リスク社会における公共的決定
ブログという場の性質上、無粋と思いつつも言っておくと、前のエントリは、その前の「投票自由論」や「利害対立と民主主義モデル」の補足としての意味を込めています。そうするお暇がある方は、そのことを念頭に置いてそれぞれをお読みになって下さい。前のエントリについては、私の乱雑な注釈に惑わされるよりも、引用した大家たちの言葉をただじっくりと味わうことをお勧めします。本当に、いつ読み返しても学ぶことが多いですから。
さて、今日は「利害対立と民主主義モデル」の後半部と関係して、田村先生のブログからメモ。
次に、中山論文は、「リスク社会」における公共的決定をどのように行うべきかについて考察する。一部の専門家や行政官に委ねることはもはやできない。少なくとも三つの選択肢がある。すなわち、1)熟議民主主義、2)リスクの個人化と市場化、そして、3)「リバタリアン・パターナリズム」である。最後のものは、キャス・サンスティーンによって近年提起されている(下記の本)。それは、特定の選択肢を押し付けるのではなく、「背中をそっと押す」ようなやり方で、つまり、自己決定を尊重しつつも人々の行動を一定の方向へと回路づける(144頁)ような制度設計を行うことだという。だが、「善意の制度設計者」にまつわる問題が解決されているわけではない(145頁)。著者の結論は、(おそらく)一定の選択肢を用意した上での熟議と、それを規制する手続的ルールである(146-147頁)。
「読書とメモ」@tamuraの日々の雑感
「中山論文」とは、以下の本に収録されている中山竜一「リスク社会における公共性」。
ちなみに「リバタリアン・パターナリズム」について軽く調べようとすると、次のようなものが見つかります。ちゃんと理解できてはいませんが、とりあえず貼っておきます。
http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/bitstream/10086/16370/4/hogaku0070304270.pdf
http://d.hatena.ne.jp/desdel/20080323
http://kyoumu.educ.kyoto-u.ac.jp/cogpsy/personal/Kusumi/bbs08/chikaoka.pdf
サンスティーンは、鈴木謙介によって工学的民主主義モデルの主唱者と目されている人物でもあります。前のエントリを書きながら、世界を思うように変えることはできないということが社会科学的見解だとすれば、社会設計、ソーシャル・デザインの可能性に強い期待を抱く立場というのは、一定の法則性を把握して利用することによって対象を統御することはかなりの程度可能だと考えるという意味で、自然科学的発想との結び付きが密なのかなと思っていたところでした。まさに(社会)工学的…と言うのか、まぁ実際にサンスティーンたちの議論には心理学や行動経済学の知見がかなり生かされているようでもありますし、そういう傾向はあるかな、と。しかし、そうすると私には、工学的民主主義ないしリバタリアン・パターナリズムと数学的民主主義の差異がますます小さく見えてくる。宮台真司の「幸福論」と東浩紀の「グーグル的公共性」論を差別化する意味が一層乏しく思えてきます。
そういうことでは結局「宿命論」を乗り越えていけないんじゃないかな。何か政治が遠ざけられていくような。もっと政治が必要とされるのではないかな。まだ漠然としていますが、そんなことを思います。まぁ熟議民主主義の立場を採る人も、制度の整備とは別に、人々をどう熟議へと動機付けていくのかという問題意識を介して誘導や設計へと吸着されていく可能性が小さくないように思えますので、動機付けを重視しない私の立場はどうしても微妙になりそうですが。どっちにしろ、もう少し勉強しなければ、何にも言えません。
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