豪鬼メモ

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Lightroomでクラシッククローム風の仕上げ

富士フイルムのカメラが備えるクラシッククロームというフィルムシミュレーションの絵作りをLightroomで再現してみた。RAW撮りすれば他社製カメラでもOK。


富士フイルムのカメラの売り文句のひとつとして、フィルムシミュレーションというカメラ内現像プリセットの充実がある。中でもクラシッククロームという設定は興味深い。公式サイト(これとかこれとか)に詳しい説明があるが、モノクローム写真の美点をカラー写真に導入したというあたりが醍醐味っぽい。私が考えるモノクロ写真の美点については以前の記事でも述べたが、構図や陰影を強調しやすいのが最大の点だ。また、古ぼけた感じになるというか、いつ撮ったかという時間感覚が失われた表現になるというのも特徴的だと思う。

開発者が語っているように、フィルムシミュレーションの絶妙なチューニングはその道のプロが研究を積み重ねて編み出したものであるから簡単に再現できるものではないのだろうが、それっぽい模倣を試みることは素人にもできる。公式の説明を読んだり何十個かの作例を見て私が理解した範囲では、クラシッククロームには以下の特徴がある。

  • 全体的に彩度が低く、比較的に赤の彩度低下が大きい。
  • 色相が緑に傾き、マゼンタが出にくくなる。黄色や緑はやや青方向に傾く。
  • シャドウを下げて固くした結果、全体のコントラストがちょっと上がる。
  • ハイライトは上げないで柔らかめ。

ここで挙げた特徴をLightroomの現像プリセットとして解釈すると、以下のものになる。これをClassic_Chrome.lrtemplateとかいう名前でLibrary/Application Support/Adobe/Lightroom/Develop Presets以下に置くと使えるようになる。この設定を豪クラシッククロームと呼ぶことにする。

s = {
  id = "4D261B5E-4953-4724-A92B-E3B780630002",
  internalName = "Color Classic Chrome",
  title = "Color Classic Chrome",
  type = "Develop",
  value = {
    settings = {
      CameraProfile = "Adobe Standard",
      EnableCalibration = true,
      RedHue = 5,
      RedSaturation = -5,
      GreenHue = 0,
      GreenSaturation = 0,
      BlueHue = -15,
      BlueSaturation = 0,
      Contrast2012 = 25,
      Clarity2012 = 5,
      Shadows2012 = -5,
      Blacks2012 = -5,
      Highlights2012 = 25,
      Whites2012 = -60,
      Vibrance = -15,
      Saturation = -5,
      ShadowTint = -2,
      EnableColorAdjustments = true,
      HueAdjustmentRed = -5,
      SaturationAdjustmentRed = 0,
      LuminanceAdjustmentRed = 5,
      HueAdjustmentOrange = 0,
      SaturationAdjustmentOrange = 0,
      LuminanceAdjustmentOrange = -5,
      HueAdjustmentYellow = 5,
      SaturationAdjustmentYellow = 0,
      LuminanceAdjustmentYellow = -10,
      HueAdjustmentGreen = 10,
      SaturationAdjustmentGreen = 0,
      LuminanceAdjustmentGreen = -10,
      HueAdjustmentAqua = 5,
      SaturationAdjustmentAqua = 0,
      LuminanceAdjustmentAqua = -10,
      HueAdjustmentBlue = 0,
      SaturationAdjustmentBlue = 0,
      LuminanceAdjustmentBlue = -10,
      HueAdjustmentPurple = 0,
      SaturationAdjustmentPurple = 0,
      LuminanceAdjustmentPurple = -10,
      HueAdjustmentMagenta = 0,
      SaturationAdjustmentMagenta = 0,
      LuminanceAdjustmentMagenta = -5,
      ToneCurveName2012 = "Linear",
      ToneCurvePV2012 = { 0,0,5,5,150,162,250,250,255,255 },
      ToneCurvePV2012Blue = { 0, 0, 255, 255 },
      ToneCurvePV2012Green = { 0, 0, 255, 255 },
      ToneCurvePV2012Red = { 0, 0, 255, 255 },
    },
    uuid = "A634E490-34EF-4312-8141-B03B6D060002",
  },
  version = 0,
}

まずは色相を調整する。それにあたり、色相環を参照されたい。色相を緑色に傾けるということは、赤のヒューはプラス方向に、青のヒューはマイナス方向に偏らせることになる。青空に見られる特徴的な黄ばみを出すべく、青の移動量の方が大きい。赤のプラスの移動量より青のマイナスの移動量が大きいので緑は少しマイナスの方向にしたくなるが、緑は変えないでおくことで、やや青かぶりにする。また、空色にマゼンタが出にくくするように、赤の彩度を少しだけ落とす。ちなみに、以前に書いたオリンパス機用現像設定では、マゼンタとイエローを嫌って赤とシアンに偏る設定になっていたが、このクラシッククローム風設定では、マゼンタのみを強烈に嫌って、緑に偏るようになっている。

次に、全体的に彩度を下げていきたいわけだが、Saturationの設定は少ししか落とさずに、Vibranceを大胆に落とす。Saturationは線形に彩度を落とすので、彩度が高い部分への影響が比較的に大きく、変えすぎるといかにもアートフィルタっぽい仕上がりになってしまう。一方、Vibranceはガンマ補正的に中間点以上の彩度のメリハリをつけるように働くので、大きく変えてもより自然な仕上がりになる。

そして、全体のコントラストを大幅に上げる。そうすると白とびしやすくなるので、ホワイトとハイライトを大幅に下げる。ブラックとシャドウも下げて引き締める。全体のメリハリをつけるべく、明瞭度を少し上げる。シャドウもハイライトも下げた結果として全体的に画面が暗くなってしまうので、それを相殺すべくトーンカーブを調整して中間域を持ち上げる。プリセットには入れていないが、古ぼけた感じを出すためにはさらに周辺減光を加えるとよい。

仕上げに、色調整パレットで微調整を行う。赤が黄色っぽくずれたのを相殺すべく、Redのヒューをマイナス方向にずらす。青が弱くなった結果緑の周辺が赤かぶりしがちなので、YellowとGreenとAquaをプラス方向にずらす。BlueとPurpleとMagentaはそのままでよい。また、Redの輝度を上げて純色が出にくくし、逆に他の色の輝度は下げて、ハイライト部分でも色が出やすくする。そして、暗部のみを緑に傾けたいので、ShadowTintをちょっとだけマイナスに振る。そうすると、あら不思議、クラシックな絵が出て来る。


Lightroomのデフォルト設定とこの豪クラシッククローム設定を並べると、効果がわかりやすい。まず、青の色転びが激しいのがわかる。空が独特の黄ばんだ感じになるのが目につく。ていうかデフォルト設定の空色はどう考えてもマゼンタ寄りすぎるだろ。

全体の彩度が著しく下がり、生物も無生物も年季が入った感じになる。ポートレートにはあまり向かないと思うが、もし人物写真に使うのなら明瞭度は下げた方がいいかも。

人物写真に適用するにしても、ちょっと引きで入っている感じの方がよさげ。黄緑っぽい画面に対する変化はあまりないので、使いやすいとも言えるが、効果が物足りないとも言える。

花に使うのも、あんまり向いてないかな。敢えて昭和っぽい雰囲気を出したい場合にはいいのかもしれない。

食べ物にも向かない。たいてい不味そうになってしまう。

赤の彩度低下の影響をもろに受けるので、赤がテーマの写真は台無しになってしまう。

古そうなものに適用すると、やっぱりしっくり来る。

古そうで、かつ和風のものはさらによさげ。侘び寂び感が増す。

ストリートスナップ的な写真には結構合う気がする。何の変哲もない写真が、なんか事件が起きた風な雰囲気を醸し出してくれる。

逆光とか半逆光とかのシーンにも合うと思う。シャドウが締まることで光が強調される。

こんなナイーブな設定を玄人が見たら噴飯ものなのかもしれないけれども、なんか古ぼけた、しかし力強い水墨画的な、あるいはシリアスなドキュメンタリー的な印象をカラーで表現したいという目標はとりあえず達成できた。富士の実機を持っていないのでまともな調整ができないのだが、富士の完全再現を目指しているわけじゃないからまあいいや。


富士のRAWファイルにLightroom付属の富士用のカメラプロファイルのクラシッククロームを適用したところ、私の設定と方向性はだいたい同じだということはわかる。ネットに落ちてる非富士機向きのプリセットの中ではかなり頑張っている方だと思う。いくつかの例を、デフォルト設定、豪クラシッククローム、カメラプロファイルクラシッククロームの順で並べてみる。








色相はだいたい合っていそうだ。細かなチューニングはあれど、青と赤のヒューを緑に寄せる方向性で間違いはないだろう。コントラストはカメラプロファイルの方がもっと強く、黒つぶれを厭わずにシャドウを下げてくるようだ。しかし、固すぎるのは好きじゃないので、豪クラクロの方が好みだ。また、カメラプロファイルでは彩度を低下させる際に明るい部分ほど彩度を低下させて暗い部分ほど彩度を維持するようになっているっぽいけど、それに相当する処理はLightroom上のプリセットでは実現できない。ブラシを使ったり輝度でマスクをかければできそうだけど、ちょい面倒。




経験則としてあるのが、モノクロで現像して格好いい写真は、おそらくクラシッククロームでも面白いということだ。なので、いくつかの例をデフォルトと豪クラクロとモノクロで並べてみよう。






モノクロ写真で伝えたい陰影の迫力がクラシッククローム調でもそれなりに伝わるし、むしろモノクロよりも好ましい場合も少なくなさそうだ。ところで、モノクロがコントラストアップ処理に強いように、クラクロもコントラストアップに強いかどうかも確かめたい。豪クラクロの例に対してさらにコントラスト+10、明瞭度+10、自然な彩度-10してみるとこうなる。



かなり強烈な加工をしているのに、不自然にならないのがクラシッククローム調の面白いところだ。オリンパス機にはドラマチックトーンというアートフィルタがあるけれど、それと似たような強い印象を与えつつ、絵が破綻した感じにならない。クラシッククローム調の写真ばかりを見た後に普通の仕上げの写真を見るとむしろ不自然にポップに見えてしまう。色の忠実性を捨てても違和感がない表現ができるというのは素敵な話で、モノクロと並ぶ選択肢として活用するのもいいかもしれない。

ベルビア編、プロビア/アスティア編に続く。