアル・グッズ販売・イベントも同時実施
SL運行に合わせてリニューアルされた成田線佐原~銚子間の各駅の駅名標。
佐原・笹川・銚子の3駅はSL運行期間中のみ写真入りの特別仕様となっていた。 佐原・笹川・銚子の3駅はSL運行期間中のみ写真入りの特別仕様となっていた。
SL運行に合わせてリニューアルされた成田線佐原~銚子間の各駅の駅名標。佐原・笹川・銚子の3駅はSL運行期間中のみ写真入りの特別仕様となっていた。
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 今回のSL運行に合わせて途中停車駅である笹川駅では傷んだ駅舎の再塗装などのリニューアルが実施されました。また、運行区間内の各駅ではホームの駅名標が新しいものに交換されました。新しい駅名標は紫色をベースに各駅で異なる植物などのシンボルがえがかれています。なお、佐原・笹川・銚子の3駅についてはSL運行期間中(2月9~11日)に限りC61形の写真が入った特別仕様の駅名標が使用されました。

佐原駅前の特設ステージ 佐原駅・銚子駅で発売された記念入場券。(黒い方が銚子駅発売分、赤い方が佐原駅発売分。)
左:佐原駅前の特設ステージ
右:佐原駅・銚子駅で発売された記念入場券。(黒い方が銚子駅発売分、赤い方が佐原駅発売分。)

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 SL運行初日の9日は佐原駅・笹川駅で出発式、銚子駅で到着式が開催されたほか、運行期間中は駅前では地元特産の食べ物などの販売会などが実施されました。また、佐原駅・銚子駅ではSL運行を記念した入場券が発売されました。発売された入場券は双方の駅で内容が異なり、佐原駅発売分は佐原~笹川、銚子駅発売分は下総橘~銚子の各駅の硬券入場券(140円)が1枚ずつ封入されており、価格はいずれも700円、6000セットずつ販売されました。

銚子電鉄で販売されていた90周年記念&SL運行記念入場券
銚子電鉄で販売された開業90周年記念&SL運行記念入場券
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 SL運行直前の2月1日、銚子市を走る私鉄路線である銚子電鉄が自社単独での経営再建を断念し、上下分離方式で存続を図っていくことが発表されたのは多くの方がご存知のことでしょう。銚子電鉄は2006年に当時の社長が業務上横領で逮捕され、銚子市からの補助金交付がストップされてしまいました。この結果、日々の車両のメンテナンスにも事欠く程の深刻な経営危機に陥り、ホームページ上で副業として生産しているぬれ煎餅の購入を呼び掛けたことから全国的に話題となりました。その効果により、老朽化した設備や車両の更新が進められるようになりましたが、それから5年以上経ちブームが沈静化してしまったことに加え、東日本大震災による大幅な観光客の減少により再び経営危機が表面化してしまった格好です。折しも銚子電鉄は今年開業90周年を迎えており、成田線のSL運行に合わせて記念グッズ販売が行われることを知り、少しでも応援しようとその購入のため銚子駅に立ち寄りました。
 震災から間もなく2年が経過しますが、千葉県に限らず被災地ではなかなか復興が進まず、厳しい生活を余儀なくされている人たちが存在します。我々にできることは限られているのが実情ですが、これから行楽にも適したシーズンを迎えることもあり、何かの形で少しでも復興に貢献できることを見つけ、行動に移していきたいと考えています。

▼参考
『SLおいでよ銚子号』 運転を記念してイベントを行います! - JR東日本千葉支社(PDF)
平成23年観光客の入込動向について/千葉県
観光客入込動向 | 銚子市
上下分離方式で再建へ 施設整備が経営圧迫 銚子電鉄 | ちばとぴ ちばの耳より情報満載 千葉日報ウェブ

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●2012年の運行
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