2011年 04月 04日
デンマークにおける観光のユニヴァーサルデザイン体験記(2/2)
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デンマークにおける観光のユニヴァーサルデザイン体験記(1/2)からのつづき
6. バリアフリーツアーの限界
今回、私はガイド役を務めたのですが、石畳の舗装状態が悪く、車椅子ユーザーには絶えられ ないということで途中で引き返した訪問先がありました。私の事前のリサーチ不足につきるので すが、なんともやりきれない気持ちになります。
ある旅行代理店によれば、“バリアフリーツアー”(障害をお持ちの方を対象としたツアー)は 通常のツアーに比べ高めの価格設定だといいます。事前のアクセシビリティ調査に加え、そのほ とんどの行程に専用車をチャーターして移動するためです。車椅子ユーザーにとって公共交通機関の利用はどうしても時間がかかります。また車椅子で使えるトイレを探すもの一苦労です。そ の点、専用車であれば行程管理がしやすくなります。
ただ旅の楽しみというのは、友人と一緒にいてこそということもあるでしょう。バリアフリー ツアーという特定の方向けのサービスでは、それが適わないばかりかコストダウン効果も得られ ません。例えば、同行者と一緒に作り上げていくことを前提としたツアーであれば、共に旅を楽 しめるものになるかもしれません。現地の調査なども分担し、互いに助け合いながら観光をすれ ば、仮になんらかの障害で行けなかったとしても楽しい思い出になるでしょう。ニーズが異なる から、それぞれのサービスを用意するのではなく、互いに助け合いながら作り上げるカタチもあっ ていいのではと思います。
7. 利用者の選ぶ権利
今回宿泊した部屋はバリアフリールームでした。しかし同室だった車椅子ユーザーの知人は、 通常の部屋でもなんとかしてしまうようで、特にバリアフリールームに拘らないといいます。た だ予約する際に車椅子ユーザーであることを伝えると「車椅子対応のものがない」というように 自分の意志とは反し、カテゴライズされてしまうといいます。そもそも車椅子ユーザーが使える かどうかは、サービス提供者が決めるのではなく、その利用者本人が決めるものです。サービス 提供者は十分な情報提供を行い、判断を利用者に委ねる姿勢が必要ではないでしょうか。よって ホテルの予約も、バリアフリールームがあるかどうかではなく、全室の設備、概略図を判断材料 にしながら予約するというのが自然な姿のように思います。知人は写真があれば大方、想像がつ くともいいますが、例えばホテル全室の360°パノラマ写真が公開されていれば、部屋の設備 チェックも一目瞭然かもしれません。
8. 文脈の中で情報提供
耳の不自由なメンバーには要約筆記、そしてつたない手話を駆使しながらコミュニケーション を図っていました。ただついつい必要事項だけを伝えてしまって、戸惑わせてしまうケースがあ りました。例えば、集合時間の変更、待ち時間の延長などは、なぜそういう事態になったかの文 脈も一緒に伝えないと、なかなか理解するに至りません。コミュニケーションとはある文脈の中 に成立していることを思い知らされます。
9. まずは一言聞いてのサポート
成田空港での介助の様子(左上写真)です。大勢で寄ってたかってのサポートは見ていて、少々 いたたまれなくなります。サポートされる側も思わず悶絶です。おそらく基本的な研修さえ受け ていないのではないでしょうか。もしくはマニュアルだけ読みあさって現場に駆り出されたのか もしれません。
障害をお持ちの方に対する配慮というのは、“障がい者”という通念で理解し、その人自身を見 ようとしない傾向があるように思います。車椅子を使っていたとしても、その身体特性は多種多 様です。固定観念を捨て、まずは「どのようにサポートしましょうか?」と尋ねて柔軟にサービ スする必要があります。
一方、デンマークは非常にカジュアルです。「今日は沢山いるわね。ハイ、次、車椅子乗る人 は?」と半ば冗談まじりに声をかけるコペンハーゲン空港のスタッフ(中右上写真)は、日本人 のそれとは対照的です。個人的には、こちらの方が自然に会話が生まれ、気軽に介助をお願いで きる関係のように思います。
我々日本人が彼らと同じようにカジュアルにする必要はありませんが、まずはマニュアルだけ で理解したつもりにならないこと。前述の点字ブロックの事例のように建築設計においても同じ で建築基準法、バリアフリー新法に準拠しているからといって満足してはいけません。環境は多 様であり、ガイドラインは決して万能ではないということを肝に銘じておく必要があります。“障 がい者”という“くくり”ではなく、あくまで多様な利用者の一つの属性と捉えることができれ ば、その当事者の気持ちになった配慮と設計に繋がると思います。
10. まとめ
昨年のデンマーク留学中もコペンハーゲンには何度も訪れましたが、やはり当事者との同行は、 より多くの気づきが得られるものだと再認識しました。ユーザーインクルージョンの理念は観光 においても同様に展開されるべきものですね。そして日本の公共交通のアクセシビリティの高さ も感じました。日本全体におけるユニヴァーサルデザインの取り組みが着実に成果を挙げている からのように思います。
一方で、国ごとに力点が異なることも興味を惹かれました。柔軟で整合性はとられていないが 大胆な施策と設計が施されたデンマーク。標準化は進んでいるが、もうひとつ気持ちよさに欠け る日本。もう私たちは水平展開でボトムアップを図る段階から、個々のユーザー像を捉えた大胆 な開発をすべき時期にきているのかもしれません。
6. バリアフリーツアーの限界
今回、私はガイド役を務めたのですが、石畳の舗装状態が悪く、車椅子ユーザーには絶えられ ないということで途中で引き返した訪問先がありました。私の事前のリサーチ不足につきるので すが、なんともやりきれない気持ちになります。
ある旅行代理店によれば、“バリアフリーツアー”(障害をお持ちの方を対象としたツアー)は 通常のツアーに比べ高めの価格設定だといいます。事前のアクセシビリティ調査に加え、そのほ とんどの行程に専用車をチャーターして移動するためです。車椅子ユーザーにとって公共交通機関の利用はどうしても時間がかかります。また車椅子で使えるトイレを探すもの一苦労です。そ の点、専用車であれば行程管理がしやすくなります。
ただ旅の楽しみというのは、友人と一緒にいてこそということもあるでしょう。バリアフリー ツアーという特定の方向けのサービスでは、それが適わないばかりかコストダウン効果も得られ ません。例えば、同行者と一緒に作り上げていくことを前提としたツアーであれば、共に旅を楽 しめるものになるかもしれません。現地の調査なども分担し、互いに助け合いながら観光をすれ ば、仮になんらかの障害で行けなかったとしても楽しい思い出になるでしょう。ニーズが異なる から、それぞれのサービスを用意するのではなく、互いに助け合いながら作り上げるカタチもあっ ていいのではと思います。
7. 利用者の選ぶ権利
今回宿泊した部屋はバリアフリールームでした。しかし同室だった車椅子ユーザーの知人は、 通常の部屋でもなんとかしてしまうようで、特にバリアフリールームに拘らないといいます。た だ予約する際に車椅子ユーザーであることを伝えると「車椅子対応のものがない」というように 自分の意志とは反し、カテゴライズされてしまうといいます。そもそも車椅子ユーザーが使える かどうかは、サービス提供者が決めるのではなく、その利用者本人が決めるものです。サービス 提供者は十分な情報提供を行い、判断を利用者に委ねる姿勢が必要ではないでしょうか。よって ホテルの予約も、バリアフリールームがあるかどうかではなく、全室の設備、概略図を判断材料 にしながら予約するというのが自然な姿のように思います。知人は写真があれば大方、想像がつ くともいいますが、例えばホテル全室の360°パノラマ写真が公開されていれば、部屋の設備 チェックも一目瞭然かもしれません。
8. 文脈の中で情報提供
耳の不自由なメンバーには要約筆記、そしてつたない手話を駆使しながらコミュニケーション を図っていました。ただついつい必要事項だけを伝えてしまって、戸惑わせてしまうケースがあ りました。例えば、集合時間の変更、待ち時間の延長などは、なぜそういう事態になったかの文 脈も一緒に伝えないと、なかなか理解するに至りません。コミュニケーションとはある文脈の中 に成立していることを思い知らされます。
9. まずは一言聞いてのサポート
成田空港での介助の様子(左上写真)です。大勢で寄ってたかってのサポートは見ていて、少々 いたたまれなくなります。サポートされる側も思わず悶絶です。おそらく基本的な研修さえ受け ていないのではないでしょうか。もしくはマニュアルだけ読みあさって現場に駆り出されたのか もしれません。
障害をお持ちの方に対する配慮というのは、“障がい者”という通念で理解し、その人自身を見 ようとしない傾向があるように思います。車椅子を使っていたとしても、その身体特性は多種多 様です。固定観念を捨て、まずは「どのようにサポートしましょうか?」と尋ねて柔軟にサービ スする必要があります。
一方、デンマークは非常にカジュアルです。「今日は沢山いるわね。ハイ、次、車椅子乗る人 は?」と半ば冗談まじりに声をかけるコペンハーゲン空港のスタッフ(中右上写真)は、日本人 のそれとは対照的です。個人的には、こちらの方が自然に会話が生まれ、気軽に介助をお願いで きる関係のように思います。
我々日本人が彼らと同じようにカジュアルにする必要はありませんが、まずはマニュアルだけ で理解したつもりにならないこと。前述の点字ブロックの事例のように建築設計においても同じ で建築基準法、バリアフリー新法に準拠しているからといって満足してはいけません。環境は多 様であり、ガイドラインは決して万能ではないということを肝に銘じておく必要があります。“障 がい者”という“くくり”ではなく、あくまで多様な利用者の一つの属性と捉えることができれ ば、その当事者の気持ちになった配慮と設計に繋がると思います。
10. まとめ
昨年のデンマーク留学中もコペンハーゲンには何度も訪れましたが、やはり当事者との同行は、 より多くの気づきが得られるものだと再認識しました。ユーザーインクルージョンの理念は観光 においても同様に展開されるべきものですね。そして日本の公共交通のアクセシビリティの高さ も感じました。日本全体におけるユニヴァーサルデザインの取り組みが着実に成果を挙げている からのように思います。
一方で、国ごとに力点が異なることも興味を惹かれました。柔軟で整合性はとられていないが 大胆な施策と設計が施されたデンマーク。標準化は進んでいるが、もうひとつ気持ちよさに欠け る日本。もう私たちは水平展開でボトムアップを図る段階から、個々のユーザー像を捉えた大胆 な開発をすべき時期にきているのかもしれません。
by isoamu
| 2011-04-04 22:42
| ユニバーサルデザイン