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Brighture English Academy 代表。趣味はウクレレとかハイキングとかDIYとか旅行などなど。在米20年。シリコンバレーに住みつつ、日本とアメリカとフィリピンで会社経営しています。最近は英語教育がライフワークになりつつある。
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2014年1月15日水曜日

グーグルのネスト・ラボ買収が意味すること

 グーグルがネスト・ラボを買収を発表しました。
 買収額はなんと32億ドル。およそ3300億円です。ネストは従業員が300人足らずの会社ですから、従業員一人当たり10億円の価値があると判断された訳です。

 ネスト・ラボは4年前にiPodの生みの親、トニー・フェダルによって生み出された会社です。この会社、現在のところ火災報知器とサーモスタット(温度調節器)を発売しています。この2つの製品のユニークなところ、それはどちらとも自動学習機能を備えている点なのです。

  ネスト・ラボのサーモスタットをしばらく使うと、室温の設定パターンを学習し、勝手に温度調節をしてくれるようになります。また内蔵センサーによって人がいるかどうかを判断し、留守中には冷暖房を自動的にオフにしてくれます。iOS/アンドロイドのアプリケーションからも操作可能な上、エネルギー消費量までグラフでモニター可能なのです。こちらが紹介ビデオ。面白いです。(長いプレイリストなので抵当に途中でやめてください)


 火災報知器に至ってはWIFIを内蔵し、各部屋の火災報知器同士で通信するのです。そして単にピーピーと非常音を鳴らすのではなく、どの部屋で煙が感知されたのかも教えてくれる上、緊急時とそうでない時は違った方法お知らせしてくれます。



家を「賢く」する
 トニーは自身のブログでネスト・ラボ設立の理由を「家に意識を与える」と説明しています。「家を『賢く』し、こまごまとしたことは全部やってもらう。人間は、人間にしかできないことに集中できるように」、と。

 今後どのような製品が出てくるのか分かりませんが、例えばセキュリティ・システム、加湿器、除湿器、照明などなど、さまざまなものが自動学習機能でどこまでも賢くなりそうです。そのうちに家に帰ると勝手に照明が付き、温度も湿度も自動的に調節してくれるようになるでしょう。

そういえばクルマも賢くなる
 そうそう、グーグルと言えば自動運転車です。しかし、あんなものスゴいクルマを早々とデモしてしまったばっかりに、どの自動車メーカーもビビってしまってグーグルと組もうとしません。今のところアウディとフォードはグーグルと組む予定のようです。他社はアップルと組むようですが、自動運転はおそらく目と鼻の先ですから、グーグルと組むほうが実は賢いかも知れません。

 いずれにせよ、早晩クルマは自動運転となり、僕らは車の中でもビデオを見たりゲームをしたりして遊べるようになるでしょう。こうして検索もグーグル、家もグーグル、車内もグーグルと、グーグルに見守られて暮らすようになるのだろうと思います。

人間はなにをするのか?
 こうしてすべての煩わしいことから解放された人間は、いったい何をすればいいのでしょうか?

 トニーの言う通り、人間は人間にしかできないことをするのです。

 匿名で人を罵倒したり、エロビデオを観まくったり、自己満足のブログを書いたりと、やることは沢山あります。たまには勉強したり、スポーツをしたり、クリエイティブなことをしたり、世のため人のためになることをしてもいいかも知れません。時間の使い方は僕ら自身が決めることです。

 いずれにせよ、何をしているのかはすべてグーグル様に筒抜けになります。グーグル様はそうやって得た情報を元に、僕らの生活をより快適にしてくれるでしょう。そうやって快適になった環境で、

平々凡々な僕らはいったい何をして生きればいいのか? 

 それはテクノロジーに支えられて生きる、僕らの新しい悩みかも知れません。

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2013年4月6日土曜日

アップルにみる「アート、ロジック、マーケット」

ちきりんさんの「研究者・勝負師・芸術家」というエントリーが面白い。

この3つの要素、本当に大事です。

このことは日頃から非常に重要だと思っていたのだけれども、なかなかこんなふうにまとめられないものです。ちきりんさんの「まとめるチカラ」は本当にスゴいな、と感心しました。


 アップルも本当にこういう感じで経営していて、そのバランスの良さが他企業を大きく凌いだ最大の要因じゃないかと思っています。これはあくまで私なりの「研究者・勝負師・芸術家」の解釈なので、ちきりんさんの意図とはちょっと違うかも知れないけれども、この3つの要素をアップルに当てはめて考え見ました。

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まずは「芸術家」あるいは「アート」。

 「企業が「帝国化」する (アスキー新書)」の中でも書いたけれど、これは非常に重要なポイントです。この「アート」的な感性がないと、顧客の魂を揺さぶるような製品やサービスはなかなか生み出せません。

 売れるとか売れないとかマーケットシェアとか採算とかそういう一切合切を一度蚊帳の外に放り出して、製品のあるべき姿を突き詰めて考えてみる。アップルは完全にオリジナルの製品は少ないけれど、他社が生煮えのまま世の中に出して失敗してしまったコンセプトを、きっちりと煮詰め直して世の中に出すこと、本当に得意です。スマホもタブレットもMP3プレーヤーもミュージックストアもみんなそうです。病的なまでの細部までのこだわり。なんでもかんでもスィーブの手柄にされてしまうけれど、アップルのデザイナーたちって本当にこだわるアーティストの集団です。

 なおこれは製品デザインだけの話ではありません。例えばアップルストアに行くと、すべての店員が端末を持っていて、レジに並ばなくてもその場で会計してくれる。そして領収書はメールアドレスへ。レジに並ぶ煩わしさを解消してしまうイノベーション。実現できる/できないといったことは一度外して、何が「あるべき姿」なのかを考えると、こういう解がでてきます。


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「研究者」、あるいは「ロジック」というのは、要するに「理詰めで考えて実行する」だと思います。

 アップルって言うとすぐにイノベーションガ〜〜という話になってしまうんだけれども、アップルのスゴいところってイノベーションなんかではなくて、むしろこの実行力の部分です。

 トヨタのカンバン方式も真っ青なほどの理詰め。そして愚直なまでにそれを実行するチカラ。アップルを語る上で絶対に外せない要素だと思っています。iPhoneひとつにおよそ500点の部品が必要です。それを156社にものぼるベンダーから購入。iPhoneだけでも3ヶ月に必要なパーツの数は150億以上です。なのに全世界の販売店でのiPhoneの流通在庫はホンの数日分のみしかありません。とことんまで突き詰めないと、こんなオペレーションはなかなか成立しません。

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そして「勝負師」。あるいは「マーケット」という要素。

 どんなにすぐれたイノベーションだって、売れてこそナンボです。どんなにいいものを作っても、利益を生まないのでは趣味の工作と一緒です。イノベーションで見えて来た形を、マーケットに対して訴求力のある、売れる製品として具現化する必要があります。

 しかしモノやサービスを世の中に問うということは博打です。特にそれまで他社が成功したことがない製品や、世の中に存在しない製品を売り出す場合には尚更です。新製品が発表されると、エンジニアまでもが実際にアップルストアに行って行列を自分の目で確認し、夜通しオンラインフォーラムを読みふけって世の中の反響をチェック。セールスでもマーケティングでもない社員をここまで駆り立てさせてくれるアップルという組織。働きがいのある会社でした。(ただし異常に消耗します)

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 この「アート、ロジック、マーケット」という感覚は大企業のみならず、スポーツ選手やミュージッシャン、あるいは自営業者などにもそのまま当てはまる重要な3要素だと思います。文化祭の出し物にさえ当てはまると思う。どこかの企業の株などを買う際にも、こういう観点で考えてみるとまた面白いかもしれません。



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2013年2月11日月曜日

アップルが失いつつあるもの

最近「アップルはイノベーションをもう引き起こせないのでは?」などといったような論調の記事を沢山目にします。

もうジョブズがいないからイノベーションは引き起こせない、などなど。

でもアップルってそもそもそんなにイノベーティブな会社でしたっけ?

私にはそうは思えません。

GUIがゼロックスのパクリだったことはよく知られています。

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MP3プレーヤのようなメモリに音楽を保存する装置を最初に考案したのはKane Kramerという発明家で、なんと1979年に考案しているんです。

アップル以前にMP3プレーヤを製品化した会社は沢山あります。1998年頃には少なからぬ商品がすでに出回っていました。

iPodの登場はさらに3年後の2001年です。明らかに後発です。

ちなみにKane Kramerが考案したのはこんなヤツでした。


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じゃあスマートフォンは?

スマートフォンだってね、2001年にはPalmのOSを搭載したKyocera 6035がすでに商品化されていました。

そのあとにだってソニーのクリエとか、かなり優れた製品が少なからずありました。でもなぜかいまひとつ盛り上がらず2005年頃には生産終了。

iPhoneが万を喫して登場したのは2007年でした。

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じゃあタブレットは?

ネットが見れるタブレットって、2005年にはNokia 770 Internet Tabletなんていう商品が売られていたんです。

iPadが発売されたのはそれから4年も経った後の2009年。

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こうした事例を見て考えてみるべきなのは、何故アップルが成功したのかではなく、なぜソニーをはじめとする日本企業がMP3やスマートフォンで市場創出に失敗し、アップルの後塵を拝し続けたなのかではないでしょうか?

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アップルはむしろ、ジョブズ復帰以前のほうがずっとイノベーティブだったようにすら思います。

QuickDraw, QuickTime, ColorSync, QuickTime VRなどのさまざまなテクノロジーが生み出されました。デジカメなんてロクに存在しない時代に、コンピュータを母艦としたデジカメ、QuickTake 100 なんていう製品を生み出したりもしました。

それからニュートン。ハンドヘルドデバイスの先駆けでした。

ただこの時代をアップル、何を作っても作りっぱなしで、どの製品もバグだらけの糞みたいな製品ばかりでした。

当時のアップルは何のポリシーもなく、まるで文化祭の出し物のように適当に面白そうな製品を作っていました。中で働いていると面白いところではありましたが、会社がこんなことでいいのかと言う素朴な疑問を抱いてしまうような素敵すぎる会社だったんです。

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アップルを現在のアップルに押仕上げたのはイノベーションよりもむしろ、その徹底した任務遂行能力です。

イノベーションがなくなった云々よりも、地図問題に見られるようなかつてのアップルを彷彿とさせるような詰めの甘さや、ジョブズ時代にはなかった情報の漏れ具合のほうがよほど気になります。

ジョブズの死後失われたものはイノベーションなんかではなく、ジョブズの存在そのものがもたらしていた「畏怖」と言っていいほどの独特の緊張感だったのではないかと思います。

アップルが今後も成功して行けるかどうかは、ジョブズ時代の緊張感を維持できるかどうかにかかっているような気がします。



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2012年8月27日月曜日

アップル vs. サムスンの判決は誰得か?

アップルとサムスンの裁判、大きな話題になっています。

しかしこの判決、見方によっては「結局サムソンが得なんじゃね?」と考えられなくもありません。

まずアメリカではギャラクシーのほうがかなり安いんです。iPhoneのほぼ半額。ですのでサムスンはジリジリとシェアを拡大。2012年の上四半期、既にサムスンとアップルのスマートフォンのシェアは既にどっこいどっこいです。


そこにきて今回の判決。サムスンはこれをキッカケに更に売り上げを伸ばす可能性、少なくないと思います。

なぜなら:

ギャラクシー = iPhone

と裁判所が証明したようなものだからです。

現に英語圏ではそんな論調の記事やブログ、あるいはTwitterのポスト、少なくありません。例えば昨日今日あたり、よく読まれている記事にこんなのがあります。

Best billion dollar ad-campaign Samsung ever had

このブログの筆者がスタバでギャラクシーやサムスンのラップトップを使っていると、価格も含めいろいろな質問を他の客から受けるそうです。そして価格を告げると皆一様にショックを受けるそうです。アップルがサムスンを訴えたことによりアップル自身が「アップル=サムスン」だと言ったのに等しい、と筆者は結んでいます。

現在のところ、イギリスでの判決はサムスンの勝訴。(ギャラクシーはアップルほどクールじゃないからコピーじゃないw、という判決)。韓国の裁判所ではお互いがそれぞれの特許侵害しているとして引き分け。そしてサンノゼではアップルの勝訴です。

しかし今回の判決、やたらと早い上にアップルのお膝元のシリコンバレーでの判決ですから、陪審員が公正であったのかなどを巡って疑問視する声も少なくありません。おそらくサムスンは上告するでしょう。

その間サムスンはギャラクシーを売り続けるのです。

マイクロソフトはSkype買収に85億ドル使い、FaceBookはInstagram買収に10億ドルを使いました。

そう思うと今回の10億ドルなんてたいした金額じゃありません。むしろ手頃な広告費用かもです。

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2012年8月6日月曜日

甘い部署を作らない

アップルは何故強いんだろう?
「アップルは何故あんなに強いのか?」そんな質問をよく頂きます。

ところがこれに答えるの、案外難しかったりします。まず自分が長く勤めていた会社って、日常すぎて特に分析なんかしないからです。東京生まれの人が東京タワーに登ったことないのと同じですね。

退職して数年した今のほうが客観的にアップルという会社を観れるようになった気がします。そして本を出したり講演したりするうちに自分のなかでキチンと分析が出来て、ようやくこの頃アップルのどの辺りが具体的に「強さの秘密」なのか見えてきた気がします。

最近も『「霊感」vs. 「実行」』というエントリを書きましたが、アップルの高い実行力は間違いなくアップルの「強さの秘密」だと思います。しかしこういうことも社内にいる時にはそれが普通なので、別に強みだと思ったことすらありませんでした。

「責任の所在」や「社内競争」などの観点も、自分の本でも取り上げてみて、ニューズウィークの記事小飼弾さんの書評に載ったりして初めて自分なりにしっくりきた感じです。そう思うと自分の組織の分析を中からするというのは非常に難しいことなのかも知れません。

そんなふうに色々と考えていたらふと、「アップルって弱い部署がなかったな」と気が付きました。

弱い部署は全体の足を引っ張る
弱い部署がひとつでもあるとそこが全体の足を引っ張ります。

たとえばアフターケアの部署が弱い会社があるとしましょう。すると仮に魅力的な製品をそれなりの品質で売っていたとしても、アフターサービスでイヤな思いをした人がアマゾンのレビューやらTwitterなどで思いっきり書きまくります。そしてその一部署が会社全体の足を引っ張るんです。

部品調達が弱ければ安い製品を安定して製造できませんし、品質保証が弱ければ問題の多い製品が出荷されてしまいます。マーケティングが弱ければそもそも製品が話題にすらなりません。そんなふうに1カ所でも弱い部署があると、それが全体の足を引っ張るんです。

ちょっとだけ残念な東芝
例として東芝を挙げてみます。東芝のPC、アメリカでソコソコ売れています。商品自体は気に入る人が多く、amazon.comのラップトップのベストセラーなどをみると、結構上位に食い込んでいるんです。いまや韓国、台湾メーカー、アップル、HPしか見ないアメリカのパソコン市場で健闘している、数少ない日本メーカーのパソコンです。店頭でもしばしば目にします。私も2台持っていますし、気に入っています。

ところがレビューを見ると新品なのに重大な不具合がある、というクレームと、アフターケアの対応が悪いという苦情が目立つのです。

私自身はどちらにも遭遇しなかったので東芝に悪い印象も持っていませんが、PCマガジンのアンケートなどでも似たような傾向が出ているのであながち間違いのでもないのでしょう。

私の勝手な想像ですが、おそらく工場出荷時のチェックが甘いのと、サービス部門が弱いのでしょう。こうした些細なことが全体のイメージを下げてしまいます。

アップルも長らくダメだった
アップルは長らくMobileMeが足を引っ張っていました。カネだけは一丁前に取るくせにホントに酷いサービスでした。ところがこの部署もトップが更迭され、メンバーも大幅に入れ替わって、見事にiCloudを成功させました。以前は他にもダメな部署、幾つもありましたが、淘汰されたり改善したりして2005年頃には本当に死角がほとんどない会社になってきました。

社内政治は功罪が色々とありますが、敢えてひとつだけいい点を挙げるとしたら、いい加減な部署、やっていることが甘い部署がカモにされ、激しくバッシングされるので、みんなキッチリした部署を作ろうと必死になる点でしょうか?

また小飼さんの指摘にある通り、「責任の所在を明確にする」というシステムは、こうした弱い部署、甘い部署を無くすのに非常に効果的なやり方だと思います。

そんなわけで「甘い部署を作らない」こと。

とっても大事です。


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2012年5月13日日曜日

猛禽類とどうやって戦うのか

さて先日書いた「グローバル企業のトップはみんな猛禽類」という記事、僅か1日で5万ビューを突破し、その関心の高さに驚くとともに、「一体こんな連中とどんなふうに戦えばいいのか?」というようなコメントを多数頂きました。

まずご安心頂きたいのは、こういうとんでもない連中はトップクラスの連中で、世の中の大半を占める私やあなたのような人達の直属の上司になるようなことはまずないことです。またこの超トップクラスはある意味清々しささえ漂っており、尊敬の対象になりこそすれ、戦おうなんて気が起きないものです。



私はこの左上の写真の、テキサスの牧場で散弾銃に弾込めていそうなBob Mansfield氏の下の、そのまた下に位置していました。恐ろしく厳しい人でしたが、フェアな人でした。尊敬していました。またこういう人達はあまり突出した才能があるせいか、案外たいした大学を出ていないのに要職に就いていたりします。天才には学歴なんて不要なのかも……とも思います。ちなみにBob Mansfield氏はテキサス大学(!)の電子工学専攻で、それが最終学歴です。iPodの父と言われるTony Fadell 氏もミシガン大学の卒業生で、大学院には行っていません。

厄介なのはこう言った雲の上の人達ではなく、それよりも1〜2ランク下にいる、気分だけは超一流気取りで、イヤなところだけ偉い人達の真似をし、出世することにとにかく必死な人達です。ボーディングスクールからアイビーリーグスクールの院卒、と言った学歴の人が多く、確かに頭も切れ仕事もできますがエゴもプライドも極度に肥大しています。

そういう人達、性質的には「グローバル企業のトップはみんな猛禽類」で書いたそのももです。ですが天上人たちのような的確なビジョンや突出したリーダーシップがあるわけではありません。

あなたがそういう人の部下だとすると、あなたの手柄は全部その人の手柄にされますし、それでいてあなたに利用価値がなくなったと見るやサヨナラです。ホントに躊躇せず人を刺します。ある意味トップクラスの連中よりもずっと性悪です。

ではそういう人には一体どうやって対抗すればいいんでしょうか?

それには自分を商品化し、社内の上層部に広く知られるようにするしかありません。こういう人達に口で勝つのはまず無理な上、政治力でも敵いませんし、労働時間ですら負けてしまいがちです。

詳しくは「僕がアップルで学んだこと」に書きましたが、あなたの成果を横取りされないようにするには、あなたの成果が広く知れ渡るような自分自身のブランド化とマーケティングが必要です。

社内には多くのメールやレポートなどが飛び交います。自分から発信するメールやレポート、またメールの返事などはすべて情報発信の機会と考え、常にビシッとした情報を出すことが非常に大切です。

今や自分の書いたブログ記事がtwitterやメールなどで拡散され、思わぬ形で世の中の人々に「発見」される事がありますが、社内ですらそういうことが起きる時代です。的確に問題点をえぐり出したレポートや目を惹く提案書などがあると、それが瞬く間に転送されて拡散する時代です。ですから末端の社員でも上級管理職の人たちに「発見」されることも起こりうるのです。またそういったコンテンツを盗用されないような工夫も大切です。

こうしたことを的確に行うには、自分の得意分野、専門分野といったものをよく考え、自分を売るための「ストーリー」を日頃から持っておくことが大切です。するとこうした情報発信の際の拠り所となり、的確なイメージ作りを行っていくことができます。

自分の成果や手柄を守る意味でも、こうした自分自身のマーケティング、外資系や米国の企業で働く人はすぐにでも取り入れることをおすすめします。


2012年3月31日土曜日

僕がアップルで学んだこと

さて突然ですが、書籍を出版することになりました。

こんなカッチョいい帯がついて発売です。

去年の10月に書いた「Steve Jobs の思い出」というブログエントリーが30万ヒットくらい集め、それがキッカケになって週刊文春やら朝日新聞やらから取材を受け、またアエラのムックブック「スティーブ・ジョブズ 100人の証言 (AERA Mook)」などにも載ったりしました。

このムックブックの際に私の取材を担当してくださった野本響子氏とお話している時に「よく友達から、本でも出せばいいのに、と言われる」とお話したところ、この方が私のことをアスキー出版に売り込んでくださり、あれよあれよと言う間に出版話が実現しました。

クリスマス休暇はすべて潰して執筆に没頭し、年が明けてからも時間が許す範囲で書き続け、1月の終わりにはおおよその執筆を終えました。2月にはイラストやグラフなどを作ったり、タイトルを決めたり校正をしたりと、私の担当になってくださった吉田孝之氏、編集を担当してくださった野本さんと共に二人三脚で出版にこぎ着けました。

お二人の力がなければとても出版には至らなかったでしょうし。本当に何度もキチッとしたダメ出しとサポートを気長に繰り返してくださったお二人には、どう感謝していいのかわかりません。きっとこの本が売れることが最大の恩返しでしょう。

さて、本の内容ですが、タイトル通り、「私がアップルで学んだこと」が濃縮してあります。

アップルという会社、今となっては信じられないことですが、90年代の後半には倒産寸前だったのです。レイオフが何度も繰り返され、私自身、この時期にレイオフされなかったのが不思議なくらいです。「腐ったリンゴ」と呼ぶしかないような、本当にダメな会社でした。私はあの腐ったリンゴだったアップルがここまで変わることができるのならば、どの会社でも大きく生まれ変わることができるのではないかと思います。

アップル時代には会社再生を内側から体験しました。また知的好奇心やチャレンジ心を強く刺激される体験を何度もしましたし、また反対に本当にイヤな思いも何度もしました。そういういいところ、悪いところの両方を含めて、アップルでは本当に貴重な大変をさせてもらったと思います。また開発の中枢にいたので、アップルという会社の日々の意思決定のプロセスを目の当たりにすることができました。

こうした体験を私だけのものにしておくのは余りにももったいないような気がするので、書籍にまとめてみることにしました。

まだ発売まで10日以上ありますが、amazonの書籍のランキングで291位です。マネジメント・人材管理のカテゴリでは3位ですので、順調な滑り出しです。



会社を経営する方にも、中間管理職の方にも、また一社員の方にも、なにかしら得るものがある本が書けたと思います。私がアップルで体験し、またその一端を担った変革の物語です。

会社も個人も、「変らなきゃ!」という方は、ぜひポチッと注文してください。





PS:一晩明けたら144位に上がっていました。マネジメント・人材管理のカテゴリでは1位です。ポチッとしてくださった方、ありがとうございます!

2012年2月29日水曜日

アップルを例に考える、ニ極分化の世界

世界は急速に極端なニ極分化が進みつつあります。

要するに極一部の人間が金持ちになって、残りは全員貧乏な労働者になる世界です。

アップルを例にとって考えてみる
例えばアップル。

アップルの従業員は世界中でたった6万人しかいません。

しかしアップルの従業員で開発やマーケティングの中枢に関わっている人はせいぜい1万人でしょう。後の5万人は世界中にできたアップルストアの従業員です。そして同じアップル社員でも開発に関わる人達とストアの売り子さんとでは賃金の体系がまったく異なっています。

本社の中枢業務に関わる人は平均すると10万ドル程度の年棒でしょう。まあ感覚的には1000万円といった感じです。これを時給換算すると年間2000時間働くとしておよそ50ドルと言ったところでしょうか。

次にストアの売り子さんたち。この人達の給与は時給で12ドル程度と言われていますから、割のいいバイトに負けてしまうような額です。

さて中国で製造に関わる人々。こちらはFoxconnの従業員ですが、なんと70万人(!)ほどの人がアップル製品の製造に従事しているそうです。Foxconnは待遇がかなり悪いらしく社員の自殺が相次ぎ問題になっています。

この人達の給与はこの自殺騒ぎと世間のバッシングを受けて最近大幅に上がり、時給1ドル程度となりました。(年棒およそ3561ドルだそうです)

さて。ではこれを並べてみましょう。

本社勤務50ドル > アップルストア12ドル > Foxconn 勤務1ドル

結構差があります。これがニ極分化です。しかしこれだけ見ると三極分化みたいな気もします。

ストック・オプションを考慮する
さてここから考えなければならないのは給与ではなく、アップルの優秀な社員に配られるストックオプションです。

最近私の友人がアップルを退職しました。彼はアップルに15年ほど勤めており、そこそこ出世してシニア・エンジニアリング・マネージャーとして活躍していました、堅実な人で、それまでに貰ったストックオプションにまったく手を付けておらず、退職時に一気に現金化しました。その額なんと800万ドルです。1ドル80円換算で6億400万円にもなります。

まだ45歳なのに退職と同時にリタイアしました。もう一生働かないそうです。

さてこの800万ドルを時給換算してみましょう。800万ドルを勤務年数の15年で割り、その額を1年間のおよその労働時間の2000時間で割ります。すると266ドルとなります。

先の時給50ドルと足すと、時給316ドルなります。


中堅幹部316ドル > 本社勤務50ドル > アップルストア12ドル > Foxconn 勤務1ドル

う〜む。ニ極分化が段々実感でき始めてきました。

では上級幹部はいくら稼ぐ??
では上級副社長とかそういうアップルの上級幹部はどのくらい貰っているのでしょうか?

iPodの父と呼ばれたトニー・ファデル氏を例に出して考えてみましょう。ファデル氏2007年に5万株、そして退職時に7万7500株の合計12万7500株のストック・オプションを手にしています。もしも彼がこれらをまったく現金化しておらず現在の株価で売ったとしたならば、12万7500株 x 535ドルで68,212、500ドル(54億5700万円相当)という途方もない額になります。ファデル氏は7年間アップルに勤めていましたから、これを7で割って年棒を出し、それを2000時間でわって時給を出すと時給が4872ドル(!)となります。つまり:

上級幹部4872ドル > 中堅幹部316ドル > 本社勤務50ドル > アップルストア12ドル > Foxconn 勤務1ドル

となります。

ファデル氏は確かに極めて優秀な方でしたが、Foxconnの工場労働者4872人分の貢献があったのでしょうか?iPod がアップルにもたらした莫大な利益を考えればYESであるような気もしますし、いくらなんでもそんな価値があるわけないような気もします。

こうしてファデル氏を引き合いに出してみると、はじめて2極分化がイメージが極めて具体的に湧くのではないかと思います。これは要するに中世時代の


領主と農奴

のような関係ですね。

このような社会がとてもいいとは思えないのですが、これを止める術は今のところ誰も考えつかないようです。

次回にはこのニ極分化の世界をどうやって生き残ればいいのか考えてみたいと思います。

PS:続きを書きました。次は「日本でも二極化が進んでいくのか?」です。



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2012年2月10日金曜日

スティーブ・ジョブズのFBI調査ファイル

久しぶりにスティーブ・ジョブズのネタです。

スティーブって1991年、パパ・ブッシュ時代に大統領輸出評議会(President's Export Council)のメンバーに指名された際に、FBIに素行調査されていたのです。

その調査レポートがつい先日、20年以上の月日を隔て、FBI のサイトにアップされました。で、LA Times がそれを掲載しています。191ページもあるレポートです。現物が見たい方はこちらにあります。

Steve Jobs’ FBI file

しかし予想通り散々な書かれようです。

これを書いた調査官ら、30人以上ものスティーブを良く知る人をインタビューしたとありますね。

複数の人が、ジョブズ氏は「自らのゴール達成のためなら真実をねじ曲げ、現実を歪曲する人だ」と述べ、ジョブズ氏の誠実さに疑問を投げかけた。とあります。(Several individuals questioned Mr. Jobs' honesty stating that Mr. Jobs will twist the truth and distort reality in order to achieve his goals. )

ジョブズ氏は未婚で彼の子を産んだガールフレンドと、と2人の間に生まれた娘の支援もしなかった、ようやく最近になって支援しているなどとも書かれています。(Mr. Jobs was not supportive of [redacted] (the mother of his child born out of wedlock) and their daughter; however, recently has become supportive.)


ある調査官は、「またジョブズ氏にイヤな思いをさせられ離れていったある人物は、スティーブのモラルに疑問を感じる、と言っている」などとも書いています。(Another person, who admitted to feeling bitter towards Jobs and alienated from him, said his moral character is questionable.)

「ジョブス氏は自分の要求が叶う限りは誠実な人だ」などという言葉も載っています。(Mr. Jobs possesses integrity as long as he gets his way)

またスティーブと幼なじみだったある女性は「カリスマ性のあるビジョナリーだが、ナルシストで底が浅い人間のため、人間関係が硬直している。」などと言っています。(An interviewee who said she grew up with Jobs described him as a charismatic visionary who was callous in his personal relationships and whose personal life was lacking due to his "narcissism and shallowness.")

その他スティーブがマリファナやLSDを常習していたことなども確認された、となっています。

しかしスティーブ・ジョブスの公式伝記を読んでしまった後だとあんまり驚きはありません。

それよりも、こんなファイルの公開を義務づけてしまうアメリカの情報公開法(Freedom of Information Act)って偉いな、って思いました。

対する日本は... 

去年の東日本大震災や原発事故に関する政府の議事録が作られていなかった

ことが問題になっています。

いや、きっと議事録あるんです。でも、ないことにしておかないと都合が悪くなる人がいっぱ〜い居るんでしょう。

アメリカが別に取り立てて進んでいるとも思わないけれども間違いなく日本より進んでるところもあるんだな、ってスティーブとは何の関係もないところで感心しました。



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2012年1月6日金曜日

スティーブ・ジョブスがフィギュアになって復活!



スティーブ・ジョブス氏が亡くなってはや3ヶ月になります。もうアップルのキーノート・スピーチで氏の姿を見ることがないのかと思うと心底がっかりです。

でも大丈夫!!

とある中国の会社がスティーブ・ジョブス人形を発売するそうです。来月には発売の予定でもう製造に入ったとのこと。

身長30センチほどだそうなので、1/6フィギュアってことになりますね。「iCEO アクション・フィギュア」という名称で売るらしいです。

妙に精巧にできており、不気味ですらあります。こんなの枕元に置いておいて夜中に目が合ったらもう眠れないかもしれません。











アップルはこの会社を訴えると脅しているそうですが、このオモチャメーカーInIconsの経営者、Tandy Cheung氏はまったく気にも留めていない様子で「スティーブ・ジョブスは俳優じゃない。彼はただの有名人だ... 普通の人はコピーライトで守られてないよ。それにアップルがスティーブのコピーライトを持っているとも思えないね」などと言っているそうです。

正直言ってこれ欲しいです。そしてすでに持っているターミネーターのアクション・フィギュアと並べて飾りたいです。

このIcIconsという会社のサイトに行こうとしたんですがそもそも見つかりさえしません。こんなことで購入できるんでしょうか?いまから不安です。

たった今読者の方がtwitter でこのオモチャメーカーのサイトを教えてくれました。こちらからオーダーできます。

in iconsのサイトはこちらですね。

http://inicons.com/


送料込みで109.99ドルとあります。オンラインで注文できます。これできみも自分だけのスティーブ・ジョブズをゲットだ!



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2011年10月30日日曜日

ジョブスの伝記を読んでみて

さて、発売になったスティーブ・ジョブスの伝記、早速買って読んでみました。私が購入したのは英語版で、Kindle で予約して買いました。せっかくなので興奮が冷めないうちに感想文を書いてみたいと思います。

640ページもあり、かなり読みでがありますが、面白くてついつい読んでしまう内容です。英語も平易ですので、英語の勉強に読んでみるのもいいんじゃないかと思います。チャレンジしてみたい方は是非お勧めします。

まず読んでみて第一の感想は、「実にフェアな視点で書かれている」本だな、ってことです。スティーブの悪い話、悪い所も山ほど書かれていますし、また彼の優れたところ、秀でたところも山ほど書かれています。世の中ジョブス礼讚の本ばかりですから、このフェアな視点が新鮮な一冊でした。

スティーブって傍若無人だとは知っていましたが、これほど傍若無人だったとは思いませんでした。はっきり言ってモノ凄くイヤなヤツです。まあ4歳ぐらいの自分勝手でわがままな子がそのまま大人になって一生を過ごしたと思えばあんまり間違っていないと思います。

前半はスティーブが養子に出されるところから始まり、そしてアップルを追い出されるところまでです。

ガールフレンドを妊娠させ、子供が生まれてしまうのに、DNA 鑑定の結果を突きつけられるまで子供を認知しようとしないスティーブ。会社設立に貢献した友達にストックオプションをあげないスティーブ。はっきり言って会社を追い出されるのは自業自得だったように思いましたし、私は彼が追い出される下りを読んでスッキリしたぐらいです。

後半でPixarとNeXT、そしてアップルへの復帰と亡くなるほんの直前までの話が書かれています。

Pixar が成功するまでの話やNeXTが四苦八苦の末に結局鳴かず飛ばずで終ってしまうあたりは哀れみを感じますが、とにかくジョブスっていうのは粘り強い人です。

そしてアップルへのカムバック、pixar の大成功、そしてアップルでの大成功と物語は続いていきますが、やがて病魔に冒され長い闘病の末世を去っていきます。

実に学ぶことの多い1冊でした。

この本を読んで、私が感じたスティーブから学ぶべき点をいくつか拾ってみました。

- 粘り強さ
スティーブほど粘り強い人は世の中にあまりいないでしょう。アップルを追い出されてもNeXT とPixerを創り、Pixarで売れなくても身銭を切って会社を存続させ、ついにヒット映画を打ち出します。NeXT は事業としては成功しませんでしたが、結局そこで創ったアーキテクチャが今でもMacOS X やiOSのコアとして生きています。

- 美的センス
スティーブはアートにこだわった人でした。伝記の中でもこれでもかというほど例が出てきます。音楽、絵画、建築、製品開発、あるいは日本の石庭などジャンルを問わずに「アート」をとことん追求した人だったようです。アップルの製品もPixer の映画も見るものの心を掴んで離さない何かがありますが、こういうセンスの人がトップにいたからでしょう。実際、アップルですべての製品を決めていくのはジョニー・アイブ率いるインダストリアル・デザインのチームなんです。彼らが決めたデザインは我々開発陣が何言ってもまずひっくり返ることはありませんでした。多分世の中にこれほどデザインを重視した会社は他に存在しないんじゃないでしょうか?

- 細部へのこだわり
スティーブの徹底した細部へのこだわりは病的なまでのほどです。これが仇になった例もありますが、この細部へのこだわりのお陰でアップルを大成功に導いたと言えそうです。一体どれだけの会社でCEOみずからが試作品を手に取って使ってダメ出しをするでしょう?日産のゴーンさんが必ず試作車に乗ると聞いたとこがありますが、それ以外はあまり耳にしたことがないように思います。

- 1度に1つのことに集中する
スティーブって結果的には多くのことを成し遂げましたが、その都度その都度は1つの事にしか集中していなかったように思います。他社と比べるとアップルの製品の数の少なさは驚くほどです。そして初代マッキントッシュ、初代iMac、Appleストア、iPod, IPhone、iPad などの節目節目の製品開発では、スティーブ自らが先頭を切ってエネルギーを注ぎ込んでいます。同時に2つの新規製品は開発しませんでした。多くの事業に手を出したり、いたずらに製品のラインアップを増やしてしまう多くの会社とは実に対照的です。

- 人に嫌われることを厭わない
スティーブはあまりにもズバリと本音を言うので、多くの人を傷付けています。時には極めて悪意を持ってこれをやっていたようです。伝記を読んでいるとその描写が余りにも多いのでゲンナリするほどです。それでも、いままで仕えてきた上司を考えてみても、部下の顔色をうかがうようなトップでは結局優れた人材を集めることも育てることも、ましてやいい製品を生み出すこともできないと思います。ダメなものには「ダメ」という、こういう力が日本の企業の経営者には不足しているんじゃないでしょうか?


- 現実歪曲空間
スティーブの話術はあまりにも巧みなため、「現実歪曲空間」などと呼ばれていました。伝記によると、この現実歪曲空間に騙されてしまっていたのは周囲の人だけではなく、実は彼自身も自分の言葉に騙されてしまっていたようです。自分が酔うような言葉ってなかなか吐けないと思いますが、しかし人の上に立とうとするなら程度の差こそはあれ、必要な能力なのかも知れません。私は以前、師を仰ぐ方から「部下に話をする時は、昨日はじめて理解出来たことでも百年前から知っていたような顔をして喋れ」と言われたことがありました。自分がアップルで管理職をしていた間、もっとも役に立ったアドバイスはこの一言だったような気がします。

他にも色々とあるとは思うんですが、この6つが極めて強く印象に残りました。

非常におすすめの一冊です。日本語版、英語版問わず是非購入して読んでみてください。






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2011年10月26日水曜日

iPodの誕生10周年に発表された新製品

今日から2日前の10月25日はiPodの誕生10周年でした。

なんともう10年。そしてその間のアップルの躍進ぶりは本当に目を見張るばかりです。

このiPodの生みの親であるトニー・ファデル氏、しばらく前にアップルを退職し、4月に話した時には環境問題に取り組むんだと言っていました。

iPodとiPhone で2度も世界を変えたこの男は一体何を始めるんだろうかと思っていたのですが、なんと彼はNest Labsという会社を立ち上げ、そして第1号となる製品が、iPodの誕生10周年に当たる今月25日に発表されました。

現在アメリカのごく普通の家には、プログラム可能なサーモスタット(室温調節器)が付いています。

こんなの:



しかしこれ、プログラムするの結構大変です。マニュアルを見ながらやってもピンと来ません。多分これをキチンとプログラムして活用している人はほとんどいないでしょう。私もプログラムしていません。ただ手動でオン/オフしています。

ところがですね、あなたがサーモスタットをプログラムする代わりに、サーモスタット自体が適切な温度やあなたの行動パターンを学習してくれたらどうでしょう?このNest Labs という会社、そんなサーモスタットを開発しました。

一週間ほど使うと、スケジュールを組み立て、あとは自動的に温度調節をしてくれるそうです。

こんなの。
Nest Learning Thermostat



無駄にかっちょええ!

この Nest Learning Thermostatは、だいたい初代iPodのジョグダイヤルぐらいの大きさです。で、このサーモスタットもそれ自体がダイヤルになっており、これを廻して温度を調節したり設定したりします。説明してもピンと来ないと思うのでビデオをどうぞ。





またWIFI機能を備えており、ネット経由でパソコン、iPhone、iPadからもコントロール可能だそうです。年内にはAndroid もポートするとのこと。

価格は249ドルで、宣伝を真に受けるなら7、8ヶ月で元がとれるそうです。

う〜む。惹かれる...

そうそう、詳しくはNest LabのWebサイトへ。こちらからどうぞ。

それからトニー・ファデルってこんな人です。



最後に会ったときよりも、髪の毛が大幅に後退していますな... 

ジョブスといい、トニーといい、

どんなにお金があっても髪の毛の後退には逆らえないんですな。


頑張れトニー!

私、このサーモスタット、買っちゃうかもです。


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2011年10月13日木曜日

Apple の今後を占ってみる

この週末、久しぶりにアップル時代の友達と喋る機会がありました。彼らは全員現役のアップル社員ですので、話は当然スティーブ・ジョブスの死と、彼の亡き後のアップルはどうなっていくのか?ということになりました。

話はすぐに「Tim Cook が上手く社内を治められれば、しばらくは安泰だよね」と「クラウドサービスの出来にかなり左右されるのではないか」といったあたりに落ち着きました。それはまったくその通りなんですが、ちょっと腑に落ちなくて考え続けていました。ところが今日何となく腑に落ちてきたので書いてみることにしました。

スティーブ・ジョブスは希代のカリスマ経営者である以上に「歴史に稀に見るマーケティングの天才」だったと思うんです。どのくらいの天才かというと、例えば黒人の公民権運動を大前進させたマーティン・ルーサー・キング牧師やアポロ計画をぶち上げたジョン・F・ケネディ、あるいはインド独立の父と称せられるマハトマ・ガンジーなどと並ぶ、世の中を変えていく言葉を持った天才です。

アップルの製品というのは極めて洗練されていますが、冷静に考えれば類似商品なんていくらでもある上に、アップルによって新規に発明された、というわけでもありません。iPadの前にタブレットPCは存在しましたし、iPhone の前にもスマートフォンは存在しました。MP3プレーヤに至っては、iPod以前にも本当にゴロゴロしていました。しかもアップル製品は価格はそれなりする上に、購入後はiTunesやアプリケーションストアなどのエコシステムに縛られてしまうのです。しかし何故かスティーブの手にかかると、すべてのマイナス点が帳消しにされ、そしてあたかもアップルがそれらの製品を新規に発明し世の中に送り出したかのような錯覚に落ち入ってしまいます。

スティーブのスゴいところは大衆を酔わせてしまうばかりではなく、音楽業界の重鎮たちをもその話術で飲み込み、音楽のネット有料配信を確立してしまったことです。この交渉、スティーブ以外の人が果たしてまとめられたんだろうか?と考えると暗澹としてしまいます。ですので今後のアップルを考える上で、このような交渉力もかなり削がれたアップルを想像してみる必要があります。


その他の要素も考えてみましょう。

Tim Cook はアップルの社内抗争をコントロール出来るんでしょうか?



私は出来ると思います。

この人、実は社内でかなり恐れられている人です。スティーブの独裁政治を陰ながら支えてきたのは間違いなくこのTim Cook です。

とにかく頭がよく、そして途方もないワークホーリックです。この人からのメール、タイムスタンプが平気で朝の4時半とかそういう感じです。この人、自分の部下が月曜日からフルパワーで働けるように、日曜日にスタッフミーティングをすると聞いた事があります。さらにフィットネス・フリークで、会社のジムに朝の5時台にやってきてワークアウトしています。

この人、決して声を荒げたりする人ではありません。あるいは「同じ空気吸いたくない」なんて口が裂けても言わないタイプです。ところが会議などで部下がいい加減な返事をすると、冷静なトーンのまま大の大人が泣くまで執拗に質問攻めにするようなタイプの人です。

またゲイらしいです。本人は公にしていませんが。おそらく99.9%ぐらいの確率でゲイなんでしょう。ゲイの噂が絶えたことがありません。アップルはゲイなんてゴロゴロいますからこれについてとやかく言う人は誰もいません。私もゲイの上長に長らく仕えていました。ゲイの方というのはキレイ好きでお洒落のセンスもよく、そして非常に細かい方が多いので、多分Timもそういう性質なんじゃないかと思います。おそらくこういった部分はアップルの洗練されたデザインを維持していく上で強力なプラスとして作用するでしょう。

次に鍵を握るのがアップルのクラウドサービスです。
アップルのクラウドサービスはずっとGoogle, Amazon あるいは Facebook などの会社の後塵を拝してきました。アンドロイドの端末の販売台数はアメリカ国内に関して言えばアップルを抜きつつあり、またAmazonもつい先日Kindle Fireをはじめとする低価格の端末を発表しています。つまり、そもそも優れたクラウドサービスを持つところが、低価格の端末を手にし始め、確実にシェアを伸ばしているんです。

アップルは優れた端末を持っているのに、これまでパッとしないクラウドサービスしか提供出来ていません。icloudが上手く行けば、鬼に金棒ですが、もしも躓くとかなりの痛手になると思います。これはアップルの3〜5年程度の近未来を占う上で重要な試金石となるような気がします。

今後もアップルは、スティーブ・ジョブスなしで、世の中から「目の付けどころはいいのに成功していない製品」を発掘し、その製品を再定義し直して爆発的に売る、と言ったようなマジックを続けていくとが出来るんでしょうか?

私は正直言って無理だと思います。3年ほどは今のペースを維持した上で、段々と失速し始めるんじゃないかと思います。それでも向こう10年やそこいらは人々を魅了し続ける会社であるでしょう。そして生のスティーブ・ジョブスを知るTim Cook をはじめとする現在の経営陣が引退し始める頃、アップルの本格的な失速が始まるのではないかと思います。

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2011年10月10日月曜日

Steve Jobs は本当に「ビジョナリー」だったのか?

調子に乗ってあと1、2回、Steve Jobs やアップルについて書いてみたいと思います。

Steveの訃報を受けて出される様々なコメントや声明、記事などをみていると、「独創的」、「ビジョナリー」などといった形容詞が着いて廻ります。おそらくそれが一般的に定着した彼の評価なんでしょう。

しかし「ビジョナリー」って言葉も「独創的」って言葉も、Steve に対する形容詞としてどうも違和感を憶えてしまうんです。

もしSteveに巷で言われているような独創性やビジョンがあったとしたなら、それは発明や製品の開発などではなく、他の誰にも真似出来ないマーケティングではなかったのか、と思います。なにしろアップルが純粋に発明した技術など幾つもないんですから。GUIも、MP3プレーヤもスマートフォンも、タブレットPCもすべて先駆者がすでにいました。なのにSteve のプレゼンを聴かされると、あたかもそれらがアップルによって初めて生を受けたかのような錯覚に陥ってしまうのです。これこそがSteve の真骨頂だったでしょう。

私が接する機会があったSteve という人は、チャンスを感じたらすぐさま出来ることから手を付け、手段を選ばず、そして途方もなく粘り強く、最後まで絶対に諦めないでやり通す、といった感じの人でした。今までのやり方がダメだと思うと周囲が唖然とするほど平気でそれをかなぐり捨てました。「ビジョナリー」や「独創的」な人というより、手段を選ばないエキセントリックな人、といった趣でした。

彼は復帰直後、有名なThink Different というキャンペーンをやりましたが、今考えてみると、あれは誰のためでもなく、自分を奮い立たせるために創ったんじゃないかと思います。




まだ2代目か3代目のiPod をやっていた頃、社内でこんな話を聞いた事があります。

まだアップルがiPod を売る前のこと。当時すでにハードドライブベースのMP3 プレーヤを作って伸び始めていた CREATIVE Labs という会社の社長がSteve Jobs に会いにきたことがあるそうです。

ところが製品を見たSteve、「きみの会社にはデザイナーはいないのかい?」と冷や水を浴びせ、追い返してしまったそうです。

この話の真偽はさておき、アップルは突如 iPod の開発を始めました。Fuseという小さい会社を興してハードドライブベースのMP3プレーヤを作っていたTony Fadell 氏がアップルにアプローチし、ディレクタとして採用され、30人程度の「Special Project Group」という小さなチームが形成されました。

おそらく最初にCREATIVE Labsの社長に会った時にSteveの頭の中にスイッチが入ったんでしょう。それともすでにFadell 氏にアプローチされ、すでにスイッチが入っていたのか... いずれにせよSteve は思ったことでしょう。今が市場に参入するべき時期で、アップルならどの会社よりもずっとうまくやれると。Fadall氏は見事 Steve の期待に応え、iPod を世界的なヒットに導きました。

iPod/iphone のエコシステムを賞賛する人も沢山いますが、ここに至るまでも、先にビジョンがあったとはどうも考えにくいのです。そうじゃなくて、色々と作っていくうちに当然の帰結としてそこに辿り着いたんでしょう。
iPodはやがて Firewire を捨ててUSBをサポートし、ウィンドウズのサポートを開始し、カラー化を果たし、動画の再生やPodcastをサポートし始め、やがて iTunes ストアが出来上がりました。これらひとつひとつが本当に一歩ずつなんです。まずはiPodが売れて、じゃあ次はウィンドウズの客に売れないかな?って感じでした。現実的なステップを一歩ずつ確実にモノにしていく。それがアップルのやり方ですし、Steve 自身のアプローチだと思います。

またしつこく他社を研究するのもアップルです。私はiPodに関わっていた頃、東京のオフィスに頼んで、iModeをはじめとする日本や韓国で流行っている面白い製品を片っ端から送ってもらいました。そして、その頃にはもう上級副社長に昇進していたFadell氏みずからが、それらの製品を実際に手に取って使ってみて、バラして、みんなであーでもないこーでもないと何度となくディスカッションしていました。

私はその後iPodとは無関係の部署になってしまったので縁がなくなってしまいが、遂にiPhoneが出てきたのはそれから本当に何年も後のことでした。出てきた製品は当然のことながら最初から非常に高い完成度でしたが、あれだけ煮込めば当然でしょう。あの発表会を見た時はアップルで働いてきて本当に良かったと、心が震えるような感じがしました。

日本のメーカーがアップルになれない理由はいくつもあるとは思うんですが、実は腰が引けているサラリーマン社長が経営している、というあたりが一番の原因な気がします。何をやるのも最初から腰が引けており、小さな市場の囲い込みをすぐに始めてしまいます。お財布ケータイもiMode も世界を席巻出来る技術なのに、なぜ日本の市場だけにこだわり小さなパイを奪い合いに終始するのでしょうか?それはおそらく、日本が一番慣れ親しんだ環境で、外に出ていくのが怖いからでしょう。

日本にもソニーの井深大、盛田昭夫両氏などのように世界中での音楽の聴き方を変えてしまった経営者もいました。また本田宗一郎氏のようにバイクから始めて世界屈指の自動車メーカーを育てた方もいました。彼らもまた、「ビジョナリー」や「独創的」というよりは、不屈の闘志を持った「Crazy Ones」ではなかったのかと思います。

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2011年10月8日土曜日

Steve Jobs が創った企業文化

Steve Jobs が亡くなってまだわずか2日。

アメリカではすぐに特集番組が組まれ、Facebook もTwitter もSteve Jobs 一色です。

私も一昨日、アップル時代の思い出も綴って載せたら、なんか信じられないようなアクセス数です。

大勢の方から続きを書いてくれ、とのメッセージを頂いたので、ちょっと書いてみることにしました。

今回はSteve Jobsとの接点よりも、彼が遺した Apple という組織について書いてみたいと思います。

アップルって良くも悪くもSteve Jobs の強烈な個性が強く反映されている会社です。そしてこのアップルという組織は、世界中から才能を集める吸引装置のような役割を果たしています。アップルで働いていると、「人生の中でこんなに頭のいいヤツには会ったことがないぞ」と思わせてくれる人々に次々と遭遇することができます。また「こんなにアクが強いヤツにも会ったことないな」と思わせてくれるご仁も沢山います。あるいは「お前は個性的って言う以外は別に取り柄がないな」という人も山ほどいます。何かが秀でている代わりに何かが著しく欠けているような方も沢山います。アップル以外ではまったく通用しないであろうほど常識に欠けている方々とか...こうして書いていて思い出す面々はどの人も実に個性的です。

こうした才能あふれる目立ちたがりの個性的な面々が集まれば、当然のことながらそこには凄まじい軋轢が発生します。アップルの社内政治の苛烈さはシリコンバレー屈指と言われ、その苛烈さはポジションが上がれば上がるほど増していくのです。

もしもアップルがダメになることがあるとしたら、多分それは社内政治による内部分裂が原因でしょう。

そう思うぐらい社内政治が苛烈です。アップルはよく突如今まで活躍していた重役が追われてしまったり退職したりしますが、これらはすべてほとんど社内政治が原因です。

アップルで尊敬され、文句なく評価してもらえるのは革新的なアイデアによるイノベーションと、それを口先だけで終らせないなり振り構わない実行力です。一方でおそらく最も致命的なのが注目される場で「使えないヤツ」のレッテルを貼られてしまうことでしょう。

例えばお客様からの苦情メール。これが突如Steve Jobs から転送されてくる、ということが年に数回あります。Steve直々の問題なのでSteveの側近たちもが注目しています。だからこそ、そこで「この問題を作り込んだ愚か者」に仕立てられないよう細心の注意を払いつつ、隙あらばこの問題を他部署の責任に仕立てたり、「問題を早急に解決したヒーロー」になる必要があります。

こんな非常事態でなくても、日頃からいかに自分の部署の成果を差別化してアピールするかを考え、自分の部署の社内マーケティングに心を砕くんです。また大変な作業はなるべく体よく他部署に押し付け、いかに手柄だけを自分のものにするか、ということに汲々とした毎日を過ごすんです。どんなに真面目な良い人でも脇の甘い管理職は刺されまくりで、そのうちに消耗して退職するなりレイオフされてしまいます。

この驚くほどバカバカしい政治活動も見ようによってはプラスの部分もあります。緊急時に格好のターゲットにされないよう、常日頃から文句を付けられないほどの成果をコンスタントに上げよう常に必死になります。またミスした時のコストがあまりにも高いので、一生懸命ミスを未然に防ごうと常日頃努力するようになります。しかしミスがないだけではただの凡庸なマネージャでお終いです。他部署に成果を横取りされないよう特色を出すべく、常にイノベーションに心がけるようになります。学歴なんて屁の突っ張りにもなりません。評価されるのはアップルに入った後の一切合切を含んだ「実績」だけです。

そうそう、そういえば管理職の勤務評定の項目に「部下の育成」という項目は存在しません。使えないヤツは育成などせず早急に切り、賢いヤツと入れ替えるマネージャが評価されます。なにしろアップルで働きたい才能溢れる人材は幾らでもいるんですから。

こうして書いてみるアップルは楽しかった場所というよりは鍛えられた場所ですね。常に疲れていて、それでいて妙に充実していました。

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2011年10月6日木曜日

Steve Jobs の思い出

Steve Jobsが亡くなってしまいました。

なんというか本当にショックです。

私はアップルで16年間働いていました。そのうち半分以上はカリフォルニアの本社で管理職でした。Steve Jobs と話をしたこともあります。そんな体験を振り返ってアップルにおけるSteve Jobs ってどんな感じの存在だったのか私なりに綴ってみたいと思います。

Steveがどんなふうな人なのか、という話をするには、まず彼がアップルに復帰する前の社内の様子を書いてみたいと思います。

その頃のアップル社内というのは、船頭のいない船、とでも言おうか、「学級崩壊」ならぬ「社内崩壊」とでも言うのか... 優秀な人は山ほどいましたが、全員が自分の向きたいほうを向いて好きな事をやっており会社を食い物にしているような感じでした。

また今のような秘密主義の会社ではありませんでした。それどころか社内の意思疎通が極度に悪く、社内で走っている別のプロジェクトを知ろうと思ったらマック専門誌を買って読んだ方が正しい情報がとれるくらいの酷さでした。会社内にペットを持ち込むことも容認されており、中には犬と遊んでんだか仕事してんだか分からない人もいましたし、社内を鳥が飛んでいたりもしました。Beer Bash と称してほぼ毎週社内でバーティがありました。これは本社でなくても日本の現地法人も同じで金曜日はあまり仕事にならず、早くからビールを飲んでいました。さらに5年間働くと1ヶ月のお休みが貰えたので、みんなこれに有給を付け足して2ヶ月ぐらいお休みを取り、その間に就職活動をして去ってしまう人も大勢いました。最後の頃には会社の身売り話が何度も出始め、ついにはリストラが始まり、いつ職を失うのかと毎日がドキドキの連続でした。


そんな折、まさかの Steve Jobs 復帰。

社内の様子は一変しました。最初は熱狂としかいいようのない興奮で迎えられたSteveでしたが、ごく短期間の間にその熱狂は「恐怖」とでもいうような感情によって置き換えられました。

それまでのアップルはよくも悪くも極めて民主的な会社でしたが、一方でどうにも方向性の見えない会社になってしまいました。

しかしSteve のやり方は180度異なっていました。一言で言うなら「独裁主義」です。歯向かうヤツは辺り構わず切られていきました。経営陣はほとんどNeXT から連れてきた連中に入れ替わり、それまでの経営陣はあっと言う間に叩きだされていきました。当時の私の上司だったディレクタもNeXTから来た人に入れ替わりました。その彼は「傍若無人」としか表現のしようがないほど威張り腐っており、それまでのマネージメント・チームは全否定されバサバサを切られていきました。ただその傍若無人な態度を認めざるを得ないほどよく働く人でした。NeXTでスティーブの薫陶を受けた連中というのはもう以前のアップルは基準値が違うという感じで、その日から労働時間が止めどもなく伸びてゆきました。そしてそれから10年以上たった今もアップルはそういうスピードで働いています。

私は丁度そのころに管理職に抜擢されましたが、来日した上長に「いいか、お前は選挙で選ばれたんじゃないんだ。お前はこのグループの独裁者になるんだぞ」と言われたのを良く憶えています。

この頃のSteve の運営方針は一言でいうなら「恐怖政治」でした。
社員食堂などで話しかけられシドロモドロになってしまうと「お前は自分がどんな仕事をしているのかも説明出来ないのか?同じ空気吸いたくないな。」などと言われ首になってしまうと聞きました。たまたまエレベータに乗り合わせて首になった人などの話などもあり、伝説に尾ひれがついて恐怖感が隅々まで行き渡り、みんなSteve と目も合わせないようにするような始末でした。

しかし独裁政治には良いところもたくさんあります。民主主義時代には整理出来なかった利益を生まない部署が整理され、コミュニケーションが密になり、秘密が外部に漏れなくなっていきました。こうした変化がわずか1年ぐらいで確立されましたから、本当に大した経営者です。

数年後には組織がすっかり綺麗に整理整頓された上、さらに自分が社内でどういう役割を果たしているのか極めて明確に定義されるようになりました。なので自分の仕事は会社のためになっているのだろうか?世の中のためになっているのだろうか?などと大企業に勤めているとありがちな悩みを持つようなことはなくなりました。また会社の知名度も人気もうなぎ上りだったので非常に誇らしく感じたものです。これほど働きがいがある会社は少ないでしょう。会社に行くのが楽しい毎日でした。

この頃になるとSteve に対する恐怖感というは「恐怖」というよりも「畏怖」といったような感情に置き換えられした。

そう。Steve って本当に畏れ多い存在だったんです。

その後に続いていく物語は、もう世間が良く知っているお話です。iPod, iTunes,iPhone, iPad と様々な製品が次々と発表され、世界中がSteveの世界の虜になっていきました。

今から、8年か9年ほど前の、まだSteve がガンを患う前のことです。こんなことがありました。
当時私はiPod Mini の開発に関わっていましたが、11月のある日、試作機をいじったSteve が完成度の低さに癇癪を起こし、会議の席上で試作機を壁に投げつけたことがありました。凍り付いて静まり返る会議室... まったくマンガに出てくるような独裁ぶりです。が、相手が Steve じゃ仕方ありません。その後も血眼の開発が続き、クリスマスイブさえ出勤して働きました。100日以上は休みなくぶっ通しで働いた記憶です。そして翌年の2月に出荷。Steveが出荷記念パーティを開き、開発メンバーが招かれました。その席でSteveは:

「アップルは最高の砂場だよ。毎日来るのが本当に楽しい。これからも面白いものを色々と作っていこう!」

と嬉しそうに喋っていました。周りに座っていた僕ら下々は「オレには砂場じゃなくて職場なんだけどな...」と内心思っていましたが、みんなおくびにも出さず同調して頷いていました。

他にも書いていくときりがないんですが、また機会を改めて書いてみたいと思います。

こうして振り返ってみると、自分の仕事人生の多くをアップルで過ごせたことは私が得た最大の財産ですし、これからもずっと私自身に影響を及ぼし続けるんだろうな、と思います。

Steve さん、安らかにお眠りください。お疲れさまでした。恐ろしくも楽しい時間、本当にありがとうございました。


2010年8月9日月曜日

iPhone の最高責任者、解任



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以前ブログにiPod の生みの親のトニー・ファデル氏がアップルを追われた話を書きましたが、この人が追われた後に後釜に座ったマーク・ペーパーマスター氏もアップルを追われてしまったようです。

マーク・ペーパーマスター氏ってこんな顔した人です。



この人IBM から鳴り物入りの人事で入ってきたんですが、案外短かったので驚きです。iPhone4 のアンテナ問題と白いIphone 4 の出荷の遅れの詰め腹を切らされたってところでしょうか?それから試作機紛失っていうのもあったし、アセンブリ工場で自殺者多発なんていうのもありました。辞任か首切りかは判りませんが、これだけ失敗が続いちゃうといずれにしても続投は厳しいかったと思います。

私はこのマーク・ペーパーマスター氏についてあんまりいい話を聞いたことがなかったので、この退任劇を聞いて「因果応報」という言葉が頭に浮かんでしまいました。トニー・ファデル氏の時にはこんな失敗はありえなかったように思います。

そしてこの人の後任はMac Division のトップのボブ・マンズフィールド氏であるとのことです。

私はボブ・マンズフィールド氏の下で4〜5年ほど働いていましたが、Mac と iPhone のトップを両方兼任するにはちょっとかなり役不足なんじゃないかと思います。ただ非常に地に足の付いた人なので大発明を引き起こすようなことないかわりに、大きな失敗はないんじゃないかと思います。

ボブ・マンズフィールド氏ってこんないかつい感じのオジサンです。



さてこの会社一体どこに行くんでしょう?

まったく目が離せない会社です。

2010年4月24日土曜日

iPod の父、アップルを去る

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iPod と言えばアップル、アップルと言えばスティーブ・ジョブスですが、

実はiPod ってスティーブの発明でも何でもありません。

iPod を発明したのは2001年にアップルに契約社員としてやってきたトニー・ファデルです。



私、この人と何年か一緒に仕事をしましたが、

これほど才能とバイタリティ、そしてカリスマに溢れる人は滅多にいないでしょう。

契約社員から瞬く間にディレクターに昇進。iPod を爆発的にヒットさせて副社長に昇進し、新しくiPod 事業部を設立し、そのトップの座につきました。そして上級副社長へと昇進し、そして iPhone を開発しました。

まさしく飛ぶ鳥を落とすような勢いでした。

ところがどうにかしてスティーブ・ジョブスの逆鱗に触れてしまい

彼が築き上げたiPod/iPhone の事業部は別の人に渡されてしまい、

「アドバイザー」

という訳の分からない役職にされ

今年3月にひっそりとアップルを退職しました。

トニーを閑職に追い込んだスティーブ・ジョブス本人も訴訟を恐れたのか

トニーを役職から外した後も2年近く給料を払い、さらに莫大な手切れ金を払ったようです。

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先週、そんなトニーと久しぶりに話してみたら

なんと次は環境問題に取り組むそうです。

iPod と iPhone で2度も世界を変えた男ですから

次はどんなふうに世の中を変えてくれるのか

いまから楽しみです。