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折りたたみ自転車Bromptonを購入

折りたたみ自転車(フォールディングバイク)が静かなブームなのかどうか知らないが、近年になって実用的なものが増えてきている。中でもコンパクトかつ軽快な走りをするという噂のBrompton(ブロンプトン)を買ってみた。


私が住んでいる上目黒から勤務地の六本木までは、4.9kmの道のりであり、自転車通勤には丁度いい。30分くらいで通えるので、往復60分の軽い運動ということになって、健康な生活をする上では最適だろう。一方で、オフィスビル内の駐輪場が一日500円という法外な価格設定なので、それだったら電車通勤した方がマシということになってしまう。このジレンマを解決するのが折りたたみ自転車である。折りたたんでオフィスに持ち込めば金がかからない。さらに自分のアパートの駐輪場代も浮くし、家の中に保管できるので自転車自体も長持ちする。いいことずくめだ。

調べてみると、折りたたみ自転車の世界はなかなか奥が深い。いろんなブランドがいろんな形や特徴のある自転車を出している。基本的には以下のトレードオフのバランスをとるべく各社は取り組んでいるらしい。

  • 収納性や可搬性が高く、小さく折りたためるものほど、走行性能は悪くなる。
  • 複雑な機構を導入すると、脆くなったり重くなったり、折りたたみと展開の操作が面倒になったりする。
  • カーボンやチタンなどの軽くて強い素材は、値段が高くなる。

Web上でレビューを読みあさったり、自転車好きの知人に話を聞いたりした後、最終的には折りたたみ自転車専門店の店員さんと話し込んで、Bromptonに決めた。正確に言えば、Brompton S2L 2016年モデルのBlack editionである。知人にはBike Fridayを勧められたが、日本では流通していなくて4ヶ月待ちとのことで断念。その他、様々なメーカーを調べたが、最終的には定番とも言えるところに落ち着いた。

ネットで事前に調査したところによると、Bromptonは折りたたみ性能や剛性や耐久性に申し分ないという評判だが、ハンドルが軽すぎて直進性能が悪く、またタイヤの回りが悪いので巡航速度が悪くなるという話が各所に見られた。一方でORiの20インチはBromptonより大口径な割に小さくかつ簡単に折り畳めるらしいので、自転車屋に足を運んだ時点ではそちらが本命であった。店に入ってその話をすると、のっけからORiはメンテ性に難があるからおすすめしないと言われて、それよりはTyrellの18インチがおすすめだと。ロード車並に走れる折り畳み自転車というコンセプトで作られているらしい。国産だしコスパもいい。しかし、両方の折り畳みの実演を見たところ、Tyrellは面倒な上にあまり小さくならない。なら予定通りORiかなとなりそうになったが、そこで敢えてBromptonを勧めてくる店員さん。その態度は商売抜きなわけで、おそらく本当にBromptonを推したいのだろう。

そこで、Bromptonの良さを語ってもらった。やはり折りたたみ性能がピカイチなのと、耐久性やメンテナンス性で老舗だけのことがあるとのこと。そして、わざわざ小口径車を乗るなら、普通の大口径車と違う乗り味の方が楽しく、その意味ではTyrellはむしろ物足りないのだと。マニアならではの視点だ。さらに、Bromptonはタイヤの回りが悪いとの評判は内装ギアの非効率性から来ているはずで、それは外装ギアモデルにすれば感じないと。なかなか説得力がある。タイヤの口径が16インチなのは20インチに比べて走行性能に劣るというのは事実なので、それを踏まえて総合的に判断すべしと。晴れた日にまた来て外で試乗してから決めた方がいいとも言われた。なら、家で悩んでまた来るかなぁとも思ったが、そうするとまたしばらく買わなそうなので、その場で決めることにした。

で、自分のユースケースを考える。上目黒から六本木までの4.9kmの行程に悪路はないし、巡航速度も20km/h以下だろう。そうなると、やはり走行性能より折り畳み性能の方を重視したい。出し入れするのが面倒だと乗らなくなるからだ。そう考えると、店員さんのBrompton推しに乗ってみるのも悪くはない。外装ギアモデルはS2Lの1モデルだけだが、ギアが2段だけなのも好感が持てる。レースでもないのに9段とかいらない。折りたたみ自転車の中ではBromptonは人気機種なので、ちょっと差別化すべく、割高とも思えるBlack Editionを選択。ということで、金20万円なり。命を預けるデバイスなのでノートPCやデジカメより高いのは感覚的に納得がいくのだが、それにしてもいいお値段だ。誕生日プレゼント枠で買って貰えることになってはいるのだが、なかなかビッグな買い物であった。実は今月に誕生日があり、そこで家族から「好きな自転車が買える券」をいただいていたので、それを行使したものである。

そしてワクテカしつつ二週間待って、いよいよ納車。めちゃかっこいい。子供たちと相談して、すでにチルチル3号という名前をつけてある。

いざ乗ってみると、期待通りの走りをするではないか。ロードバイクの走りを期待すると期待はずれと感じるだろうが、ママチャリよりは遥かに軽快に走れる。ホイールが小径であることによる走破性の悪さを覚悟していたが、舗装路を走っている限りでは問題にはならないと思う。外装ギアのおかげか、ホイールの回転が悪いと感じることもない。くるくる回って軽い自転車というのが素直な感想だ。レビューでよく言われるようにハンドルがやたら軽くてふらつきやすいと感じるが、片手運転やよほどの高速走行をしない限りは問題無い。ただ、急な下り坂でスピードを出して降りようとすると正直ちょっと怖い。そういうシーンで無理にスピードを出さなくなるので逆に安全とも言えるが。

なぜこんなにハンドルの操作感が軽いかというと、トレール量が25mmくらいしかないかららしい。トレール量とは、ハンドルの回転軸を伸ばした直線と地面が接する点Aと、前輪のシャフトから地面に垂線を降ろして接した点Bの間の距離である。走行時には点Aが点Bを引っ張る方向で力が働くため、両者の距離が離れているほど、舵角を車体の傾きに合わせようとするセルフステアの力が大きくなって安定するそうな。ハンドルの回転軸を伸ばした直線と垂直の間の角度のことをキャスター角と言うが、ブロンプトンのキャスター角は18度であり、それは一般的なロードバイクとそんなに変わらない。しかし、車輪が16インチと小さいので、点Aが前に伸びない。その割にはフロントフォークが前に迫り出すことによるオフセットが取られていて、点Bが前に伸びる。結果としてトレール量は小さくなる。一般的なロードバイクのトレール量は60mmくらいであり、一般的なマウンテンバイクのトレール量は100mmくらいであることから考えると、ブロンプトンの25mmはやたら小さい。直進安定性が低く、ハンドルがふらつく感覚になるのも当然だ。オフセットが大きいとP点(ハンドル回転軸の延長線と前輪中心を通る垂線が交わる点)の高さが低くなってハンドリングが重くなる効果があるのだが、やはりトレール量が小さい影響が大きく、直進安定性は低いと言わざるを得ない。両手放し運転は怖くてできないレベルだ。しかし、慣れてしまえば、ヒラヒラ曲がれる感覚が楽しく感じてきて、逆に普通の自転車のハンドリングがもっさりしているようにすら感じるようになる。

ブロンプトンのホイールベース(前輪軸と後輪軸の距離)は1045mmらしい。ロードバイクのホイールベースは950mmから1000mmくらいまでであることが多いことを考えると、ブロンプトンのそれは長い。性能を追求してそうなったというより、3つ折りの折り畳みなので必然的に長くなってしまったと推察する。ホイールベースが長いと、直進安定性が増す。前輪の位置がコーナー内側に移動する量に対する後輪の進行方向の変化が小さくなり、車体全体の進行方向の変化も小さくなる。上述のように前輪はふらつきやすいが、車体全体は安定しているので、ハンドルをしっかり握ってさえいれば、不安なく真っ直ぐ走れるようになっている。面白い調整だと思う。ホイールベースが長いことのもう一つの利点は前後の重心変化に強く、急ブレーキ時のジャックナイフ転倒や急加速時のウィリー転倒が起こりにくくなることだ。小径車は元々ジャックナイフ転倒を起こしやすい。後輪が浮き上がった際の前輪の接地点の前方移動量が小さいからだ。ブロンプトンではホイールベースが長いことでこの傾向が緩和されている。とはいえ下り坂で急ブレーキしたり、スピードを出して縁石に乗り上げたりすると普通にジャックナイフ転倒は起こるので、そうならないように注意して運転する必要はある。

ブロンプトンのハンドル形状には、真っ直ぐのSハンドルと、恥にいくにしたがって高くなるMハンドルがある。Sハンドルの方が乗車姿勢が低くなり、Mハンドルの方が乗車姿勢が高くなる。どちらが良いかは迷いどころだが、ある程度の距離を走るなら断然Sハンドルが良い。真っ直ぐの方がハンドルを切って曲がる操作がしやすいし、座り漕ぎでも立ち漕ぎでもペダルに力を入れやすい。Mハンドルの方がよくしなって手への衝撃を吸収してくれるそうだが、手への振動よりも尻への振動の方が深刻なので、ちょっと前傾姿勢になって尻と手と足に荷重を分散させられるSハンドルの方が疲れにくい。

それからしばらくこれで通勤しているのだが、なかなかよい運動になる。S2Lモデルの2速しかないギアが面白い。当然ながら、平地を走る場合には重いギア(6.0m/回転)を使い、上り坂を走る場合には軽いギア(4.4m/回転)を使う。もし3速ギアだと、平地を走る時に、最も重いギア(6.8m/回転)だと重すぎて疲れるし、真ん中のギア(5.2m/回転)だと軽すぎるだろう。一方で、急坂だと2速の軽い方でもまだ重すぎてつらいことがあり、しょっちゅう立ち漕ぎする羽目になる。ただ、かなりの急坂でも立ち漕ぎすれば登れないことはないので、押して歩く必要はほぼない。ということで、この2速ギアというのはカジュアルな乗り方をする上で絶妙な設定だと思う。選択肢が2つしかないと割り切りが出てきて心理的に快適である。ズームレンズでなくて単焦点レンズを切り替えて使っている気分というかなんというか。

Bromptonの欠点を敢えてあげるとすれば、小さい見た目の割には車体が重いことだ。クロモリ(クロムモリブデン鋼)のフレームなので仕方ない。アルミ製のフレームを採用していればもっと軽くできるだろうが、おそらく耐久性を重視してクロモリにしているのだろう。アルミは疲労限度がないから、応力を与えるほどに疲労が際限なく蓄積して突然折れるとかなんとか。逆にクロモリはサビに弱いから室内保管が望ましいし雨天時の走行を避けるべきだが、折り畳み自転車はその双方に都合がいい。クロモリは適度にしなるので乗り心地もアルミやカーボンより良いらしい。

東京は何気に坂が多いということを自転車通勤で実感する。山とつく地名は実際に高くなっていて、川とか谷とかつく地名は低くなっているので、それらの間は必然的に結構な勾配の坂があるのだ。具体的には、東山→(下り坂)→目黒川→(上り坂)→代官山→(下り坂)→渋谷川→(上り坂)→青山→(下り坂)→西麻布→(上り坂)→六本木、という行程になる。西麻布が低くなっているのは外苑西通りとなって暗渠化されている笄川が存在しているためだ。とにかく、行きも帰りも絶対に3回は急坂を登らないといけない。それぞれの川は自分の進行方向に対して垂直に切ってくる流路であるため、避けることはできない。この地図をみるとそれがよくわかる。
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まあ、急がなければ坂もそんなに苦では無い。むしろいい運動になっていい。基本的に有酸素運動であるサイクリングも、急坂を登る時は無酸素運動になるので、日常的に両方やるというのは循環系と骨格筋の両方が鍛えられていいかなと。

野沢通りの切り通し。戦争で開催されなかった東京オリンピックのために崖を無理矢理削って作ったそうな。

目黒川。再生水が流れててちょっと臭う時があるのだが、下流の方にいくとメダカとかもいるらしい。

西郷山。西郷従道の屋敷があったとか。代官山や恵比寿の方向に向かう中ではかなりマイルドな坂。

鉢山町。家賃高そうな住宅街。

渋谷駅。車道は怖いし、歩道はごちゃごちゃしてるし、歩道橋じゃないと遠回りしなきゃならなかったりと、とかく自転車に優しくない。

246の金王坂。ここも、渋谷から青山に至るルートの坂ではマイルドな方。

青山トンネル。もしも青学に通ってたら自分も華やかな学生時代が送れたであろうか。

西麻布は外苑西通り。五行っていうラーメン屋がなかなか美味い。

六本木についたら自転車を畳んでエスカレータに乗るとゴール。なかなかの達成感である。


折り畳んだ形態を眺めると、メトロイドの主人公サムスのモーフィングボールを想起させてカコイイ。

それにしても、ルート選定が難しくて、まだ最適解が見つけ出せていない。走りやすいルートを選ぶとだいたい幹線道路になってしまうのが癪だ。交通量が少なくて勾配がきつくなくて最短にできるだけ近いのがいい。Google MapsもNavitimeも246沿いのルートを第一に提案してくるのだが、どうも246は好かん。気分によっていろいろ道を変えてみるというのも楽しいので、いろいろ試してみよう。

折りたたみ自転車のよいところは、途中で雨が降っても、畳んでしまえば電車なりバスなりタクシーなりに乗ってすぐ撤収できるところである。その保険があるので、気軽に持ち出してどこにでもいける。そしてBromptonのよいところは、特に折りたたみと展開が簡単で、コンパクトにまとまるところである。それでいながら走行性能もそこそこ良くて、乗っていて楽しい。都市生活が捗るアイテムだ。

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