豪鬼メモ

MT車練習中

ブロンプトンのBB換装の罠

小径車ながら走りもそこそこいけるブロンプトンだが、ボトムブラケットを換装するともうちょい走りが良くなるという話を聞いて、やってみた。しかし、めっちゃ金と手間をかけたのに、効果が全くなかったというか、逆効果だった。(追記:後にグリスアップしたら性能が回復した)


BB(ボトムブラケット)とは、広義には左右のクランクを繋ぐ軸を車体に通す部位の総体を指すが、BBの穴の部分に装着するベアリングを使った稼働部分(ボトムブラケットシェル)のことも狭義のBBと呼ばれる。本稿では前者をBB、後者をBBシェルと呼ぶ。BBシェルの摩擦力が大きくて円滑に回転しない場合には、走行感がもっさりするという。一方で、BBシェルの摩擦力が小さくて円滑に回転する場合には、走行感が軽快になるという。その他、剛性や重量や耐久性を考えてBBシェルは選ばれる。

ブロンプトン純正のBBシェルは樹脂製であり、車体価格がお高い割にはBBシェルが安っぽいとの評判である。私の場合、純正のBBシェルはシャフトが折れてしまったので、5年くらい前に購入店で別の樹脂製のBBシェルに換装してもらっていた。純正に交換するって依頼だったと思うのだが、元々ついていたものとは微妙に違うものになっていた。おそらく純正の仕様が変わっただけで、新しい方も純正なのだとは思う。

BBシェルをサードパーティ製のものに変えるのは定番のカスタマイズらしく、Token社のものとタンゲ精機社のものがよく使われているっぽい。タンゲ精機のブロンプトン軸長118mmのLN-7922なる製品がオークションで手に入ったので、私はそれを使うことにした。ブロンプトンのBBの軸長は119mmだが、118mmでも使えるらしい。また、スクエアテーパー(回転軸の端の四角い部分)の形は2013年以前の古いモデルではISO規格でそれ以降の新しいモデルではJIS規格だそうだが、私の2016年モデルではJIS規格だ。現在市場にあるスクエアテーパー用のBBシェルのほとんどはJIS規格だし、クランクも同様にJIS規格のものが多いので、互換性に関してはそんなに気にしないでよさそうだ。

純正BBシェルとタンゲのBBシェルの軸を手で回して比べてみると、むしろ純正の方がよく回る。じゃあそのままでもいいんじゃないかと思ったが、手指の力で低速で回転させるだけでは本当の価値はわからない。ネット上のレビューをいくつか見る限りでは、手で回しても純正よりよく回るって話なのだが、少なくとも私の手元のものはそうではない。ともかく、せっかくタンゲを買ったのでつけてみよう。

実際の換装作業には、めっちゃ手こずった。まず、クランクをBBシェルから外す必要があるのだが、固定用のボルトが固着していて全く回らないのだ。kure556を吹いて一晩置くとか、接合部をバーナーで炙って熱膨張させるとか、ハンマーでボルトを叩くとか、いろいろやってみたが、一向に動かなかった。バーナーは樹脂が焦げるのでやめた方がいい。最終的には、kure556を吹いてすぐにハンマーで電マ的に細かく叩くことで隙間に浸透させるというのが奏功した。

固定用のボルトを外したら、次にクランクをスクエアテーパーから剥がすことになる。これも大変だった。コッタレスクランク抜きという専用工具が必要なので買ってきたが、それを使っても、やはり固着していて動かない。そこで、また隙間にkure556を吹いてから電マ風に叩く作戦をしたところ、なんとか外せた。

次に、BBシェルをBBの穴から外すのだが、これも固着していて外せない。BBシェルを回すためのキャップをつけてスパナで回そうとするとが、力をかけると接合部が舐めてしまって、BBシェルは全く動かない。kure556と電マ風叩きをやったが、それでも回らない。そこで、BBシェルを回すためだけの専用工具をさらに買って、それでやっと外せた。

外した純正BBシェルの代わりにタンゲのBBシェルを挿入しようとすると、また別の問題が起こった。ネジの溝が舐めてしまって入らないのだ。純正では、わざとBBの穴を小さめにした上で、樹脂製のBBシェルを圧縮して挿入することで、ずれなくしているらしい。よって、サードパーティの金属製のBBシェルを入れる際には、ネジの溝を作り直すタッピング(タップ立て)という行程が必要になるそうな。タッピングは専用工具が必要なのだが、5万円とか10万円とかするので、自分でやるのは現実的ではない。仕方ないので、近所にあるあさひサイクルベースに持ち込んでやってもらった。工賃4200円くらい。

あとは、タンゲのBBシェルを突っ込んで、クランクを付け直して、ギアとタイヤとチェーンを元に戻せば完成だ。まじ苦労した。ここまで手間と金をかけるくらいなら、そもそもBBの購入と換装まで含めて全部プロに任せた方が良かっただろう。まあ、失敗を繰り返しつつ学んでいくのが趣味だと考えれば、できるだけ自分でやることに後悔はないが。

さて、実際の乗り味はどうなのか確かめてみた。漕ぎ出しは、正直ほとんど変わらないと思う。タンゲの方がよく回るという風には感じなかった。「驚くほど軽い」とか「生まれ変わったかのような走り」とか書いてあるレビューは何だったのだろう。元々ついていたものがよほど劣化した状態だったのか、プラセボ効果なのか、埋没費用バイアスなのか。

30km/hとかの高速走行もしてみたが、全く軽くなっていない。トルクやケイデンスが高い状態での方が効果を感じやすいのかもしれないと思ったが、そうでもない。総じて、1万円以上の金と何十時間もの手間をかけた割には、明確に弁別できるほどの差がなくて期待外れだった。

やはり、手で回した時に純正の方がタンゲよりよく回る時点で、純正の方が優秀なんじゃなかろうか。タンゲで50kmほど慣らし運転をしてみても、タンゲの方が重いことには変わりなかった。なんとなくでは気が済まないので、定量的に比較実験をしてみた。チェーンを外してペダルとクランクとチェーンリングだけつけた状態で、クランクを思いっきり回してみて、何秒で止まるかを調べた。純正とタンゲで6回ずつ試行して平均をとった。

1 2 3 4 5 6 平均
純正BBシェル 23.10 23.49 23.84 24.26 25.56 25.11 24.22
タンゲBBシェル 20.84 22.12 21.18 20.97 21.00 22.11 21.37

てことで、明らかに純正BBシェルの方がよく回ることが確認された。タンゲ社の名誉のために添えておくと、オークションで買った私の個体に異常があるだけの可能性もある。これは製品レビューではない。現時点で言えるのは、私が持っているタンゲBBシェルはいまいち回転が悪く、純正の方が大分マシだということだ。今までの苦労は何だったんだ。まあ、勉強になったからいいかと思って、純正BBシェルに戻す作業を行なった。が、そこで事件は起きた。純正BBシェルを嵌めた際にきつく回しすぎて、BBシェルの頭がとれてしまったのだ。樹脂製なので、穴が舐めるとかそういうレベルではなくて、頭の部分がごっそりとなくなってしまった。これ、もう詰んでる。

通常の工具では絶対に外せない状態になってしまったので、もうこのブロンプトンはBBシェルを交換できない車体になってしまった。幸にしてそこそこよく回るBBシェルなので、しばらくは使えるが、ベアリングが劣化したりシャフトが歪んだり折れたりしても交換できなくなったのは辛い。どうしても交換したいとなったら、ドリルとかで破壊して外すことになるのかな。まあ、その時に考えることにしよう。良い方法をご存知の方がいたらお教え願いたい。あるいは、この作業に実績のある店があれば紹介いただきたい。

まとめ。BBシェルの交換は、かなりの手間と金がかかる割に、走行性能が向上するとは限らない。新しいBBシェルを買う前に、店とかで実物を手で回してみて、現状のBBシェルとどちらがよく回るかを比べた方がいい。また、交換作業は素人がやると失敗する。エジソンの言葉を借りて、「失敗ではない。うまくいかない方法を発見したのだ」って言い聞かせるにしても、高い授業料だ。